「肉食系と草食系」

 


@事の発端は003会議(ガールズトーク?):このお話は原作やアニメ放送のゼロナイ全てを「既に読んで見て知っている」前提で進んでいきます。特に「これは原作の○○編」とか「アニメの○話」などの注釈は入れていませんので御了承下さい。

 

「今日の議題は肉食系男子についてです」

議長を勉める原作フランソワーズが集まった003を見回しにっこりした。

「みなさん、自由に発言をどうぞ」
「はい」

早くも手を挙げたのはスリーである。

「あの、肉食系という意味がよくわからないんですけど……」
「あら。それはね」

説明しようとした原作フランソワーズだったが、横から超銀フランソワーズが引き取った。

「繁殖力の強さよ」
「はんしょくりょく?」
「ええ。つまりは――エロさ加減といったところかしら。わかりやすく言えば」

確かにわかりやすい。

と、003たちは納得した。
超銀フランソワーズの恋人である超銀ジョーは、「イケメンに必要な条件はエロさだ」と公言する男であった。
確かに彼は、歴代009のなかでトップクラスの肉食系男子だろう。
それは自他共に認めるところだと誰もが思ったが、誰かが「あなたのジョーがそうよね」と言ったところ、超銀フランソワーズは首を横に振ったのだった。

「そう思わせてるだけよ。そう思って欲しいというジョーの願望ね」
「え。でも……」

二人と仲の良い新ゼロフランソワーズが異議を唱える。

「いつも仲がいいじゃない。それに言って欲しい事はちゃんと言葉にしてくれるし」

新ゼロジョーは、言葉にしなくても目を見ればわかるだろうと中々はっきり言ってはくれない男だった。

「そう見えるかもしれないけど、本当は違うのよ」

溜め息と共に言う超銀フランソワーズの目はどこか悲しげだった。

「いつもどこか遠慮してるの。自分に自信がないのよ」

え。そうは見えないけど……

と、その場にいる全員が思ったが、なんだか超銀フランソワーズが自虐モードなので見守ることにした。

「だから、僕もフランスに行こうかなちょうど次のレースがあるしなんて言うのよ。一緒に居たいって言えばいいのに、言えないものだからかっこつけて!」

あのいくじなし!とテーブルをばんと叩いた。

「――だからジョーは肉食系じゃないわ。草食系よ」
「だとしたら、うちのジョーも草食系だわ」

新ゼロフランソワーズが言う。

「言葉にもしなければ行動にも移さないもの。いつもどこかじれったいのよね」
「でもそこがいいんでしょう?」
「まあ、そうだけど……」
「いつもちゃんと守ってくれるじゃない。私のように忘れられたりしないわ」
「あらでも、原作ジョーが忘れたのって全編通して一回だけでしょう」
「そうだけど、その一回が大きかったのよ」

一同、それについてちょっと考えてみた。

「でも、原作ジョーってちょっと不思議よね」
「そうよね。天然なのか計算なのかわからないわ」

平ゼロフランソワーズがそう言うと、天然よと全員に突っ込まれた。

「スカーフがなかったらわからなかったんじゃないと思わせておいて、実はなくてもわかってたっぽいわよね」
「そうそう!だって、一人の時は君の蒼い瞳が云々なんて熱いこと言っちゃうんだから」

いいわよねえと口々に言うので、原作フランソワーズは苦笑した。

「それはでも、直接言われてないし、私は知らないことになってるから」
「でも原作ジョーは間違いなく肉食系だわ」
「ええ、そうね」
「そうね」

凍った時間編が評価されて、原作ジョーは肉食系男子に認定された。
がしかし、同じく結晶時間の平ゼロジョーは非難ごうごうだった。

「あんなに時間があったのに、なんにも告白しないなんて!」
「唯一言ったのが、全話通して嫌いじゃないよその格好だけなんて酷いわ」
「嫌いじゃないなら何なのよっ」

プンプンする003たちに、しかし平ゼロフランソワーズはにっこり笑った。

「ジョーはそれでいいのよ」
「え、でも……」
「草食系と見せかけて、実は肉食系のロールキャベツ男子だから」
「ロールキャベツ男子?」
「うちに秘めた熱さがあるの」

そう言って頬を染める様子に誰も何も言えなくなってしまった。
ただでさえ童顔で優しい声音の平ゼロジョーである。それが実は肉食系で、相当熱いのだというと、さて、どういう意味になるだろうか。

みんなが黙りこんでしまったので、散会にしましょうかという流れになった。

「あの」

慌てて口を開いたのはスリーだった。

「じゃあ、ナインはいったい」

肉食系?

草食系?

「肉食系に決まってるでしょ!」

全員一致だった。

 

<今日の結果>

超銀:草食系

新ゼロ:草食系?

原作:肉食系

平ゼロ:ロールキャベツ系

旧ゼロ:肉食系

 



Aその頃の009たち

 

「侮辱だ」

超銀ジョーは部屋のなかをぐるぐる歩き回った。

「この僕が草食系などと!」

これを侮辱と言わずして何と言うかと立ち止まり天を仰いだ。
そのまるで舞台俳優のような仕草に新ゼロジョーはうんざりした表情を隠さない。

「……別にいいじゃないか。フランソワーズがそう思いたいなら思わせておけば」
「いいや、ダメだ」
「なんでさ。フランソワーズがどう思っているかが全てだろ?」
「じゃあ、お前は平気なのか。繁殖力がないと思われても」
「繁殖力、って。――あのなぁ。論点はソレだけじゃないだろう」
「ソレに決まってるだろう!大事なことだ」
「……そうかなぁ。別にいいジャン。お前が繁殖力がないと思われても、実際違うんだったら」
「フン。お前もそうだがフランソワーズも全くわかってない。もちろん僕だって、彼女が僕を草食系だと言うなら別にそれでいいさ。だがな。ただの草食系と思われたらそれは間違いだと声を大にして言いたい。草食系は、そこらの楽に手に入る草を食んでいれば満足というわけじゃないんだ。食いたい草が危険な崖にあったら、それを食うためにそこに行くんだ!どうしても食いたいならその労を惜しまない!」

超銀ジョーの長広舌に、一同はおおっと歓声をあげ力強く拍手した。
新ゼロジョーに至っては立ち上がって握手を求める始末。

「そうだよな。フランソワーズはそこらにある簡単に手に入る草じゃない。高嶺の花なんだ」

草食系にも言い分はあるのだ。
見た目は優しげで争いを好まないようだが、実は水面下で相当の努力をしている。かどうかは人によるが、ともかく超銀ジョーと新ゼロジョーは本人の弁によれば努力をしている草食系のようだった。

一方、肉食系と言われた原作ジョーとナインはどうかというと、これまた全く反応が無い。
原作ジョーは何を言われようが興味が無いようで、こうして集まっている場でも漫画雑誌に夢中である。

そしてナインといえば、

「――夜は焼肉がいいなァ」

などと言っている。
女子たちが指摘する「肉食系」「草食系」の意味をよくわかっていないのだろう。
あるいは、人が自分をどう言っていようが全く気にしていないのかもしれない。

そして、ロールキャベツ男子と言われた平ゼロジョーは。

「ロールキャベツ?……作り方、知らないなぁ。張大人知ってるかな――あ、いいや。あとでフランソワーズに聞いてみよう」

と、なにやら楽しそうだ。
唯一、フランソワーズに庇われたからかもしれない。

 

今日のゆうごはんは焼肉とロールキャベツのどっちにするか多数決をとったりと、和やかな空気になった部屋であったがそこへ今、刻一刻と危機が迫っていることに009の誰一人として気付いてはいなかった。

なぜ同席していない009たちが003会議の内容を知っているのか。

そして、それを知った時の003たちがどういう行動に出るのか。

 

それはあと数分後に明らかになる。

 



B窮地の009

 

「やっぱり、集まっていたのね」


凛とした恐ろしく冷たい声に、いま部屋に集っている全ての009の背筋が凍った。
それこそ、凍った時間のように全てが凍結したかのようである。
実際、動ける009は誰ひとりとしていなかった。そのままの姿勢を保持したまま固まっている。
ゼロゼロナンバーの誰よりも逃走機能が強化されているはずなのに、それを生かすことができない。この部屋に出口がたったひとつということもあるかもしれないし、その出口を003が埋めているということが原因かもしれない。
003たちに塞がれている唯一の出口。
彼女たちを蹴散らして逃走するなどという暴挙ができるわけがない。
これは全ての009に共通の標準搭載最重要スペックであった。


「な、なんのことかな」

肉食系009であるナインがまずは第一声を放つ。

「僕たちは友情を温めあっているだけさ」
「そうそうその通り」

漫画雑誌をめくりつつ原作ジョーが同意した。が、声だけなのは誰の目にも明らかであった。
こんな状況にもかかわらず、彼は漫画雑誌に夢中なのだ。
現在、絶体絶命のピンチであることをわかっているのかどうか。
凝固した時間のなか、彼のページをめくる音だけが響く。
と、その手を白い手が掴んだ。

「そうでしょうね」

冷ややかな声。
原作ジョーが顔を上げ白い手の持ち主に目を遣った。
そこには最愛のひとである原作フランソワーズがいた。笑顔である。

「……やあ、フランソワーズ」

笑顔のフランソワーズはジョーの大好物である。が、にもかかわらず、原作ジョーの頬が引きつった。
現在の状況を鑑みて、まったく動じていなかった原作ジョーが初めてみせた動揺であった。

「ねぇ、ジョー。みんなで集まって何をしてたの?」

笑顔のフランソワーズ。
しかし、声は酷く冷たかった。
ここにいる全ての009が逃げたいと切に思ったが、誰一人として動ける者はいない。
実際に腕を取られている原作ジョーを生贄にして、全員が逃走を図る唯一の機会だったかもしれないにもかかわらず。

「何って……」
「そこにあるモニターは一体何?」
「え?――モニター……?」

原作ジョーはフランソワーズの目から逃れられない。
視界の隅に映るテレビモニター4台に意識を移すが、何もすることはできなかった。

「モニターなんて、あったかな?」

やっとの思いでそう言った。
そしてその意図は全ての009に伝わった。
原作ジョーがそう言った瞬間、残った009全員が奥歯を噛み、一瞬のうちに全てのモニターは粉砕されたのだ。

「――僕には見えないけど?」

原作ジョーが笑顔で言った瞬間、その手首が捻り上げられた。
たまらず、漫画雑誌を床に落とす。

「いま何か言ったかしら?」

ぎりぎりとどこかがきしる音がする。

「ねぇ。女の子の集まりを覗き見するのって、よくないわよねーえ?」

うわあ、ごめんなさいと原作ジョーの声が響いた。

 

 

***

 

 

「証拠を隠滅すればいいってもんじゃないのよジョー」


ふわりとマフラーをなびかせ、超銀フランソワーズが一歩前に出た。
もちろん詰め寄る先は超銀ジョーである。

「え。なんのことかな」

一方の超銀ジョーはじりじりと後退する。

「加速装置ってそういうことのためにあるわけじゃないわよねぇ?」
「いや、そんなことは――」

ない。と言い切りたいところだが、実際問題としてそういうわけでもなかったから、超銀ジョーの歯切れは悪い。
そのあたりどうにも真面目なジョーである。こういう絶体絶命のピンチの時くらい、言い切ってしまってもいいだろうにフランソワーズに嘘は吐けないのだった。

「大体、どうして全員が集まっているのかしら」
「だからそれはナインの言った通り、旧交を温めに」
「へーえ?会議室で?」
「う、うん」
「飲み物も食べ物もなしで?男子が?」
「う、うん」
「これってどう見ても会議よね?」
「え、いや……」
「さて、議題はいったいなんだったのでしょう?」

詰め寄るフランソワーズに対し、後退するしかなかったジョーであるが今や進退窮まった。
背中に壁が当たったのである。

「議題――ええと」

彼の目の前には超銀フランソワーズが肉迫しており、もうすぐ視界は彼女でいっぱいになりそうだった。
そうなったらもう勝ち目はない。否、もちろん既に負け戦には違いないのだが、せめて一糸報いたかった。
だから超銀ジョーは必死に頭を働かせ――本気で補助脳も稼動させたような気がする――ホワイトボードを思い出した。そう、さっきまで多数決を採っていたのだ。どうでもいい内容の。

「そ、そう。ゆうごはんのメニュー会議だ」
「ゆうごはん?」
「ウン。焼肉とロールキャベツの」

フランソワーズの片眉が上がった。

「焼肉と……ロールキャベツ」
「そ、そう。ロールキャベツ」
「…………ふうん?」
「あ」

しまった口が滑ったと思った時にはもう遅い。
なにしろ、なぜメニュー会議にメニューがふたつしか挙がってないのか、それもよりによって焼肉とロールキャベツなのはなぜなのか、つっこまれたら答えられない。
しかも、このふたつのメニューは003会議を盗聴していたからこそのメニューである。
何より彼女たちが先刻まで口にしていた話題ではないか。

「……ジョー?」
「なななんでしょう」

彼のマフラーをぐいっと引き寄せ、フランソワーズが顔を近づける。

「草食系って言われてどうだった?」
「え……」
「私はどっちだと思う?」
「えっ」

フランソワーズは艶やかに微笑むとジョーの唇にくちづけた。

「私は――」


に、にくしょくけいっ……?


ジョーの言葉はフランソワーズに飲み込まれた。

 

 

***

 

 

「まったくもう、盗聴するなんて恥ずかしいと思わないの」


うなだれる金色に近い褐色の髪の持ち主。
心もち黄色いマフラーもしょんぼりしているようだ。

「まさか、ばれないとでも思ってたわけ」

その通りである。
相手は003たちとはいえ、こちらは最強のサイボーグ009の集まりである。
どちらが能力的に上かというと一目瞭然である。どの009もそう信じて疑わなかった――が、落ち着いてその件について考えてみるとどうも間違えていたようだ。
自分たちには総合した強さがあるが、それは単にひとつひとつの創りが最新式の素材から成っているというだけである。特殊能力というと加速装置しかないのだ。
もちろん、時間を操れる(というわけではないが)能力というと最強だろうとは思う。がしかし、異なった時間軸に身をおこうと思わなければ、他に特殊なちからはないのである。
そう、遠くのものが見えるとか遠くの話が聞こえるとか。
そういう意味で言えば、003たちのほうがよほど能力が上ではなかろうか。しかも、総じて009の弱点は003なのだ。それが複数居るとなると……

「……悪かったよ。でも」

新ゼロジョーがちらりと前髪の間からフランソワーズを見た。
がすぐに視線を元に戻す。どうにも分が悪かった。

「でも、いったい何を話しているのか気になったから」
「それにしては用意周到じゃない?」

別室で会議を開いていることを知って急遽モニターを始めたにしては準備がよすぎる。
元々、互いの部屋にカメラは設置されてなかったわけだし、当然の如くテレビモニターだって無い。
サイボーグメンバーが使う部屋にそういったものは不要なのだ。

「――女同士だけなんて」

僕達の話ならまだいいが、もしも――それ以外の男の話だとしたら?

しかしそんな嫉妬にも似た(いや嫉妬だろう)考えに支配されていたと知られたくはなかった。
だから新ゼロジョーは黙り込むしかなかった。目を合わせたらフランソワーズには全部ばれてしまうような気がする。なにしろ彼女は、自分の目が何を語るのかふだんから読みなれているのだから。

ジョーはうなだれて、両膝を抱えた。
このまま自分ひとりの空間になってしまえばいいのに。

そんな彼の髪をそっと撫でる者がいた。もちろんフランソワーズだった。

「もう。ジョーはもうちょっと自信を持たなくちゃだめね」

耳元で小さく言われ、ジョーは視線を上げて声の主を見た。

「何回、大好きって言ったらわかるの?」

瞬間、ジョーの胸に温かいものが通った。


「……何回も言ってくれないとわからないよ」

 

 

***

 

 

「ロールキャベツの作り方?」


原作ジョーが腕を捻り上げられ、超銀ジョーが無理矢理キスされ、新ゼロジョーが膝を抱えて動けなくなっている頃。平ゼロジョーはホワイトボードの前でただただぽかんと傍観していた。
003軍団が現れてから微動だにしない。できずにいる。彼にとって、003たちの怒りというのは誠に恐ろしいものであり、中でも平ゼロフランソワーズの怒りには……

「え?」
「え、じゃないわ。ゆうごはん投票はロールキャベツに決まったみたいじゃない?」

言われてホワイトボードを見ると、ロールキャベツに赤い○がついていた。
そして赤いマジックを手にしているのは自分だった。

「ロールキャベツが好きだったの?」
「え。あ。……どうかな」

なんとも頼りない答えに平ゼロフランソワーズはため息をついた。
だから彼はロールキャベツ男子って言うのよ。

とはいえ。

――でも肉食系なんだわ。

「ね。ジョー」

フランソワーズは平ゼロジョーの手から赤いマジックを引き剥がすと自分の手を滑り込ませた。

「ぜんぶ、聞いてたの?」
「えっ」

途端、ジョーの額に汗が湧いた。

「な、なにを」
「私たちの話。ぜんぶ」
「な、なんで」
「だって、そうじゃなきゃロールキャベツなんて単語、出てこないでしょ?」
「そ、そうかな。そんなことないんじゃないかな」
「……そうかしら?」
「そうだよ。だって今日の議題は、ゆうごはんはどっちがいいかなんだから」


お。

いいぞ、末っ子。

ふっとその場の空気が変わった。
いまここにいる劣勢の009たち全てが心のなかで末っ子009を応援していた。
もしかしたら、何とか言い逃れることができるかもしれない。
平ゼロジョーの素直そうな誠実そうな物言いは、まったく信用が得られない他の009にとって希望の星なのだった。


「そうなの?」
「うん」
「そんなことのために、わざわざ集まったの?」
「そんなことって、大事なことだよ?フランソワーズ」

平ゼロジョーはフランソワーズの両肩を掴むと詰め寄った。

「だ、大事……?」
「そうさ。ゆうごはんってとても大事だよ?」

まっすぐ見つめる赤褐色の瞳。その瞳には権謀術数も腹芸も見られない。ただただ真実を述べているに違いなかった。そして、そうと信じさせる何かがあった。さすが本編で生き返らなかっただけはある(?)。


これは、いける。
なんとか003たちを言いくるめることができるかもしれない。

いけ。

いくんだ末っ子!


「そう思わない、フランソワーズ」
「え、でも……だったらあさごはんやひるごはんは大事じゃないの?」


いや、ダメかもしれない。


フランソワーズの当然といえば当然といえる追求に平ゼロジョーが黙り込んだ。
万事休すである。
一瞬でも勝利を確信した009たちの落胆は大きかった。どんよりした空気が部屋を満たす。

と。


「大事に決まってるよ」
「じゃあ別にゆうごはんに限らないじゃない」
「そうだね」


そうだね、って……ああ……

末っ子に望みを託した僕たちが悪いのか(いやいや自業自得ですから)と009たちが腹を括ったとき。


「フランソワーズと一緒ならぜんぶ大事だよ?」


にっこり笑って言い放った平ゼロジョー。
一発逆転の必殺技だった。

 

 

***

 

 

「じゃ、そういうことで今日は解散だな」


空気を読んだのか読んでないのか、まるで何事もなかったかのように白い防護服の彼は手を打った。
そして当然のように颯爽と出口に向かい――ピンクの防護服の彼女に捕まった。

「ちょっとジョー、待って」
「ん、なんだいフランソワーズ」

まるで何事もなかったかのように悪びれずしれっと笑顔を向けるナイン。

「今日は焼肉にしよう。セブンとシックスにも声をかけてさ」
「――そうじゃなくて」
「うん?なんだい、焼肉って人数が多いほうが楽しいだろ?」
「そうだけど、その話じゃなくて」
「フランソワーズはロールキャベツのほうがいいのかい?」
「ううん、焼肉でいいわ……だから、そうじゃなくて」
「じゃあ決まりだな。焼肉で」

だからそうじゃなくて!

と目で訴えてみるが、既にナインは部屋を出ていた。スリーの腕を掴んで。
半ば強引に連行され、スリーは他の003の援護があるかと振り返り振り返りするが、残念ながら援護射撃はなかった。みんな自分のジョーにかかりっきりなのだ。だからスリーは自力でこの「009事件」にオトシマエをつけるしかない。

009事件。

自分でそう言っておいて、はて「事件」ってなんだったろうとスリーは首を捻った。
そもそも、003たちは集まってお菓子を食べながらガールズトークをしていたのである。が、ふと「ジョーはいま何をしてるのか」という話題になって、各々ちょっとチェックしてみたら彼らは別の一室でこちらをモニターしていたのがわかったのである。酷いわ盗聴なんてということになって、揃ってこちらにやってきたのである――が、よくよく考えてみればジョーたちを「見て」「聞いて」チェックしたのは自分たちのほうが先なのである。しかも、全員が遣り慣れているときた。これって……009たちを怒れないのではなかろうか。

焼肉焼肉と謎の焼肉の歌を歌っているナイン。

思えば、009たちの誰もが逆ギレしなかったのも不思議である。
003たちが乱入した時、「きみたちだってどうしてわかったんだい?ははん、こちらを覗いたんだな!」と糾弾されてもおかしくなかった。が、誰ひとりとしてそうは言わず、ただただ気まずい空気が漂っただけである。

――これっていったいどういうことなのかしら。

スリーは焼肉の歌を聞きながら考え込んだ。
ナインに手を引かれながら、いったいどこに向かっているのかさっぱりわからない。が、それについては全く心配していなかった。ナインに任せていれば何も心配するようなことはないと決まっているのだ。
だから、あれこれ考える時間はいっぱいあった。

「ねぇ、ジョー」
「うん?なんだい」
「どうして怒らなかったの?」
「何が?」
「……私たちが来たとき」

すると、不意にナインの足が止まった。

「――え?」

くるりと振り返ったその顔は、呆れたようなやれやれといったようなそんな表情が浮かんでいた。

「いまさら、何を言ってるんだい」
「え?」
「怒るわけないだろう、きみたちに」
「え。だって……」

盗聴したのは私たちも同じなのに。
しかも、私たちは日常的にジョーのことを……

「そんなの、気にしてたら003と一緒に生活なんてできるもんか」
「そ、……そうなの?」
「もちろん、きみたちだって常に見張っているわけじゃないのは知ってるよ。でも――ある程度は、ね」

気付いてたの?とは言えない。

黙り込んだスリーの頭に手を置いて、ナインは続けた。

「どの009も思ってるさ。……それがフランソワーズなら別に構わない、って」
「……でも」

だったら、どうしてさっき怒られるのを許したの?

「――やれやれ。君は全く」

だからオコサマだって言うんだよ――と小さく言って、ナインはスリーを抱き締めた。


「あれは、いちゃいちゃする口実に決まってるだろ」

 



Cそれぞれの顛末

 

その夜。


肉食系のナインはスリーを抱き締めて眠った。
もちろん、ギルモア邸でみんなで焼肉を食べた後である。


が、同じく肉食系の原作ジョーはフランソワーズから部屋を追い出されていた。
しかしめげずに忍び込んで派手にビンタをくらった――が、最後には許されて一緒に眠る事に成功した。
彼はちょっとやそっとでは挫けない009であった。


草食系の新ゼロジョーは、海より深く落ち込んでおりフランソワーズの手を焼かせていた。
が、そんな彼の相手をするのが実は嫌じゃないフランソワーズはけっこう楽しんでいるようだった。


ロールキャベツ男子の平ゼロジョーは、フランソワーズと一緒にロールキャベツを作った。
コンソメ味にするかトマト味にするかケンカになりそうだったが、両方作ることで合意した。
すっかりお腹いっぱいになって、大満足のふたりだった。


そして草食系と言われた超銀ジョーは、草食系のままだった。
なにしろフランソワーズが肉食系というのが判明したのだ。それを確かめないわけにはいかなかった。

 

それぞれそんな風にして夜は更けていった。