web拍手ページに載せていた小話です。
「リーダーは誰だ・そのA」

 

 

 

「くそっ。サイボーグどもめが・・・!」
「やはり009を何とかしなければ」

ここはネオ・ブラックゴーストの秘密基地。
そのなかの一室に三兄弟が集まり密談中であった。

「009さえいなければ・・・!」
「009の弱点は何だ」
「弱点・・・」

そこへ、一番末っ子が息せき切ってやって来た。

「遅い!何をやっとるか」
「すまぬ。しかし、ある情報を手に入れたのだ」
「情報?それは何だ」
「兄者。009の秘密を知ってるか」
「009の秘密だと?」
「ああ、そうだ」
「あの009の秘密だというのか」
「ああ。一説によると」
「一説によると?」

二人の兄は、末っ子にどんどん詰め寄ってゆき、しまいには三人が額をつき合わせていた。

「実は、009はあの中で最も弱いらしい」

 

一瞬、間。

 

次の瞬間、兄二人はのけぞるように離れていた。

「それはガセネタだろう」
「そんなわけがないだろう」

ないない、と手をひらひらさせ離れてゆく二人の兄に向かい、末っ子は更に言った。

「本当だ。それが格好の目くらましになっているというのだ。最新型どころか、とんだ失敗作だったらしい」

 

 

***

 

***

 

「ふははははははは。どうだ!リーダーであるお前を捕えてしまえば、他の奴らは手出しできまい!」

ステッキの先端で顎を持ち上げ、無理矢理こちらを向かせる。

「どうせお前以外は雑魚の集まりだ。じっくりといたぶってくれるわ!ふははははは」

禿頭の三兄弟をじっとりと見つめ、サイボーグのリーダーはただ沈黙を守っていた。

 

 

***

 

***

 

突然、正面の壁に穴が開いた。轟音と共に。
穴が開いただけではなく、紅蓮の炎が見えている。

「――何事だ!!」

誰何する間もなく、その穴から殺到してくるのは黄色いマフラーをなびかせ、赤い服に身を包んだ戦士たち。
その一番前でスーパーガンを構え、殺気をみなぎらせているのは・・・

「――009!よくここがわかったな」

禿頭三兄弟のうちの誰かが合図をすると、サイボーグ戦士の周囲をロボットたちが固め、一斉に突っ込んできた。発砲するロボットもいる。わらわらと次々に隣の小部屋から湧いて出て、それは際限がないようだった。
たちまち部屋の中はロボットで埋め尽くされてしまった。
赤い服の戦士たちは、ロボットに埋もれて既にその姿を確認することはできない。

「ふふふふ・・・ひとたまりもないだろう」

勝利を確信した禿頭三兄弟のうちの誰かは、捕えていたサイボーグ戦士のリーダーの腕を掴んで引き起こした。
リーダーは両手を後ろで縛られており、武装も解除されている。

「自分の仲間の最期を見届けるがよい」

喜色満面で勝ち誇ったように言い放ち、どんな顔をしているのか見てやろうとその顔を覗きこんだ途端、禿頭三兄弟のうちの誰かの顔はひきつった。

「お前っ・・・仲間の死を何とも思わないのか」

しかし、リーダーはそれには取り合わず、大仰なため息をひとつついただけだった。

 

***

 

***

 

確かに多勢に無勢ではあった。が、相手はロボットだけに動きは単調であり、百戦錬磨のサイボーグ戦士たちは早々にその動きを見切っていた。

「ほいほいっと」

006に至っては、揚げ物をするかのように鼻歌まじりにロボットをこんがり焼いてゆく。

「009、ここは俺達に任せてお前は――」

002が言う間もあればこそ。
そんなセリフを待たず、自分の周囲のロボットを薙ぎ倒し蹴り倒し、009は物凄い勢いで敵に迫りつつあった。

「あーあ。熱いねえ」
「恋せよ若者よ」

そんな声が聞こえているのかどうか。
ともかく009は三兄弟のもとへ肉迫していた。瞳には殺気をみなぎらせて。

と。

その瞳が一瞬大きく見開かれて、そして――

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ」

 

声だけを残して、その姿はあっという間に虚空に掻き消えた。

 

 

***

***

 

 

「お前、いったい・・・」

禿頭三兄弟のうちのひとりが「サイボーグのリーダー」の前に回りこみ、その顎に手をかけてしみじみと顔を見つめた。

「目の前で仲間がやられているのに何とも思わないのか」

けれども答えない。

「もしや・・・何か策があるというのか!――そうなんだな?――ええい、言え!!言うのだ!」

更に顔を近づけて凄む。
が、「サイボーグのリーダー」は目を逸らさずただ黙っているだけだった。

「こいつ・・・!!」

顎にかけた手に力を入れようとした瞬間、

「ぐはっ!!!」

背中から蹴り倒され、「リーダー」を抱き締めるような格好で昏倒した。

「どけっ!!!」

蹴った本人は、それを見て更に逆上した。

 

「汚い手で触るなぁあああああ」

 

組み合わせた両手で薙ぎ払う。いっさいの手加減はしない。
あっという間に禿頭三兄弟のうちのひとりは壁に叩きつけられた。

「兄者!!」

他の二名が慌てて後を追う。が、既にサイボーグ戦士は彼らへの興味をなくしていた。

 

「003・・・大丈夫かい?」
「ええ。大丈夫よ」
「何かされなかった?」

言いながら、003の腕の戒めを解く。

「されてないわ。意外と紳士的だったわよ」
「庇ってもイイコトないぞ」
「本当だもの」
「どこか痛くしてない?」

手早く、肩、腕、腰、足と確かめてゆく。

「大丈夫よ。009たら心配性ね」
「――死ぬほど心配したんだ」
「ええ。・・・ごめんなさい。不注意だったわ」
「いいよ。こうして無事だったんだから」

そうしてぎゅうっと抱き締める。

「・・・さっき。アイツ、君に何かしようとしてた」
「えっ?・・・そうだったかしら?」

ちょうど009からは、ふたりの顔が重なっているように見えてしまったのだった。

「――胸に穴が開くかと思った」
「・・・大袈裟ね」
「怒りで胸が焦げた」
「・・・ばか」

そうしてゆっくりと重なる唇。

 

***

 

***

 

「兄者、いまのうちに早くここから脱出を」
「うぬ。くそっ・・・009め!」

兄弟に両側から肩を支えられ、何とか体を起こす。

「アイツ・・・最弱の失敗作じゃなかったのか?」

やっぱりガセネタだったのではないかと009の方を見つめ、呆然とした。

「・・・アイツら・・・。状況が見えてないのか?」

見つめる先は、サイボーグ戦士ふたりの熱い姿。
目の前の光景を信じられず、呆然と立ち尽くす三兄弟。

そこへ、ロボットたちをあらかた屠ったサイボーグ戦士たちがやって来た。

「なんだ、お前ら知らなかったのか」
「知らなかったんだろうな、その様子じゃ」
「敵とはいえ気の毒に」

口々に言われるものの、全く意味がわからずぽかんとする三兄弟に更に言葉を続けるのは008。

「――あのさ。君たちは全く逆のことをしちゃったんだよね」
「逆だと?」
「そう。大体、003を囮にするなんて最悪もいいとこ」
「しかし、彼女はリーダーのはず・・・」
「確かにリーダーだけどさー・・・そのリーダーが絡むと、009は最強戦士になっちゃうんだよねー」
「!!何と」
「しかし、彼は一番弱いのではなかったか」
「んー・・・弱い、っていうのは、それは・・・」

と言っている間に、熱いふたりに動きがあった。
突然ぱっと離れたかと思うと、「リーダー」は腕組みしてふいっと横を向き、対する009は何と困ったようにぺこぺこしているではないか。
目を合わそうとしない「リーダー」の前に回りこみ説得を試みるが、あっけなく無視されている。
手を伸ばしては、それをはたかれ、なす術もなくうなだれている。

「よ、弱いっ・・・・」

三兄弟は驚愕の顔でその光景を見つめた。

「とてもさっきの者と同じ者とは思えん」

三兄弟の様子に008はちらりと背後を振り返り、大きくため息をついた。

「そう。弱いんだ。「リーダー」にだけはね」
「つまり、我らが彼女を捕えると奴は最強になり、しかし彼女の前では最弱になるということだな?」
「ま、そういうことになるね」

三兄弟は額を突き合わせて何やらヒソヒソ相談を始め、――と思ったら、すぐにばらけた。

「我らは宣言する!今後彼女を囮には使わないと」
「あのね。そんなの別に宣言しなくっても・・・」
「009に伝えるがよい!我々の相手は貴様だと」
「ハイハイ」
「伝えるのだぞ!?」
「わかったよ」
「きっとだぞ!」
「きっと、って・・・おい、お前らどこへっ・・・」

油断した。と思った時には遅かった。
三兄弟はどこからともなく現れた円盤に回収されてゆく。

「おいっ・・・009!何やってる!!」

背後を振り返るが、009は現在戦闘体制からは程遠い状態なのだった。

「009!!なんでそこでたいく座りなんかっ・・・ああくそっ、待て!!」

スーパーガンを撃つが時既に遅く、三兄弟はどこかへ去って行ったのだった。
後に残されたのは、大量のロボットの残骸と――なぜかたいく座りでうなだれている009。

 

「――オイ。そろそろ引き上げようぜ」
「ああ。・・・アイツらどうする?」
「アイツら?」

ちらりと見て、004は

「――決まってる。おいていくぞ!!」

 

一同は賛同の声と共にその場を後にした。