web拍手ページに載せていた小話です。
「リーダーは誰だ・その@」

 

 

 

「リーダーをここへ連れて来い。人質と引き換えだ」

サイボーグ・ゼロゼロナンバー一同は、目の前の敵とその足元に転がされた仲間をじっと見つめた。
縄で両手両足を縛られ、猿ぐつわをはめられている。
が、必死の形相で首を横に振っている。ここへ連れて来るなと懇願している。

「・・・本当に、連れて来ていいんだな?」

ピュンマが念を押す。

「――後悔するなよ」

 

 

***

 

 

数分後。


「本当にお前がリーダーなのか?」

敵が問う。

「・・・・」

答えはない。

敵は視線を「リーダー」のずうっと後方にいるゼロゼロメンバーに向けた。

「間違いない。リーダーだ」

きっぱりと言うピュンマ。

「いや、しかし・・・」

戸惑ったように、足元の人質と「リーダー」を交互に見つめる敵。
すると、業を煮やしたように「リーダー」が口を開いた。
仁王立ちで両手を腰に当てて。

「人を呼びつけておいて何なの?私は忙しいのよ。さっさと用件を言いなさい!!」

「お前がリーダーなのか?」

「さあ?どうでもいいわ、そんな事」

肩にかかる亜麻色の髪を無造作に払い、ひたと敵を見据える蒼い双眸。

「言ったでしょう。忙しいのよ。さっさと用件を言いなさい」

空気にぴりっと電気が走ったようだった。
更に、じりっと後退するゼロゼロメンバー。既に彼らの姿は豆粒くらいにしか見えなかった。

「いいだろう」

用件など、人質との交換以外の何者でもないのだ。
そんな事は自明の理のはずだったが、いま一度、敵は口を開いた。

「人質を返して欲しくば――」

「いらないわ」

口上を遮られ、一瞬きょとんと目をみはる敵。
聞き間違いかと首を傾げ、再度言う。

「――人質を返して欲しくば、お前と引き換えに」

「だから。いらないって言ってるでしょ?」

「いや、しかし」

「どうぞ。欲しかったらあげるわ」

 

 

静寂が辺りを包んだ。


「――オイ。いらないと言われているぞ、おマエ」

気の毒そうに、小声で足元の「人質」に言う敵。
しかし、「人質」は猿ぐつわをはめられているため、何も話せないのだった。

「そこ!何こそこそ話してるの!」

凛とした声が響く。
敵と人質が同時にびくんと身体を揺らし、「リーダー」に視線を戻した。

「ああ、その――なんだ。いらないという事は、もらっていってもいいという事だな?」

「ええ。どうぞ」

「本当にいいんだな?」

「どうぞ、って言ってるでしょ!もうっ・・・!」

しびれを切らせた「リーダー」の口から、奔流となって言葉があふれ出す。

「大体、寝起きが悪くて、いっつも起こしに行かないとダメで、しかも私以外の人じゃ絶対に起きなくて凄く手がかかるし、防護服を脱がせるのはうまいのに、未だに自分ひとりでは着られないし、卵焼きが大好きなくせにネギを入れると食べないし、私のプリンを勝手に食べちゃうし。蝶々結びひとつ満足にできなくて、靴ヒモはいつもタテ結びになっちゃってるし、それに――」

「・・・お前、愛されてるな」

ポツリと言う敵に、人質=009は苦笑した。

「が、それとこれとは別だ!!」

言って、009のこめかみに銃をつきつけた。

「一歩でも動いたら、コイツの命は――わあっ!!」

瞬間、いつの間にか肉迫していたリーダー=003の回し蹴りが炸裂した。
銃を飛ばし、昏倒する敵。
そちらを全く見ず、人質=009の元にひざまずくと猿ぐつわを外した。

「全くもうっ・・・何つかまってるのよ」

「――悪いね」

「ホントよ」

両手の縄をほどこうと屈んだところへ

「003、後ろっ!」

「――!」

009の声に、振り向きざまレイガンのトリガーを引いた。
敵の眉間に穿たれる小さな穴から、一瞬煙が上った。

「ふわっ・・・凄いな、一撃必殺」

「もう。じっとして。ほどけないでしょう」

難なく両手両足の戒めを解かれた009は、立ち上がって大きく伸びをした。
両足の屈伸をし、首を左右に回す。

「サンキュー、003。助かったよ」

「――アラ。私はまだ怒ってるのよ」

肩を抱こうとした009の手を素早く払う。

「ひとりで敵地に引き返すなんて無茶をするひとなんか知りません」

「そう怒るなよ」

「知らない。――ついて来ないで」

スタスタ歩いていく003の後ろをのんびりついてゆく009。

 

「おーい。待てよ003」

「知らないっ」

「待て、ってば」

 

風が舞って、一瞬ののちに009は003の前に回り込んでいた。

「あーあ、やっぱり」

「何よ」

「泣いてる」

「泣いてないわ」

乱暴に防護服の袖で顔を拭う003。

「――バカだなぁ」

苦笑すると、009はポケットに手を入れて、003の前でその手を開いた。

「ホラ。落としもの」

「えっ・・・」

呆然とする003の左手を取り、その指にはめる。

「うーん。やっぱり少し緩いな。だから外れちゃったんだなぁ。あとでサイズを直しておかないと」

ね?と003の顔を覗き込む。

「・・・どうして」

「失くしたら、泣くだろう?だから、拾ってきた」

「そのために戻ったの!?」

「まぁね。だけど、そもそも闘いに行くのに、そんなものつけてたら失くすに決まってるだろう?」

「だって・・・」

俯いて、自分の左手のリングをそうっと撫でる。

「――ゴメンナサイ」

「ダメ。許せないな」

そうっと003の両肩に手をかけて引き寄せる。

「落とし主は、拾ってくれたひとにお礼をするのが筋ってもんだよね」

そうして003の頬にキスをひとつ。

「――つかまっちゃったくせに」

「ウルサイな」


ふと、009の左手に目を遣り、リングがないのを認めて

「アナタはしてないのね」

寂しそうに言った。

すると009は、防護服の胸元に手を入れて細い鎖を取り出した。

「僕のはココ」

鎖の先には、リングが揺れていた。

「落としたら大変だからね」

「まあ。――自分だけズルイわ」

003が手を伸ばすと、慌ててリングを胸元に納めた。

「ダメ。大事なものだからね」

「・・・もうっ」

それって誰かの真似じゃないの――と、思ったけれど黙っていることにした。
何しろ、それはその人物の「亡き恋人の形見」だったから。
それを真似るなんて自分もそうなるのではないかという見方もできたが、009がそこまで考えてはいないだろうと判断したのだった。

 

***

 

 

「で、みんなは?」

さっきまであの辺にいたのにな・・・と、遥か彼方を凝視する009。

「先にドルフィン号に戻っているはずよ」

「ふーん」

冷たいなぁ・・・と洩らしつつ、もしかしたら気を遣ってくれてるのかな、とも思いながら。

 

一方その頃、ドルフィン号では。

「――ヤレヤレ。で?この惨状をいったいどうするつもりだ006?」

「知らないアルよ。勝手に片付けたら、003はきっと怒るアルからして」

「うーむ・・・」

ドルフィン号の簡易キッチンは、何かを作りかけのまま放置されていたのだった。

「・・・003が言っていた「忙しい」って、まさかコレ?」

「何を作ってたんだろうなぁ」

「ま、俺たちにじゃない事だけは確かだな」

「009が捕まっちまって、彼女をここから引っ張り出して連れてくのは大仕事だったんだぜ。作っている途中だからイヤだの、009なんか自力で戻ってくるだの、引っかかれるわ、蹴飛ばされるわ」

「――だからみんな早々に避難したじゃないか」

003=リーダーを敵の前に連れて行ったあと、全員その場から後退したのだった。とばっちりを食わないように。

「そうだよね。だけどもうすぐあの二人は戻ってくるんだよな・・・?」

静寂に包まれる機内。

「――あのさ。ここからなら、009だったら――ひとっ走りすれば研究所まで楽に戻ってこられると思わないか?」

「003も一緒だぜ?」

「ふん。抱いて走るいい理由になるだろうがよ」

「違いない」

そんな訳で、発進準備に散ってゆくメンバーたちなのだった。