コーヒーの香りがふんわりと自分を包む。
「ジョー?コーヒーがはいったわよ?」 「ウン。今行くよ」 見つめていた写真から目を離し、屈んでいた身体を伸ばした。 ――あの時の花嫁姿のフランソワーズ。今見てもキレイだった。 知らず、頬が緩む。 「何見てたの?」 一行に姿を現さない彼を探し、やって来たフランソワーズの声が至近距離で聞こえ、内心ちょっと焦る。 「何でもないよ。ホラ、冷めないうちに行こう」 しかし、慌てて閉じようとしたアルバムを一瞬の差でフランソワーズに奪われてしまう。 「…アラ。――懐かしいわねぇ…」 立ち上がろうとするジョーを制し、そのまま彼の隣に腰を降ろす。 「ふふ。憶えてる?この写真を初めて見た時のこと」 何か言おうと口を開いたけれども、すぐにフランソワーズが話し出したので何も言えず。 「アナタったら、私が誰かと結婚するんじゃないかって誤解しちゃって」 蒼い瞳に睨まれ、一瞬絶句する。 「――と、ともかく。昔の話だろ。――ホラ、コーヒーが冷める」 ジョーの腕に手をかけ、腰を浮かした彼を再び座らせる。 「この次のページを見たいの」 ぱらり、とめくった先にあったのは――
ジョーは諦めて天を仰いだ。 隣のフランソワーズは彼の腕に寄り添い、そのままじっと写真を見つめている。 ふ、と彼女が顔を上げて彼を見つめた。
――あの誤解した夜に。 ――言われる側に、なった。
「――みんな泣いちゃって、大変だったのよねぇ」 幸せだったんだもの。 「アナタだって、ずーっと泣いてたくせに」 知ってるでしょ?といたずらっぽい目で見つめる彼女を抱き締める。 全くもう…! 言わぬが花ってことだってあるだろう?
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