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「003のイチゴ狩り」その後

 

(新ゼロ)

 

「あれ・・・イチゴ?」

キッチンにふらりと入ってくるなり、ジョーはひと粒つまんだ。

「あっ、ダメ!!」

フランソワーズが駆け寄るけれども時既に遅く、イチゴはジョーの口の中へ消えていた。

「うん。甘いね」
「もうっ・・・甘いねじゃないわよ」

軽くジョーを睨むと、フランソワーズはイチゴの入ったボウルを取り上げた。

「いいじゃないか、たくさんあるんだし」
「だめ。これは明日使うんだから」
「ふうん・・・」

手持ち無沙汰のジョーは探るようにフランソワーズを見つめる。

「なに?」
「んー?いや、いいなあと思ってさ」
「何が?」
「イチゴ狩り。僕も行きたかったなあ」

三人のフランソワーズで行くというのは前もって聞いていた。
フランソワーズが三人。それはそれは華やかだっただろう。
何しろ、どのフランソワーズもすっごく可愛いんだから!
知らずニヤニヤするジョーの耳に冷たい声が響く。

「・・・一緒に行きましょうって誘ったのに断ったのはジョーじゃない」
「――えっ?」

瞬間、頭から旧ゼロと超銀の二人のフランソワーズが消えて、自分のフランソワーズだけが残る。

「誘われてないよ?」

もし誘われていたら、フランソワーズたちと行くのを断るわけがない。

「誘いました。ジョーが行けないって言ったから、三人で行ったんだから」
「・・・ああ。そうだったな」

最初は、二人で行きましょうと言われたのだった。
が、色々と忙しく時間がとれなかったので泣く泣く断ったのだ。

「・・・ジョーと行きたかったのに」
「ごめん」

沈んだ表情のフランソワーズに手を伸ばし、腰を抱き寄せる。

「ちゃんと埋め合わせはするから」
「・・・ほんと?」
「うん。――バレンタインデーの前に、だったよね?」
「そうよ」

ふたりきりで過ごす、と約束したのだった。

「だって、クリスマスも年末年始もお誕生日も、ジョーとふたりっきりになれなかったもの」

それはそれで楽しかったけれど、甘え足りないフランソワーズだった。

「・・・そうだね」
「だから、ジョーのうちに行くんでしょう?」
「ここでは邪魔が入るからなぁ」

ちゅ、とフランソワーズの髪にキスをして抱き締める。

――バレンタイン、かぁ・・・。そういえば、ピュンマが何か言ってたっけ。確か・・・逆チョコ、とか。
フランソワーズも僕から何か欲しいのかな。

 

 

(超銀)

「あれ・・・イチゴ?どうしたんだい、こんなにたくさん」

ギルモア研究所――ではなく、ジョーの自宅。
そのキッチンには甘い香りが漂っていた。

「あら、ジョー。お帰りなさい」
「ああ、ただいま」

軽く唇を合わせる。

「どうしたんだい、これ」
「言ってなかったかしら?今日、イチゴ狩りに行ってきたのよ」
「へぇ・・・誰と?」
「三人のフランソワーズで」

ジョーはボウルからイチゴを手にとり、口に入れる。

「三人のフランソワーズ?それはまた随分豪華だな。――うん、うまい」
「あなたも行きたかった?」
「そりゃ・・・フランソワーズが集まるなら、ね」

もうひとつイチゴを取ろうとしたジョーの手をフランソワーズが優しく押さえた。

「だめ。あとは使うんだから」
「ふうん?」

そのフランソワーズの手を掴んで引き寄せながら、ジョーはキッチンを見回した。
何かを作っている最中らしいが、彼には何を作っているのか皆目わからない。
が、それにしても。
何かを作るのに困らない程度のキッチンツールがあるということに気付き、ジョーは微笑んだ。
男の一人暮らしなのに、フランソワーズが料理をするのに困らないくらいのものがある。
それは、小麦粉や片栗粉などの粉類なども含めて、ジョーひとりなら絶対に家には置いてないものであった。

「何作ってるんだい?」
「えー・・・と、イチゴのパイとかタルトとか」
「へえ。それは楽しみだ」
「でしょう?」

ジョーを見上げる瞳はきらきらしていて、見慣れているはずなのにジョーは落ち着かなくなった。

「だけど、僕はこっちも捨てがたいな」
「え?」

フランソワーズの頬に手をかけ、自分の方を向かせる。
そうっと指先で唇に触れ、

「赤くて甘そうだけど?」
「じゃあ・・・味見してみる?」
「もちろん」

 

 

 

(旧ゼロ)

 

「あれっ・・・またイチゴ?」

フランソワーズがギルモア邸に帰ってくると、なぜかリビングにはジョーがいた。
我が物顔で新聞なんか読んでいる。

「ジョー?どうしたの?今日、来るって言ってなかったわよね?」

腕に抱えたイチゴのパック。それを落とさないように、動揺を悟られないように。

「・・・言わなくちゃ来てはいけないかい?」
「あっ、ううん。そんなことないわ!ただ、びっくりしたのよ」
「ふうん」

新聞の影からフランソワーズをちらりと見つめ、ジョーはそれを畳んで立ち上がった。

「この前行ったのに、また行ったんだ?――イチゴ狩り」
「ええ。フランソワーズたちが行きたいって言ってたから」
「じゃあ、三人で行ったのかい?」
「そうよ。楽しかったわ」

ジョーが近付いてくると、思わず身体を退いてしまう。
避けているわけではないけれど、今日、彼がここにいると知らなかったから、心の準備ができていなかった。
会いたいけれど、会いたくない――でも、会いたい。だけど。
心中、複雑な思いに囚われ、フランソワーズは更に数歩後退した。

「・・・もしかしてきみ、僕を避けてる?」
「えっ、ううんっ、まさか!そんなはずないわ」
「――そうかな」
「そうよ!」

そのわりには、二人の距離は縮まらない。一定の間隔を保っている。
ジョーが一歩進むとフランソワーズが一歩下がる。
その繰り返し。

「ふうん・・・。もしかして、僕が怖い?」
「えっ!?」

フランソワーズの声が裏返る。

「そそそそんなことはっ・・・」
「ほら。怖がっている」
「ち、違うわっ!!」

頬を真っ赤に染めて一生懸命な顔で言うけれども、身体はやはり退いてしまう。

「――フランソワーズ?」

ジョーの手が伸ばされる。と、その瞬間、ジョーに向かってイチゴが飛んできた。

「知らないっ。ジョーの意地悪っ!!」

床に散らばるイチゴ。それに埋もれ、ただきょとんと目を丸くしているジョーだけが残された。

「・・・いったい、何だ?」