web拍手ページに載せていた小話です。
「ふたりの場合は・・・」
@ 「ねぇ、ジョー?」 いきなり何を言い出すのかとジョーは訝しげにフランソワーズを見た。 「・・・また何か書いてあった?」 フランソワーズの手にしている雑誌に目を落とす。 「ううん。そうじゃなくて、ちょっと思いついたの」 どうせろくなコトじゃないんだろ・・・と思いつつも、とりあえず心理的に身構える。
A 「そのお話だったら、やっぱりジョーは王子様かしらね・・・って」 いきなり王子様役を割り振られ、ジョーは目を瞠った。 「そうよねぇ・・・お姫さまを助けるために、危険をものともせず戦うのよ」 ゼロゼロナインだもんね、やっぱり王子様よねぇ・・・と、ジョーの反応には全く頓着せず 「・・・・俺が、王子様」 小さい声で言ったのに、彼女の耳は全ての音を拾うのだった。彼の言葉は特に。
B 「王子って柄じゃないよ」 ため息をつきつつ、自分の見ていた雑誌を脇に投げ出す。 「・・・ふーん。フランソワーズは眠れる森の美女ってわけ」 あっという間に雑誌を閉じられてしまう。 「なんかヤバイことでも書いてあった?」 彼女が彼に見せないようにするということは、おそらくそういうことなのだ。 「もうっ・・・いいの、ジョーは知らなくて!そうじゃなくて、ジョーは王子様よねって話」
C 「王子というより、お姫様を警護している一兵卒って感じだな」 フランソワーズが驚いてジョーの顔を見つめた。 「どうしてっ??」
D フランソワーズはちょっと下を向いて黙った。何か考え込んでいるらしい。 けれど。 そのお話で言えば、「眠っている姫」は間違いなくフランソワーズだった。 ――今のこの状況と同じだな。 お話の中だけではなく、今こうしている時も。
E 「・・・ジョーは、王子様じゃないのね」 今みたいにね。と、うっかり言いそうになり黙る。 「お姫様といえば、フランソワーズだろう?」 そう言ってみた。 が。 「え!?お姫様???」 頷くかと思いきや、「やだわ、お姫様なんてやりたくないもの!」と言うのだった。
F 「いやよ。どのお話のお姫様だって、やらないわ」 そんなことを訊かれても、自分は王子じゃないし。というジョーの反論はもちろん聞いていない。 「迎えに行かなくちゃいけないのよ!?のんびり待ってたら、絶対どっかに行っちゃうんだから!」 誰かさんみたいにね。と、ちらりと見つめられ、ジョーは、だから俺は王子じゃないんだってば。を繰り返した。 「え・・・と、じゃあ、フランソワーズはお姫様じゃないならいったい・・・」
G 「そうねぇ。女官ってところかしら。お姫様の身の回りの世話をするの」 それはまた、随分と綺麗な女官だろうな。王子が間違えて見初めるぞ。と、変な心配をしたりする。 「そう。王女がいつ王子様と会っても大丈夫なように、常に綺麗に整えておくのよ」 それはもう楽しそうに目を輝かせて話すフランソワーズに、そうだった、彼女はこう見えてじっとしててはくれない子だったな・・・と思い出すジョーだった。
H 「でね、いろいろなお作法をちゃあんと知っているから、お姫様付きの女官になるのも簡単なのよ」 でも、元お姫様という設定なんだな。結局、お姫様じゃないか。と思ったけれど黙っていた。 「――でもさ」 よいしょ、とフランソワーズを抱き寄せる。 「楽しいかもしれないけど、眠りっ放しのお姫様だろ?毎日同じ事の繰り返しになって飽きるんじゃないのか?」 フランソワーズはくすりと笑い、そして 「大丈夫よ。だって、あなたが守ってくれるんでしょう?」
I 「え?違うよ、俺は姫の警護で」 なんだか丸め込まれたような気がした。 「でも、そんなことをしていたら、婚期を逃すぞ。何しろ眠ってる姫は何年たっても年を取らないんだろう?」 くすくす笑いながら、ジョーの胸にもたれる。 「だって、女官は姫の警護をしている兵隊さんと恋に落ちちゃうんだものっ」 つられてジョーもくすくす笑う。 「それじゃ、姫とか王子とか関係ない話になるじゃないか」 そう言ってぎゅうっと抱き締めた。
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