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「ジョーの悩み」

 

―1―

 

最近、ジョーの様子がおかしい。

ぼーっと空を見つめていたり、そうかと思うとこちらを怖い顔で見ていたり。
なあにと聞いても、いや別になんでもないよ、って小さく言うだけで。


「ジョーが変なの」


ある日の朝御飯の席で思いきって言ってみたのに。

「それは今に始まったことじゃないだろう」

冷たく言われた。

「もうっ。だって何か悩んでいるみたいなんだもの。男同士のほうがいいんじゃないか、って」
「悩んでいるようにはみえないけどな」

ピュンマが言う。
真面目に聞いてくれるのは彼だけだわ。

「フランソワーズは訊いてみたのか、ジョーに」
「ううん。・・・訊けるような雰囲気じゃなくて」
「・・・フランソワーズが訊けないんじゃ、俺たちが訊いても何も言わないよ、ヤツは」

ジェットの言葉に全員が頷いてこの話は終わった。

 


 

―2―

 

今日もジョーの様子がおかしい。
朝からずっと私の顔を見たままだ。

シーツを干していても。

洗い物をしていても。

いい加減、気になってくる。

「ねえ、ジョー。いったいなんなの、この間から」
「何が?」
「何か悩んでいるの?」
「悩んで・・・ああ、そうだな」

眉間に皺を寄せる。

「うん。結構、悩んでいるかな」

なんだかタダゴトじゃないみたい。
途端に不安になる。
ジョーをそんなに悩ませるようなことっていったい何なの?

「ねぇ、ジョー。良かったら話してくれない?・・・頼りないかもしれないけど」
「うん?・・・そうだなあ」

そうしてジョーが話し始めたことは想像を絶していた。

 

 

―3―

 

「えっ?」

私は数回瞬きした。

「それは・・・」

頬が熱くなってくる。

ジョーは心を決めたのか、淀みなく話し続ける。

「だから、どうしてなんだろうって思わないかい?地球上の半分は女性なのに、どうして僕はフランソワーズしか駄目なんだろうって。きみは魔法使いじゃないだろう?」

思わず首を横に振る。

「だよなぁ。そうすると、なにか他に要素があるに決まってる。それがなんなんだろうかってずっと考えていた」
「何、って・・・・」
「顔が可愛いからかなって思ったけど、それだけだったら芸能人にごまんといるし。笑顔が可愛いのだってそうだし。じゃあ泣き顔かなって思ったけど、・・・うん、確かにこれは合っていると思うんだけど絶対にそれだけじゃない自信があるし。やっぱり性格かなぁ。可愛いし、優しいし、怖いし、甘えんぼのわりに意地っ張りだし、でもヤッパリ凄く可愛いいし。そうすると残るは外見だけど、足が綺麗とかスタイルがいいとかそれだって芸能人にごまんといるし。うーん、やっぱりどうしてなんだろう。例えば、同じ顔で同じ声で話すフランソワーズっぽいひとが他にいても、僕はきみじゃなきゃ駄目なんだし」

ジョーが顔を上げて私をまっすぐ見る。

「ねえ、どうしてだと思うフランソワーズ?」

 


 

―4―

 

「それは・・・」


私はジョーを見た。
真剣な瞳でこちらを見ている。答えを待っている。

「・・・それは」

私はジョーの前に立つと、彼の頭を撫でた。

「私もおんなじ疑問を持っているっていったら驚く?」
「えっ?」
「どうして私もジョーじゃないと駄目なのかしら?こんなにメンドクサイひとなのに」

傷ついたような顔をするから、笑ってしまった。

「でも、そんなジョーがいいの。他のひとじゃ駄目。これって不思議よね?」
「うん」
「どうしてなのかしら」
「さあ。・・・どうしてなんだろう」


そうしてふたりで笑った。

 


 

―5―

 

「めんどくせーなぁ。アイツら」

「毎年、同じこと悩んでないか?」

「しっ。それを言うな、って」


そうして兄達は、そうっと部屋を出た。