「彼女が私服に着替えたら」


 

 

布が足にまとわりつく感覚。
膝のあたりがくすぐったい。

私は久しぶりの女の子な格好が嬉しかった。


約二ヶ月にわたった任務。
それがやっと終わって、いま戦士から女の子に戻る。
久しぶりに穿くスカートはなんだか少し照れてしまうけれどほっとする。

もう気を張っていなくてもいい。
間違っても、忘れても――どんなミスを起こしてもいい。
だってそれは誰の命にも関わらない、全ては日常のささいなことだから。
ただそれだけのことが、物凄く嬉しくて懐かしかった。


久しぶりのスカート姿。
膝を出しているのがちょっとだけ落ち着かない。
でも大丈夫。すぐ慣れる。

ただ、心配なのは彼の目。

ジョー。

彼に私はどんな風に映るんだろう?

毎回、戦士から女の子に戻る時はドキドキする。

何か言ってくれるだろうか。

 

それとも・・・?

 


このシチュエーションで3パターン展開します。
@旧ゼロ A超銀 B新ゼロ です。


@旧ゼロ

 

「そういう格好してると女の子みたいだな!」


スカート姿のフランソワーズ。記憶にあるより、裾からのぞいた膝が白くてまぶしかったから、僕は目をそらした。


「まあ!もともと私は女の子なんですけど?」
「あれ、そうだったっけ?」
「んもう!」


笑った僕に頬を膨らませ本気で怒っているようなフランソワーズ。

なんて可愛いんだろう。

うっかりするとみとれてしまうから、僕はことさら彼女をからかう。


「防護服の時は男顔負けだもんなぁ」
「もうっ、ジョーったら!」


だってさ。
いまのきみが可愛くて目が離せないよ・・・なんてこと、言えるわけがないじゃないか。


「そんなことばっかり言うひとにはコーヒーをいれてあげません」
「ええっ、そりゃないよフランソワーズ」


僕はわざと情けない声を出す。こんな遣り取りも、「日常」に戻ってきたんだなあと実感できるから。
みんな無事で戻ってきた。
今はそれが何よりも大事なことなのだから。

そして、実は僕はコーヒーよりももっと欲しいものがある。

「きみのいれるコーヒーを飲まなくては死んでしまうの知ってるだろう?」
「ま。調子のいいこと言って。前言撤回しないと本当にいれてあげませんからね」


僕の軽口に応じるフランソワーズ。
どこからが本気でどこまでが冗談なのかわからない。いつでもなんでも一生懸命のフランソワーズ。
きらきらした瞳が綺麗だ。
紅潮した頬も可愛い。

いいよ。
後でコーヒーよりも、そう・・・もっと欲しいものをもらうから。


「もうっ、何をにやにやしているの?いやなジョー」

 



A超銀

 

「うん?久しぶりだなあ、女の子なフランソワーズを見るのは」


スカート姿のフランソワーズ。
見慣れているはずなのに、久しぶりだとかなり新鮮だった。


「いやだわ、あまり見ないで」
「なぜ?」
「だって・・・私も久しぶりだから、なんだか落ち着かなくて」

だから見ないでと頬を微かに染めて言う。
そんな恥じらう姿も物凄く好みだ。
戦士の時も凛として綺麗だけど、こうしてひとりの女性に戻ると途端にか弱く頼りなげな可愛い女の子になる。その落差こそがフランソワーズであり、そんなフランソワーズが僕は気に入っている。


「すぐに落ち着くさ」
「そう思うけど・・・」


フランソワーズは微かに首を傾げ、僕をじっと見た。


「なんだい?」
「ん・・・もしかしたらジョーは、落ち着かせる方法を知ってるんじゃないかしら」
「うん?」

そんな方法知らないよ。と言いかけて、そこで気が付いた。


――なんだ。


そういうことか、フランソワーズ。


じっと見つめる蒼い瞳に僕は手をさしのべる。


「うん。知ってる」
「そうでしょう?」


ややほっとしたように息をつくと、フランソワーズは僕の腕のなかに飛び込んできた。

 

そう。

彼女はいつも、戦士から女の子になるときは僕に甘えてくるのだ。
どうしてなのか、それは知らない。
でも、その甘えかたはいっけん素直じゃないから、きっと僕以外のやつにはわからないだろう。

甘い香りが鼻腔をくすぐる。
洗い立ての髪の匂い。

この香りがすると、ああ戦いは終わったのだと実感する。
なんのことはない、甘えているのは僕のほうだ。

綺麗で可愛くて聡明なフランソワーズ。

僕の恋人。

 

僕は腕に力を込めた。

 



B新ゼロ

 

「フランソワーズ。ちょうどよかった。イワンがミルクだって」
「あら、あなたもできるでしょう?」
「いやあ、それが」

僕は頭を掻いた。

「我慢の限界だってさ」

任務中、常にフランソワーズがそばにいたわけではなかったから、イワンは僕や他の者の手によるミルクを飲まなければならなかった。イワン曰く、それはそれはただただ忍耐の日々だったという。
だから彼にとってフランソワーズの作るミルクは待ち望んだごちそうなのだ。
僕としては、「フランソワーズに抱かれて飲む」という要素が大きいのだろうと思うのだけど。


「まあ!わかったわ」
「頼むよ」

しかし、フランソワーズは僕の前に立ち止まったまま動こうとしない。

「なに?」
「ううん。・・・なんでもないわ」
「そう」

しかし動かない。
少し目を細めて見つめているばかり。

「フランソワーズ、イワンが」
「ええ、わかってるわ」

そうだろうか。

フランソワーズは僕の目の前でくるりと回ってみせた。


「どう?」


何が?


「・・・ターンがうまいね。さすがバレリーナだ」


するとフランソワーズは微かに唇を尖らせ、何か言いたそうにしたけれど、結局、何も言わずに小さく息をついた。


「・・・そうよね。私がばかだったわ」
「何のこと?」
「ジョーに期待しちゃいけないってこと」
「え?期待?」


何を?


「なんでもないわ。・・・ジョーはやっぱりジョーよねって思っただけ」


意味がわからない。

曖昧に微笑む僕を置いてフランソワーズはリビングをあとにした。
ドアの前で肩越しに振り返り、小さく「鈍感」と言い残して。


鈍感?


確かに僕は周囲に気がまわるほうじゃないけれど。
でも、それにしても唐突ではないだろうか。

僕はしばし考えてみたが、やっぱりさっぱりわからなかった。