フランソワーズが振り返った。頬にかすかに涙の痕が残っているけれど、その瞳に涙の粒はない。


「・・・大丈夫?」


静かに問うジョーの声は闇に溶けそうだった。


「ええ」


短く答えて、そうして微笑むフランソワーズ。


ジョーは動かない。ただその場に立ち尽くす。

フランソワーズが彼に近付いてゆく。ゆっくりと、一歩、二歩。

そして彼の胸に頬を押し付ける。


――今、ジョーはここにいる。


その現実を確かめるように、彼を抱き締める。
ジョーはそうっとフランソワーズの身体に腕を回して深呼吸する。

フランソワーズの辛い時間は過ぎ去った。

 

「・・・フランソワーズ」

「なあに?ジョー」

 

いつもの声。

 

「・・・いや。何でもない」

「ふふっ・・・変なジョー」

 

自分の胸のなかでくすくす笑うフランソワーズ。
なんだかそれがくすぐったくて、ジョーも一緒に笑っていた。


「ジョー?」
「うん?何?」
「・・・ううん。何でもない」
「何?」
「何でもない」
「何だよ」
「何でもないったら」


くすくす笑いながら続く応酬。

辛い思いの後には、温かい思いが待っていた。