「映画の宣伝」
今日は映画の宣伝で「ズームインサタデー」に生出演したジョーだった。 生放送での司会者との掛け合いも無事に終えて、今は緊張も解け、ゆっくりとした足取りで控室に戻るところである。 控室にはフランソワーズがいる。 本当は、昨日は都内で舞台挨拶があり、そのあと打ち上げへと流れ、ただずうっと一緒にいただけの話であった。 彼女がジョーを心配しているのかどうかは不明である。 しかし、そうだとしても今の彼にはどうでもいいことであった。 それだけだった。 廊下の左右に目をやり、フランソワーズを探す。 男に囲まれたフランソワーズ。 それだけでも腹立たしいのに、それに加えて、 映画の撮影の時も似たようなことがあったが、こんな思いはしなかった。 しかし、今はどうだ。 ジョーから見れば、業界の危険な男たちに他ならなかった。 ジョーが見る限り、それは映画を観にくるのではなく、フランソワーズを観にくるという意味のようだった。が、フランソワーズは気付いていない。 我ながら心が狭いと思う。 が、ことフランソワーズに関する限り、広くなったことは一度もなかった。 怒りをみなぎらせ手を引くと、 みんなが見ている目の前で。 ――フランソワーズは、僕のものだ。 ***
朝早くの入りにもかかわらず同行してくれたのだ。
ジョーを心配して。
――というのは半分本当で、あとの半分はジョーの捏造である。
今はただフランソワーズの顔を見たい。
しかし。
控室に彼女の姿はなかった。
と。
ずうっと先にスタッフらしき男性数名と談笑している姿が目に入った。
それも――楽しそうに。
ジョーを心配してモニターを見ていた――なんてことはなさそうな雰囲気である。
あるいは、彼のことなどすっかり忘れているのかもしれない。
楽しそうに笑うフランソワーズ。
ジョーの体が熱くなった。
なんだかわからないが、イライラする。
それは、全員知ってるひとだったからかもしれない。信頼できるスタッフだった。
――フランソワーズ、何をしている?
ジョーは大股でずんずん進み、あっというまにその場に切り込んでいた。
「あ、ジョー。お疲れさま」
「何してるんだ、フランソワーズ」
「何って、映画の宣伝よ?みなさん、観にきてくださるって」
「――ふん」
にこにこと愛想をふりまいているから、ジョーはかっとなった。
おそらくこれから先もないだろう。
「帰るぞ」
有無を言わさず手を引いた。
が、フランソワーズは振り返り、背後の彼等に向かって手を振った。
そのしぐさがもの凄く可愛いことは、じゅうぶん知っているジョーである。
「……!」
「え、ジョー?」
強引に唇を奪っていた。
後日、テレビ局内で有名になったのは
公衆の面前でキスした島村ジョー
ではなく、
公衆の面前でビンタされた島村ジョー
であった。
映画の宣伝という意味では、成功したと言えなくもなかった。