「日曜日の午後」

 

 

良く晴れた日曜日の午後。
眼前には蒼い海と蒼い空、そして、はためくシーツの白い波。

久しぶりの陽射しは洗濯熱をかきたてるのに十分だった。

朝からずっと洗濯と掃除をしていたフランソワーズは、午前中ずっとガレージに篭っていたジョーと一緒に庭のベンチに腰掛けて休憩していた。

どちらも無言のままであった。

それは。

 

「・・・ねぇジョー、そっちのも一口ちょうだい」
「さっきあげたじゃないか」
「いいじゃない。もう一口くらい」
「・・・」

僕の分がなくなるじゃないかと思いつつ、ジョーは反論できない。
午前中、車をいじるという名目でフランソワーズの手伝いからガレージへ避難していたのだから。
彼女はそれを知っていて、そして彼を責めない――のが、ジョーは落ち着かなかった。
真っ向から叱られるほうが楽に思える。なのに、フランソワーズは何も言わずただ笑顔を向けるだけ。
その笑顔の方が怖いと思う自分は考えすぎなのだろうかと思いながら、手元の容器をフランソワーズに差し出した。

「ん。あーん」
「え?」

顔をこちらに向けて可愛くおねだりするフランソワーズをぽかんと見つめるジョー。
意味がわからない。

「ほら。一口ちょうだいって言ってるでしょ」
「うん・・・だから、これ」

容器を差し出すけれども軽く押し返される。

「そうじゃなくて」
「・・・?」

あげるといっているのにどうして食べないんだろう・・・と思いながら、フランソワーズの顔を見つめているとフランソワーズはんもう、と言ってジョーを睨んだ。

「一口ちょうだい、って言ってるでしょ?」
「うん。だからあげる、って言ってるじゃないか」
「そうじゃなくて」
「だから何」
「・・・もうっ」

フランソワーズはジョーに寄せていた身体を気持ち引くと、自分の容器に戻った。
やっぱりいらないんじゃないかと思いつつ、ジョーが自分のぶんを食べようとすると目の前にスプーンが差し出された。

「はい。あーん」
「え」

無理矢理口元に押し付けられ、仕方なくジョーはそのまま食べた。

「はい。お返しに一口ちょうだい」
「――ああ」

そういうことか――

ジョーはアイスクリームをすくうとフランソワーズの口元に近づけた。
が、彼女の唇に届く寸前で手を止めた。

「ん。ジョー。どうしたの」
「うん――」

口元にクリームがついているよ。

と言うより早く、ジョーはそのクリームをなめていた。

「ん、なに、ジョー」
「うん――」

 

 

後は、アイスクリームはどうでもよくなってしまって――気付いた時には、容器の中身は液体に変わっていた。

 

「・・・チョコミントって歯磨き粉みたいな味だな」
「あら、ジョーは嫌い?」
「うーん・・・」
「私は好きよ。ジョーはいつもバニラしか食べないけど」

一緒に混ぜると甘くなるから。

とは言わず、代わりに

「――もう一回、確認してみる?」

にっこり微笑んだフランソワーズにジョーも微笑んだ。

「うん。そうだね――」

 

 

盆栽の手入れをしようと庭に出てきたギルモア博士は、慌てて邸内へ戻った。

リビングから海を眺めていたピュンマは、傍らのベンチに座っている二人を見て肩をすくめた。
――仲がいいのは良いけれど、もうちょっと周囲に気を配れよな。

 

とはいっても。

穏やかな日差しに頬にあたる風が心地よくて。

どこかで戦争が起きていても、とりあえずここ――ギルモア邸は平和だった。

 

普通の日常。

普通の恋人同士のようなふたり。

そんな普通の日々が続くのならいい。

硝煙にまみれるよりも。