「・・・凄いな」

ふっと身体の力が抜ける。
自分は随分と緊張していたようだ。と、改めて気付く。
彼女に泣いて責められてもおかしくないと思っていたから。
けれど、彼女はそうしなかった。それどころか。

「・・・そんな解決法、思いつかなかったよ」

ちゃんと、次に同じ状況になったらどうすればいいのか を考えていた。

「いいのよ。ジョーは何も考えなくて」
にっこり笑って。
「あなたは、あなたの判断で、常に『その時の最もベスト』な行動を選択する。009としての。
私はそれを邪魔しない。
だから、やっぱり私の事も考えなくていい。
どうすれば良いか、私は自分で考えるから大丈夫。あなたは余計な事は考えなくてもいいの」
「でも」
言い募ろうとしたジョーの唇を指で押さえて。
「いいの。私は勝手に自分のしたいようにするだけ。
ただ、・・・ひとつだけ、約束して。・・・ちゃんと、その時の事情を、先に全部話してくれる。って。そうじゃないと・・・」
睫毛が揺れる。
「・・・今回みたいに、間違えてしまうもの」

・・・間違える?

ジョーの瞳に浮かんだ疑問の色に気付いて、フランソワーズは少し口ごもる。
「だって・・・事情を知らなかったから・・・」
視線を逸らせて。
「あなたが、どこかの女のヒトと行ってしまう。・・・って、思ったのよ」
そうしたら私は一緒には行けないから。と、小さく付け加えて。
ジョーは驚いて、自分の唇を封じていた彼女の手を掴んだ。

「そんな事、絶対にないよ。そんな、僕が君以外のヒトとどこかへ行くなんて」
首を振る。
「嫌だ。絶対に、無い」
ぎゅっと掴んだ手に力をこめる。
「もし本当にそんな事があったら、それは僕じゃない。偽者だ」
「・・・ジョーったら」
何言うの?と、くすくす笑い出すフランソワーズ。

「その時は、君が僕を殺してくれ」

「・・・え?」
「もし僕がそんな事をするとしたら、それはもう既に『僕』じゃない。僕はそんなことをする自分は許せない。だから君が・・・君の手で」
フランソワーズを抱き寄せて、しっかりと自分の胸の中に包み込んでしまう。
「約束して。・・・そんな事をする僕は『僕』じゃない。だから、君の手で」
「・・・わかったわ。約束する」
それであなたが安心するなら。

でもね、ジョー。私があなたを撃つなんて・・・殺す、なんて
どんな状況になっても、絶対に無いのよ?

あなたは誰にも殺させない。

私が、守る。

あなたを死なせはしない。

そう、決めたの。
あなたが帰還した時から。

もう二度と、あなたを失くすようなことは経験したくないの。
あんな思いはしたくないの。

だからこれは、あなたを守ることだけではなくて・・・私は自分の心を守ることになるの。

だからこれは、単なるワガママ。

だから、あなたには言わない。

だから、私はあなたと嘘の約束をする。

 

本当の事を、あなたは知らない。

 

知らなくていい。