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「003のイチゴ狩り」

 

その中は、例えるなら体育館くらい広く、そして3月下旬の暖かさが広がっていた。
一面の緑と赤。甘い香り。

フランソワーズは胸いっぱいにそれを吸い込み、満足そうに微笑んだ。

「これなら、いくらでも作れるわね!」

肩越しに振り返ると、苦笑が返って来た。

「いくらでも、・・・って、いったいどのくらい作るつもり?」
「あら。食べたい分だけ、よ?」
「それだって限度があるじゃない」
「大丈夫だってば。だって、チョコレートフォンデュよ?イチゴがたくさんあったほうがいいでしょう?」

ここはイチゴの温室。
たくさんのイチゴが収穫されるのを待っている。

「イチゴのケーキとか、イチゴタルトとか、イチゴ大福とか、・・・色々あるじゃない。チョコに限らず」
「でも、そのまま何もつけないで食べるのが一番美味しい、ってナインが言ってたわ」
「あらまあ。アナタってナインの言うことがいつも一番なのね?」
「えっ、そんなつもりじゃ・・・」
「ああもう、そんなに赤くなったら、ここのイチゴと同じじゃない」

それを聞いて、更にスリーの頬は赤みが増した。

「それにしても、良かったわ。連れてきてもらって。スリーもよく知ってたわね?イチゴ狩りなんて」
「・・・この間、ナインと一緒に来たから」

消え入るような小さい声でうつむき加減で言う。手元のコンデンスミルクをもじもじともてあそびながら。
しかし、どんな小さな声で言っても、彼女たちにはみなきちんと聞こえてしまうのだ。
何故なら彼女たちは003だから。

「あら、デート?いいわねぇ」
「二人だけで?よくセブンがごねなかったわね」
「その、・・・ナインが内緒にしてろ、って」
「でもイチゴを持って帰ったらばれちゃったでしょう?」
「ええ。でも、イチゴのケーキで許してもらったわ」

頬を染めたまま、小さな声で話すスリー。

「デートならしょうがないなあ、って」

そうしてスリーの思いは、ナインと一緒に来た「イチゴ狩りデート」へ向かうのだった。
思い出すと今でも頬が熱くなる。

「ともかく、時間がもったいないわ。さくさく獲りましょう」

新ゼロフランソワーズの妙に張り切った声に押され、二人のフランソワーズもそれぞれの思いを胸にイチゴへ向かった。

 

***

 

「ねぇ、知ってる?今年のバレンタインって『逆チョコ』なのよ」

イチゴを採りながら、新ゼロフランソワーズが言う。

「なあに?逆チョコって」
「男性からの愛の告白。ほら、日本ってなぜか女性からって決まっていたでしょう?」
「・・・確かにそうね」
「それが、今年は逆なんですって」
「ということは、私たちは009から・・・?」

思わず手を止めて顔を見合わす三人の003。

ピュンマがちゃんと伝えてくれたから大丈夫。と、にっこりする新ゼロフランソワーズ。

既にジョーは、逆チョコというのを知っているような気がするわ・・・と、超銀フランソワーズ。

ナインから愛の告白?!いやだ、どうしよう!?だって、この間のことがあるし、その、・・・また?
と、顔を真っ赤にしてひとりパニックになっている旧ゼロフランソワーズ(スリー)。

「でも・・・だったら、いま採っているイチゴは要らないんじゃ・・・」
「あら、要るわよ。少なくともウチは、ね」

新ゼロフランソワーズは、微かに頬を染めて手元のイチゴに目を落とした。

だって・・・ジョーと一緒にチョコフォンデュをするんだもの。

その頭の中は、ジョーの膝にだっこされて、お互いにイチゴを食べさせる甘い空想でいっぱいだった。

もうすぐ開幕戦の準備に入ってしまうから・・・その前にたくさん独り占めしておきたいんだもの。

 

超銀フランソワーズは小さく溜め息をついた。

いまイチゴを採っても、もうすぐ自分はパリへ戻るから、バレンタインデーなんか・・・

 

・・・あれ?

 

超銀フランソワーズは、そこであることに気が付いた。

いまイチゴを採っても、バレンタインデーは一週間後じゃない!イチゴがそれまでもつわけないわ!

 

***

 

「ウチは大丈夫なの」

にっこりと新ゼロフランソワーズが言う。

「どうせバレンタインデー当日は、ジョーはオシゴトがあるからデートはできないもの」

だから、日を繰り上げて、とにかくずうっと一緒の日を作るつもりなの。と、目をきらきらさせて。
既に気持はその日に飛んでいるようだった。
目の前にいる超銀フランソワーズとスリーは見えていない。

が、見えていないという点では他の二人もいい勝負だった。

 

とにかく、イチゴを使って何か作ろう。超銀フランソワーズは思う。
イチゴのパイとかタルトとか。
パリに行く前に。

実は、バレンタインデー当日はパリでジョーと会うことになっていた。
ジョーがそう約束したのだ。随分早い時分に。
それは、もしかしたら「逆チョコ」を意識しての事なのかしら・・・と気が付いた。
自分のジョーは、あれで実は色々と考えてくれているようだから。

 

スリーは前回ナインと一緒にここに来た時の事ばかり思い出していた。
バレンタインデーは気になるし、逆チョコも気にはなるけれども、心の中はどうやらそれどころではないらしいのだ。

・・・ジョー。

名前を呼んだだけで鼓動が速くなる。
あの日以来、まともに顔を合わせていない。
避けているわけでも気まずいわけでもなかった。
ただ機会がなかっただけ・・・と、思うようにしていた。
本当は、会う気になればいつでもすぐ会えるのだ。
でも、なんだか恥ずかしくて顔を見られない。

バレンタインデーを口実にすればいいのかもしれない。

しかし。

ジョーからまた何か告白されたら、どうしよう!?

ううん、告白じゃなくて、また・・・

既に目の前のイチゴはどうでもよくなっていた。