一方、連絡を受けた三人のフランソワーズも時を同じくして困っていた。
「――いったん帰る?」 全裸よ、と新ゼロフランソワーズが頬を染めた。 「まったく、いったい何をしたのかしら」 超銀フランソワーズが呆れたようにため息をついた。 「何か事件じゃなければいいんだけど」 平ゼロフランソワーズは、ジョーのどこかひとごとのような声を思い出していた。のんびりしていて切迫感も危機感も感じられなかった。だからおそらく事件絡みではないのだろう。 ――今さら、まだ遠慮するなんて。それもこの私に。 そういう他人行儀さに腹が立つと同時に寂しくもあった。 ――でも。ふつうにキスだってするのに。 そういう行為を誰とでも平気でできるようなひとではない。だから、きっと自分は恋人でいいのだろう。 「…どうかした?」 急に黙り込んだ平ゼロフランソワーズを心配して超銀フランソワーズが顔を覗きこむ。 「ううん。なんでもないわ。――ねぇ、どこかで調達するしかないんじゃない?」 そうして三人の索敵士は別々の方向に向かって目を細めた。
数分後。
「――ファストファッションの大型店舗発見。行きましょう」 三人揃って歩き出した。 そして更に数十分後。 店から出てきた三人は揃って同じ大きさの紙袋を提げていた。
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急にしんとなった部屋。先程までの賑やかさが嘘のようだ。 しばし無言で料理をつつき、ワインを飲んだ。 と。 「ね、reさん」 スリーが思いきったように声をかけた。 「わたし、ちょっと訊きたいことがあるんだけど…いいかしら?」 にこにこするreフランソワーズ。 「前に雑誌で読んだんだけど、……reフランソワーズさんには秘密がある、って。その秘密って、いったい何なの?」 それはまだ映画公開前なので言えない。 困った。 が。 そんなreフランソワーズの戸惑いをよそに、スリーは言葉を継いだ。 「映画『スーパーマン』のリメイクって知ってるかしら」 いまやreフランソワーズはくらくらめまいがしていた。 実はその通りなのだが、いかんせん、いまこの場に彼女の暴走を止められる者はいなかった。 「re:cyborgのreって、そういう意味じゃない?」 そこで誰かの噴き出す声がした。 「ああ、ごめんなさい。つい」 しかし、笑いを堪えきれない。 「……だって、」 目尻に浮かぶ、笑いすぎて出た涙を拭いながら、 「そうしたら二人の子供は30歳近いわ。そんな大きな子供を連れていって見せるの?」 しかしスリーは怯まなかった。 「だから、本当は……reさん。アナタはジョーとフランソワーズの娘なんじゃないの?」 見つめ合うreフランソワーズとスリー。 「やあね、そんなわけないでしょう」 完結編フランソワーズが笑う。 「だってキスシーンがあったじゃない。まさかジョーが娘とあんなキスするわけないわ」 reフランソワーズをちらりと見る。が、やはり彼女は無表情だった。
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女子会でスリーがとんでもない仮説を披露している頃、男子会では陰気な酒宴が続いていた。 最初から予定されていたのか、飛び入り参加なのかいまひとつ読めない七人目の009. 至極当然のように空席におさまり、さっさと自分の飲み物を注文しくつろいだ雰囲気である。椅子にもたれ、座卓を見回し、あれまだ全然食べてないんだねと笑った。 「いや、まぁ……色々あってな」 ナインが言うのに曖昧に頷く。 「確か今夜の主題は映画の話だったと思うけど」 完結編ジョーがちらりとreジョーを見る。 「009作品初のラブシーンについて……だろ?」 今夜の集いの目的を知っているのならば、やはり完結編ジョーは最初から声をかけられていたのだろう。 「――僕だよ」 そんなナインの耳に地を這うような低音が聞こえた。 「僕が声をかけたんだ」 いやだって、ちょっと待て。 そんなナインの心の声が聞こえたかのように、呪詛は続く。 「……来るとは思っていなかったんだよ。電話をしたのはフランソワーズだったし……」 まさかのこのこやって来たりはしないだろうと高を括っていた。会えば、原作ジョーである自分と何かしらぶつかることは目に見えていたからだ。 「そうかい?僕は嬉しかったけどなあ」 そんな原作ジョーとは裏腹に完結編ジョーは妙に明るい。 「映画の話も聞きたいしさ」 ね?とreジョーに笑いかける。 「お前……」 完結編のくせに明るいなとナインは眉をひそめた。 「――僕が気に入らない?」 そんなナインの複雑な心境を知ってか知らずか、テーブルの向こうから完結編ジョーが身を乗り出した。 「僕が、アンナコトをしたから」 それは禁句中の禁句だった。 「……?」 全く事態が飲み込めていないのはreジョーだけであった。
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