国語篇(その十一)


国語篇(その十一)

<民謡(その一)> ー東日本篇ー

(平成20-6-1書込み。23-5-1修正)(テキスト約73頁)


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[おことわり]

 この篇は、東日本(北海道・東北・関東地方・中部地方)の民謡の曲名および歌詞、囃子詞等の中に残る意味不詳の縄文語の意味を解明しようとするものです。

 ここで取り上げた民謡の出典は、次の通りです。
 (1) 町田嘉章・浅野建二編『日本民謡集』岩波文庫、1960年(全225曲収録)
 (2) 服部龍太郎編著『日本民謡全集』角川文庫、1965年(全320曲収録)

 上記二著に収められた民謡の中には、大正から昭和に入ってから流行歌として全国的に広まる中で、歌詞の方言が標準語化されたり、改変されたかと思われるものも多く、その中に残る縄文語は必ずしも多くありません。
 しかし、その中の縄文語と思われる囃子詞には、
 a 唄の趣旨・前後の歌詞との関係からみて、歌詞そのものもしくはその一部をなしているか、または歌詞の意味を強調・補完する明確な意味を持つものがあるので、これについては解釈を行ったほか、
 b 単なる掛詞、間の手や擬音語・擬声語・擬態語と思われるため、意味の解釈が困難なものは、原則として解釈の対象から除外しました。これについてもなんらかの解釈が可能となった場合には、随時解釈の追加をしたいと考えております。

 なお、解釈する歌詞等で岩波版と角川版で差異があるものについては、原則として、些少な差異に止まるものは岩波版により、大きな差異があるものは岩波版、角川版ともに解釈することとします。

 縄文語のポリネシア語による解釈は、他の諸篇と同様、原則として、その起源となったと推定される原ポリネシア語から変化したマオリ語(すでに失われた語彙でハワイ語に残るものについてはハワイ語とし、その旨を注記しました)とその意味を英語および日本語によって表記しました。主として使用したマオリ語・ハワイ語の辞典は次の通りです。

 (1)H.W.Williams M.A,Dictionary of the Maori Language,seventh edition,1997,GP Publications.
 (2)P.M.Ryan,The Reed Dictionary of Modern Maori,1995,TVNZ.
 (3)Mary Kawena Pukui and Samuel H.Elbert,Hawaiian Dictionary, revised and enlarged edition,1986,University of Hawaii Press.  

目 次

[北海道]

001追分(おいわけ)・ヤンサノエー002ソーラン節・ヤーレン・ハイハイ・チョイ・ヤサエーエンヤーアンサーノ・ドッコイショ・タモ(網)003いやさか音頭(おんど)・ヨーイヨーイ ヨイヨイヨイ・アリャリャン コリャリャン・ヨーイトナーヨイヨイ・イヤサカサッサ・アリャ

[東北地方]

[青森県]

011津軽よされ節・ヨサレ サーアンヨー・イッチャホー イッチャホー・ハアーアー・ヨサレ ソーラヨイヤー・ハ スッチャホイ スッチャホイ012津軽小原節(つがるおはらぶし)・サアーアーサー・ヨイヤーアーアー・オハラー/013じょんから節・ハーアー・ソリャ ハイサ ハイヨー・(お山)かけた・いい(山)014ホーハイ節・ホーハエ・ホーハエデャ・ナーエ・アナーウアウヤー・かがった・どだば・いだこ015あいや節・あいや016津軽山唄・ヤーイデャー・ヤイジャー・ヤー・ヤエー017ナオハイ節(坊様踊)・ナーオハイ ハーオハイ・ヤイ・ハ イヤサカ ドッコイショ・ヤーサイ・ヤーリャ・ヤーイノ ヤレコノサ ヨイナ・ヨイヨイノ ヨイテモナ・ナーニモサーサ・もじょくね・もじょい018ナニャドヤラ・ナニャドナサレーノ・十文字目の019ドダレバチ(唄)・ドダバ・ドダレバヂャ・ダレバヅァ・ホーイ ホイホイ

[岩手県]

021米搗唄・サアーハエー・ドッコイ・スットコドッコイ・ヨイトコドッコイ・ソーエ022南部馬方節・ハア アーアーア アーアーエ・アーヨート・ハイーハイド・オエ・ウーエ・イート・パラット023南部牛追唄・サアーハエー・ハラヨー・コーラサンサエー・パッパッパッパー・サーエー・ナーエ・べご(牛)・こで(牡牛)・こっとい(牡牛)024南部木挽唄・ハア・オヤサ・ハーシメテコイ シメテコイ・ハアーエ・ドッコイ・ハー ホニガー ホニガー025沢内甚句(さわうちじんく)・ハイハイト・コリャ026からめ節・ハア ドッコイドッコイドッコイナ027外山節(そとやまぶし)・コラサーノサンサ・ほだ(榾)

[宮城県]

031稲上げ唄・ザラントショウ・はせ(稲架)032さいたら節・トーヤートット トーヤートット・ウリャトット ウリャトット・サーヨーオ・ア コリャコリャ・トエー アレワエーエ エト ソーリャ・タイリョダエー033遠島甚句(としまじんく)・ハアーアーア・アレサ・アヨーイ ヨーイヨーイトナ・トコ・こけあんこ・タントタント・スッテンバッテン・こけ・トコヤッサイ ヤッサイナ034長持唄(ながもちうた)・ハアー・ナアーエ・ナーアーエー・ヨー・オイ オイ オイ035さんさ時雨(しぐれ)・ショウガイナアー・ハアメデタイメデタイ036おいとこ節・おいとこ037塩釜甚句(しおがまじんく)・ア ハットセ ハットセ・アリャ・ハ ハッ ハットセ038えんころ節・ションガイナー

[秋田県]

041湯瀬村コ・ヤアエー・デヤアー・エ・ハエー・デヤハーヨー042秋田音頭(あきたおんど)・トル音頭・ヤートーセー ヨイヤナ・ア キタカサッサ・トコ ドッコイドッコイナ・ホラ・アーソレソレ043秋田甚句(あきたじんく)・ア コリャコリャ・ハア キタカサッサー キタサカサイサイ・キタカコリャコリャ キタサカサイサイ044生保内節(おぼねだし)・キタサノサーア・コラサノサー・ドッコイショー045長者の山・ナー・サーサ・ほける046秋田おばこ・ハア オイサカサッサア047ひでこ節・ナー・コノヒーデコナー048本荘追分(ほんじょうおいわけ)・ハアー・ヨー・キタサー キタサ049タント節・ハアーアー・コラ・タントタント・アイコの上作そのわけだんよ050おこさ節・おこさ・アラ おこさのサ・コラヤコリャ

[山形県]

051最上川舟唄・ヨーイサノマガッショ・エーンヤコラマーガセ・エエンヤア エーエヤア エーエ エーエヤア エード・ヨイト コラサーノセ・まっかん(大根)・(食わん)にゃエちゃ・タランコタン052紅花摘唄(べにばなつみうた)・ナー・ヨー・ハ シャンシャン・サアサ053あがらしゃれ・ホイサット・ソリャ054新庄節(しんじょうぶし)・ハアーアーアー・ハ キタサ055山形おばこ・ア コリャコリャ・ハア コバエテ コバエテ056酒田船方節・アラ ヤッショーマカショ057花笠踊(はながさおどり)・チョイチョイ・ハア ヤッショーマカショ シャンシャンシャン058大黒舞唄(だいこくまいうた)・サアーサアーサアー・ナー・コラ・ソレソレ059真室川音頭(まむろがわおんど)・コーリャ・マタ・ハア コリャコリャ・ハア ドントコイドントコイ

[福島県]

061田植唄・スイースイト・ヤレー・サーエー062相馬麦搗唄(そうまむぎつきうた)・はあーこら063相馬流れ山(そうまながれやま)・ナアーアーエ ナーアーエー・スイド・ナアーエー・スイースイド・アーノサ064相馬二遍返し(そうまにへんがえし)・ハアー・ア コラヤノヤット・ハアー イッサイコレワイパラットセ・パラットセ065相馬盆踊唄(そうまぼんおどりうた)・ハアーアーイヨー・ア コーリャコリャット・ヨー・ハアー アーア・ヤレサナー・ハア ヨーイヨーイ ヨーイトナ066新相馬節(しんそうまぶし)・ハアーアーアーアー・ヨー・ナンダコラヨーット・ハア チョーイチョーイ067かんちょろりん節・オーイオイ・サ・カンチョロリン・ノーノサイ・トコイッサイノーサ・トッテンチロリン・チンチロリンノ シャンシャンシャン068会津磐梯山(あいづばんだいさん)・カンショ踊り・エイヤー・コラ・ヨイト・エーマター・スッチョイ

[関東地方]

[茨城県]

071田植唄(たうえうた)・ハエー・エ・ハアヤレコラー・ハ チョイ・ハエトー・アー・チョイチョイト・ハ ヤレヤレー・ハ072常磐炭坑節(じょうばんたんこうぶし)・ハアー・ヨー・ナイ・ハ ヤロ ヤッタナイ・ドント073磯節(いそぶし)・ハア テヤテヤテヤテヤ・リンリン・ドンドン・ハアーサイショネ・イソー・ちゃんころ074潮来音頭(いたこおんど)・アリャサー・ションガーイー075潮来甚句(いたこじんく)・アラヨイヨイヨー・ヤンレ・ヨイヨイ ヨイヤサー・ざんざら

[栃木県]

081草刈唄・ヨー082日光和楽踊(にっこうわらくおどり)・ハアーアーエー・ハ ヨイヨイト・アレサヨー・ヨイヨイヨヤサ

[群馬県]

091坐繰製糸唄(ざぐりせいしうた)・カネ092八木節(やぎぶし)・アーアアーアー・オーイサネー・さんかくやろ093草津節(くさつぶし)・ア ドッコイショ・コリャ・チョイナ チョイナー094草津湯もみ唄・ヨーオホ ホーオイ・ヨー・ハ ヨイヨイ・トカヨー

[埼玉県]

101川越舟唄(かわごえふなうた)・ハアー・ア エー・アイヨノヨー・もや102秩父音頭(ちちぶおんど)・ハアーアーエ・コラショ・ナアーアーエ・アレサ・ヨーイヨーイヨーイヤサ103とのさ節・サーエー・ストンコドッコイ・ヤーレー

[千葉県]

111小念仏(こねんぶつ)・ハ ヤレソーリャ112木更津甚句(きさらづじんく)・ヤッサイ モッサイ ヤレコリャドッコイ コリャコーリャ・ア シタソリャ シタソリャ シタソリャサ113銚子大漁節(ちょうしたいりょうぶし)・ハア コリャコリャ・まね・八手(はちだ)・沖合(おけす)

[東京都]

121武蔵野麦打唄(むさしのむぎうちうた)・ホイ ホイ ホイ122佃島盆踊唄(つくだじまぼんおどりうた)・ソラ ヤートセー ヨー123大島節(おおしまぶし)・ハアーアー・ヨー・ナー・ア ハイハイトー124あんこ節・ソラ エンヤラヤノヤー ハ エンヤラヤノ・エー・ハ エンヤラヤノヤー125しょめ節・ショメ ショメ・イヤー

[神奈川県]

131箱根駕籠舁唄(はこねかごかきうた)・ナー・ヤレヤレー・ナァーエ・ヘッチョイ ヘッチョイ132三崎甚句(みさきじんく)・アイヨーエー・アー ソウダヨーエ・エー ソウダヨエー・エー・トコ ラット

[中部地方]

[新潟県]

141佐渡稲扱唄(さどいねこきうた)・かた142相川音頭(あいかわおんど)・ドッと笑う・ハイ ハイ ハイ143新潟甚句(にいがたじんく)・ハ アリャ アリャ アリャ アリャ・ハアーアーアー・エヨー・ハ アリャ アリャ アリャサ・でんでらでん・五月雨(さずい)144岩室甚句(いわむろじんく)・ハー ヨシタヤ ヨシタヤ・なじょ(馴染の女)・蝸牛(だいろ)145米山甚句(よねやまじんく)・サッサ ソウジャ ソウジャ・ササ・スッテンコロリノヨヤサ146両津甚句(りょうつじんく)・ハア リャント リャント リャント・ハアーアーエ・アエー・コリャ サッサ・ヨンヤア・あい(東南風)147佐渡おけさ・ハア・ハ アリャアリャ アリャサ148加茂松坂(かもまつざか)・ホイ アリャ リャリャリャ・ヤ・ホイ・エエー・ハイ・イヤアーヘーヤエー・ハア アリャ リャリャリャ149三階節(さんがいぶし)・ハアー・ハアー ヤラシャレ ヤラシャレ・しげさ(出家様)・こえ(声)・よて(依怙贔屓)・ねまり地蔵

[富山県]

151やがえ節(蹈鞴(たたら)唄)・ヤガエフー・インヤカ サッサイ152越中おわら節・キタサノサーアー・ドッコイサノサッサ・あいや153麦や節・アイナー・エイナー・ヤーアイナー・イナー154コキリコ節・コキリコ・かなかい・マドのサンサ・デデレコデン・ハレのサンサ・いくせ・ササラ・やしゃ男155トイチンサ節・ナー・トイチン トイチン トイチンサ・ヤーサレチ トチレチ・トイチンサ トイチンサ・ササ・トイチンレーチ ヤサレーチ

[石川県]

161かんこ踊・ア モウタリ モウタリ モウタリナ・いね・のの・んなぼ・おんじ・しょじゃこ162山中節(やまなかぶし)・チョイ・シシ(湯女)163チョンガリ節・チョンガリ・ハアー・エイコラナ・ナ164ヤッチョエ節・ア ヤッチョエ ヤッチョエナ・イヨ

[福井県]

171三国節(みくにぶし)・サッサア・ホイ・やしゃ・やのしゃ・こちゃ・めめじゃこ・そうけ

[山梨県]

181甲州綿打唄(こうしゅうわたうちうた)・ゾクヨーヤコラナ・ゾクヨー・ほかし・つくなる・ペンョ182粘土節(ねんどぶし)・ハアー・アー ゴッショーン ゴッション183縁故節(えんこぶし。エグエグ節)・エグエグ・エグいネー・アリャセー コリャセー・ションガイネー・ボコ184馬八節(まはちぶし)・コラ・オーヤレヨー・ヨ・からまる

[長野県]

191小諸馬子唄(こもろまごうた)・ヨー・ハイ ハイ192信濃追分(しなのおいわけ)・ア キタホイ・エ・ヨー・キタホイ ホイホイ・ア・オーサ ドンドン193木曾節(きそぶし)・ナー・ナンチャラホイ・ヨイヨイヨイ・あわしょ(袷)・ヨ194伊那節(いなぶし)・ハアー・ア ソリャコイ アバヨ195安曇節(あずみぶし)・チョコサイ コラサイ・奥(いり)

[岐阜県]

201お婆(岐阜音頭)・ナーナーナー・ナー・ソーラバエー ヒュルヒュルヒュ・ササ202ホッチョセ節・ア ホッチョセー・おもるちゃ203郡上踊(ぐじょうおどり)・ア ソンレンセ・ノー・毛附市(けつけいち)

[静岡県]

211農兵節(のうへいぶし)・ノーエ・サイサイ212下田節(しもだぶし)・ア ヨイトサ ヨイトサ エー・エー・ア ヨイヨーエー・ヤーレ・アーエ・オオサ ヨツタ ヨッタ・ならい(東北風)・だし(陸から海へ吹く風)

[愛知県]

221機織唄(はたおりうた)・ハアー・チャンコロコロ・ヨー222岡崎五万石(おかざきごまんごく)・ア ヨイコノサンセー・ションガイナ・ア ヤレコノ・ア ヨーイヨーイ ヨイコノサンセー・マダマダハヤソウ223名古屋甚句(なごやじんく)・ストトコ節・ハアー・ネー・トコ ドッコイ ドッコイショ・ヨーオホホ・アー・エー・ハア ドッコイ ドッコイト・すかたらん・おきやアせ・だちゃかん

<民謡(その一)> ー東日本篇ー

[北海道地方]

001追分(おいわけ)・ヤンサノエー

 北海道には、北海道追分、松前追分、江差追分などがあります。

 これら「追分節」は、信州浅間山麓の追分宿に歌われた馬子唄「信濃追分」が越後に伝わり、さらに北海道に伝わったものといい、天保年間の発祥とする説もありますが、未詳です。

 前唄の歌詞には
 ♪国を離れて 蝦夷地が島へ ヤンサノエー
  幾夜寝覚めの 波枕 …
とあります。

 この「おいわけ」、「ヤンサノエー」は、

  「オイ・ワカイ(ン)ガ」、OI-WAKAINGA(oi=shout;wakainga=distant home)、「家を遠く離れた(場所で)・唄う(唄)」(「ワカイ(ン)ガ」のAI音かE音に変化し、名詞形語尾のNGA音が脱落して「ワケ」となった)

  「イアナ・タ(ン)ゴ・エヘ」、IANA-TANGO-EHE(iana=intensive,then;tango=take,acquire,attempt;ehe=expressing surprise)、「さあ・(新天地で)やってやろう・じゃないか」(「イアナ」が「ヤン」と、「タ(ン)ゴ」のNG音がN音に変化して「タノ」から「サノ」と、「エヘ」のH音が脱落して「エエ」となった)

の転訛と解します。

002ソーラン節・ヤーレン・ハイハイ・チョイ・ヤサエーエンヤーアンサーノ・ドッコイショ・タモ(網)

 ソーラン節は、別名「沖揚音頭」といい、北海道の西北部沿海の鰊漁に際して、建網に入ってきた鰊を網起こしをして枠網に集め、更に枠網からタモ(網)で汲み上げる時に歌われる作業唄です。

 唄の前と後の囃子詞として
 ♪ヤーレン ソーラン ソーラン ソーラン ソーラン ソーラン(ハイハイト)
  沖の鴎に潮時問えば わたしゃ立つ鳥 波に聞けチョイ
  ヤサエーエンヤーアンサーノ ドッコイショ ア ドッコイショ ドッコイショ
とあります。

 この「ソーラン」、「ヤーレン」、「ハイハイ」、「チョイ」、「ヤサエーエンヤーアンサーノ」、「ドッコイショ」、「タモ」は、

  「タウラ(ン)ガ」、TAURANGA(resting place,anchorage for canoes,fishing ground,wanderer)、「(鰊網を曳く・鰊を掬い上げる)漁場」(AU音がOU音に、NG音がN音に変化して「トウラナ」から「ソウラン」となった)

  「イア・レ(ン)ガ」、IA-RENGA(ia=indeed,current;renga=overflow,be full)、「実に・(鰊で)溢れかえっている(ソーラン=漁場)」(「レ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「レナ」から「レン」となった)

  「ハイ・ハイ」、HAI-HAI(hai=a poetical expletive used at the end of a line)、「はいはい(特に意味はありきせん)」

  「チオイ」、TIOI(shake,swayfrom side to side)、「(聞く相手を私から鴎に)換えてよ」

  「イア・タエ・エ(ン)ガ・イ・ア(ン)ガ・タ(ン)ゴ」、IA-TAE-ENGA-I-ANGA-TANGO(ia=indeed;tae=arrive,extend to,touch of feelings;enga=anxiety;i=past tense,beside;anga=face or move in a certain direction,turn to doing anything,aspect;tango=take,acquire,attempt)、「実に・心配に・なって・きた・(鰊を)まとめて・移す(のが)」(「エ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「エナ」から「エン」と、「ア(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「アナ」から「アン」と、「タ(ン)ゴ」のNG音がN音に変化して「タノ」から「サノ」となった)

  「ト・コヒチ・オウ」、TO-KOHITI-OU(to=drag;kohiti=pick out,pull out,rise;(Hawaii)ou=float as on a net)、「(鰊を)網に入れて・引き・揚げる」(「コヒチ」のH音が脱落して「コイチ」から「コイシ」と、「オウ」のOU音がO音に変化して「オ」となった)

  「タ・マウ」、TA-MAU(ta=net;mau=carry,bring)、「(魚を)運ぶ・網」(「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」となった)

の転訛と解します。(以上の「ソーラン」、「ヤーレン」は、雑楽篇(その二)の、729にしんの項を再掲しました。)

003いやさか音頭(おんど)・ヨーイヨーイ ヨイヨイヨイ・アリャリャン コリャリャン・ヨーイトナーヨイヨイ・イヤサカサッサ・アリャ

 いやさか音頭は、別名を「子落とし音頭」、「数の子たたき」ともいい、曲名は「イヤサカサッサ」の囃子詞によります。元来、秋田地方の地搗唄で、酒屋の櫂入(かいいれ)唄などにも流用されていたものが、北海道に移ってから鰊漁や盆踊唄に変化したとされます。鰊漁では、鰊を漁獲した後、網の目一杯に付着した数の子を棒切れで叩き落とす時に歌われます。

 歌詞には
 ♪ヨーイヨーイ ヨイヨイヨイ アリャリャン コリャリャン ヨーイトナーヨイヨイ
  お前行くなら わしゃ何処までも ハァ イヤサカサッサ
  蝦夷が千島の ノー 果までも
  アリャ果までも 千島の ノー 果までも
とあります。

 この「ヨーイヨーイ ヨイヨイヨイ」、「アリャリャン コリャリャン」、「ヨーイトナーヨイヨイ」、「イヤサカサッサ」、「アリャ」、「おんど」は、

  「イ・オイ・イ・オイ・イ・オイ・イ・オイ・イ・オイ」、I-OI-I-OI-I-OI-I-OI-I-OI(i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate)、「(動いた)叩い・た・叩い・た・叩い・た・叩い・た・叩い・たよ」

  「ア・リア・リア(ン)ガ・コ・リア・リア(ン)ガ」、A-RIA-RIANGA-KO-RIA-RIANGA(a=the...of,and,then,of,at;ria=screening,protecting;rianga=screen;ko=yonder place)、「ここで・網で・濾し分ける・向こうで・網で・濾し分ける」(「リア(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「リアナ」から「リャン」となった)

  「イ・オイ・タウ(ン)ガ・イ・オイ・イ・オイ」、I-OI-TAUNGA-I-OI-I-OI(i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;taunga=resting place,fishing ground)、「(動いた)叩い・た・漁場で・叩い・た・叩い・たよ」(「タウ(ン)ガ」のAU音がO音に、NG音がN音に変化して「トナ」となった)

  「イア・タカ・タタ」、IA-TAKA-TATA(ia=indeed;taka=fall off,fall away;tata=dash down,beat down,strike repeatedly)、「本当に・叩いて叩いて・(網に付いた数の子を)払い落とそう」

  「アリア」、ARIA(deep water between two shoals)、「(千島へ渡る)海峡(を越えて果までも)」

  「オ(ン)ガ・タウ」、ONGA-TAU(onga=agitate,shake about:tau=come over,supervene of feeling)、「(人の心を)動かし・奮い立たせる(唄)」(「オ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「オナ」から「オン」と、「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」から「ド」となった)

の転訛と解します。

[東北地方]

[青森県]

011津軽よされ節・ヨサレ サーアンヨー・イッチャホー イッチャホー・ハアーアー・ヨサレ ソーラヨイヤー・ハ スッチャホイ スッチャホイ

 津軽よされ節は、012津軽小原節、013津軽じょんから節とともに「津軽物」の代表とされています。この唄は、津軽盆唄として知られる024ドダレバチが原歌とも、またはじょんから節の原歌と目される庄内節が原歌ともいわれますが、やはり越後方面から流入した歌が津軽化したとする説が有力です。

 「よされ」は、「ヨシャレ」に同じく、「およしなさい」の意とする説があります。

 古調の歌詞には
 ♪よされ 駒下駄の緒コァ切れた ヨサレ サーアンヨー(イッチャホー イッチャホー)
  たてて間もなく また切れた ヨサレ サーアンヨー(イッチャホー イッチャホー)

 明治時代後期以後のクドキ調の歌詞には
 ♪ハアーアー 二十日鼠が 一升二升三升四升五升樽さげて 富士のお山へかけ登り 一杯呑んだ機嫌で昼寝して 山猫来たどこ夢に見た 命かながな逃げてゆく ヨサレ ソーラヨイヤー(ハ スッチャホイ スッチャホイ)
とあります。

 この「ヨサレ サーアンヨー」、「イッチャホー イッチャホー」、「ハアーアー」、「ヨサレ ソーラヨイヤー」、「ハ スッチャホイ スッチャホイ」は、

  「イ・アウタ・レ・タンギ・アウ」、I-AUTA-RE-TANGI-AU(i=past tense;auta=toss,writhe,encroach upon,attack;re=see!;tangi=cry,weep;au=firm,intense,bark)、「見て!・立ちすくんで・いる・さめざめと・泣いている」(「アウタ」のAU音がO音に変化して「オタ」から「オサ」と、「タンギ」のNG音がN音に変化して「タニ」となり、次の「アウ」のAU音がO音に変化した「オ」と連結して「タンヨ」から「サンヨ」となった)

  「イチ・アホ・イチ・アホ」、ITI-AHO-ITI-AHO(iti=small;aho=string,line)、「小さい・鼻緒が・小さい・鼻緒が(切れた)」

  「ハ」、HA(what!)、「なんと」

  「イ・アウタ・レ・トラ・イ・オイ・イア」、I-OTA-RE-TORA-I-OI-IA(i=past tense;auta=toss,writhe,encroach upon,attack;re=see!;tora=burn,be erect(used of showing warlike feelings);i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;ia=indeed)、「見て!・(山猫が二十日鼠を)襲っ・た・(鼠が)びっくりして・実に・走って逃げた」(「アウタ」のAU音がO音に変化して「オタ」から「オサ」となった)

  「ハ・ツ・チア・ホイ・ツ・チア・ホイ」、HA-TU-TIA-HOI-TU-TIA-HOI(ha=what!;tu=fight with,energetic;tia=stick in,take a vigorous stroke in pa ddling;hoi=noisy)、「なんと・懸命に・うるさい音を立てて・走った・懸命に・うるさい音を立てて・走った」

の転訛と解します。

012津軽小原節(つがるおはらぶし)・サアーアーサー・ヨイヤーアーアー・オハラー

 津軽小原節は、もと七七七五の短詩形であった八戸辺の「塩釜甚句(しおがまじんく)」が伝来して口説風の長詩形に変化したものといわれ、明治初年ごろまで浅虫・野内・笊石あたりの海浜で塩を作っていた男たちが、海水を塩釜に汲み入れたりするときの唄で、日露戦争頃までは歌の終わりに「オハラナ オハラナ」という囃子詞を付けたといいます。

 歌詞には
 ♪サアーアーサー 出したが ヨイヤーアーアー
 アー津軽名物あの七不思議 ……
 (最後)一度来て見よオハラー 四方の君
とあります。

 この「サアーアーサー」、「ヨイヤーアーアー」、「オハラー」、「じんく」は、

  「タ・アタ」、TA-ATA(ta=dash,beat,lay;ata=gently,slowly,clealy,deliverately,quite)、「(名物・名勝・言いたいことが)立派に・ある」

  「イ・オイ・イア」、I-OI-IA(i=past tense;oi=heoi=denoting completeness or sufficiency of a statement or enumeration;ia=indeed)、「きちんと・数えたて・よう」

  「オ・ハラ」、O-HARA(o=th...of;hara=excess above a round number(harahara=abundance))、「実に・たくさん(名物・名勝・言いたいことなどがある)」

  「チ・ヌク」、TI-NUKU(ti=throw,cast;nuku=wide extent,move,extent)、「(歌詞を)延々と・続ける(唄)」

の転訛と解します。

013じょんから節・ハーアー・ソリャ ハイサ ハイヨー・(お山)かけた・いい(山)

 津軽じょんから節は、青森県黒石市周辺がその発祥地とされています。じょんから節は、大浦城主津軽為信によって滅ぼされた浅瀬石城主千徳政氏の菩提所を守って浅瀬石川に入水した神宗寺の常縁(じょうえん)和尚の霊を供養した「常縁河原(じょうえんがわら)節」が「上河原(じょうがわら)節」となったことにはじまるという説が地元で伝えられています。

 この唄は、元来越後の新保広大寺(しんぽこだいじ)くずし(この「新保広大寺」については、313どっさり節の項を参照してください。)、すなわちヤンレ節(別名とのさ節)が津軽化したもので、八木節(群馬)や最上口説(山形)、飴売節(秋田)などと同系で、はじめ七七三連の詞形から長篇の口説に変化したとされます。地元では、明治20年頃までの節を旧節、昭和初年までを中節(長篇のクドキが主体)、それ以降を新節(短篇が主体)と称しますが、旧節は伝わっておらず、岩波版、角川版ともに新節を採録します。角川版は「ソリャ ハイサ ハイヨー」の囃子詞を採録していません。

 歌詞には、
 ♪ハーアー お国自慢の じょんから節よ 若衆うたえば 主人(あるじ)の囃し 娘踊れば 稲穂もおどる(ソリャ ハイサ ハイヨー)
 ♪ハーアー お山かけたよ いい山かけた 岩木山からよくよく見たら 馴染み窓コで お化粧の最中
などとあります。

 この「じょんから」(曲中では「じょんがら」と歌われます)、「ハーアー」、「ソリャ ハイサ ハイヨー」、「(お山)かけた」、「いい(山)」は、

  「チオ・(ン)ガラ」、TIO-NGARA(tio=cry,call;ngara=snarl)、「唸り・叫ぶ(ように歌う。民謡)」(「チオ・(ン)ガラ」が「ジョンガラ」となった)(この項は地名篇(その二)の青森県の(2−3)黒石市の「じょんから節」の項を再掲しました。)

  「ハ」、HA(what!)、「なんとまあ」

  「タウリア・ハ・イト・ハ・イ・アウ」、TAURIA-HA-ITA-HA-I-AU(tauria=bundle,tie with a cord,count,attack,quarrel;ha=what!;ita=tight,fast;i=past tense;au=firm,intense)、「(歌詞を)まとめて・なんと・短く・なんと・簡潔に・したよ」(「タウリア」のAU音がO音に変化して「トリア」から「ソリャ」となった)

  「カケ・タ」、KAKE-TA(kake=ascend,climb upon or over;ta=dash,beat,lay)、「努力して・(山に)登った(渡り歩いた)」(この「カケ」(山(高所)に登る、(峰から峰へ)渡り歩く)という語は、縄文語が津軽の方言として残存したものですが、現在でも修験用語の「山駈け」「(吉野から熊野、またその逆の)奥駈け」(「オ・ク・カケ」、O-KU-KAKE(o=the place of;ku=silent;kake=ascend,climb upon or over)、「例の・静かな(山。深山幽谷を)・渡り歩く(奥駆け)」(「カケ」が「ガケ」となった))として残っています。また、「(高いところへ物を)掛ける」(「カケ・ル」、KAKE-RU(kake=ascend,climb upon or over;ru=shake,agitate,scatter)、「奮つて・(高いところへ物を)掛ける(または(高いところから高いところへ物を)懸ける)」)、「(高いところから高いところへ物を)懸ける」(同前)などの言葉となつたと考えられます。)

  「イヒ」、IHI(power,authority,spell)、「(霊力がある)聖なる(山。岩木山)」(「イヒ」のH音が脱落して「イイ」となった)

の転訛と解します。

014ホーハイ節・ホーハエ・ホーハエデャ・ナーエ・アナーウアウヤー・かがった・どだば・いだこ

 ホーハイ節は、西津軽地方の田の草取り唄や盆踊り唄で、囃子詞「ホーハエ」に裏声を使う特異な唄で、この種の唱法は、秋田県鹿角地方の田掻き唄や土搗唄および羽黒のさもんじゃ、沖縄・壱岐・五島等の唄にもあるといいます。

 「ホーハエ」は「奉拝」、「穂生」からとする説がありますが、未詳です。

 歌詞には
 ♪婆の腰ァ ホーハエ ホーハエ ホーハーエ まホがったナーエ 稲の穂がみのる」
 稲の花 ホーハエ ホーハエデャ ホーハエデャ アナーウアウヤー 稲の花かがった ホーハエ …
 ♪館島十腰内の めらしコどだば…
 ♪いだこ御亭ァ坊様 坊様嬶アいだこ
とあります。「まホがった」は「曲がった」の意、「かがつた」は方言で「咲く」の意とされます。

 この「ホーハエ」、「(ホーハエ)デャ」、「ナーエ」、「アナーウアウヤー」、「かがった」、「どだば」、「いだこ」は、

  「ホウ・ハエ」、HOU-HAE(hou=enter,force downwards or under;hae=slit,ill feeling,cause pain)、「痛む(腰を)・曲げて」

  「タイア」、TAIA(by and by)、「そろそろと」(「タイア」のAI音がE音に変化して「テア」から「デャ」となった)

  「ナエ」、NAE(naenae=failing of breath)、「息が切れるよ」

  「ア・ナウ・アウ・イア」、A-NAU-AU-IA(a=the...of,and,yes,well;nau=come go;au=firm,intense;ia=indeed)、「ほんとに・(稲の花がやってきた)咲いた・じつに・びっしりと」

  「カ(ン)ガ・タ」、KANGA-TA(kanga=ka=take fire,be lighted,burn;ta=dash,beat,lay)、「光を・出した(花が咲いた)」(「カ(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「カガ」となった)

  「ト・タパ」、TO-TAPA(to=drag;tapa=call,name,command,recite)、「人を・呼ぶ(尋ねる) 」

  「イタ・カウ」、ITA-KAU(ita=tight,fast;kau=ancestor)、「(誰かの)先祖に・密着する(先祖の霊が乗り移って言葉を伝える巫女)」(「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」となった)

の転訛と解します。

015あいや節・あいや

 津軽あいや節は、九州地方のハイヤ節が日本海沿岸を伝わってきたとする説もありますが、曲の構成が全く違い、佐渡おけさとのつながりを強調する説があります。

 歌詞には
 ♪あいやナー あいや 花はよけれど あの木の高さ どうかこの手の それもよいや 届くよに
とあります。

 この「あいや」は、

  「アイア」、AIA(=kaitoa=expressing satisfaction or complacency at any event,especially at misfprtune happening to others:it is good,it serves one right etc.)、「(まずまず)良い良い」

の転訛と解します。

016津軽山唄・ヤーイデャー・ヤイジャー・ヤー・ヤエー

 津軽山唄は、元来深山で伐った木を山中の急流激湍に流しながら歌われる樵夫(きこり)唄でしたが、明治初年ごろからもっぱらお祝いの座敷唄となりました。

 歌詞には
 ♪ヤーイデャー(岩波版。角川版は「ヤイジャー」) 十五ヤー 七はヤエ 十五になるから 山 山登りヤエー …
とあります。 

 この「ヤーイデャー」、「ヤイジャー」、「ヤー」、「ヤエー」は、

  「イア・イ・タイ・イア」、IA-I-TAI-IA(ia=current,rushing stream,indeed;i=past tense;tai=tide,dash,strike)、「(谷川の)水が・激しく流れ・た・ぞ」(「タイ」のAI音がE音に変化して「テ」から「デ」となった)

  「イア・イ・チア」、IA-I-TIA(ia=indeed;i=past tense;tia=stick in,drive in pegs,etc.)、「ほんに・杖をついて登っ・たぞ」

  「イア」、IA(indeed)、「実に」

  「イア・アエ」、IA-AE(ia=indeed;ae=yes,assent,agree)、「ほんとに・そうだ」

の転訛と解します。

017ナオハイ節(坊様踊)・ナーオハイ ハーオハイ・ヤイ・ハ イヤサカ ドッコイショ・ヤーサイ・ヤーリャ・ヤーイノ ヤレコノサ ヨイナ・ヨイヨイノ ヨイテモナ・ナーニモサーサ・もじょくね・もじょい

 ナオハイ節は、十三湖の北岸にある北津軽郡旧相内(あいち)村に古くから歌われた盆踊唄で、相内音頭またはナニモサア節とよばれました。男女掛合で、詞型は七七七五が原則ですが、反復は複雑です。

 歌詞には
 女♪ナーオハイ ハーオハイ 和尚さまヤイ
 男♪ハ イヤサカ ドッコイショ
 女♪日陰の李ヤイ
 男♪日陰の李ア ヤーサイ
 女♪赤くナーオハイ ハーオハイ ならねにゃ
 男♪ハ イヤサカ ドッコイショ
女♪ヤーリャ落ちたがるヤイ
 男♪ハ ヨイ 落ちたがるア ヤーサイ
女♪ヤーリャ落ちたがるヤーイノ ヤレコノサ ヨイナ
 男♪ヨイヨイノ ヨイテモナ
女♪ナーニモサーサ坊様ヤイ
 男♪ナーニモサーサ坊様ヤーサイ

  ♪十三の街道端さ 十七八死んでら 十七八もじょくねでア 産た親もじょいでア

  ♪どだば家コのてでエア 雨降る中に 笠もかぶらねで けらコも着ねで
とあります。

 この「ナーオハイ ハーオハイ」、「ヤイ」、「ハ イヤサカ ドッコイショ」、「ヤーサイ」、「ヤーリャ」、「ヤーイノ ヤレコノサ ヨイナ」、「ヨイヨイノ ヨイテモナ」、「ナーニモサーサ」、「もじょくねで」、「もじょいで」、「どだば」、「てで」、「けら」は、

  「ナオ・ハイ・ハオ・ハイ」、NAO-HAI-HAO-HAI(nao=handle,feel with the hand;hai=not;hao=catch in a net,enclose,grasp greedily)、「(坊様がよその女に)手を出しては・だめよ・捕まえては・だめよ 」

  「イア・アイ」、IA-AI(ia=indeed;ai=lie with a female,expressing surprise)、「ほんとに・なんとしたこと!(坊様が女と寝てしまったとは)」

  「ハ・イア・タカ・トコヒ・チオ」、HA-IA-TAKA-TOKOHI-TIO(ha=what!;ia=indeed;taka=fall off,fall away,fail of fulfilment as a promise etc.;tokohi=toukohi=adulterly,adulterous;tio=cry,call)、「なんと・ほんとうに・(坊様としての)戒律を破って・姦通して・泣いた」(「トコヒ」のH音が脱落して「トコイ」から「ドッコイ」となった)

  「イア・タイ」、IA-TAI(ia=indeed;tai=the sea,tide,anger,violence)、「実に・猛々しい(様子)」

  「イア・リア」、IA-RIA(ia=indeed;ria=screening,protecting)、「実に・嫌がる(様子)」

  「イア・アイ・ノ・イア・レコ・(ン)ゴタ・イ・オイ・ナ」、IA-AI-NO-IA-REKO-NGOTA-I-OI-NA(ia=indeed;ai=lie with a female,expressing surprise;no=of;reko=white of hair;ngota=fragment,particle;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;na=to indicate position near or connection with the person addressed)、「ほんとに・なんとしたこと!(坊様が女と寝てしまった)・ので・白髪の・端が・揺れて・いる・な」(「(ン)ゴタ」のNG音がN音に変化して「ノタ」から「ノサ」となった)

  「イ・オイ・イ・オイ・ノ・イ・オイ・タイマウ・ナ」、I-OI-I-OI-NO-I-OI-TAIMAU-NA(i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;no=of;taimau=constant,enduring;na=to indicate position near or connection with the person addressed)、「揺れ・て・揺れ・て・さらに・いつまでも・揺れ・ている・な」(「タイマウ」のAI音がE音に、AU音がO音に変化して「テモ」となった)

  「ナ・ニヒ・マウ・タタ」、NA-NIHI-MAU-TATA(na=to indicate position near or connection with the person addressed;nihi,ninihi=steep,move stealthly,surprise;mau=carry,bring,fixed,continuing,caught,entangled;tata=near of place or time,suddenly,dash down,strike repeatedly)、「ぴったりと・密着して・静かに・動いて・いるな」(「ニヒ」のH音が脱落して「ニ」と、「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」となった)

  「モチ・アウ・クネ・タエ」、MOTI-AU-KUNE-TAE(moti=consumed,scarce,surfeited;au=firm,intense;kune=plump,swell as pregnancy advances,spring;tae=arrive,reach,touch of feelings)、「(可哀想で)すっかり・憔悴した・気持ちで・いっぱいになって」(「アウ」のAU音がO音に変化して「オ」と、「タエ」のAE音がE音に変化して「テ」から「デ」となった)

  「モチ・オイ・タエ」、MOTI-OI-TAE(moti=consumed,scarce,surfeited;oi=shudder,move continuously,agitatetae=arrive,reach,touch of feelings)、「(可哀想で)憔悴して・いたたまれない・気持ちで」(「タエ」のAE音がE音に変化して「テ」から「デ」となった)

  「ト・タパ」、TO-TAPA(to=drag;tapa=call,name,command,recite)、「人を・呼ぶ(尋ねる。どうした) 」

  「テイテイ」、TEITEI(high,tall,summit,top)、「(家の中で)最高の地位にある(者。家長。父親)」(EI音がE音に変化して「テテ」から「テデ」となった)

  「ケ・ララ」、KE-RARA(ke=strange,different;rara=twig,small branch)、「変わった・(灌木の)小枝(で作った簑の一種)」(「ララ」の反復語尾が脱落して「ラ」となった)

の転訛と解します。

018ナニャドヤラ・ナニャドナサレーノ・十文字目の

 ナニャドヤラは、別名「南部の猫唄」とも呼ばれ、旧南部領一円(現在の青森県上北・三戸、岩手県二戸・九戸・岩手の諸郡)にに遺存する古風な盆踊り唄で、元歌は呪文に似て意味不明で、土語、梵語、ヘブライ語などの諸説がありますが、定説はありません。

 元歌は「ナニャードヤーラー ナニャドナサレーノー ナニャードヤーラー」を延々と反復するものです。

 歌詞には
 音頭♪ナニャードヤーラー ナニャドナサレーノー ナニャードヤーラー
 追唄♪ナニャードヤーラー ナニャドナサレーノー ナニャードヤーラー
 音頭♪揃た揃たと 踊子ア揃た …

   ♪地蔵泣くベァ 寺の十文字目の地蔵泣くベァ
    場所じゃない ここは踊りの 場所じゃない
と盆踊唄ににつかわしくない歌詞が続きます。

 この歌詞は、八戸城主南部弥郎九郎(日蓮信者)が宗敵である名久井谷領の長谷寺(真言宗)を襲ってこれを破棄した事件があり、村民の南部公怨嗟の声といわれます。

 この「ナニャドヤラ」、「ナニャドナサレーノ」、「じゅうもじめの」は、

  「ナ・ニア・トイハラ」、NA-NIA-TOIHARA(na=by,belonging to;(Hawaii)nia=malicious gossip or accusation,slanderous;toihara,whakatoihara=disparage)、「なんと・とんでもない・(八戸の城主さまが宗敵のお寺を破壊したという)お仕置きじゃ」(「トイハラ」のH音が脱落して「トイアラ」から「ドヤラ」となつた)

  「ナ・ニア・ト(ン)ガ・タ・レ(ン)ガ」、NA-NIA-TONGA-TA-RENGA(na=by,belonging to;(Hawaii)nia=malicious gossip or accusation,slanderous;tonga=restrained,suppressed,secret;ta=dash,strike,beat;renga=scattered about)、「なんと・とんでもない・(八戸の城主さまが宗敵のお寺を)襲って・(破壊したお地蔵様を)投げ捨てたそうじゃ」(「ト(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「トナ」から「ドナ」と、「レ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「レナ」から「レノ」となった)

  「チウ・モチ・メノ」、TIU-MOTI-MENO(tiu=soar,strike at with a weapon;moti=consumed,scarce,surfeited;meno,whakamenomeno=show off,make a display)、「破壊され・尽くした・(無惨な)姿を晒している(地蔵)」

の転訛と解します。

019ドダレバチ(唄)・ドダバ・ドダレバヂャ・ダレバヅァ・ホーイ ホイホイ

 ドダレバチ唄は、弘前市を中心とした津軽独特の盆踊唄です。最近は、津軽甚句とも呼ばれます。

 歌詞には、
 ♪ドダバ ドダレバヂャ ダレバヅァ孫だ(ホーイ ホイホイ)
  ドダバ ドダレバヂャー サラバヂャ孫だ(ホーイ ホイホイ)
 ♪ドダバ太郎兵衛殿ナ 太郎八ア孫だ
  ドダバ太郎兵衛殿ナ よく似たもだな
とあります。(上記の「サラバヂャ」は「ダレバヅァ」の転と解します。)

 この「ドダバ」、「ドダレバヂャ」、「ダレバヅァ」、「ホーイ ホイホイ」は、

  「ト・タパ」、TO-TAPA(to=drag;tapa=call,name,command,recite)、「名前を・引き出す(誰だ) 」

  「ト・タレパ・チア」、TO-TAREPA-TIA(to=drag;tarepa=incomplete,wanting in number,hanging loose,hanging in tatter;tia=stick in etc.,mother,parent)、「親は・(不完全な)誰なのか・を引き出す(親は誰なのか答えなさい)」

  「タレパ・ツア」、TAREPA-TUA(tarepa=incomplete,wanting in number,hanging loose,hanging in tatter;tua=give a name to a child with accompanying religious ceremonies,mention the name of any one,influence by means of a spell)、「(不完全な)誰なのか・名を言って聞かせよう」

  「ホイ・ホイホイ」、HOI-HOIHOI(hoi=deaf,noisy;hoihoi=noisy,annoy)、「うるさい・うるさくてしようがない」

の転訛と解します。

020八戸小唄(はちのへこうた)・ハア ヨーイヤサ

 八戸小唄は、昭和6年に作られた新民謡です。

 歌詞には
 ♪唄に夜明けた かもめの港 船は出て行く 南へ北へ(ハア ヨーイヤサ)
  鮫のみさきは 汐けむり
とあります。

 この「ハア ヨーイヤサ」は、

  「ハ・イ・オイ・イア・タ」、HA-I-OI-IA-TA(ha=what!;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;ia=indeed;ta=dash,beat,lay)、「なんと・(船が)実に・力強く・動いて・行くよ」

の転訛と解します。

[岩手県]

021米搗唄・サアーハエー・ドッコイ・スットコドッコイ・ヨイトコドッコイ・ソーエ

 この米搗唄は、稗貫郡亀ケ森地方に残る搗臼唄で、手杵で搗く唄と唐臼を踏む唄があります。

 手杵唄の歌詞には
 ♪サアーハエーエ この家の唐櫃(からど)に(ドッコイ)ござる才槌アー 何だとさハーエー
 爺様の昔 さずけられたる 宝槌
 一振り千両 末に長者と なる槌
 (スットコドッコイ ヨイトコドッコイ)あねこ女郎エー 泊まりに来たか 出てきたかどさハーエー
 出ても来ないし(ハ ドッコイ)秋機織りに 来たどさハーエー (ハー ソーエソエ)
とあります。

 この「サアーハエー」、「ドッコイ」、「スットコドッコイ」、「ヨイトコドッコイ」、「ハーエー」、「ソーエ」は、

  「タ・ハエ」、TA-HAE(ta=the...of,dash,lay;hae=cherish envy,jealousy,ill feeling)、「なんと・羨ましい」

  「ト・コイ」、TO-KOI(to=drag,be pregnant;koi=move about,good,suitable)、「(唐櫃の中に)大事に・収められている」

  「ツトコ・ト・コイ」、TUTOKO-TO-KOI(totoko=long for,desire;to=drag,be pregnant;koi=move about,good,suitable)、「(家の中に)大事に・収められているもの(あねこ女郎)を・所望する」

  「イ・オイ・トコ・ト・コイ」、I-OI-TOKO-TO-KOI(i=past tense,beside;oi=shudder,move continuously as the sea,agitate;toko=begin to move,spring up in the mind;to=drag,be pregnant;koi=move about,good,suitable)、「(家の中に)大事に・収められているもの(あねこ女郎)に・(対する)気持がどんどん・高ぶっ・た」

  「ハエ」、HAE(cherish envy,jealousy,ill feeling)、「羨ましい」

  「トエ」、TOE(be left as a remnant)、「残念だ」

の転訛と解します。

022南部馬方節・ハア アーアーア アーアーエ・アーヨート・ハイーハイド・オエ・ウーエ・イート・パラット

 南部馬方節は、下閉伊郡岩泉町・上閉伊郡地方で歌われる馬子唄で、朝草刈唄、駄賃付けの馬方唄、夜曳き唄がありますが、馬喰が十頭二十頭の馬を繋いで夜道をかけて馬市へ往復するときの夜曳き唄がとくに有名です。

 歌詞には
 ♪ハア アーアーア アーアーエ
  朝の出がけにイー ハアアーエ山々アーア ハア見ればアーヨート(ハイーハイド)
  ハアアーエ霧のオエ かからぬウーエ ハア山も無いイート(ハイーハイド)
  ハー貰った馬でも 関東にのぼせりゃ 十五両二分だよ 口元払ってパラット パラット
とあります。

 この「ハア アーアーア アーアーエ(ハアアーエ)」、「アーヨート」、「ハイーハイド」、「オエ」、「ウーエ」、「イート」、「パラット」は、

  「ハ・アエ」、HA-AE(ha=what!;ae=yes,assent,agree)、「なんと・そうだ」

  「(「ア」は前の「見れば」を伸ばした音です)・イオ・タウ」、IO-TAU(io=muscle,spur,ridge;tau=come to rest,settle down)、「(山の)峰が・連なっている」(「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」となった)

  「ハイ・ハイ・ト」、HAI-HAI-TO(hai=a poetical expletive used at the end of a line)、「(とくに意味がない間投詞です)」

  「(「オ」は前の「霧の」を伸ばした音です)・エ」、E(calling attention or expressing surprise)、「(注意を喚起する語です)」

  「(「ウ」は前の「かからぬ」を伸ばした音です)・エ」、E(calling attention or expressing surprise)、「(注意を喚起する語です)」

  「(「イ」は前の「無い」を伸ばした音です)・タウ」、TAU(come to rest,settle down)、「(すべて霧のかかった山の峰が)連なっている」(「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」となった)

  「バラタウ」、PARATAU(semen,spawn,brood,issue,offspring)、「(金が魚の卵のようにしこたま)増えた(儲けた)」(AU音がO音に変化して「パラト」から「パラット」となった)

の転訛と解します。

023南部牛追唄・サアーハエー・ハラヨー・コーラサンサエー・パッパッパッパー・サーエー・ナーエ・べご(牛)・こで(牡牛)・こっとい(牡牛)

 南部牛追唄は、道中唄の「牛方節」と放牧唄の「牛追唄」に別れますが、ここでは一括して牛追唄とします。

 和賀郡方面の沢内牛追唄の歌詞には、
 ♪田舎なれどもサアーハエー 南部の国はヨー (ハラヨー)
  西も東もサアーハエー 金の山コーラサンサエー(ハーラヨー パッパッパッパー)
 ♪肥えた牛コ(べこ)に 曲木の鞍コ置いて …
とあります。

 沢内牛追唄の歌詞には、
 ♪小川アー出っ時ア サーエー こで(牡牛)べり追つてんがナーエ …
とあります。

 上記の牡牛を意味する方言「こで」は、「こっとい」という地方もあります。

 この「サアーハエー」、「ハラヨー」、「コーラサンサエー」、「パッパッパッパー」、「サーエー」、「ナーエ」、「べご」、「こで」、「こっとい」は、

  「タ・ハエ」、TA-HAE(ta=the...of;hae=slit,tear,split)、「(都から)遠く・離れた(場所。地方)」

  「ハラ・イ・オウ」、HARA-I-OU(hara=excess above a round number,abundant;i=past tense;(Hawaii)ou=stretch out)、「大きな(広く)・伸び(開け)・た(原。地域)」(「イ」と「オウ」が連結して「ヨウ」、「ヨー」となった)

  「コラ・タ(ン)ギタ・エ」、KORA-TANGITA-E(kora=yonder,that place at a distance;tangita=lie;e=calling attention or expressing surprise)、「あの(遠くに)・横たわっている(原。地域)・よ」(「タ(ン)ギタ」のNG音がN音に変化して「タニタ」から「サンサ」となった)

  「パパ・パパ」、PAPA-PAPA(papa=anything broad,flat and hard,earth floor or site of a native house)、「広い・広い」

  「タエ」、TAE(arrive,come,go,extend to)、「出発した」

  「ナ・アエ」、NA-AE(na=to call attention,emphasis;ae=yes,assent,agree)、「ほんとに・そうだ」

  「パエコ」、PAEKO(idle)、「(どちらかといえば動きが)鈍重な(動物。牛)」(AE音がE音に変化して「ペコ」から「ベゴ」となった)

  「コ・タイ」、KO-TAI(ko=a particle used before proper names or pronouns and common nouns to give emphasis;tai=tide,anger,rage,violence)、「凶暴な・牛(牡牛)」(「タイ」のAI音がE音に変化して「テ」から「デ」となった)(ほかに牡牛を意味する方言「コットイ」については、「コ・トイ」、KO-TOI(ko=a particle used before proper names or pronouns and common nouns to give emphasis;toi=move quickly,trot,encourage,incite)、「俊敏に動く(元気がいい)・牛(牡牛)」と解します。)

の転訛と解します。

024南部木挽唄・ハア・オヤサ・ハーシメテコイ シメテコイ・ハアーエ・ドッコイ・ハー ホニガー ホニガー

 南部木挽唄は、腕利きとして有名な「南部木挽」によつて歌われる作業唄で、鋸挽きに唱和する唄です。

 歌詞には、
 ♪ハアー山は高山 ハー樹は大木ヨー
  ハアー親方繁盛と オヤサ ハー鳴り響くヨー (ハーシメテコイ シメテコイ)
  ハアーエわたしゃ南部の 奥山育ちヨー
  ハアーア朝は早よからハ ドッコイ 木挽き歌ヨー (ハー ホニガー ホニガー)
とあります。

 この「ハア」、「オヤサ」、「ハーシメテコイ シメテコイ」、「ハアーエ」、「ドッコイ」、「ハー ホニガー ホニガー」は、

  「ハ」、HA(what!)、「なんと」

  「オイ・アタ」、OI-ATA(oi=shudder,move continuously as the sea,agitate;ata=slowly,clearly,deliverately,cautiously)、「規則正しく・(木を)挽き続ける」

  「ハ・チ・マイタイ・コイ・チ・マイタイ・コイ」、HA-TI-MAITAI-KOI-TI-MAITAI-KOI(ha=breathe,what!;ti=throw,cast;maitai=good,beautiful,agreeable;koi=sharp,move about,good)、「なんと・気持の良い・(木を挽く)動きを・する・気持の良い・動きを・する」

  「ハ・アエ」、HA-AE(ha=what!;ae=ae=yes,assent,agree)、「なんと・そうだ」

  「ト・コイ」、TO-KOI(to=drag;koi=move about,good,suitable)、「(鋸を)挽きに・挽く」

  「ハ・ホニ・(ン)ガ・ホニ・(ン)ガ」、HA-HONI-NGA(ha=breathe,what!;honi=nibble,graze;nga=breathe)、「なんと・(規則正しく)息をしながら・(木を)挽く・息をしながら・(木を)挽くよ」(「(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「ガ」となつた)

の転訛と解します。

025沢内甚句(さわうちじんく)・ハイハイト・コリャ

 沢内甚句は、和賀郡沢内村地方で盆踊唄、お座敷唄として唄われるものです。もとは、牛追唄系統の「さそりぶし」でしたが、明治・大正以後改良されたものです。

 歌詞には、
 ♪沢内三千石 お米の出どこ(ハイ ハイト)つけて納めた コリャお蔵米
とあります。

 この「ハイ ハイト」、「コリャ」は、

  「ハ・アイ・ハ・アイ・ト」、HA-AI-HA-AI-TO(ha=breathe,what!;ai=procreate,beget;to=drag)、「息を切らして・(米を)産んだ・息を切らして・(米を)産んで・持ってきた」

  「コリ・イア」、KORI-IA(kori=move,wriggle,use action in oratory;ia=indeed)、「やっと・運んできたよ」

の転訛と解します。

026からめ節・ハア ドッコイドッコイドッコイナ

 からめ節は、金山(かなやま。鉱山)踊または金山節ともいい、「からめる」とは鉱石の中の不純物(カラミ)を除去して精選するの意で、もと南部領の秋田県鹿角地方の諸鉱山で藩政時代に唄われたものです。明治以降、その殆どが廃山となり、盛岡花柳界で唄われるお座敷唄となりました。

 歌詞には、
 ♪(ハア ドッコイドッコイドッコイナ)田舎なれども 南部の国は 西も東も 金の山
 (囃子)ハア ドッコイドッコイドッコイナ ハア からめてからめて からめた黄金は 岩手の花だよ ドンドと吹き出せ ハア ドッコイドッコイドッコイナ
とあります。

 この「ハア ドッコイドッコイドッコイナ」は、

  「ハ・ト・コイ・ト・コイ・ト・コイ・ナ」、HA-TO-KOI-TO-KOI-TO-KOI-NA(ha=breathe,what!;to=drag;koi=move about,good,suitable;na=to indicate position near or connection with the person addressed)、「息を切らして・(笊などの道具を)揺り・動かして・揺り・動かして・揺り・動かす・よ」

の転訛と解します。

027外山節(そとやまぶし)・コラサーノサンサ・ほだ(榾)

 外山節は、盛岡市の西北、岩手郡外山牧場に働いていた人が明治の終わり頃に歌い出したものといわれます。

 歌詞には、
 ♪わたしゃ外山の 日陰のわらび 誰も折らぬで ほだとなる
とあり、その歌詞の前(角川版)または後(岩波版)に「コラサーノサンサ コラサーノサンサ」の囃子詞が付きます。

 「ほだ(榾)」は、「朽ち木、腐れ木」の意で、ここでは「立ち枯れ」、「婚期を逸した女子」の意と通常解されていますが、形容としても蕨は草本で木本ではなく、いささか誇大表現です。

 この「コラサーノサンサ」、「ほだ」は、

  「カウ・ラタ・ノ・タ(ン)ガタ」、KAU-RATA-NO-TANGATA(kau=alone,only;rata=tame,quiet,friendly;no=of;tangata=man,slave)、「ただの・気の弱い・(の)・人間」(「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」と、「ラタ」が「ラサ」と、「「タ(ン)ガタ」のNG音がN音に変化して「タナタ」から「サンサ」となった)

  「ポタ」、POTA(broken,small,fragment)、「切れ端(薪にする木)」(P音がF音を経てHおとに変化して゜ホタ」から「ホダ」となった)(なお、秋田県角館地方では蕨を「ほだ」といい、蛇に噛まれたときにほだを揉んで傷口につけると治るといいました(蕨は多量の蓚酸を含みます)。この「ほだ」は「ホタ」、HOTA(press on)、「(蛇に噛まれた傷口に揉んで)押しつける(薬。蕨)」と解します。外山節の「ほだ」もわらびの「ほだ」と解すべきかも知れません。雑楽篇(その二)の557わらび(蕨)の項を参照してください。)

の転訛と解します。

[宮城県]

031稲上げ唄・ザラントショウ・はせ(稲架)

 稲上げ唄は、別名「ザラントショウ節」といい、刈り取った稲束を馬につけて、屋敷内や作業場へ運ぶときに歌われる唄です。主として仙北地方に多く、もと山形の「木伐り唄」だつたともいいます。

 歌詞には、
 ♪今夜ここに寝て あすの晩は何処よ あすは田の中 あぜ枕 ザラントショウ ザラントショウ
とあります。

 歌詞の中には方言「はせ(稲架)」(全国各地で「はせ」、「はぜ」、「うまはぜ」などと呼ばれます)が出てきます。

 この「ザラントショウ」、「はせ」は、

  「タラ・(ン)ゴト・チオホ」、TARA-NGOTO-TIOHO(tara=point as a thorn,peak of a mountain;ngoto=head,be deep,firmly;tioho=apprehensive)、「(稲束を)山のように・高く積み上げ・(崩れはしないかと)心配だ(豊作で嬉しい)」(「タラ」が「サラ」から「ザラ」と、「(ン)ゴト」のNG音がN音に変化して「ノト」から「ント」と、「チオホ」のH音が脱落して「チオオ」から「ショウ」となった)

  「パ・タエ」、PA-TAE(pa=stockade,screen;tae=go,come,extend to(taepa=hang down,hang loose,fence))、「長く伸びている・垣根(のような。稲架)」(「パ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハ」と、「タエ」のAE音がE音に変化して「テ」から「セ」となった)

の転訛と解します。

032さいたら節・トーヤートット トーヤートット・ウリャトット ウリャトット・サーヨーオ・ア コリャコリャ・トエー アレワエーエ エト ソーリャ・タイリョダエー

 牡鹿半島付近の沿岸で歌われる櫓漕ぎ唄で、053遠島甚句とともに「大漁歌い込み」として著名です。

 これは、元来岩手・宮城の鋳銭場で蹈鞴を踏みながら唄った「銭吹き唄」の変形とされます。「さいたら」は、「さいとく(歳徳)」の転で、気仙沼地方の祝い唄「さいとこ節」と同系とする説など諸説があります。

歌詞には、
 ♪(トーヤートット トーヤートット)または(ウリャトット ウリャトット)
  松島のサーヨーオ 瑞巌寺ほどの (ア コリャコリャ)寺もないトエー アレワエーエ エト ソーリャ(ア コリャコリャ)大漁だエー
とあります。
上記の歌詞の中の「大漁だエー」は、その前の歌詞および囃子詞と意味の繋がりが全くありません。縄文語の「タイリョダエー」として解釈を試みることにします。

 この「さいたら」、「トーヤートット」、「ウリャトット」、「サーヨーオ 」、「ア コリャコリャ」、「トエー アレワエーエ エト ソーリャ」、「タイリョダエー」は、

  「タイ・タラ」、TAI-TARA(tai=wave,rage,violence;tara=courage,mettle)、「威勢がよい・(波のように)繰り返す(囃子詞がある唄)」

  「ト・イア・トト」、TO-IA-TOTO(to=drag,haul;ia=indeed;toto=drag a number of objects)、「(櫓を)漕げ・真剣に・漕げや漕げ」

  「ウリ・イア・トト」、ULI-IA-TOTO((Hawaii)uli=steer;ia=indeed;toto=drag a number of objects)、「舵を取って・真剣に・(櫓を)漕げや漕げ」

  「タイオ」、TAIO(lock of hair)、「(松島地方の)髷(まげ)のような(重要な地位を占める建造物)」(「タイオ」が「タヨ」から「サヨ」となった)

  「ア・コリ・イア・コリ・イア」、A-KORI-IA-KORI-IA(a=drive,urge,the...of,and,then;kori=move,wriggle,(kokori=small bay);ia=indeed)、「そして・どんなに・あがいても・どんなに・もがいても(瑞巌寺と肩を並べるようなものは無い)」

  「トエ・アレワ・エト・トリ・イア」、TOE-AREWA-ETO-TORI-IA(toe=be left as a remnant,split,divide;arewa=unsettled,wandering,raised up;eto=lean,attenuated;tori=cut;ia=indeed)、「(瑞巌寺以外の)残りのものは・(みんな)ばらばらに・小さくなって・(海の上に)浮かんでいる(島だよ)」

  「タイ・リオ・タ・アエ」、TAI-RIO-TAE(tai=the sea,coast,tide,wave,rage,violence;rio=withered,wrinkled(ririo=be diminished);ta=dash,beat,lay;ae=yes,assent,agree)、「海岸線が・(皺が寄る)複雑に入り組んで・いるよ・ほんとだよ」

の転訛と解します。

033遠島甚句(としまじんく)・ハアーアーア・アレサ・アヨーイ ヨーイヨーイトナ・トコ・こけあんこ・タントタント・スッテンバッテン・こけ・トコヤッサイ ヤッサイナ

 宮城県一帯の海岸部の漁場で唄われた酒盛用の座敷甚句が、漁師達の櫓漕ぎ唄となったもので、松島甚句、石巻甚句、十三浜甚句、気仙甚句等の名があります。(「甚句」の意味については、012津軽小原節の項を参照してください。)

 歌詞には、
 ♪ハアーアーア 押せや押せ押せ ハア二丁櫓で押せや 押せば港が アレサ 近くなる(アヨーイ ヨーイヨーイトナ)
 (囃子詞)♪トコ在郷のこけあんこ 櫃コにかて飯詰め込んで 畠の隅コで タントタント
♪スッテンバッテンはやりの絆天 鍋釜売っても 着ねものこけだよ トコヤッサイ ヤッサイナ
とあります。

 この「ハアーアーア」、「アレサ」、「アヨーイ ヨーイヨーイトナ」、「トコ」、「こけあんこ」、「タントタント」、「スッテンバッテン」、「こけ」、「トコヤッサイ ヤッサイナ」は、

  「ハ」、HA(breathe,what!,then)、「そして」

  「アレ・タ」、ARE-TA(are=what!;ta=dash,beat,lay)、「なんと・(港が近くに)寄ってきた」

  「ア・イ・オイ・イ・オイ・イ・オイ・ト・ナ」、A-I-OI-I-OI-I-OI-TONA(a=drive,urge,the...of,well;i=past tense,beside;oi=shudder,move continuously as the sea,agitate;to=drag;na=to indicate position near or connection with the person addressed)、「それ押せ・(櫓を)動か・せ・動か・せ・動か・して・引け・よ」

  「トコ」、TOKO(pole,push or force to a distance,begin to move)、「(さあ)始めは」

  「カウ・ケ・アナ・コ」、KAU-KE-ANA-KO(kau=alone,bare,empty,only;ke=different,strange;ana=his,her;ko=adressing females and males)、「ただただ・変わっている(人間の)・(彼女と呼ばれる)女の・子」(「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」と、「アナ」が「アン」となった)

  「タ(ン)ガ・ト・タ(ン)ガ・ト」、TANGA-TO-TANGA-TO(tanga=be assembled,row;to=drag,tingle,calm)、「困ったこと(悩ましいこと)が・いっぱい・いっぱい」(「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「タン」となった)

  「ツ・テ(ン)ガ・パ・テ(ン)ガ」、TU-TENGA-PA-TENGA(tu=fight with,energetic;tenga=goitre,distend,extinguished;pa=touch,reach,strike),、「((鍋釜まで売り払うほど)懸命に)なにもかも・無くして・無一文に・なって」(「テ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「テナ」から「テン」となった)

  「カウ・ケ」、KAU-KE(kau=alone,bare,empty,only;ke=different,strange)、「ただただ・変わっている(人間。虚仮。馬鹿)」(「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」となった)

  「トコ・イア・タイ・イア・タイ・ナ」、TOKO-IA-TAI-IA-TAI-NA(toko=pole,push or force to a distance,begin to move;ia=indeed;tai=the sea,coast,tide,wave,rage,violence;na=to indicate position near or connection with the person addressed)、「さあ(進もう)・ほんとに・元気を出して・ほんとに・元気を出して・ね」

の転訛と解します。

034長持唄(ながもちうた)・ハアー・ナアーエ・ナーアーエー・ヨー・オイ オイ オイ

 長持唄は、嫁の調度品を聟の家に持ち込む時に唄われる婚礼道中唄で、通常のど自慢の若者が双方から一人宛選ばれて唄うことが多い。歌詞は、全国共通のものが多く、唄う文句と場所が決まっていて、応答挨拶代わりに唄われます。

 歌詞には、
 ♪ハアー 今日はナアーエ 日もよし ハアー天気も良いし 結びナーアーエー 合わせてヨー 縁となるナアーエー(オイ オイ オイ)
とあります。

 この「ハアー」、「ナアーエ」、「ヨー」、「オイ オイ オイ」は、

  「ハ」、HA(breathe,what!,then)、「さて」

  「ナ・アエ」、NA-AE(na=satisfied,content,belonging to;ae=yes,assent,agree,calm)、「満足だ・全くだ」

  「イ・オ」、I-O(i=past tense,o=be capable of being contained or enclosed,get in)、「受け入れだ」または「到着だ」

  「オイ・オイ・オイ」、OI-OI-OI(oi=shudder,move continuously as the sea,agitate)、「(さあ)動くぞ・動くぞ・動くぞ」

の転訛と解します。

035さんさ時雨(しぐれ)・ショウガイナアー・ハアメデタイメデタイ

 仙台地方の代表的民謡の一として、岩手・宮城・福島の三県に亘って唄われる祝儀唄です。元歌は、天正年間に伊達政宗公が作ったという説が流布していますが、徳川中期以降関西から流入したものとされます。

 歌詞には、
 ♪さんさ時雨か 萱野の雨か 音もせで来て 濡れかかる ショウガイナアー(ハアメデタイメデタイ)
とあります。

 この「さんさ」、「ショウガイナアー」、「ハアメデタイメデタイ」は、

  「タ(ン)ガタ(ン)ガ」、TANGATANGA(loose not tight,easy,comfortable,free from pain)、「心地よい(静かに降る。時雨)」(最初のNG音がN音に変化し、語尾のNGA音が脱落して「タナタ」から「サンサ」となった)(「時雨(しぐれ)」については、雑楽篇(その一)の233しぐれ(時雨)の項を参照してください。)

  「チオホウ・(ン)ガイ(ン)ガイ」、TIOHOU-NGAINGAI(tiohou=apprehensive;ngaingai=pant,sob)、「(時雨の音が)すすり泣いているように・感じられる」(「チオホウ」のH音が脱落して「チオオウ」から「ショウ」と、「(ン)ガイ(ン)ガイ」の最初のNG音がG音に変化し、次のNG音がN音に変化し、語尾のI音が脱落して「ガイナ」となった)

  「ハ・マイタイ・タイ・マイタイ・タイ」、HA-MAITAI-TAI-MAITAI-TAI(ha=breathe,what!,then;maitai=good,beautiful,agreeable;tai=the sea,coast,tide,wave,rage,violence)、「なんとも・良いことが・(波のように)繰り返しやってくる(目出度い)・目出度い」(「マイタイ」のAI音がE音に変化して「メテ」から「メデ」となった)

の転訛と解します。

036おいとこ節・おいとこ

 仙台を中心に山形・岩手・秋田・等で唄われる酒盛り唄です。幕末頃九十九里沿岸や江戸に流行した古民謡から転じたものとされます。

 歌詞には、
 ♪おいとこそうだよ 紺の暖簾に 伊勢屋と書いたンよ …
 … おいとこそうだンよ
とあります。

 「おいとこ」は、「お江戸つ子」とも、「オイ ドッコイショ」からの転とする説があります。

 この「おいとこ」は、

  「オイ・トコ」、OI-TOKO(oi=shout;toko=swell,spring up inthe mind)、「(心に)湧いて出てくるままに・唄う(歌)」

の転訛と解します。

037塩釜甚句(しおがまじんく)・ア ハットセ ハットセ・アリャ・ハ ハッ ハットセ

 塩釜甚句は、塩釜妓楼を中心に唄われた酒盛り唄です。伊達三代藩主綱宗が江戸新吉原の遊女高尾に熱を上げ、狂言「先代萩」で有名な伊達騒動が起こる始末となり、そのため仙台城下の遊女屋はすべて塩釜に移され、以来遊び人は仙台から塩釜へ通うようになったといいます。

 歌詞には、
 ♪塩釜アーアー街道に 白菊植えてエー(ア ハットセ ハットセ)
  何をオー聞く聞く アリャ便り聞イーくウー(ハ ハッ ハットセ)
とあります。

 この「ア ハットセ ハットセ」、「アリャ」、「ハ ハッ ハットセ」は、

  「ア・パトテ・パトテ」、A-PATOTE-PATOTE(a=drive,urge,the...of,well;patote=?(waru(=8)-patote=8th month of the Maori year))、「ああ・(秋風が立つ季節になつた。妓楼の興奮から覚めて)涼しくなった・涼しくなった」(「パトテ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハトテ」から「ハットセ」となった。この意味は、推定です)

  「アリア」、ARIA(appear,be seen indistinctly,resemblance,feeling)、「(秋の気配などが見える)感じるよ」

  「ハ・ハ・パトテ」、HA-HA-PATOTE(ha=breathe,what!,then;patote=?(waru(=8)-patote=8th month of the Maori year))、「なんと・なんと・(秋風が立つ季節になつた。妓楼の興奮から覚めて)涼しくなった」(「パトテ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハトテ」から「ハットセ」となった。この意味は、推定です)

の転訛と解します。

038えんころ節・ションガイナー

 えんころ節は、阿武隈川の河口近くの荒浜地方で唄われた「船卸しの祝い唄」ですが、いまでは広く祝儀唄となっています。

 歌詞には、
 ♪まず今日のお祝いに めでためでたの夢をみた …
  … ションガイナー エンコロ エンコロ

とあります。

 この「えんころ」、「ションガイナー」は、

  「エネ・コロ」、ENE-KORO(ene=flatter,cajole;koro=desire,intend)、「お世辞を言う・ことにする」

  「チオ・(ン)ガイ・ナ」、TIO-NGAI-NA(tio=cry,call;ngai=tribe or clan;na=satisfied,to indicate position near or connection with the person addressed,of these)、「感嘆の・部類に属する・声を上げるよ」

の転訛と解します。

[秋田県]

041湯瀬村コ・ヤアエー・デヤアー・エ・ハエー・デヤハーヨー

 湯瀬村コは、旧鹿角郡宮川村(現鹿角市)湯瀬温泉地方の唄で、付近の農民が野山に働くとき、または家内作業や祝い事があるときに必ず唄われるものてす。春唄・秋唄の二種があり、歌詞は共通ですが、節が違い、季節の区別を厳守する習俗で知られています。

 歌詞には
 (春唄)♪湯瀬村コ ヤアエー 湯瀬村コ
  行けばデヤアー水の中 萱の中エ(ハエー)
 (秋唄)♪夜明け島 夜明け島デヤハーヨー
  なぼか山子達ア登るだか(ハエー)
とあります。

 この「ヤアエー」、「デヤアー」、「エ」、「ハエー」、「デヤハーヨー」は、

  「イア・アエ」、IA-AE(ia=indeed;ae=yes,assent,agree)、「ほんとに・そうだよ」

  「タエ・イア」、TAE-IA(tae=arrive,go,extend to;ia=indeed,rushing stream)、「急流(の中)を・進むのだ」(「タエ」のAE音がE音に変化して「テ」から「デ」となった)

  「エ」、E(calling attention or expressing surprise)、「なんと」

  「ハエ」、HAE(tear,ill feeling,cause pain.fear)、「(萱の中を進むのは)辛いものだ」

  「タエ・イア・ハ・イオ」、TAE-IA-HA-IO(tae=arrive,go,extend to;ia=indeed,rushing stream;ha=breathe,what!,then;io=spur,ridge)、「急流(の中)や・そして・峰(をかきわけて)・進むのだ」)

の転訛と解します。

042秋田音頭(あきたおんど)・トル音頭・ヤートーセー ヨイヤナ・ア キタカサッサ・トコ ドッコイドッコイナ・ホラ・アーソレソレ

 秋田音頭は、「トル音頭」、「仙北音頭」、「地口音頭」ともいい、藩政時代には「御国音頭(おくにおんど)」とも呼ばれました。起源は、寛文3年佐竹義隆公の手踊り上覧の思召に応じ、才人某が柔術の型を振り付け、藩士の子女に教習させたことに始まるといいます。太鼓・鼓・笛・鉦め三味線の軽快陽気な調子と、軽妙な地口で満座をドッと湧かせる秋田の代表的な民謡です。

 歌詞には
 ♪(ヤートーセー ヨイヤナ ア キタカサッサ トコ ドッコイドッコイナ)
 ホラいずれこれより御免な蒙り 音頭の無駄を言う(アーソレソレ)
 お気に障りもあろうけれども さっさと出しかける(ア キタカサッサ トコ ドッコイドッコイナ)
とあります。

 この「トル(音頭)」、「ヤートーセー ヨイヤナ」、「ア キタカサッサ」、「トコ ドッコイドッコイナ」、「ホラ」、「アーソレソレ」は、

  「トル」、TORU(=toro=stretch forth,survey,explore)、「(日頃身辺にあって気が付かないことを)発見する(音頭)」

  「イア・タウテ・イ・オイ・イアナ」、IA-TAUTAE-I-OI-IANA(ia=indeed;taute=mature,look for,consider;i=past tense,beside;oi=shudder,move continuously as the sea,agitate;iana=intensive,then)、「実に・(皆様を喜ばす唄が)だんだん・固まって・来ました・ぞ」(「タウテ」のAU音がO音に変化して「トテ」から「トセ」となった)

  「ア・キ・タカ・タタ」、A-KI-TAKA-TATA(a=drive,urge,the...of,well;ki=full,very;taka=prepare,enyertain a design,be formed;tata=near,suddenly,strike repeatedly)、「さて・突然・(皆様を喜ばす唄の)考え(準備)が・しっかりと」

  「トコ・ト・コイ・ト・コイ・ナ」、TOKO-TO-KOI-TO-KOI-NA(toko=begin to move,swell,spring up in the mind;to=drag;koi=move about,good,suitable;na=used after words and clauses to indicate position near or connection with the person addressed)、「(私の心に)湧いてきた・(それを)引っ張り出して・ご披露しよう・(それを)引っ張り出して・ご披露しよう・なあ(皆様よ)」(角川版は、「トコ」でなく「ドン」(太鼓音か)が入ります。)

  「ホラ」、HORA(scatter,spread out,display,go,escape)、「さあ披露しよう」

  「ア・トレ・トレ」、A-TORE-TORE(a=drive,urge,the...of,well;tore=burn,be erect(used of showing warlike feelings))、「さあ・元気を出して・元気を出して」

の転訛と解します。

043秋田甚句(あきたじんく)・ア コリャコリャ・ハア キタカサッサー キタサカサイサイ・キタカコリャコリャ キタサカサイサイ

 秋田甚句は、仙北郡地方特有の盆踊り唄(酒盛り唄)です。この地方では、「甚句(じんく)」は「神供(じんく)」で「神に捧げる踊り」の意とされています。(「甚句」については、012津軽小原節の項を参照してください。)もと旧南部領の岩手県二戸地方に起こった神供踊りが、鹿角郡を経て仙北地方に入ったとする説があります。

 歌詞には
 ♪甚句おどらば 三十が盛り(ア コリャコリャ)
  三十過ぎれば その子がおどる
 (ハア キタカサッサー キタサカサイサイ キタカコリャコリャ キタサカサイサイ)
とあります。

 この「ア コリャコリャ」、「ハア キタカサッサー キタサカサイサイ」、「キタカコリャコリャ キタサカサイサイ」は、

  「ア・コリ・イア・コリ・イア」、A-KORI-IA-KORI-IA(a=drive,urge,the...of,well;kori=move,wriggle,bestir oneself,use action in oratory;ia=indeed,rushing stream)、「さあ・(唄いながら)手で舞い足を踏み・続けよう」

  「ハ・キ・タカ・タタ・キ・タ・タカ・タイタイ」、HA-KI-TAKA-TATA-KI-TA-TAKA-TAITAI(ha=breathe,what!,then;ki=full,very;taka=prepare,enyertain a design,be formed;tata=near,suddenly,strike repeatedly;ta=dash,beat,lay;taitai=tide,dash,knock,perform certain ceremonies to remove tapu etc.)、「さて・突然・(皆様を喜ばす唄の)考え(準備)が・十分に・また(神様を喜ばす)祭儀の・準備が・十分に・調った」

  「キ・タカ・コリ・イア・コリ・イア・キ・タ・タカ・タイタイ」、KI-TAKA-KORI-IA-KORI-IA-KI-TA-TAKA-TAITAI(ki=full,very;taka=prepare,enyertain a design,be formed;kori=move,wriggle,bestir oneself,use action in oratory;ia=indeed,rushing streamta=dash,beat,lay;taitai=tide,dash,knock,perform certain ceremonies to remove tapu etc.)、「(唄いながら)手で舞い足を踏み・続ける・準備が・十分に・また(神様を喜ばす)祭儀の・準備が・十分に・調った」

の転訛と解します。

044生保内節(おぼねだし)・キタサノサーア・コラサノサー・ドッコイショー

 生保内節は、田沢湖の東麓、生保内(おぼない)に生まれた唄で、土地ではその冒頭の歌詞から「おぼねだし」と呼びます。秋になってこの地方特有の東風が吹く頃、豊年を祝って歌い出されたものです。東風(だし)は、船乗りは暴風の前兆として嫌いますが、この地方では豊年をもたらすとして喜びました。(「東風(だし)」については、雑楽篇(その一)の218だし(出し風)の項を参照してください。)

 歌詞には
 ♪吹けや生保内東風(おぼねだし) 七日も八日も
 吹けば宝風ノオ 稲ア実る
 キタサノサーア コラサノサー ドッコイショー
とあります。

 この「キタサノサーア」、「コラサノサー」、「ドッコイショー」は、

  「キ・タタ・ノ・タ」、KI-TATA-NO-TA(ki=full,very;tata=near,suddenly,strike repeatedly;no=of;ta=dash,beat)、「実に・突然・(生保内東風が)吹いて・きた」

  「コ・ラタ・ノ・タ」、KO-RATA-NO-TA(ko=sing,wind;rata=tame,quiet,familiar;no=of;ta=dash,beat)、「懐かしい(いつもの季節の)・風が・吹いて・きた」

  「ト・コイ・チオ」、TO-KOI-TIO(to=drag,the...of;koi=sharp,good,suitable;tio=sharp of cold,cry)、「冷たい・好もしい(豊年を呼ぶ)・風だよ」

の転訛と解します。

045長者の山・ナー・サーサ・ほける

 長者の山は、婆々踊の唄ともいい、昔田沢湖のほとりに住む長者が所有していた山から金が出たので、その祝いに招かれた村の人々が歌い出したものといいます。

 歌詞には
 ♪盛るさかると 長者の山さかるナー 盛る長者の山 サーサ末永くナー
とあります。
 また、歌詞の中に「(蕨コ)ほける」(薹が立つ)の方言があります。

 この「ナー」、「サーサ」、「ほける」は、

  「ナ」、NA(satisfied,content,to indicate position near or connection with the person addressed)、「(良かった)な」

  「タタ」、TATA(strike repeatedly,hew out)、「(運が開ける)いよいよ繁栄する」

  「ホカイ・ル」、HOKAI-RU(hokai=extend,far apart,go briskly;ru=shake,agitate,scatter)、「(勢いよく)伸びて・(花芽を)出す(薹が立つ)」(「ホカイ」のAI音がE音に変化して「ホケ」となった)

の転訛と解します。

046秋田おばこ・ハア オイサカサッサア

 秋田おばこは、山形県の「庄内おばこ」が仙岩峠を経て南部盛岡に往復する庄内の馬喰達によって田沢湖付近に移植されたものといわれます。

 歌詞には、
 ♪おばこナー 何ぼになる この年暮らせば十と七つ …
  … 咲けばナー実もヤやる 咲かねば日陰の色紅葉(ハア オイサカサッサア オバコダ オバコダ)
とあります。

 この「おばこ」、「ハア オイサカサッサア」は、

  「オ・パコ」、O-PAKO(o=the...of,belonging to;pako=make a loud sudden sound or report)、「急に・大きな声を出す・(習性がある若い)女子」

  「ハ・オイ・タカ・タタ」、HA-OI-TAKA-TATA(ha=breathe,what!,then;oi=shout,shudder,agitate;taka=prepare,enyertain a design,be formed;tata=near,suddenly,strike repeatedly)、「なんと・突然・(大きな声で)叫び・出す」

の転訛と解します。

047ひでこ節・ナー・コノヒーデコナー

 「ひでこ」は、塩出(しおで)というユリ科の山菜で「牛尾菜」の名があり、葉柄基部の巻きひげで他物にまといつく習性があり、春の若芽は勢いよく延び、柔らかいのでそれを採ってゆで、浸し物やあえ物として食用とします。この「シオデ」に「コ」がついて「ショデコ」となり、転訛して「ヒデコ」となつたとされます。岩手県下閉伊郡地方では「ソデコ」、山形県村山地方では「ションデコ」という共通の唄があります。

歌詞には、
 ♪十七八コナー 今朝のナー 若草 何処で刈ったナーコノヒーデコナー
とあります。

 この「ナー」、「コノヒーデコナー」は、

  「ナ」、NA(satisfied,content,to indicate position near or connection with the person addressed)、「(親近の意をこめて)なあ」

  「コノ・チオ・タエ・コ・ナ」、KONO-TIO-TAE-KO-NA(kono=bend,curve,loop;tio=sharp(tiotio=having sharp projection);tae=arrive,go,extend to;ko=descend)、「ひげを・伸ばして・巻き付く・種類の(山菜)は・なあ」(「チオ」のT音がS音からH音に変化して「ヒオ」から「ヒ」と、「タエ」のAE音がE音に変化して「テ」から「デ」となった)

の転訛と解します。

048本荘追分(ほんじょうおいわけ)・ハアー・ヨー・キタサー キタサ

 本荘追分は、由利郡の子吉川が日本海に注ぐ河口に発達した港町、本荘の追分です。

 歌詞には、
 ♪ハアー 本荘ハアー名物 焼け山の蕨ヨー(キタサー キタサ)
  焼けば焼くほど太くなる(キタサー キタサ)
とあります。

 この「ハアー」、「ヨー」、「キタサー キタサ」は、

  「ハ」、HA(breathe,what!,then)、「なんと」

  「イ・オ」、I-O(i=past tense;o=find room,be capable of being contained or enclosed,get in)、「生えて・来た」

  「キ・タタ・キ・タタ」、KI-TATA-KI-TATA(ki=full,very;tata=stalk,stem)、「(蕨の)茎が・たくさん・たくさん」

の転訛と解します。

049タント節・ハアーアー・コラ・タントタント・アイコの上作そのわけだんよ

 タント節は、一名藁打唄ともいい、もともと仙北・北秋田郡地方で、月明かりの夜など若者達が夜鍋仕事に藁を打つ砧の音に合わせて唄ったとされますが、今では踊りもついて舞台や酒席で唄われます。

 歌詞には、
 ♪ハアーアー一つ人目の関所を破り 連れて行くのは現われた 現われた〔コラお江戸へ行くとて津軽へさ 津軽にお江戸はあるものか〕業恥さらして タントタント アイコの上作そのわけだんよ
とあります。

 この「ハアーアー」、「コラ」、「タント」、「アイコの上作そのわけだんよ」は、

  「ハ」、HA(breathe,what!,then)、「なんと」

  「コラ」、KORA(yonder,that place at the distance)、「あの遠くの(土地)」

  「タ(ン)ガ・ト」、TANGA-TO(tanga=be assembled,row;to=drag,tingle,calm)、「困ったこと(悩ましいこと)が・いっぱい」(「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「タン」となった)

  「アイ・コナウ・チオ・タク・トノ・ワカイ(ン)ガ・タ(ン)ガ・イ・オ」、AI-KONAU-TIO-TAKU-TONO-WAKAINGA-TANGA-I-O(ai=expressing the reason for which anything is done etc.;konau=yearn for,desire;tio=cry,call;taku=slow,saying,edge;tono=command,demmand;wakainga=distant home;tanga=be assembled;i=past tense;o=find room,be capable of being contained or enclosed,get in)、「(この不始末をしでかした)理由は・(女が)泣いて・望んだ・言葉(それは)・遠い(場所の)家で・一緒になって・落ち着くことを・要求した(からだ)」(「コナウ」のAU音がO音に変化して「コノ」と、「ワカイ(ン)ガ」のAI音がE音に変化し、名詞形語尾のNGA音が脱落して「ワケ」と、「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「ダン」となった)

の転訛と解します。

050おこさ節・おこさ・アラ おこさのサ・コラヤコリャ

おこさ節は、昭和22、3年頃秋田から唄い出され、東北から北海道にかけて流行した歌です。

 歌詞には、
 ♪(おこさで おこさで ほんとだね)
  恋の古傷 お医者はないかね(アラ おこさのサ)
  なぜか今夜は コラヤコリャ また痛むね(おこさで おこさで ほんとだね)
とあります。

 この「おこさ」、「アラ おこさのサ」、「コラヤコリャ」は、

  「オコ・タ」、OKO-TA(oko=hear;ta=dash,beat,lay)、「(その話は)聞いた・ことがあるよ」

  「アラ・オコ・タ・(ン)ゴタ」、ARA-OKO-TA-NGOTA(ara=and then,yonder,expressing surprise etc.;oko=hear;ta=dash,beat,lay;ngota=fragment,particle)、「そういえば・(その話は)少しだけ・聞いた・ことがある」(「(ン)ゴタ」のNG音がN音に変化して「ノタ」から「ノサ」となった)

  「コラ・イア・コリ・イア」、KORA-IA-KORI-IA(kora=yonder,that place at a distance;ia=indeed;kori=move ,wriggle,bestir oneself,use action in oratory)、「ほんとに・(遠い)身体の奥が・ほんとに・うずくよ」

の転訛と解します。

[山形県]

051最上川舟唄・ヨーイサノマガッショ・エーンヤコラマーガセ・エエンヤア エーエヤア エーエ エーエヤア エード・ヨイト コラサーノセ・まっかん(大根)・(食わん)にゃエちゃ・タランコタン

 日本三急流の一、最上川で酒田通いの船頭たちによって下航の際に唄われた舟唄です。現在の唄は、昭和11年頃、江戸時代末期から明治の中頃まで酒田港に流行した「酒田追分」の前唄を舟唄とし、それに船頭たちの掛声を組み合わせたもので、艫取(ともとり)1人の他に2人の漕手が休みなく最上川の奔流を突っ切って行く舟の舳先での掛声は雄壮活発、奔放自在で、掛声の合間の追分調の舟唄が魅力的な唄です。

 歌詞には、

 (掛声)♪ヨーイサノ マガッショ エーンヤコラマーガセ エエンヤア エーエヤア エーエ エーエヤア エード ヨーイサノ マガッショ エーンヤコラマーガセ
 (舟唄)♪酒田さ行くさげ 達者(まめ)でろちゃヨイト コラサーノセー はやり風邪など ひがねよに
 (掛声)♪エエンヤア エーエヤア エーエ エーエヤア エード ヨーイサノ マガッショ エーンヤコラマーガセ
 (囃子)♪股大根(まっかんだいこ)の塩汁煮(しょっつるに) 塩しょぱくて食わんにゃエちゃ
 (掛声)♪エエンヤア エーエヤア エーエ エーエヤア エード ヨーイサノ マガッショ エーンヤコラマーガセ
とあります。
 また、歌詞の中に、「あの娘(こ)のためだ なんぼ取っても タランコタンだ」とあります。

 この「ヨーイサノマガッショ」、「エーンヤコラマーガセ」、「エエンヤア エーエヤア エーエ エーエヤア エード」、「ヨイト コラサーノセ」、「まっかん(大根)」、「(食わん)にゃエちゃ」、「タランコタン」は、

  「イオ・オイ・タ(ン)ゴ・マ(ン)ガ・チオ」、IO-OI-TANGO-MANGA-TIO(io=muscle,strand of a rope,line;oi=shudder,move continuously,agitate;tango=take,take up;manga=branch of a river;tio=sharp,cry)、「(最上川の)激しい・川の流れが・支流を・抱き込んで・吠えている」(「イオ・オイ」が「ヨーイ」と、「タ(ン)ゴ」のNG音がN音に変化して「タノ」から「サノ」と、「マ(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「マガ」となった)

  「エネ・イア・コラハ・マ(ン)ガ・テ」、ENE-IA-KORAHA-MANGA-TE(ene=flatter,cajole;ia=indeed,rushing stream;koraha=extended,shallow,open country;manga=branch of a river;te=crack,emit a sharp explosive sound)、「実に・穏やかな・浅瀬では・小さな流れが・(さらさらと)音を立てている」(「エネ」が「エン」と、「コラハ」のH音が脱落して「コラ」と、「マ(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「マガ」となった)

  「エネ・イア・エヘ・イア・エヘ・エヘ・イア・エヘ・ト」、ENE-IA-EHE-IA-EHE-EHE-IA-EHE-TO(ene=flatter,cajole;ia=indeed,rushing stream;ehe=expressing surprise;to=drag)、「穏やかな・流れだ・何という(激しい)・流れだ・なんと・なんという・流れだ・なんと・(舟が)引きずり込まれるぞ」(「エネ」が「エン」と、「エヘ」のH音が脱落して「エエ」となった)

  「イ・オイ・ト・コラ・タ・(ン)ゴテ」、I-OI-TO-KORA-TA-NGOTE(i=past tense,beside;oi=shudder,move continuously as the sea,agitate;to=drag;kora=yonder,that place at a distance;ta=dash,beat,lay;ngote=diminutive,suck)、「動い・て・引いて(引き籠もって)・遠く離れて・小さくなつて・居ろ」(「(ン)ゴテ」のNG音がN音に変化して「ノテ」から「ノセ」となった)

  「マカ・(ン)ガタタ」、MAKA-NGATATA(maka=throw,cast,put,place; ngatata=split,chapped,open)、「(胴体から)二つに分かれて・伸びている(二股の(大根))」(「マカ」が「マッカ」と、「(ン)ガタタ」のNG音がN音に変化し、反復語尾が脱落して「ナタ」から「ンダ」となり、その語尾の「ダ」と「ダイコ(ン)」の語頭の「ダ」が連結して「マッカン(ダイコ)」となった) 「マカ(ン)ガ」、MAKANGA(large potatoes,etc.)、「でっかい(大根)」(NG音がN音に変化して「マカナ」から「マッカン」となった)

  「ニヒ・イア・エチア」、NIHI-IA-ETIA(nihi,ninihi=dizziness,timidity;ia=indeed;etia=as it were,as if)、「(食べるのを)実に・ためらうよ・全くね」(「ニヒ」のH音が脱落して「ニ」と、「イア」が「ヤ」と、「エチア」が「エチャ」となった)と、

  「タラ(ン)ガ・カウタハ(ン)ガ」、TARANGA-KAUTAHANGA(taranga=separation;kautahanga=empty)、「(いくら稼いでも金は)散じて・(財布は)空だ」(「タラ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タラナ」から「タラン」と、「カウタハ(ン)ガ」のAU音がO音に、NG音がN音に変化し、H音が脱落して「コタアナ」から「コタン」となった)

の転訛と解します。

052紅花摘唄(べにばなつみうた)・ナー・ヨー・ハ シャンシャン・サアサ

 古くから村山地方で栽培され、最上紅花として京阪地方や江戸で歓迎された紅花摘みの唄です。

 歌詞には、
 ♪千歳山からナー 紅花(こうか)の種蒔いたヨー(ハ シャンシャン)それで山形花だらけ(サアサ摘ましゃれ 摘ましゃれ)
とあります。

 この「ナー」、「ヨー」、「ハ シャンシャン」、「サアサ」は、

  「ナ」、NA(to indicate position near or connection with the person addressed)、「(千歳山から)ずっとこちらの方へ向かって」

  「イ・オ」、I-O(i=past tense;o=find room,be capable of being contained or enclosed,get in)、「(紅花の種で地面を)占拠したよ」

  「ハ・チア(ン)ガ・チア(ン)ガ」、HA-TIANGA-TIANGA(ha=breathe,what!,then;tianga=mat to lie on)、「なんと・(布団を敷いたように一面に)紅花の草の布団(が敷かれた)だ・布団だ」(「チア(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「チアナ」から「シャン」となった)

  「タ・アタ」、TA-ATA(ta=dash,beat,lay;ata=gently,clearly,deliberately,cautiously)、「丹念に・(紅花を)摘もう」

の転訛と解します。

053あがらしゃれ・ホイサット・ソリャ

 この唄は、一名「大沢節」ともいい、旧最上郡安良城村(現真室川町)字大沢逐に伝えられた古風な酒盛り唄です。「あがらしゃれ」は「召し上がれ」、「ねなやア」は「どうしたの」、「そげだや」は「そんななの」の意とされます。

 歌詞には、
 ♪あがらしゃれ ねなやア お前(め)アそげだや(ホイサット)お前あがらねでア 気はすめのオ(ソリャ呑む ソリャ呑む)
とあります。

 この「ホイサット」、「ソリャ」は、

  「ホイ・タタウ」、HOI-TATAU(hoi=deaf,obstinate,noisy;tatau=tie with a cord,pereat one by one,settle down upon,quarrel)、「しつこく・問い詰める」(「タタウ」のAU音がO音に変化して「タト」から「サット」となった)

  「タウリア」、TAURIA(=tau=attack)、「(呑むことに)取り掛かろう)」(AU音がO音に変化して「トリア」から「ソリャ」となった)

の転訛と解します。

054新庄節(しんじょうぶし)・ハアーアーアー・ハ キタサ

 新庄の西北の羽根沢地区で草刈りなどに唄った甚句が万場町の繁盛とともに戸沢氏六満五句の城下新庄に入って三味線化されたものです。「庄内おばこ」とともに山形県民謡の双璧とされます。

 歌詞には、
 ♪ハアーアーアー(ハ キタサ)
  猿羽根(さばね)山越え 舟形越えて(ハ キタサ) 逢いに来たぞえ万場(ばんば)町に(ハ キタサ)
とあります。

 この「ハアーアーアー」、「ハ キタサ」は、

  「ハ」、HA(breathe,what!,then)、「なんと」

  「ハ・キ・タタ」、HA-KI-TATA(ha=breathe,what!,then;ki=full,very;tata=dash down,strike repeatedly)、「なんと・何回も・通ったこと」

の転訛と解します。

055山形おばこ・ア コリャコリャ・ハア コバエテ コバエテ

 「庄内おばこ」・「最上おばこ」ともいい、唄の起源は明らかではありませんが、もと農家の縄綯い唄とする説が有力です。江戸時代には、「庄内節」、「出羽節」とも呼ばれました。046秋田おばこの母胎です。

 歌詞には、
 ♪おばこ来るかやと(ア コリャコリャ)
  田圃のはんずれまで 出て見たば(ハア コバエテ コバエテ)
  おばこ来もせで 用のない煙草売りなンど ふれて来る(ハア コバエテ コバエテ)
とあります。

 この「コバエテ」は「来ればいいのに」の意とされます。

 この「おばこ」、「ア コリャコリャ」、「ハア コバエテ コバエテ」は、

  「オ・パコ」、O-PAKO(o=the...of,belonging to;pako=make a loud sudden sound or report)、「急に・大きな声を出す・(習性がある若い)女子」

  「ア・コリ・イア・コリ・イア」、A-KORI-IA-KORI-IA(a=drive,urge,the...of,and,yes,well;kori=move,wriggle,bestif oneself,use action in oratory;ia=indeed)、「実に・そわそわと・実に・そわそわと・して」

  「ハ・コパエ・タエ・コパエ・タエ」、HA-KOPAE-TAE-KOPAE-TAE(ha=breathe,what!,then;kopae=lying sideways,having the entrance at the sidecircular;tae=arrive,come goextend to)、「なんと・(用のない煙草売りが)脇道にそれて・やってきた」(「タエ」のAE音がE音に変化して「テ」となった)

の転訛と解します。

056酒田船方節・アラ ヤッショーマカショ

 酒田船方節は、一名港音頭ともいい、寛文12年ごろ河村瑞軒が西回り航路を用いて以来、繁栄を極めた酒田港で、幕末頃、入津の船の船頭相手に唄われた花街の唄です。

 歌詞には、
 ♪(アラ ヤッショーマカショ)
  入船エーしたなら知らせておくれ(アラ ヤッショーマカショ)内で待つ身にならしゃんせ 雨の夜も風の夜も案じ過ごして アラ夜の目もちっとも 眠りゃせぬ(アラ ヤッショーマカショ)
とあります。

 この「アラ ヤッショーマカショ」は、

  「アラ・イア・チオフ・マカ・チオフ」、ARA-IA-TIOHU-MAKA-TIOHU(ara=and then,yonder,rise up,awake,expressing surprise;ia=indeed,rushing stream;tiohu=stoop;maka=wild,active)、「(入津の知らせを聞いたら)びっくりして跳ね上がる・ほんとに・(鷹が獲物に飛びかかるように身をかがめて)待ち構えていた・じりじりして・待ち構えていた」(「チオフ」のH音が脱落して「チオウ」から「ショウ」となつた)

の転訛と解します。

057花笠踊(はながさおどり)・チョイチョイ・ハア ヤッショーマカショ シャンシャンシャン

 この唄は、山形市を中心に村山地方で酒席などで盛んに唄われ、踊られている曲で、花笠を持って踊ることからこの名があります。「ヤッショー マカショー」という囃子詞は、元来「船方節(出雲節)」で使っている櫓漕ぎの掛け声を転用したものといわれます(056酒田船方節の「ヤッショーマカショ」とは意味が異なるものとして解釈しました)。

 歌詞には、
 ♪目出度々々々の若松様よ 枝も(チョイチョイ)栄えて 葉も茂る(ハア ヤッショーマカショ シャンシャンシャン)
とあります。

 この「チョイチョイ」、「ハア ヤッショーマカショ シャンシャンシャン」は、

  「チオイ・チオイ」、TIOI-TIOI(tioi=shake,sway from side to side)、「(枝が)あっちへ別れ・こっちに別れる」

  「ハ・イア・チホウ・マカ・チホウ・チア・(ン)ガ・チア・(ン)ガ・チア・(ン)ガ」、HA-IA-TIHOU-MAKA-TIHOU-TIA-NGA-TIA-NGA-TIA-NGA(ha=breathe,what!,then;ia=indeed,rushing stream;tihou=an implement used for cultivating;maka=wild,active;tia=stick in,adorn by sticking in feathers;nga=satisfied,content)、「なんと・ほんとに・(鍬を振るうように手足を動かす)舞い・活発に・舞う・きれいに・花で飾った(笠を持って)・きれいに・花で飾った(笠を持って)・きれいに・花で飾った(笠を持って)」(「チホウ」のH音が脱落して「チオウ」から「ショウ」となつた)

の転訛と解します。

058大黒舞唄(だいこくまいうた)・サアーサアーサアー・ナー・コラ・ソレソレ

 毎年初春に、大黒頭巾・面を付け、派手な飾り浴衣に色染めの襷、右手に打出の小槌、左手に銭太鼓を持って、三味線・太鼓または小鼓の伴奏でにぎやかに踊る唄です。

 歌詞には、
 ♪サアーサアーサアー儲け出した儲けだしたナー コラ何がさて又儲け出したナー(ソレソレ) この家の旦那様お心良しで 商売繁盛で儲け出したナー …
と続きます。

 この「サアーサアーサアー」、「ナー」、「コラ」、「ソレソレ」は、

  「タ・タ・タ」、TA-TA-TA(ta=breathe,be uttered)、「さあお話いたしましょう・お話いたしましょう・お話いたしましょう」

  「ナ」、NA(to indicate position near or connection with the person addressed)、「なあ(それはですね)」

  「コラハ」、KORAHA(extended,open)、「その先(をお話しします)は」(H音が脱落して「コラ」となった)

  「トレ・トレ」、TORE-TORE(tore=burn,be erect(used of showing warlike feelings),split,shine,quick of the eyesight)、「(気分が高まる)わくわくしますな・わくわくしますな」

の転訛と解します。

059真室川音頭(まむろがわおんど)・コーリャ・マタ・ハア コリャコリャ・ハア ドントコイドントコイ

 真室川は最上郡西北部の町で、この唄は昭和初年この地の飛行場建設に従事した人夫達の唄う「ナット節」を聞いて土地の料亭の女将が三味線に編曲して弾き出したものといいます。そのためか、「歌詞は頗る卑俗、郷土性に乏しい」(岩波版)と評され、囃子詞は縄文語と現代語のつぎはぎとしか思えず、落着きが全くありませんが、これが代表的民謡の一つに数えられているため、仮に縄文語として解釈してみました。

 歌詞には、
 ♪わたしゃ真室川の梅の花コーリャ あなたマタこの町の鶯よ(ハア コリャコリャ)花の咲くのを待ちかねてコーリャ 蕾のうちから通て来る(ハア ドントコイドントコイ)
とあります。

 この「コーリャ」、「マタ」、「ハア コリャコリャ」、「ハア ドントコイドントコイ」は、

  「コリ・イア」、KORI-IA(kori=move,wriggle,bestir oneself,use action in oratory;ia=indeed)、「(手足を動かして)踊っ・た」

  「マタ」、MATA(adding little forceto the clauses)、「(少し強調する語)」

  「ハ・コリ・イア・コリ・イア」、HA-KORI-IA-KORI-IA(ha=breathe,what!,then;kori=move wriggle,bestir oneself,use action in oratory;ia=indeed)、「なんと・(手足を動かして)踊っ・た・踊っ・た」

  「ハ・タウ(ン)ガ・ト・コイ・タウ(ン)ガ・ト・コイ」、HA-TAUNGA-TO-KOI-TAUNGA-TO-KOI(ha=breathe,what!,then;taunga=become familiarised,become intimate;to=drag;koi=move about,good,suitable)、「そして・うまい具合に・仲良くなって・ね・うまい具合に・仲良くなって・ね」(「タウ(ン)ガ」のAU音がO音に、NG音がN音に変化して「トナ」から「ドン」となった)

の転訛と解します。

[福島県]

061田植唄・スイースイト・ヤレー・サーエー

 福島県の中通り、信夫・伊達郡地方の田植唄ですが、現在では作業唄として唄われるものは少なく、正月の田植祭などで村の古老が唄うものです。

 歌詞には、
 ♪(スイースイト)ヤレー聞こえたヤー 今日の田植の田の主さんは 大金持ちとサーエー(スイースイト)
とあります。

 この「スイースイト」、「ヤレー」、「サーエー」は、

  「ツイ・ツイ・ト」、TUI-TUI-TO(tui=pierce,sew;to=drag)、「(稲苗を田に差し込む)植えて・植えて・移動する」

  「イア・レイ」、IA-REI(ia=indeed;rei=leap,rush,run)、「さあ・(仕事に)かかれ」

  「タエ」、TAE(arrive,reach,amount to,equal)、「(田の主は大金持ちと)同じだ」

の転訛と解します。

062相馬麦搗唄(そうまむぎつきうた)・はあーこら

 相馬郡地方で麦打ちの処理が終わった後、夜鍋仕事に行われる一つの臼に二人が向かい合って横杵で搗く夜麦搗の唄です。

 歌詞には、
 ♪麦も搗けたし 寝ごろもきたし(ハアーコラ)うちの親たちア ホントニ寝ろ寝ろと(ハアーコラ)
とあります。

 この「ハアーコラ」は、

  「ハ・コラ」、HA-KORA(ha=breathe,what!,then;kora=yonder,that place at a distance)、「そして・あっち(寝床)へ(という)」()

の転訛と解します。

063相馬流れ山(そうまながれやま)・ナアーアーエ ナーアーエー・スイド・ナアーエー・スイースイド・アーノサ

 原町市の近郊、雲雀ケ原を中心に行われる「相馬野馬追い」(国指定無形文化財)行事にちなむ踊り唄です。「流れ山」の曲名は、一般に藩主相馬氏の旧領地、現千葉県流山市の地名からと解されていますが、疑問です。「野馬追い」は、相馬氏の祖、平将門が下総国小金ケ原で行った騎馬演習に起源を発するものといいます。現在は、毎年7月11日から3日間、鎧・甲冑を着けた騎馬武者が、三社(旧原町市(現南相馬市)・旧小高町(現南相馬市)・相馬市の妙見神社)の御輿にそって神旗を奪い合い、戦国時代さながらの武者絵巻を繰り広げる行事です。

 歌詞には、
 ♪相馬流れ山ナアーアーエ ナーアーエー(スイド)習いたきゃござれナアーエー(スイースイド)五月中の申ナアーアーエ ナーアーエー(スイド)アーノサお野馬追いナアーエー(スイースイド)
とあります。

 この「ながれやま」、「ナアーアーエ ナーアーエー」、「スイド」、「ナアーエー」、「スイースイド」、「アーノサ」は、

  「(ン)ガ(ン)ガレ・イア・マ」、NGANGARE-IA-MA(ngangare=quarrel;ia=indeed;ma=white,clean)、「実に・すがすがしい・争い(野馬追い行事。その唄)」(「(ン)ガ(ン)ガレ」の最初のNG音がN音に、次のNG音がG音に変化して「ナガレ」となった)

  「ナ・アエ・ナ・アエ」、NA-AE-NA-AE(na=satisfied,content,to indicate position near or connection with the person addressed;ae=yes,assent,agree)、「なあ・そうだ・そうだよ」

  「ツ・イト」、TU-ITO(tu=fight with,energetic;ito=object of revenge,enemy)、「敵と・(騎馬で)勇壮に戦う(行事。野馬追い)だ」

  「ナ・アエ」、NA-AE(na=satisfied,content,to indicate position near or connection with the person addressed;ae=yes,assent,agree)、「なあ・そうだよ」

  「ツ・イ・ツ・イト」、TU-I-TU-ITO(tu=fight with,energetic;i=past tense;ito=object of revenge,enemy)、「敵と・(騎馬で)勇壮に戦い・に・戦う(行事。野馬追い)だ」

  「アノ・タ」、ANO-TA(ano=as it were,still,again,also,just;ta=dash,beat.lay.the...of)、「(五月の中の申の)その日に・行われる」

の転訛と解します。

064相馬二遍返し(そうまにへんがえし)・ハアー・ア コラヤノヤット・ハアー イッサイコレワイパラットセ・パラットセ

 「流れ山」と同じく相馬地方の代表的民謡で、「流れ山」の軍歌に対してこれは酒盛り唄です。「二遍返し」とは、第4句の5音を反復することからと一般には解されていますが、繰り返しは他にも多くあり、不審です。この唄は、天保の大飢饉で3分の2の人口を失った相馬藩が移民奨励策としてこの唄を用い、大いに相馬の楽土たることを喧伝したことにはじまるといい(岩波版)、この唄の趣旨に関連したものと考えます。 

 歌詞には、
 ♪ハアー相馬相馬と木萱もなびく(ア コラヤノヤット)なびく木萱に花が咲く 花が咲く(ハアー イッサイコレワイパラットセ 大灘沖まで パラットセ)
とあります。

 この「にへんがえし」、「ハアー」、「ア コラヤノヤット」、「ハアー イッサイコレワイパラットセ」、「パラットセ」は、

  「ニヒ・ヘ(ン)ガ・エチ」、NIHI-HENGA-ETI(nihi,ninihi=move stealthly,come stealthly upon;henga=circumstance etc. of erring;eti=shrink,recoil)、「(世の中のなにもかもが相馬へ)静かに移動して・戻って行く(なびく)という・不思議な現象(その唄)」(「ニヒ」のH音が脱落して「ニ」と、「ヘ(ン)ガ)」が「ヘンガ」となった)

  「ハ」、HA(ha=breathe,what!,then)、「なんと」

  「ア・コラ・イア・ノ・イア・ト」、A-KORA-IA-NO-IA-TO(a=drive,urge,the...of,yes,well;kora=yonder,that place at a distance;ia=indeed;no=of,as inhabitant to country;to=drag)、「(相馬という)実に・遠い・土地へと(住民が帰るように)・実に・引き寄せられる」

  「ハ・イタ・イ・コレワ・イ・パラ・ト・タエ」、HA-ITA-I-KOREWA-I-PARA-TO-TE(ha=breathe,what!,then;ita=tight,fast;i=past tense,beside,without any special meaning at the end of a line or stanza;korewa=drifting about;para=sediment,dust;to=drag;te=crack)、「なんと・(世の中の形のある)固いもの・も・ふわふわ漂うもの・も・塵や芥まで・(相馬の地に)引き寄せられて・到着する(なびく)」(「タエ」のAE音がE音に変化して「テ」から「セ」となった)

  「パラ・ト・タエ」、PARA-TO-TAE(para=sediment,dust;to=drag;tae=arrive,come,go,extend to)、「(世の中のあらゆるものは)塵や芥まで・(相馬の地に)引き寄せられて・到着する(なびく)」(「タエ」のAE音がE音に変化して「テ」から「セ」となった)

の転訛と解します。

065相馬盆踊唄(そうまぼんおどりうた)・ハアーアーイヨー・ア コーリャコリャット・ヨー・ハアー アーア・ヤレサナー・ハア ヨーイヨーイ ヨーイトナ

 相馬地方の盆踊唄として「会津磐梯山」とともに全国に知られています。相馬民謡中もっとも威勢のいい唄です。

 歌詞には、
 ♪ハアーアーイヨー 今年ア豊年だよ(ア コーリャコリャット)穂に穂が咲いてヨー ハアー アーア道の小草にも ヤレサナー米が生るヨー(ハア ヨーイヨーイ ヨーイトナ)
とあります。

 この「ハアーアーイヨー」、「ア コーリャコリャット」、「ヨー」、「ハアー アーア」、「ヤレサナー」、「ハア ヨーイヨーイ ヨーイトナ」は、

  「ハ・アイ・イオ」、HA-AI-IO(ha=breathe,what!,then;ai=beget,procreate;io=tough,hard,obstinate)、「なんと・(稲穂が堅く)びっしりと・生ったよ」

  「ア・コリ・イア・コリ・イア・ト」、A-KORI-IA-KORI-IA-TO(a=drive,urge,the...of,yes,well;kori=move,wriggle,bestir oneself,use action in oratory;ia=indeed;to=drag)、「さあ・(舞い)踊れ・や・踊れ・や・と(誘う)」

  「イオ」、IO(tough,hard,obstinate)、「(稲穂が堅く)びっしりと」

  「ハ・ア」、HA-A(ha=breathe,what!,then;a=drive,urge,the...of,yes,well)、「なんと・そうだよ」

  「イア・レ・タ・ナ」、IA-RE-TA-NA(ia=indeed;re=see!;ta=dash,beat,lay;na=to indicate position near or connection with the person addressed)、「ほんとに・見てご覧・(道の小草に米が)生っている・よ」

  「ハ・イ・オイ・イ・オイ・イ・オイ・ト・ナ」、HA-I-OI-I-OI-I-OI-TAUNGA(ha=breathe,what!,then;i=past tense,beside;oi=shudder,move continuously as the sea,agitate;to=drag;na=to indicate position near or connection with the person addressed)、「さあ・(動いた)踊っ・た・踊っ・た・踊りを続け・よう・と(誘う)・よ」

の転訛と解します。

066新相馬節(しんそうまぶし)・ハアーアーアーアー・ヨー・ナンダコラヨーット・ハア チョーイチョーイ

 相馬地方で昔から唄われていた草刈唄(相馬節。ナンダコラヨー節)を基礎にして終戦後近代的なメロディーに編曲されたものです。

 歌詞には、
 ♪ハアーアーアーアー 遙か彼方は 相馬の空かヨー ナンダコラヨーット(ハア チョーイチョーイ)相馬恋しや なつかしやナンダコラヨーット(ハア チョーイチョーイ)
とあります。

 この「ハアーアーアーアー」、「ヨー」、「ナンダコラヨーット」、「ハア チョーイチョーイ」は、

  「ハ・ア」、HA-A(ha=breathe,what!,then;a=drive,urge,the...of,yes,well)、「なんと・そうだよ」

  「イオ」、IO(muscle.spur,ridge)、「(相馬の空と山を区切る)稜線だよ」

  「ナ・(ン)ガタ・コラ・イオ・ト」、NA-NGATA-KORA-IO-TO(na=by,belonging to;ngata=appeased,satisfied;kora=yonder,that place at a distance;io=muscle.spur,ridge;to=drag)、「あの遠くにある・稜線を・(長く)曳いている(相馬の土地が)・なんと・心が安まることか」(「(ン)ガタ」のNG音がN音に変化して「ナタ」から「ンダ」となった)

  「ハ・チオイ・チオイ」、HA-TIOI-TIOI(ha=breathe,what!,then;tioi=shake,sway from side to side)、「(心が)揺れる・揺れる」

の転訛と解します。

067かんちょろりん節・オーイオイ・サ・カンチョロリン・ノーノサイ・トコイッサイノーサ・トッテンチロリン・チンチロリンノ シャンシャンシャン

この唄の二番以降の歌詞は、すべてからすととんびが主題となつており、「とんびからすの舞」という踊りの振りも付き、もともとは「わらべ唄」の一種であったのではないか(角川版)とされますが、歌詞の意味からすると疑問です。

 歌詞には、
 ♪オーイオイ おらが相馬のかんちょろりん節はよ
  男子(おご)らのサ カンチョロリン 和子(わこ)らのノーノサイ 歌始めよ
  トコイッサイノーサ カンチョロリン トッテンチロリン チンチロリンノ シャンシャンシャン
 ♪オーイオイ 啼くなからすよ 騒ぐなとんびよ
  おらが家のサ カンチョロリン わらしこのノーノサイ 目を覚ますよ
  トコイッサイノーサ カンチョロリン トッテンチロリン チンチロリンノ シャンシャンシャン
とあります。

 この「オーイオイ」、「サ」、「カンチョロリン」、「ノーノサイ」、「トコイッサイノーサ」、「トッテンチロリン」、「チンチロリンノ シャンシャンシャン」は、

  「オイ・オイ」、OI-OI(oi=shudder,move continuously as the sea,agitate)、「騒げや・騒げ」

  「タ」、TA(the...of,dash,beat,lay)、「この」

  「カ(ン)ガ・チオロ・リ(ン)ギ」、KANGA-TIORO-RINGI(kanga=ka=take fire,be lighted,burn;tioro=tingle,be jarred,screem;ringi=pour out,throw in great numbers,shower)、「火がついたような(元気の良い)・歓声を・いっぱい振りまく(騒ぎ)」(「カ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「カナ」から「カン」と、「リ(ン)ギ」のNG音がN音に変化して「リニ」から「リン」となった)

  「ノフノフ・タイ」、NOHUNOHU-TAI(nohunohu=unpalatable,nauseous;tai=tide,anger,rage,violence)、「悪名高い・ばか騒ぎ」(「ノフノフ」のH音が脱落して「ノウノウ」から「ノーノ」となつた)

  「トコ・イ・タイ・ノホ・タ」、TOKO-I-TAI-NOHO-TA(toko=propel with a pole,begin to move,swell;i=past tense,beside;tai=tide,anger,rage,violence;noho=stay,settle;ta=the...of,dash,beat,lay)、「ばか騒ぎを・脇に・押し出して・この(「かんちょろりん」)が・ある」(「ノホ」のH音が脱落して「ノオ」となった)

  「ト・テナ・チロ・リ(ン)ギ」、TO-TENA-TIRO-RINGI(to=drag;tena=that,this,encourage,urge forward;tiro=look,survey,examine;ringi=pour out,throw in great numbers,shower)、「この・吟味した・(歓声を)いっぱい振りまくことを・しよう」(「テナ」が「テン」と、「リ(ン)ギ」のNG音がN音に変化して「リニ」から「リン」となった)

  「チノ・チロ・リ(ン)ギ・ノホ・チア(ン)ガ・チア(ン)ガ・チア(ン)ガ」、TINO-TIRO-RINGI-NOHO-TIANGA-TIANGA-TIANGA(tino=essentiality,reality;tiro=look,survey,examine;ringi=pour out,throw in great numbers,shower;noho=stay,settle;tianga=mat to lie on)、「ほんとうに・吟味した・(歓声を)いっぱい振りまいて・(「かんちょろりん」の)敷物を・敷物を・敷物を・あたり一面に敷こう」(「リ(ン)ギ」のNG音がN音に変化して「リニ」から「リン」と、「チア(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「チアナ」から「シャン」となった)

の転訛と解します。

068会津磐梯山(あいづばんだいさん)・カンショ踊り・エイヤー・コラ・ヨイト・エーマター・スッチョイ

 これは昭和10年頃小唄勝太郎がレコード化したときに附けた曲名で、地元では単に「盆踊唄」とし、踊りを「カンショ踊り」と呼びます。「カンショ」とは、方言で狂人じみた、熱狂的なことの意とされます。明治初年頃越後からきた油絞りの職人が唄と踊りを伝えたといいます。

 歌詞には、
 ♪エイヤー 会津磐梯山は 宝の コラ山よ(ヨイトヨイト)笹に黄金がエーマター なりさがる(ハ スッチョイ スッチョイ スッチョイナ)
とあります。

 この「カンショ(踊り)」、「エイヤー」、「コラ」、「ヨイトヨイト」、「エーマタ」、「ハ スッチョイ スッチョイ スッチョイナ」は、

  「カ(ン)ガ・チオ」、KANGA-TIO(kanga=curse,abuse,rxecrate;tio=cry,call)、「(気が狂ったように人を)ののしり・叫ぶ(踊り)」(「カ(ン)ガ」のNG音かN音に変化して「カナ」から「カン」と、「チオ」が「チョ」から「ショ」となった)

  「アイア」、AIA(=kaitoa=expressing satisfaction or complacency at any event,it is good etc.)、「いいな」(AI音がE音に変化して「エア」から「エヤ」となつた)

  「コラ」、KORA(yonder,that place at a distance)、「あの遠い(山・磐梯山)」

  「イオ・イ・タウ」、IO-I-TAUI-OI-TAU(io=muscle,spur,ridge;i=past tense;tau=alight,come to rest,be suitable)、「(磐梯山の)峰が・ゆつたりとそびえて・いる」(「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」となつた)

  「エ・マタ」、E-MATA(e=calling attention or expressing surprise;mata=flint,quartz,obsidian,particle adding little force to the clause sometimes may be translated just)、「(驚くことに)なんと・(宝石のような)金が(笹に生る)」

  「ハ・ツ・チオイ・ツ・チオイ・ツ・チオイ・ナ」、HA-TU-TIOI-TU-TIOI-TU-TIOI-NA(ha=breathe,what!,then;tu=stand,settle,fight with,energetic;tioi=shake,sway from side to side;na=to indicate position near or connection with the person addressed)、「なんと・(磐梯山は爆発を起こして)激しく・振動する・激しく・振動する・激しく・振動する・よ」(「ツ」が「ス」と、「チオイ」が「チョイ」となった)

の転訛と解します。

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[関東地方]

[茨城県]

071田植唄(たうえうた)・ハエー・エ・ハアヤレコラー・ハ チョイ・ハエトー・アー・チョイチョイト・ハ ヤレヤレー・ハ

 この田植唄は、霞ヶ浦沿岸、恋瀬川流域の水田地帯、特に新治郡三村(現石岡市)地方に伝承されていた古調のもので、五尺手拭・潮来出島・八重桜の三種があります。

 歌詞には、

 (五尺手拭)(甲)♪ハエーそれでは出ますぞー 五尺手拭エ中そめて
 (乙)♪ハアヤレコラー 染めもエそめだよ(ハ チョイ)ハエトー鹿の子染め

 (潮来出島)(甲)♪ハ ヤレコラー 潮来出島のよれ真菰
 (乙)♪アー 殿に刈らせて(チョイチョイト)おれささぐ

 (八重桜)♪ハ ヤレヤレー 笠間佐白のエー ハ八重桜エ

とあります。

 この「ハエー」、「エ」、「ハア(ハ)ヤレコラー」、「ハ チョイ」、「ハエトー」、「アー」、「チョイチョイト」、「ハ ヤレヤレー」、「ハ」は、

  「ハエ」、HAE(split,appear,shine)、「(私が)登場します」

  「エ」、E(calling attention or expressing sutprise)、「ご注意あれ」

  「ハ・イア・レ・コラ」、HA-IA-RE-KORA(ha=breathe,what!,then;ia=indeed;re=see!;kora=yonder,that place at a distance)、「なんと・よく・遠く(あの鹿の子染めの手ぬぐい、または潮来出島のよれ真菰)を・ご覧なさい」

  「ハ・チホイ」、HA-TIHOI(ha=breathe,what!,then;tihoi=diverge,wander,unsettled)、「なんと・(染め)斑がある」(「チホイ」のH音が脱落して「チオイ」から「チョイ」となった)

  「ハ・エト」、HA-ETO(ha=breathe,what!,then;eto=lean,attenuated)、「なんと・(色が)薄くなつている」

  「ア」、A(drive,urge,the...of,yes,well)、「そうだ」

  「チオイ・チオイ・ト」、TIOI-TIOI-TO(tioi=shake,sway from side to side;to=drag)、「あっちで刈りこっちで刈り・あっちで刈りこっちで刈り・して」

  「ハ・イア・レ・イア・レ」、HA-IA-RE-IA-RE(ha=breathe,what!,then;ia=indeed;re=see!)、「なんと(美しいこと)・よく・ご覧・よく・ご覧なさい」

  「ハ」、HA(breathe,what!,then)、「なんと(美しいこと)」

の転訛と解します。

072常磐炭坑節(じょうばんたんこうぶし)・ハアー・ヨー・ナイ・ハ ヤロ ヤッタナイ・ドント

 鉱山節ともいい、元来常磐炭田地方の石炭坑夫や選鉱作業に従事した女工達によつて唄われたものですが、現在では全国各地に共通の鉱山唄として、またお座敷唄として唄われます。

 歌詞には、
 ♪ハアー 朝の六時からヨー カンテラ下げてナイ(ハ ヤロ ヤッタナイ)坑内通いもヨー ドント主のためナイ(ハ ヤロ ヤッタナイ)
とあります。
 歌詞の「ヤロ ヤッタナイ」は、関東独特の語で、「野郎、やりやがったな」の意と解する向き(岩波版)がありますが、この囃子詞にはそのような侮蔑、非難またはからかいの意は感じられず、むしろ賞賛、同感または詠嘆の意が感じられ、疑問です。

 この「ハアー」、「ヨー」、「ナイ」、「ハ ヤロ ヤッタナイ」、「ドント」は、

  「ハ」、HA(breathe,what!,then)、「なんと」

  「イ・オ」、I-O(i=past tense;o=find room,be capable of being contained or enclosed,get in)、「(仕事に)出かけ・た」

  「ナイ」、NAI(=nei=used after words and phrases to denote prokimity to or connection with the speaker)、「ね」

  「ハ・イア・アロ・イア・タ・ナイ」、HA-IA-ARO-IA-TA-NAI(ha=breathe,what!,then;ia=indeed;aro=face,desire.attend to;ta=dash,beat,lay;nai=nei=used after words and phrases to denote prokimity to or connection with the speaker)、「なんと・ほんとに・志願して・(厳しい仕事に)取り組んだ・ね」(「イア」のA音と「アロ」の語頭のA音が連結して「ヤロ」となった)

  「トヌ・ト」、TONU-TO(tonu=denoting continuance,continuously,just,only;to=drag,dive)、「(厳しい仕事に)飛び込んで・続けているよ」(「トヌ」が「トン」から「ドン」となった)

の転訛と解します。

073磯節(いそぶし)・ハア テヤテヤテヤテヤ・リンリン・ドンドン・ハアーサイショネ・イソー・ちゃんころ

 江戸時代からの常陸海岸の舟唄(櫓漕唄)を基にして作られたお座敷唄です。

 歌詞には、
 (囃子)♪ハア テヤテヤテヤテヤ いささかリンリン 好かれちゃドンドン ハアーサイショネ
 (唄)♪磯で名所は 大洗さまよ(ハア サイショネ)松が見えます ほのぼのと 松がネ見えます イソー ほのぼのと
 (後囃子)♪テヤテヤテヤ いささかリンリン 好かれちゃドンドン 青菜の性(しょう)ならしおれてこい 芸妓(げいしゃ)の性なら褄とってこい お客の性なら毎晩来い 一日合わなきゃお父つぁんも心配 おっ母さんも心配 ともに私も イソ ご心配
とあります。
 囃子詞の「テヤテヤ」は漁師が鰹を釣るときの掛け声「トーイヤトーイヤ」の転と、歌詞の中の「船はちゃんころでも 炭薪ア積まぬ …」の「ちゃんころ」とは小さくて立派でないことと解されています。

 この「ハア テヤテヤテヤテヤ」、「リンリン」、「ドンドン」、「ハアーサイショネ」、「イソー」、「ちゃんころ」は、

  「テアテア」、TEATEA(white,apprehensive,afraid)、「怖い怖い(心配だ)」(「テア」が「テヤ」となつた)

  「リノ・リノ」、RINO-RINO(rino=swirl,eddy,twist)、「(男女が)もつれに・もつれる(間柄になる)」(「リノ」が「リン」となつた)

  「ト(ン)ガ・ト(ン)ガ」、TONGA-TONGA(tonga=chilled,frozen)、「ぞっとするぞっとする」(「ト(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「トナ」から「トン」、「ドン」となった)

  「ハ・タイ・チオ・ネイ」、HA-TAI-TIO-NEI(ha=what!;tai=the sea,tide,wave;tio=cry,call;nei=particle used after words and phrases to denote proximity to or connection with the speaker)、「なんと・波の・音が高い・のね」

  「イ・タウ」、I-TAU(i=at,by,from,beside,by reason of;tau=come to rest,float,lie steeping in water,be suitable,lover,darling)、「(松が)海岸に・連なっている」または「恋人の・(姿を見せない)理由が(心配だ)」(「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」から「ソ」となった)

  「チア(ン)ゴ・コロ」、TIANGO-KORO(tiango=shrunk,contracted;koro=old man,father)、「皺が寄り・年を取った(男のような。老朽船)」(「チア(ン)ゴ」のNG音かN音に変化して「チアノ」から「チャン」となった)

の転訛と解します。

074潮来音頭(いたこおんど)・アリャサー・ションガーイー・ざんざら

 水郷として知られる潮来地方の名物「あやめ踊り」に用いられる唄です。

 歌詞には、
 ♪揃た揃たよ 踊り子がそろた(アリャサー)秋の出穂より よくそろた(ションガーイー)
 (返し)よくそろた 秋の出穂より よくそろた(ションガーイー)
とあります。

 この「アリャサー」、「ションガーイー」、「ざんざら」は、

  「アリア・タ」、ARIA-TA(aria=appear,be seen indistinctly,resembrance;ta=dash,beat,lay)、「(踊り子が揃って)踊っているのが・見える」

  「チオ・(ン)ガイ」、TIO-NGAI(tio=cry,call;ngai=tribe or clan)、「叫ぶ・ような大声で精一杯唄う」(「チオ・(ン)ガイ」が「チオンガイ」から「ションガイ」となった)

の転訛と解します。

075潮来甚句(いたこじんく)・アラヨイヨイヨー・ヤンレ・ヨイヨイ ヨイヤサー・ざんざら

 この唄も、074潮来音頭と同じく水郷として知られる潮来地方の名物「あやめ踊り」に用いられる唄です。

 歌詞には、
 ♪揃うた揃うたよ 足拍子に手拍子(アラヨイヨイヨー) 秋の出穂よりヤンレ よくそろた(ヨイヨイ ヨイヤサー)
とあります。
 歌詞に中に「潮来出島のざんざら真菰」の語があります。(「ざんざら笠」とは、菅笠の一種で、編み上げた菅の末を切り揃えずに頂に出したものをいいました。)

 この「アラヨイヨイヨー」、「ヤンレ」、「ヨイヨイ ヨイヤサー」、「ざんざら」は、

  「アラ・イ・オイ・イ・オイ・イ・オ」、ARA-I-OI-I-OI-I-O(ara=and then,yonder,rise up,expressing surprise etc.;i=past tense;oi=shudder,move continuously as the sea,agitate;o=find room,be capable of being contained or enclosed,get in)、「よく(揃って)・(動いた)踊っ・て・踊っ・て・踊りを・見せているよ」

  「イアナ・レ」、IANA-RE(iana=then;re=see!)、「さあ・見てご覧」(「イアナ」が「ヤナ」から「ヤン」となった)

  「イ・オイ・イ・オイ・イ・オイ・イア・タ」、I-OI-I-OI-I-OI-IA-TA(i=past tense;oi=shudder,move continuously as the sea,agitate;ia=indeed;ta=dash,beat,lay)、「(動いた)踊っ・て・踊っ・て・踊っ・て・精一杯・取り組んでいるよ」

  「タ(ン)ガ・タラ」、TANGA-TARA(tanga=be assembled;tara=point,rough(tatara=fence,a shrub))、「叢生している・粗い(葉を持つ植物。真菰など)」(「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「サン」、「ザン」となった)(転じて「粗い(葉を持つ植物。菅を)・束ね(て作っ)たもの(笠)」の意にも)

の転訛と解します。

[栃木県]

081草刈唄・ヨー

 宇都宮の北方焼く三里の河内郡篠井村地方で朝草刈りにでかける馬上などで唄われたもので、草刈唄であるとともに山行き唄であり、馬子唄でもあります。

 歌詞には、
 ♪障子あければ門前田中ヨー 何故か篠井はヨー 山の陰
とあります。

 この「ヨー」は、

  「イ・オ」、I-O(i=at,by,from,beside,by reason of;o=find room,be capable of being contained or enclosed,get in)、「(土地が)そこに・ある」

の転訛と解します。

082日光和楽踊(にっこうわらくおどり)・ハアーアーエー・ハ ヨイヨイト・アレサヨー・ヨイヨイヨヤサ

 この唄は、足尾銅山日光精銅所で大正初年に、天皇・皇后両陛下の行幸啓を仰いだ時、同地方に伝わる盆踊を「和楽踊」の名で天覧に供したもので、元来は越後方面の甚句が関東に入って変化したものと言われます。

 歌詞には、
 ♪ハアーアーエー 一と目見せたや(ハ ヨイヨイト)故郷の親に 和楽踊の アレサヨー この姿(ヨイヨイヨヤサ)
とあります。

 この「ハアーアーエー」、「ハ ヨイヨイト」、「アレサヨー」、「ヨイヨイヨヤサ」は、

  「ハ・アエ」、HA-AE(ha=breathe,what!,then;ae=yes,assent,agree)、「さあ・そうだ」

  「ハ・イ・オイ・イ・オイ・ト」、HA-I-OI-I-OI-TO(ha=breathe,what!,then;i=past tense;oi=shudder,move continuously as the sea,agitate;to=drag)、「さあ・(動いて)踊っ・て・踊っ・て・踊っ・て・(と誘う)と」

  「ア・レ・タイオ」、A-RE-TAIO(a=drive,urge,what!,yes,well;re=see!;taio=lock of hair)、「さあ・見なさい・(この髷)晴れ姿を」(「タイオ」が「サヨ」となった)

  「イ・オイ・イ・オイ・イ・オイ・イア・タ」、I-OI-I-OI-I-OI-IA-TA(i=past tense;oi=shudder,move continuously as the sea,agitate;ia=indeed;ta=dash,beat,lay)、「(動いた)踊っ・て・踊っ・て・踊っ・て・精一杯・取り組んでいるよ」

の転訛と解します。

[群馬県]

091坐繰製糸唄(ざぐりせいしうた)・カネ

 旧勢多郡桂萱(かいがや)村(現前橋市)や前橋市一帯で唄われた手回し坐繰機による製糸唄です。糸引唄、糸取唄、糸挽唄、糸繰唄、座繰唄ともいいました。この地方の坐繰り製糸は、明治20年頃から37、8年頃までが最盛期で、この唄もこの頃のものです。

 歌詞には、
 ♪送りましょうか 送られましょうか せめて比刀根の橋までもカネ
とあります。
 上記の「カネ」は一種の上州訛と解されています。

 この「カネ」は、

  「カネヘ」、KANEHE(desire,regretful,yearning)、「(送り送られ)たいね」(H音が脱落して「カネ」となった)

の転訛と解します。

092八木節(やぎぶし)・アーアアーアー・オーイサネー・さんかくやろ

 群馬県桐生市・新田郡・山田郡・邑楽郡および栃木県足利市などで盛んに唄われる盆踊り唄です。幕末の頃、新田郡木崎宿(現太田市の旅籠にいた新潟生まれの飯盛女が歌い出した「新保(しんぽ)広大寺(こだいじ)くずし」(クドキ節)が、土地の人気を博して盆踊唄となったものです。たまたま八木宿(現足利市)に近い山辺村字堀込の渡辺源太郎(堀込源太)が書法へ唄い広めたことから「八木節」とも「源太節」とも呼ばれるようになり、特に大正12年の関東大震災前に全国的に流行しました。

 歌詞には、
 (唄い出し)♪アーアアーアーさても一座の皆様方よ わしのようなる三角野郎(さんかくやろ)が 四角四面の櫓の上で 音頭取るとは憚りながら しばし御免を蒙りまして 何か一言読み上げまする 文句違いや仮名間違いは 平にその儀はお許しなされ 許しなされば文句にかかるがオーイサネー
とあります。(本唄および唄い納めも同様です。)

 この「アーアアーアー」、「オーイサネー」、「さんかくやろ」は、

  「ア」、A(drive,urge,the...of,as far as,and,then,yes,well)、「さあさあ」

  (唄い出しおよび本唄)「オイ・タネ」、OI-TANE(oi=shout,shudder,move continuously,agitate;tane=male,showing manly qualities)、「男らしく・唄いますぞ」
  (唄い納め)「オイ・タネ」、OI-TANE(oi=heoi=denoting completeness or sufficiency of a statement or enumeration;tane=male,showing manly qualities)、「男らしく・(唄い)納めますぞ」

  「タ(ン)ガ・カク・イア・アロ」、TANGA-KAKU-IA-ARO(tanga=be assembled;kaku=scrape up,bruise;ia=indeed;aro=face,desire.attend to)、「欠点・だらけだが・唄いたくて・しょうがない(男)」(「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「サン」と、「イア」の語尾のA音と「アロ」の語頭のA音が連結して「ヤロ」となった)

の転訛と解します。

093草津節(くさつぶし)・ア ドッコイショ・コリャ・チョイナ チョイナー

 草津温泉の時間湯という入浴法の際に、浴客が幅1尺、長さ6尺余の厚板で湯をもみながら唱和する唄で、「湯もみ唄」ともいいます。この唄は、次の「094草津湯もみ唄」と同じく、大正7年以降、鹿島灘の沿岸で唄われていた「げんたか節」という漁師唄が変化したものとされます。関東大震災から昭和初年にかけて流行しました。

 歌詞には、
 ♪草津よいとこ 一度はおいで(ア ドッコイショ)お湯の中にもコーリャ花が咲くヨ(チョイナ チョイナ)
とあります。

 この「ア ドッコイショ」、「コリャ」、「チョイナ チョイナ」は、

  「ア・ト・コイ・チホウ」、A-TO-KOI-TIHOU(a=drive,urge,the...of,as far as,and,then,yes,well;to=drag;koi=move about;tihou=an implement used for cultivating)、「さあさあ・(湯温を下げるための湯もみ板を)引いて・動かして・(鍬で土を耕すように湯を)細かく混ぜる」(「チホウ」のH音が脱落して「チオウ」から「ショ」となった)

  「コリ・イア」、KORI-IA(kori=move,bestir oneself;ia=indeed)、「実に・(湯の中から)自然に湧いて出てくる」

  「チオイ・ナ・チオイ・ナ」、TIOI-NA-TIOI-NA(tioi=shake,sway from side to side;na=particle used after words and clauses to indicate position near or connection with the person addressed)、「(湯温を下げるための湯もみ板を)左右に動かそう・よ・左右に動かそう・よ」(「チオイ」が「チョイ」となった)

の転訛と解します。

094草津湯もみ唄・ヨーオホ ホーオイ・ヨー・ハ ヨイヨイ・トカヨー

 現地ではこの歌を「草津節」と称し、また「草津ヨホホイ(節)」ともいいます。この唄は、もと西国放免からきた舟唄とされます。

 歌詞には、
 ♪草津恋しやヨーオホ ホーオイあの湯煙にヨー(ハ ヨイヨイ)浮いた姿がヨーオホ ホーオイ眼に残るトカヨー
とあります。

 この「ヨーオホ ホーオイ」、「ヨー」、「ハ ヨイヨイ」、「トカヨー」は、

  「イ・オ・ハウ・ハウ・オイ」、I-O-HAU-HAU-OI(i=past tense;o=find room,be capable of being contained or enclosed,get in;hau=wind,breath,dew,moisture,vitality of man;oi=shout,shudder,move continuously,agitate)、「湧き・立った・湯煙が・湯煙が・動いた」(「ハウ」のAU音がO音に変化して「ホ」となった)

  「イ・オ」、I-O(i=past tense;o=find room,be capable of being contained or enclosed,get in)、「(湯煙が)湧き・立った」(「イ・オ」が「ヨ」となった)

  「ハ・イ・オイ・イ・オイ」、HA-I-OI-I-OI(ha=breathe,what!,then;i=past tense;oi=shudder,move continuously as the sea,agitate)、「そして・(湯煙が)動い・た・動い・た」

  「トカ・イ・オ」、TOKA-I-O(toka=overflow,stone,firm,satisfied,wait;i=past tense;o=find room,be capable of being contained or enclosed,get in)、「(人の姿が)しっかりと(くっきりと)・動いて・見えた」

の転訛と解します。

[埼玉県]

101川越舟唄(かわごえふなうた)・ハアー・ア エー・アイヨノヨー・もや

 藩政時代に武藏国川越と江戸の間の河川交通で唄われた唄です。夜更け時に船頭が眠気覚ましに唄ったもので「川越夜船の船頭唄」ともいいました。川越の新河岸川から荒川を下って浅草の花川戸へ着くまで九十九曲り、三十里といわれました。

 歌詞には、
 ♪ハアー九十ヨー九曲りア エーあだでは越せぬ(アイヨノヨー)通い舟路の三十里(アイヨノヨトキテ夜下りカイ)
とあります。歌詞の中には「着いた着いたよ新河岸橋へ 主も出て取れおもてもや」があり、「おもて」は舟の舳先、「もや」は舫(もやい)綱の意と解されています。

 この「ハアー」、「ア エー」、「アイヨノヨー」、「もや」は、

  「ハ」、HA(breathe,what!,then)、「さて」

  「アエ」、AE(yes,assent,agree)、「そうだよ」

  「ア・イ・オ・ノ・イ・オ」、A-I-O-NO-I-O(a=drive,urge,the...of,as far as,and,then,yes,well;i=past tense;o=find room,be capable of being contained or enclosed,get in;no=of)、「そうだとも(承知した)・(馴染みの下へ)行く気に・なった・とも・行く気に・なつた」(「ア・イ・オ」が「アイヨ」と、「イ・オ」が「ヨ」となつた)

  「マウ・イアイア」、MAU-IAIA(mau=fixed,continuing,caught;iaia=sinews,veins)、「(舟を)固定する・(腱のような)綱(舫(もやい)綱)」(「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」と、「イアイア」の反復語尾が脱落して「イア」から「ヤ」となつた)

の転訛と解します。

102秩父音頭(ちちぶおんど)・ハアーアーエ・コラショ・ナアーアーエ・アレサ・ヨーイヨーイヨーイヤサ

 秩父郡一帯で唄われた盆踊唄で、かつては「秩父豊年踊」と呼ばれていたものです。この唄は、百年ほど前に上州方面から流入したとも、古くからあった盆踊唄を改作したともいわれます。

 歌詞には、
 ♪ハアーアーエ 鳥も渡るか あの山越えて 鳥も渡るか あの山越えて(コラショ)
  雲のナアーアーエ 雲のさわ立つ アレサ奥秩父(ヨーイヨーイ ヨーイヤサ)
とあります。

 この「ハアーアーエ」、「コラショ」、「ナアーアーエ」、「アレサ」、「ヨーイヨーイ ヨーイヤサ」は、

  「ハ・アエ」、HA-AE(ha=what!;ae=calm,yes)、「なんと・そうだよ」

  「コラ・チオ」、KORA-TIO(kora=yonder,that place at a distance;tio=sharp,rock-oyster)、「あの遠くの・(岩牡蠣のような)ごつごつした険しい山(を越えて)」(「チオ」が「ショ」となった)

  「ナ・アエ」、NA-AE(na=satisfied,content,by,belonging to;ae=calm,yes)、「ほんとに・そうだよ」

  「アレ・タ」、ARE-TA(are=what!,open;ta=dash,beat,lay)、「なんと・そこにある(奥秩父の土地)」

  「イオ・イ・イオ・イ・イオ・イ・イア・タ」、IO-I-IO-I-IO-I-IA-TA(io=muscle,spur,ridge;i=beside,past tense;ia=indeed;ta=dash,beat,lay)、「山・(のそば)・山(のそば)・山・の中に・ほんとに・(奥秩父の土地が)あるよ」

の転訛と解します。

103とのさ節・サーエー・ストンコドッコイ・ヤーレー

 この曲名は、冒頭の「殿さ」によります。「新保広大寺くずし」の系統に属するとされます。

 歌詞には、
 ♪殿さサーエー おらが殿さは牡丹餅が好きで 夕べ九つまた今朝七つ 一つ残して袂へ入れて 馬に乗るとてストンコドッコイ落とし 取るにゃ取られぬ捨てるにゃ惜しや 御縁あるなら転がってこやおはぎヤーレー
とあります。

 この「サーエー」、「ストンコドッコイ」、「ヤーレー」は、

  「タエ」、TAE(arrive come go,proceed to)、「いらっしゃった」

  「ツ・ト(ン)ガコ・ト・コヒ」、TU-TONGAKO-TO-KOHI(tu=stand,settle;tongako=be scabbed,fester;to=drag;kohi=diarrhoea)、「(望まないのに)おでき(腫瘍)が・できるように・下痢を・引き起こした(身体から物を落とした)」(「ト(ン)ガコ」のNG音がN音に変化して「トナコ」から「トンコ」と、「コヒ」のH音が脱落して「コイ」となった)

  「イア・レイ」、IA-REI(ia=indeed;rei=rush,run)、「実に・(懐から)飛び出した」

の転訛と解します。

[千葉県]

111小念仏(こねんぶつ)・ハ ヤレソーリャ

 小念仏は、毎年旧3月21日の弘法大師忌(正御影供)に千葉・茨城の真言宗寺院で催される集団的歌舞です。もとは素朴な農民芸で、娯楽行事であったのが、後に栃木・埼玉の飴売芸が加わって興行化し、「細田の川」、「木更津そうだよ(ノホホン節)」、「広大寺和尚」、「笠松峠」、「日高川」、「白桝粉屋」、「高砂そうだよ」、「おいとこそうだよ」などの曲があります。とくに、「高砂そうだよ」は、元来祝儀唄として手拍子でのみ唄われてきたものです。

 「高砂そうだよ」の歌詞には、
 ♪ハ ヤレソーリャそうだよ 国はヨイ播州所は高砂尾上の松だよ エこのや下には八十と余になる 高砂お尉(じい)さんと尾上のお姥(ばあ)さんが …
と続きます。

 この「ハ ヤレソーリャ」は、

  「ハ・イア・レ・タウリア」、HA-IA-RE-TAURIA(ha=what!;ae=calm,yes;ia=indeed;re=see!;tauria=tau=come to rest,settle down,be suitable)、「なんと・ほんとに・ご覧あれ・(高砂の尉と姥が)安楽に暮らしていたとさ」(「タウリア」のAU音がO音に変化して「トリア」から「ソリャ」となった)

の転訛と解します。

112木更津甚句(きさらづじんく)・ヤッサイ モッサイ ヤレコリャドッコイ コリャコーリャ・ア シタソリャ シタソリャ シタソリャサ

 木更津節ともいわれ、江戸末期の安政頃木更津出身の柳勢という落語家が高座で歌い出した甚句調唄といわれます。

 歌詞には、
 ♪ハアー木更津照るとも 東京は曇れ かわい男が ヤッサイ モッサイ ヤレコリャドッコイ コリャコーリャ 日に焼ける(ア シタソリャ シタソリャ シタソリャサ)
とあります。

 この「ヤッサイ モッサイ ヤレコリャドッコイ コリャコーリャ」、「シタソリャ シタソリャ シタソリャサ」は、

  「イア・タイ・マウ・タイ・イア・レイ・コリ・イア・ト・コイ・コリ・イア・コリ・イア」、IA-TAI-MAU-TAI-IA-REI-KORI-IA-TO-KOI-KORI-IA-KORI-IA(ia=indeed;tai=tide,anger,rage,violence;mau=carry,take up,fixed,continuing,caught;rei=rush,run;kori=move wriggle,bestir oneself;to=drag,be pregnant,the...of;koi=move about,good,suitable)kori=move wriggle,bestir oneself)、「実に・荒々しい(男だ)・いつも・荒々しい(男だ)・実に・(よく)走り・実に・(よく)動く・いい・男・実に・動くこと・動くこと」

  「ア・チ・タタウ・リア・チ・タタウ・リア・チ・タタウ・リア・タ」、A-TI-TATAU-RIA-TA(a=drive,urge,the...of,as far as,and,then,yes,well;ti=throw,castovercome;tatau=tie with a cord,settle down upon,quarrel;ria=screening,protecting;ta=dash,beat,lay)、「力を込めて・(男を)押さえて・動けなくして・大事に面倒を見て・押さえて・動けなくして・大事に面倒を見て・押さえて・動けなくして・大事に面倒を見て・据えて置く)」(「チ」が「シ」と、「タタウ」のAU音かO音に変化して「タト」から「タソ」となつた)

の転訛と解します。

113銚子大漁節(ちょうしたいりょうぶし)・ハア コリャコリャ・まね・八手(はちだ)・沖合(おけす)

 銚子大漁節は、元治元(1864)年の春銚子で鰯の大漁があったときに作られたと伝えられ、九十九里浜一帯で歌われていたものが、明治大正期に全国を風靡したものです。

 歌詞には、
 ♪一つトセー 一番づつに積み立てて 川口押し込む大矢声 この大漁船(ハア コリャコリャ)
と続きます。

 三番の歌詞の「三つとせ 皆一同にまねをあげ …」の「まね」は岩波版は「大漁を浜に知らせる合図(の旗)」と、角川版は「大漁を表示するため帆にあげる目標である。神社の御手洗の屋根に下がっている手ぬぐいを「マネ」(招)というから、その形が似ているのでそういったものだろう」とします。
 八番の歌詞の「八つとせ 八手(はちだ)の沖合(おきあい。おけす)若い衆が…」の八手は八手網(やつであみ。二隻以上の漁船による敷網漁法)で昔は八手(はちだ)網といい、「沖合」は船頭(今は漁労長)をいいました。

 この「ハア コリャコリャ」、「まね」、「はちだ」、「おけす」は、

  「ハ・コリ・イア・コリ・イア」、HA-KORI-IA-KORI-IA(ha=what!;kori=move wriggle,bestir oneself)、「なんと・実に・(網の中で鰯が)うごめいていること・うごめいていることよ」または「ハ・コリア・コリア」、HA-KORIA-KORIA(ha=what!;koria=young kahawai(Arripis trutta))、「なんと・(東オーストラリア産サーモンの稚魚のような)鰯だ・鰯だ」(「コリア」が「コリャ」となった)

  「マネア」、MANEA(talisman)、「(大漁祈願の)護符」(語尾のA音が脱落して「マネ」となつた)

  「パチ・タ」、PATI-TA(pati=shallow;ta=dash,beat,lay)、「(表層を回遊する鰯の群れを狙って)浅い(海を)・曳く(網)」(「パチ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハチ」となった)

  「オケ・ツ」、OKE-TU(struggle,put force one's strength,be eager;tu=fight with,energetic)、「力の限りを尽くして・(魚群と)格闘する者(船頭・漁労長など)」

の転訛と解します。

[東京都]

121武蔵野麦打唄(むさしのむぎうちうた)・ホイ ホイ ホイ

 棒打唄またはホイホイ節ともいい、小麦の生産地である武蔵野台地一帯で唄われる麦の穂打ち唄です。

 歌詞には、
 (甲)♪一七八の 麦打は(ホイ ホイ ホイ)
(乙)♪くるり棒が 折れるか芒(のげ)が 折れるか(ホイ ホイ ホイ)
とあります。

 この「ホイ ホイ ホイ」は、

  「ホ・オイ・ホ・オイ・ホ・オイ」、HO-OI-HO-OI-HO-OI(ho=pout,shout;oi=shout,shudder,move continuously,agitate)、「叫びながら・(くるり棒で麦を)打ち続けるよ・叫びながら・打ち続けるよ・叫びながら・打ち続けるよ」(「ホ」のO音と「オイ」の語頭のO音が連結して「ホイ」となった)

の転訛と解します。

122佃島盆踊唄(つくだじまぼんおどりうた)・ソラ ヤートセー ヨーイヤナ コラショ・エ・ア コラショ・のぼう

 中央区佃島に遺存する古風な盆踊唄です。徳川家康江戸入府の際、兵糧運搬の功により土地と漁業権を賜った森幸右衛門薹三十三人衆が、京都本願寺の「チンバ踊」を伝えたものといいます。毎年7月住吉神社の境内で踊る一種の念仏踊りです。

 歌詞には、
 ♪(ソラ ヤートセー ヨーイヤナ コラショ)エ人も草木も エ盛りは花よ(ア コラショ)
  エ人も草木も エ盛りは花よ(ソラ ヤートセー ヨーイヤナ コラショ)
 (クドキ)心しぼまず勇んで踊れ 思い草ならのぼうで囃せ …
とあります。この「思い草」は「物思いの種」、「すすき」の異名、「のぼう」は「野土」の意の方言、「囃せ」に「生やせ」を掛けたか(岩波版)とされます。

 この「ソラ ヤートセー ヨーイヤナ コラショ」、「エ」、「ア コラショ」、「のぼう」は、

  「トラ・イア・タウテ・イ・オイ・イアナ・コラハ・チオ」、TORA-IA-TAUTE-I-OI-IANA(tora=burn,be erect(used of showing warlike feelings);ia=indeed;taute=matur,bring to perfection,tend,consider;i=ferment,be stirred of the feelings;oi=shout,shudder,move about,agitate;iana=then;koraha=extend,open;tio=cry,call)、「元気を出そうよ・ほんとうに・(花の)盛りになって・動き・回ろう・そして・広がって・唄おうよ」(「トラ」が「ソラ」と、「タウテ」のAU音がO音に変化して「トテ」から「トセ」と、「コラハ」のH音が脱落して「コラ」となった)

  「エ」、E(calling attention or expressing surprise)、「え(注意を喚起する語)」

  「ア・コラハ・チオ」、A-KORAHA-TIO(a=drive,urge,the...of,as far as,and,then,yes,well;koraha=extend,open;tio=cry,call)、「さあ・広がって・唄おうよ」(「コラハ」のH音が脱落して「コラ」となった)

  「(ン)ガウ・パウ」、NGAU-PAU(ngau=bite,hurt,attack;pau=consumed,exhausted,denoting the complete or exhaustive character of any action)、「(物思いを)すべて・断ち切る(ように囃せ)」(「(ン)ガウ」のNG音がN音に、AU音がO音に変化して「ノ」と、「パウ」のAU音がOU音に変化して「ポウ」から「ボウ」となった)

の転訛と解します。

123大島節(おおしまぶし)・ハアーアー・ヨー・ナー・ア ハイハイトー

 伊豆大島の代表的民謡です。明治初年に旧野増村(現大島町)の人が茶もみ作業に歌い出したもので、「野増(のまし)節」と呼ばれていました。、

 歌詞には、
 ♪ハアーアーわたしゃ大島 御神火育ちヨー(ア ハイ ハイトー)胸に煙はナー 絶えはせぬヨー(ア ハイ ハイトー)
とあります。

 この「ハアーアー」、「ヨー」、「ア ハイハイトー」は、

  「ハ・ア」、HA-A(ha=what!,then,so;a=drive,urge,the...of,as far as,and,then,yes,well)、「なんと・そうだ」

  「イ・オ」、I-O(i=past tense;o=find room,be capable of being contained or enclosed,get in)、「(生まれた)育っ・た」

  「ア・パイ・パイ・ト」、A-PAI-PAI-TO(a=drive,urge,the...of,as far as,and,then,yes,well;pai=good,suitable,good-looking;to=the...of)、「そうだ・良い・良い・娘だよ」(「パイ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハイ」となった)

  「ナ」、NA(to indicate position near or connection with the person addressed)、「ね(強調語)」

の転訛と解します。

124あんこ節・ソラ エンヤラヤノヤー ハ エンヤラヤノ・エー・ハ エンヤラヤノヤー

 大島節に次いで有名な民謡です。曲は北九州ひらど付近で鯨漁の「羽刺(はざし)唄」の転訛で、「エンヤラヤー」は櫓押しの掛け声とされます。

 歌詞には、
 ♪(ソラ エンヤラヤノヤー ハ エンヤラヤーノあんこさんにわしゃ迷うた)
  エー東京大島は針金だより(ハ エンヤラヤノヤー)主と私は文だより(ソラ エンヤラヤノヤー ハ エンヤラヤーノあんこさんにわしゃ迷うた)
とあります。

 この「あんこ」、「ソラ エンヤラヤノヤー ハ エンヤラヤノ」、「エー」、「ハ エンヤラヤーノヤー」は、

  「ア・ナコ」A-NAKO(a=the...of,belobging to;nako=fern bird(nakonako=adorn,ornament))、「着飾った・(きれいな)娘」または「ア・ネヘ・コ」、A-NEHE-KO(a=the...of,belonging to;nehe=ancient times,old age;ko=girl)、「年を取った・娘」(「ネヘ」のH音が脱落して「ネ」から「ン」となった。この「アネコ」の転とする説が有力とされますが、言葉の意味および語感からすると疑問があります。)

  「トラ・エ(ン)ギア・ライア・アノ・イア・ハ・エ(ン)ギア・ライア・アノ」、TORA-ENGIA-RAIA-ANO-IA-HA-ENGIA-RAIA-ANO(tora=burn,be erect(used of showing warlike feelings);engia=expressing assent;raia=to give emphasis;ano=still,again,also;ia=indeed;ha=breath,what!,then)、「元気を出して・そうだ・もう一つ重ねて・ほんとうに・さらに(一息入れて)・そうだ・もう一つ重ねて」(「エ(ン)ギア」のNG音がN音に変化して「エニア」から「エンヤ」と、「ライア」の語尾のA音と「アノ」の語頭のA音が連結して「ライアノ」から「ラヤノ」となった)

  「エ」、E(calling attention or expressing surprise)、「え(注意を喚起する語)」

  「ハ・エ(ン)ギア・ライア・アノ・イア」、HA-ENGIA-RAIA-ANO-IA(ha=what!,then,so;engia=expressing assent;ano=still,again,also;ia=indeed)、「さらに(一息入れて)・そうだ・もう一つ重ねて」(「エ(ン)ギア」のNG音がN音に変化して「エニア」から「エンヤ」と、「ライア」の語尾のA音と「アノ」の語頭のA音が連結して「ライアノ」から「ラヤノ」となった)

の転訛と解します。

125しょめ節・ショメ ショメ・イヤー

 伊豆七島最南端の八丈島の民謡で、八丈しょめ節、八丈節ともいいます。

 歌詞には、
 ♪(ショメ ショメ)イヤーついておじゃれよ 八丈ケ島へ 荒い風にも 当てはせぬ(ショメ ショメ)
とあります。

 この「ショメ ショメ」、「イヤー」は、

  「チオ・マイ・チオ・マイ」、TIO-MAI-TIO-MAI(tio=cry,call;mai,maimai=dance)、「唄って・踊れ・唄って・踊れ」(「マイ」のAI音がE音に変化して「メ」となった)

  「イ・イア」、I-IA(i=ferment,be stirred of the feelings;ia=indeed)、「本当に・(唄う)気分が乗ってきた」

の転訛と解します。

[神奈川県]

131箱根駕籠舁唄(はこねかごかきうた)・ナー・ヤレヤレー・ナァーエ・ヘッチョイ ヘッチョイ

 江戸時代に「雲助」と呼ばれた荷物運搬の人足が箱根八里の街道筋で唄った唄です。駕籠を舁くときに唄えば駕籠舁唄、長持を運ぶときに唄えば長持唄です。

 歌詞には、
 (甲)♪竹にナーなりたや(ヤレ ヤレー)箱根の竹に
 (乙)♪諸国ナー大名の
 (甲)♪杖竹にナアーエ(ヘッチョイ ヘッチョイ)
とあります。

 この「ナー」、「ヤレヤレー」、「ナァーエ」、「ヘッチョイ ヘッチョイ」は、

  「ナ」、NA(satisfied,content,by,belonging to,to indicate position near or connection with the person addressed)、「ほんとに(強調語)」

  「イア・レイ・イア・レイ」、IA-REI-IA-REI(ia=indeed;rei=leap,rush,run)、「実に・(跳ぶように)走った・走った(疲れたな)」

  「ナエ」、NAE(naenae=failing of breath)、「息が切れるよ」

  「ハエ・チオイ・ハエ・チオイ」、HAE-TIOI-HAE-TIOI(hae=slit,ill feeling,cause pain,appear;tioi=shake,sway from side to side)、「疲れて・(足が)ふらふらだ・疲れて・(足が)ふらふらだ」(「ハエ」のAE音がE音に変化して「ヘ」と、「チオイ」が「チョイ」となった)

の転訛と解します。

132三崎甚句(みさきじんく)・アイヨーエー・アー ソウダヨーエ・エー ソウダヨエー・エー・トコ ラット

 歌詞には、
 ♪エー三浦三崎は(アイヨーエー)女の夜ばい(アーソウダヨーエ)男後生楽寝て暮らす(エーソウダヨエー)
 (後囃子)♪エー三つも四つもまわせども エーなかなか下田にとりつかぬ エー元の三崎へ お直しお直し
とあります。
 二番の後囃子に「トコ ラツトの帆前船 上は甲板(デツキ)ですべくるよう」とあり、岩波版は「トコ」は拍子詞、「ラット」は舵輪(rudder)で洋式の新造船にたいする嘆辞とし、角川版も同様です。

 この「アイヨーエー」、「アー ソウダヨーエ」、「エー ソウダヨエー」、「エー」、「トコ ラット」は、

  「アイ・イ・オ・エヘ」、AI-I-O-EHE(ai=in clauses marking the time or place of an action or event;i=ferment,be stirred;o=provisin for a journey;ehe=expressing surprise)、「なんと・(三浦三崎の)港は・航海前に英気を・養う(場所だよ)」(「エヘ」のH音が脱落して「エー」となった)

  「ア・タウ・タ・イ・オ・エヘ」、A-TAU-TA-I-O-EHE(a=the...of,and,then;tau=come to rest,come to anchor,be suitable;ta=dash,beat,lay;i=ferment,be stirred;o=provisin for a journey;ehe=expressing surprise)、「ほんとうに・休息を・とって・航海前に英気を・養う(場所)・なんだよ」(「タウ」のAU音がOU音に変化して「トウ」から「ソウ」と、「エヘ」のH音が脱落して「エー」となった)

  「アエ・タウ・タ・イ・オ・エヘ」、AE-TAU-TA-I-O-EHE(ae=yes,assent,agree;tau=come to rest,come to anchor,be suitable;ta=dash,beat,lay;i=ferment,be stirred;o=provisin for a journey;ehe=expressing surprise)、「そうだよ・休息を・とって・航海前に英気を・養う(場所)・なんだよ」(「アエ」のAE音がE音に変化して「エ」と、「タウ」のAU音がOU音に変化して「トウ」から「ソウ」と、「エヘ」のH音が脱落して「エー」となった)

  「エヘ」、EHE(expressing surprise)、「なんと」(H音が脱落して「エー」となった)

  「トコ・ラト」、TOKO-RATO(toko=pole,push or force to a distance;rato=be served or provided,be distributed)、「帆柱が・(船を)推す(帆前船)」

の転訛と解します。

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[中部地方]

[新潟県]

141佐渡稲扱唄(さどいねこきうた)・かた

 佐渡島に歌詞のみ残る労作唄です。 

 歌詞には、
 ♪お前三十扱きゃ わしゃ二十五束 恩に着もせぬ 着せもせぬ
  二十五束の かたの稲扱くにゃ 夜づめ朝起きせにゃならん …
とあります。「かた」は、方言で一人前の仕事の分量をいいます。

 この「かた」は、

  「カハ・タハ」、KAHA-TAHA(kaha=strong,able;taha=side,part,portion)、「(一人一日に)可能な・(仕事の)分量」(「カハ・タハ」のH音が脱落して「カタ」となつた)

の転訛と解します。

142相川音頭(あいかわおんど)・ドッと笑う・ハイ ハイ ハイ

 相川音頭は、佐渡相川金山のクドキ調の盆踊唄です。寛文の末ごろに始まり、文政・天保年間の尚武の気風とともに現存の「源平軍談(五段)」が作られ、ほかに「謡曲内百番くずし」、「おさん仙次郎心中濃茶染」などがあります。

 「源平軍談(五段)」(義経弓流しの一節)の歌詞には、
 ♪ドッと笑うて立つ浪風の(ハイ ハイ ハイ)荒き折節義経公は(ハイ ハイ ハイ)如何しつらん弓取り落とし(ハイ ハイ ハイ)しかも引潮箭よりも早く(ハイ ハイ ハイ)
とあります。

 この「どっとわらう」、「ハイ ハイ ハイ」は、

  「トト・ワロ・ウ」、TOTO-WARO-U(toto=gush forth,spring up,rise up;waro,wawaro=sound indistinctly;u=be firm,reach its limit)、「(浪風が)音もなく・急に起こって・極めて激しくなつた」

  「ハイ」、HAI(=hei=go towards,turn towards,be requited)、「(さあ)先へ(進もう)」

の転訛と解します。

143新潟甚句(にいがたじんく)・ハ アリャ アリャ アリャ アリャ・ハアーアーアー・エヨー・ハ アリャ アリャ アリャサ・でんでらでん・五月雨(さずい)

 新潟地方の盆踊唄で、「新潟盆踊」または「樽たたき」ともいいました。

 歌詞には、
 ♪(ハ アリャ アリャ アリャ アリャ)ハアーアーアー新潟恋しや 白山さまよ 松が見えますエヨー ほのぼのと(ハ アリャ アリャ アリャサ)
とあります。
 歌詞の中には「でんでらでんの大(でっか)い嬶(かか)持てば 二百十日の風よけだ」、「何たら長い五月雨(さずい)だ じい様欠伸に黴はえた」などがあります。

 この「ハ アリャ アリャ アリャ アリャ」、「ハアーアーアー」、「エヨー」、「ハ アリャ アリャ アリャサ」、「でんでらでん」、「さずい」は、

  「ハ・アリア・アリア・アリア・アリア」、HA-ARIA-ARIA-ARIA-ARIA(ha=what!;aria=appear,be seen indistinctly,likeness,resemblance)、「なんと・(白山の松が)かすかに見える・かすかに見える・かすかに見える・かすかに見えるよ」

  「ハ・ア」、HA-A(ha=what!,then,so;a=drive,urge,the...of,as far as,and,then,yes,well)、「なんと・そうだ」

  「エ・イ・オ」、E-I-O(e=calling attention or expressing surprise;i=past tense;o=find room,be capable of being contained or enclosed,get in)、「なんと・たしかに・ある(見える)」(「イ・オウ」が「ヨー」となった)

  「ハ・アリア・アリア・アリア・タ)」、HA-ARIA-TA(ha=what!;aria=appear,be seen indistinctly,likeness,resemblance;ta=dash,beat,lay)、「なんと・かすかに見える・かすかに見える・かすかに見えて・いるよ)」

  「テ(ン)ガ・テラ・テ(ン)ガ」、TENGA-TERA-TENGA(tenga=Adam's apple,distended;tera=yonder,to give emphasis)、「太り・に・太った(嬶)」(「テ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「テナ」から「テン」、「デン」となった)

  「タ・ツイ」、TA-TUI(ta=the...of,dash,beat,lay;tui=pierce,lace,sew)、「あらゆる物(所)に・しみ通る(雨。梅雨)」

の転訛と解します。

144岩室甚句(いわむろじんく)・ハー ヨシタヤ ヨシタヤ・なじょ(馴染の女)・蝸牛(だいろ)

 湯治場として有名な旧西蒲原郡岩室村(現新潟市)の岩室温泉付近に古くから唄われた騒ぎ唄です。

 歌詞には、
 ♪(ハー ヨシタヤ ヨシタヤ)石瀬ヤー岩室 片町ア山だ(ハー ヨシタヤ ヨシタヤ)前の濁り川 すっぽん 亀の子 泥鰌が住む(ハー ヨシタヤ ヨシタヤ)
とあります。
 歌詞の中には「なじょが見付けて 寄りなれと言たども …」、「蝸牛(だいろ)蝸牛 角出せ蝸牛 …」などがあります。

 この「ハー ヨシタヤ ヨシタヤ」、「なじょ」、「だいろ」は、

  「ハ・イ・オチ・タ・イア・イ・オチ・タ・イア」、HA-I-OTI-TA-IA-I-OTI-TA-IA(ha=what!;i=past tense,beside;oti=finished,gone or come for good;ta=dash,beat,lay;ia=indeed)、「なんと・ほんとに・うまく事が・運ん・だよ・ほんとに・うまく事が・運ん・だよ」(「イ・オチ」が「ヨチ」から「ヨシ」となった)

  「ナチ・アウ」、NATI-AU(nati=pinch or contract;au=firm,intense)、「しっかりと・結ばれた(関係の女。馴染の女)」(「アウ」のAU音がO音に変化して「オ」となり、「ナチ」と連結して「ナチョ」から「ナジョ」となつた)

  「タイロア」、TAIROA(lingering,spending much time over anything)、「のろのろと(時間を浪費する虫。蝸牛)」(語尾のA音が脱落して「タイロ」から「ダイロ」となった)

の転訛と解します。

145米山甚句(よねやまじんく)・サッサ ソウジャ ソウジャ・ササ・スッテンコロリノヨヤサ

 古くから柏崎・直江津付近を中心に唄われた民謡です。

 歌詞には、
 ♪行こか参らんしょか 米山の薬師(サッサ ソウジャ ソウジャ)一つア身のため ササ主のため(サッサ ソウジャ ソウジャ)
とあります。
 歌詞の中には「櫓太鼓に ふと眼をさまし 明日はどの手で スッテンコロリノ ヨイヤサと投げてやろ」などがあります。

 この「サッサ ソウジャ ソウジャ」、「スッテンコロリノヨヤサ」は、

  「タタ・タウ・チア・タウ・チア」、TATA-TAU-TIA-TAU-TIA(tata=wag,nod,near of place or time,suddenly;tau=come to rest,come to anchor,be suitable;tia=stick in,peg,persistency)、「すぐに・(米山薬師に)杖を・休めよう(参詣しよう)」(「タウ」のAU音がOU音に変化して「トウ」から「ソウ」となった)

  「タタ」、TATA(wag,nod,near of place or time,suddenly)、「(うなづく)そうだ」

  「ツ・テナ・コロリ・ノ・イ・オイ・アタ」、TU-TENA-KORORI-NO-I-OI-ATA(tu=fight with,energetic;tena=encourage,urge forward;korori=stir round,distort,twisted;no=of;i=ferment,be stirred;oi=shudder,move continuously,agitate;ata=gentry,slowly,clearly)、「懸命に・力を入れて・(相手の力士を)回転させる・という・激しく・きれいな・技をかける」(「ツ・テナ」が「スッテン」と、「イ・オイ・アタ」が「ヨヤタ」から「ヨヤサ」となった)

の転訛と解します。

146両津甚句(りょうつじんく)・ハア リャント リャント リャント・ハアーアーエ・アエー・コリャ サッサ・ヨンヤア・あい(東南風)

 両津は、佐渡の越後への表玄関の港で、もと夷(えびす)と湊(みなと)の両部落が合併した土地で、両津欄干橋は両部落を繋ぐ橋でした。両津甚句は、もと夷(えびす)甚句または湊(みなと)甚句とも呼ばれていました。

 歌詞には、
 ♪(ハア リャント リャント リャント)
  ハアーアーエ両津欄干橋アエー 真中から折りょうと(コリャ サッサ)船でエ通うても ヨンヤアやめりゃせぬ(ハア リャント リャント)
とあります。
 歌詞の中には「あいが吹かぬか 荷が無うて来ぬか …」などがあります。この「あい」は「あえ」ともいい、佐渡両津では東南風、佐渡小木湾では東風、島根・石川・富山腱の一部では東北風を指すなど、地域によって異なります。雑楽篇(その一)の212あいの風の項を参照してください。

 この「ハア リャント リャント リャント」、「ハアーアーエ」、「アエー」、「コリャ サッサ」、「ヨンヤア」、「あい」は、

  「ハ・リア・(ン)ゴト・リア・(ン)ゴト・リア・(ン)ゴト」、HA-RIA-NGOTO-RIA-NGOTO-RIA-NGOTO(ha=what!;ria=screening,protecting;ngoto=be deep,be intense,firmly)、「なんと・どんな(大きな)・障害があろうとも・どんな(大きな)・障害があろうとも・どんな(大きな)・障害があろうとも(逢いに行く)」(「(ン)ゴト」のNG音がN音に変化して「ノト」から「ント」となった)

  「ハ・アエ」、HA-AE(ha=what!,then,so;ae=yes,assent,agree)、「なんと・そうだよ」

  「アエ」、AE(yes,assent,agree)、「そうだ」

  「コリ・イア・タタ」、KORI-IA-TATA(kori=move,wriggle,bestir oneself;ia=indeed;tata=dash down,strike repeatedly,bail water out of a canoe)、「ほんとうに・もがいてもがいて・動き続けて」

  「イ・オ(ン)ガ・イア」、I-ONGA-IA(i=ferment,be stirred;onga=agitate,shake about;ia=indeed)、「ほんとうに・勇気を・奮い起こして」(「オ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「オナ」となり、「イ」と連結して「イオナ」から「ヨン」となった)

  「アイヘ」、AIHE(dolphin,driftwood,drifting)、「(流木など)漂流物を吹き寄せる(風)」(H音が脱落して「アイエ」から「アエ」、「アイ」となった)

の転訛と解します。

147佐渡おけさ・ハア・ハ アリャアリャ アリャサ

 全国的に有名な佐渡正調おけさ節ですが、本場は越後で、新潟・長岡・三条・柏崎・寺泊・出雲崎などにそれぞれのおけさ節がありました。「おけさ」の由来には、奴踊唄の「置けさ」、化け猫「お桂さん」、桶屋佐助の略「桶佐」など諸説があります。曲型では「ハイヤエー」と歌い出す北九州の「ハイヤ節」が佐渡、越後で「オケサエー」と歌い出す形に変化し、最近では「ハアー」と変化したといわれます。

 歌詞には、
 ♪ハアー佐渡へ(ハ アリャサ)佐渡へと草木もなびくヨ(ハ アリャアリャ アリャサ) 佐渡は居よいか 住みよいか(ハ アリャアリャ アリャサ)
とあります。

 この「おけさ」、「ハアー」、「ハ アリャアリャ アリャサ」は、

  「オ・カイタ」、O-KAITA(o=the...of,provision of a journey;kaita=large,of superior quality)、「(たいへん)優れた・唄」または「(たいへん)優れた・旅行土産(の唄)」(「カイタ」のAI音がE音に変化して「ケタ」から「ケサ」となった)

  「ハ」、HA(what!,then,so)、「なんと」

  「ハ・アリア・アリア・アリア・タ」、HA-ARIA-ARIA-ARIA-TA(ha=what!,then,so;aria=deep water between two shoals,open space among rocks,be seen indistinctly;ta=dash,beat,lay)、「なんと・深い海峡が・深い海峡が・深い海峡が・あるよ」(「アリア」が「アリャ」となった)

の転訛と解します。

148加茂松坂(かもまつざか)・ホイ アリャ リャリャリャ・ヤ・ホイ・エエー・ハイ・イヤアーヘーヤエー・ハア アリャ リャリャリャ

 加茂市に残る盆踊唄で、@、Aが交互に繰り返されます。踊りは、広場でなく、目抜きの大通りを踊りながら進むものです。

 歌詞には、
 ♪ホイ アリャ リャリャリャ
 @♪加茂でヤ(ホイ) エエー咲く花(ホイ)矢立で開く(ハ ドウシタ)矢立 松原花どころ(ハイ)イヤアーヘーヤエー(ハ アリャ リャリャリャ)
 A♪浅黄染めても 度重なれば 末にゃ色増す 紺となる(ハア アリャ リャリャリャ)
とあります。

 この「ホイ アリャ リャリャリャ」、「ヤ」、「ホイ」、「エエー」、「ハイ」、「イヤアーヘーヤエー」、「ハ アリャ リャリャリャ」は、

  「ホイ・アリャリャ・(ア)リャリャ」、HOI-ARIARIA-RIARIA(hoi=heoi=denoting completeness or suficiency of a statement or enumeration;aria=appear,be seen indistinctly,resemblance,feeling;ariaria=resemble)、「全く・(似ている)そっくりだ・その通りだ」(句尾の「リャリャ」は「アリャリャ」の語頭の「ア」が脱落した)

  「イア」、IA(indeed)、「実に」

  「ホイ」、HOI(=heoi=denoting completeness or suficiency of a statement or enumeration)、「全く(その通りだ)」

  「エヘ」、EHE(expressing surprise)、「なんと」(H音が脱落して「エエ」となった)

  「ハイ」、HAI(=hei=go towards,turn towards,be requited)、「(さあ)先へ(進もう)」

  「イア・アヘア・イア・エヘ」、IA-AHEA-IA-EHE(ia=indeed;ahea=hea=what place,any place;ehe=expressing surprise)、「(矢立・松原は)ほんとうに・その(花が咲く)土地だ・ほんとうに・そうなんだ」(「アヘア」の語尾のA音が脱落して「アヘ」となった)

  「ハ・アリャリャ・(ア)リャリャ」、HA-ARIARIA-RIARIA(ha=what!,then,so;aria=appear,be seen indistinctly,resemblance,feeling;ariaria=resemble)、「なんと・(似ている)そっくりだ・その通りだ」(句尾の「リャリャ」は「アリャリャ」の語頭の「ア」が脱落した)

の転訛と解します。

149三階節(さんがいぶし)・ハアー・ハアー ヤラシャレ ヤラシャレ・しげさ(出家様)・こえ(声)・よて(依怙贔屓)・ねまり地蔵

 柏崎地方の古い盆踊唄で、「ヤラシャレ節」ともいいます。「三階」とは同一歌詞を三回繰り返すことからとの説、布教の僧「しげさ」を題材とする仏教用語「三界」からとする説があります。

 歌詞には、
 ♪柏崎から 椎谷まで 間(あい)に 荒浜荒砂 悪田の渡しが 無かよかろ ハアー無かよかろ 間(あい)に 荒浜荒砂 悪田の渡しが 無かよかろ(ハアー ヤラシャレ ヤラシャレ)
とあります。
 歌詞の中には「しげさしげさと 声にしやる しげさ しげさの御勧化 山坂越えても 参りたや」、「閻魔前なる 茶屋の嬶(かか) あれを 地獄へやらぬは さりとは閻魔の よてをひく」、「ねまり地蔵や 立地蔵 ほとけ ほとけに似合わぬ 魚の売り買い なされます」などがあります。この「しげさ」は「出家様」の意、「こえ」は「声」か「恋」か不詳、「よて」は「依怙贔屓」の意、「ねまり地蔵」は付近に魚野菜の市場があったといいます。

 この「さんがい」、「ハアー」、「ハアー ヤラシャレ ヤラシャレ」、「しげさ」、「こえ」、「よて」、「ねまり」は、

  「タ(ン)ガエ」、TANGAE(=tangaengae=crop of a bird,an incantation to confer vigour)、「人を元気づける(唄)」(語尾のE音がI音に変化してて「タンガイ」から「サンガイ」となった)

  「ハ」、HA(what!,then,so)、「そうだ」

  「ハ・イアラ・チアレ・イアラ・チアレ」、HA-IARA-TIARE-IARA-TIARE(ha=what!;iara=intensive,then,indeed;tiare=hollow,empty,void)、「なんと・ほんとうに・何もない(荒浜荒砂・悪田の渡しが無い)・ほんとうに・何もない」(「イアラ」が「ヤラ」と、「チアレ」が「チャレ」から「シャレ」となった)

  「チウ・(ン)ゲタ」、TIU-NGETA(tiu=soar,wander,swing;ngeta,ngetangeta=worn-out garment,rag)、「流浪する・すり切れた衣(を身にまとった者。出家者)」(「チウ」が「チュ」から「シュ」、「シ」と、「(ン)ゲタ」のNG音がG音に変化して「ゲタ」から「ゲサ」となった)

  「コアエ」、KOAE(woe is me!)、「私は不幸です(お救いください。と叫ぶ)」(AE音がE音に変化して「コエ」となった)

  「イ・ホタエ」、I-HOTAE(i=past tense;hotae,whakahotaetae=prevent,obstruct)、「(地獄行きを)未然に防い・だ」(「ホタエ」のH音が脱落し、AE音がE音に変化して「オテ」となった)

  「ネイ・マリ」、NEI-MARI(nei=to indicate continuance of action;mari=fortunate,lucky of good omen)、「幸せを・授ける(地蔵)」(「ネイ」が「ネ」となつた)

の転訛と解します。

[富山県]

151やがえ節(蹈鞴(たたら)唄)・ヤガエフー・インヤカ サッサイ

 鉄器・銅器等の鋳物で有名な高岡市の「蹈鞴」を踏んで鉄・銅を溶かすときの作業唄です。この地の鋳物は、慶長年間に前田利長が河内から鋳物師を呼んだことにはじまるとされます。

 歌詞には、
 ♪越中高岡 鋳物の名所 ヤガエフー 火鉢 鍋釜 手取釜エー(インヤカ サッサイ)手取釜ヤガエフー 火鉢 鍋釜 手取釜エー(インヤカ サッサイ)
とあります。

 この「たたら)」、「ヤガエフー」、「エー」、「インヤカ サッサイ」は、

  「タタラ」、TATARA(loose,nutied,quick,active,distant)、「(ボウボウと)活発に(火が燃える。製鉄炉。またはその送風器)」(「蹈鞴」および和風製鉄に関する用語については、雑楽篇(その二)の1017タタラの項を参照してください。)

  「イア・(ン)ガエ・フ」、IA-NGAE-HU(ia=indeed;ngae=wheeze;hu=resound,make any inarticulate sound,noise)、「実に・ごうごうとけたたましい音を・立てる」(「(ン)ガエ」のNG音がG音に変化して「ガエ」となった)

  「エ」、E(calling attention or expressing surprise)、「え(注意喚起語)」

  「イナイア・カ・タタイ」、INAIA-KA-TATAI(inaia=strengthened by the addition of the particle ia,used to emphasis statement as to quality;ka=take fire,be lighted,burn;tatai=measure,arrange,plan)、「全くほんとに・(溶鉱炉の)火を・良く燃やす」(「イナイア」が「インヤ」と、「タタイ」が「サッサイ」となった)

の転訛と解します。

152越中おわら節・キタサノサーアー・ドッコイサノサッサ・あいや

 旧婦負郡八尾(やつお)町(現富山市)の盆踊唄で、毎年9月1日から3日間、俗に「風の盆」と呼ばれる盛大なオワラ祭りの唄です。「オワラ」は、「お笑い」から、豊年を祈る「大藁(おおわら)」からとする説があります。

 歌詞には、
 (前囃子)♪歌われよ わしゃ囃す
 (本 唄)♪来たる春風 エー氷が解ける(キタサノサーアー ドッコイサノサッサ)
       うれしや気ままに オワラ開く梅
 (後囃子)♪三千世界の松ノ木ア枯れても あんたと添わなきゃ娑婆へ出た甲斐がない(キタサノサーアー ドッコイサノサッサ)
とあります。
 古調の歌詞には、「あいや可愛や いつ来て見ても たすき投げやる 暇がない」などがあります。

 この「エー」、「キタサノサーアー」、「ドッコイサノサッサ」、「オワラ」、「あいや」は、

  「エ」、E(calling attention or expressing surprise)、「そして」

  「キ・タタ・ノ・タ」、KI-TATA-NO-TA(ki=full,very;tata=near of place or time,suddenly;no=of;ta=dash.beat,lay)、「(春風が)すぐ・近くまで・来た・のさ」

  「ト・コイ・タ・ノ・タタ」、TO-KOI-TA-NO-TATA(to=drag;koi=move about,good,suitable;ta=dash,beat,lay;tata=near of place or time,suddenly)、「(春風を)ちゃんと・引っ張って・来た・近く・にさ」

  「オ・ワラ」、O-WARA(o=the...of,find room,be capable of being contained or enclosed,get in;wara=desire,make an indistinct sound)、「願いが・叶った」(曲名または祭名としての「おわら」は「(二百十日の風鎮めを)願う・唄(祭)」と解します。雑楽篇(その二)の133越中おわら節の項を参照してください。)

  「アイア」、AIA(=kaitoa=expressing satisfaction or complacency at any event,it is good,it serves one right etc.)、「良いな」(015津軽あいや節の項を参照してください。)

の転訛と解します。

153麦や節・アイナー・エイナー・ヤーアイナー・イナー

 越中五箇山(旧東礪波郡平・上平・利賀三村(現南砺市))とこれに隣接する飛騨白川郷(岐阜県大野郡白川村)一帯で唄割れる祝儀唄です。五箇山では「平家踊」と、飛騨では「輪島」とも呼んでいます。

 歌詞には、
 ♪麦や菜種はアイナー 二年でエイナー刈るにヤーアイナー 麻が刈らりょかアーイナー 半土用にイナー
とあります。

 この「アイナー」、「エイナー」、「ヤーアイナー」、「アーイナー」、「イナー」は、

  「アイ・イナ」、AI-INA(ai=procreate,beget;ina=for,inasmuch as,when,to emphasis statements as ti quality)、「(蒔いた種子が増えて)子が採れる・季節がある」(「アイ」のI音と「イナ」のI音が連結して「アイナ」となった)

  「エヒ・イナ」、EHI-INA(ehi=well!;ina=for,inasmuch as,when,to emphasis statements as ti quality)、「(収穫に)良い・季節だ」(「エヒ」のH音が脱落して「エイ」となったそのI音と「イナ」のI音が連結して「エイナ」となった)

  「イア・アイ・イナ」、IA-AI-INA(ia=indeed;ai=procreate,beget;ina=for,inasmuch as,when,to emphasis statements as ti quality)、「実に・子が採れる・季節だ」(「アイ」のI音と「イナ」のI音が連結して「アイナ」となった)

  「アハ・イナ」、AHA-INA(aha=expressing remonstrance,warning,mockery;ina=for,inasmuch as,when,to emphasis statements as ti quality)、「(収穫しては)いけない・季節だ」(「アハ」のH音が脱落して「アア」、「アー」となった)

  「イナ」、INA(for,inasmuch as,when,to emphasis statements as ti quality)、「季節だ」

の転訛と解します。

154コキリコ節・コキリコ・かなかい・マドのサンサ・デデレコデン・ハレのサンサ・いくせ・ササラ・やしゃ男

 越中五箇山(旧東礪波郡平・上平・利賀三村(現南砺市))の神楽踊です。囃子詞の「デデレコデン」は太鼓の擬声かとする説があります。

 歌詞には、
 ♪コキリコの竹は 七寸五分じゃ 長いは袖のかなかいじゃ
 (囃子)マドのサンサはデデレコデン ハレのサンサもデデレコデン
とあります。
 歌詞の中には、「踊りたか踊れ 泣く子をいくせ ササラはマドのもとにある」、「…いま来る嫁の松明ならば さし上げて燃やしゃれ やしゃ男」などとあります。(この「やしゃ男」は「やせ男」(角川版)とします。)

 この「コキリコ」、「かなかい」、「マドのサンサ」、「デデレコデン」、「ハレのサンサ」、「いくせ」、「ササラ」、「やしゃ」は、

  「コキリ・コ」、KOKIRI-KO(kokiri=dart,throw,rush forward;ko=sing,resound,shout)、「(竹筒の中に入れた小豆を)激しく動かして・音を出す(楽器。コキリコ)」

  「カ(ン)ガ・カイ」、KANGA-KAI(kanga=curse,abuse,execrate;kai=product,thing,fulfil its proper function)、「(袖に当たって)邪魔を・する(もの。長いコキリコ)」(「カ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「カナ」となった)

  「マトマト・ノ・タ(ン)ガタ」、MATOMATO(growing vigorously,of pleasing appearance)-NO(of)-TANGATA(man)、「ご機嫌・な・人」(「マトマト」の反覆語尾が脱落して「マト」から「マド」と、「タ(ン)ガタ」のNG音がN音に変化して「タナタ」から「サンサ」となった)

  「テテ・レイ・コ・テナ」、TETE-REI-KO-TENA(tete=exert oneself,gnash the teeth;rei=leap,rush,run;ko=to,at;tena=that,this,there,here)、「一生懸命に・走って・ここへ・やってくる」(「テテ」が「デデ」と、「レイ」が「レ」と、「テナ」が「デン」となった)

  「ハレのサンサ」は、「ハレ・ノ・タン(ガ)タ」、HARE(=harahare=itch,offensive)-NO(of)-TANGATA(man)、「不機嫌・な・人」(「タ(ン)ガタ」のNG音がN音に変化して「タナタ」から「サンサ」となった)

  「イ・クテクテ」、I-KUTEKUTE(i=ferment,be stirred;kutekute=lazy,confused)、「(泣く子の)気を・紛(まぎ)らす」(「クテクテ」の反復語尾が脱落して「クテ」から「クセ」となった)

  「タタラ」、TATARA(loose,untied,quick,active)、「(竹の先が)ばらばらになったもの(ささら)」

  「イア・チア」、IA-TIA(ia=indeed;tia=stick in,peg,servant)、「実に(あの)・杖をついている(荷物を担ぐ。使用人の。男)」

の転訛と解します。

155トイチンサ節・ナー・トイチン トイチン トイチンサ・ヤーサレチ トチレチ・トイチンサ トイチンサ・ササ・トイチンレーチ ヤサレーチ

 越中五箇山(旧東礪波郡平・上平・利賀三村(現南砺市))の民謡です。「トイチンサ」とは、現地では「みそさざい」のことを「サイチン」といい、飲料水の樋(とい)をくちばしでつついて虫を取るところから「トイのサイチン」が約されて「トイチン」となったとする説があります。この唄は、娘を持つ母親が機を織りながら、娘もサイチンのようにまめで働くようになってほしいと口ずさんだのが起こりといわれます。
 この「サイチン」は、「タイ・チ(ン)ガ」、TAI-TINGA(tai=wave,rage,violence;tinga=likely)、「荒波に・似た(声を出す。鳥。みそさざい)」の転訛と解します。

 歌詞には、
 ♪鳥がナー さびしく機織る音に トイチン トイチン トイチンサ ヤーサレチ トチレチ トイチンサ トイチンサ
  拍子ナー 揃えて ササうたいだす やれかけ はやせよ トイチンサ トイチンレーチ ヤサレーチ トイチンサ トイチンサ
とあります。

 この「ナー」、「トイチン トイチン トイチンサ」、「ヤーサレチ トチレチ」、「トイチンサ トイチンサ」、「ササ」、「トイチンサ トイチンレーチ ヤサレーチ」は、

  「ナ」、NA(satisfied,content,by,belonging to,to indicate position near or connection with the person addressed)、「ほんとに(強調語)」

  「トイ・チ(ン)ガ・トイ・チ(ン)ガ・トイ・チ(ン)ガ・タ」、TOI-TINGA-TOI-TINGA-TOI-TINGA-TA(toi=tingle,be irritated,move quickly,encourage;tinga=likely;ta=dash,beat,lay)、「(鳥が)なんとも・うるさい・なんとも・うるさい・なんとも・うるさい・音を立てる」(「チ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「チナ」から「チン」となった)

  「イア・タ・レチ・トチ・レチ」、IA-TA-RETI-TOTI-RETI(ia=indeed;ta=dash,beat,lay;reti=snare,ensnare;toti=limp,halt)、「ほんとに・仲間(異性)を呼んで・いる・仲間を呼ぶのを・休んでいる」

  「トイ・チ(ン)ガ・タ・トイ・チ(ン)ガ・タ」、TOI-TINGA-TA-TOI-TINGA-TA(toi=tingle,be irritated,move quickly,encourage;tinga=likely;ta=dash,beat,lay)、「(鳥が)なんとも・うるさい・音を・立てる・なんとるも・うるさい・音を立てる」(「チ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「チナ」から「チン」となった)

  「タタ」、TATA(wag,nod,near of place or time,suddenly)、「すぐさま」

  「トイ・チ(ン)ガ・タ・トイ・チ(ン)ガ・レチ・イア・タ・レチ」、TOI-TINGA-TA-TOI-TINGA-RETI-IA-TA-RETI(toi=tingle,be irritated,move quickly,encourage;tinga=likely;reti=snare,ensnare)、「(鳥が)なんとも・うるさい・音を立てる・なんとも・うるさい・仲間を呼ぶ声が・ほんとに・仲間を呼んで・いる」(「チ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「チナ」から「チン」となった)

の転訛と解します。

[石川県]

161かんこ踊・ア モウタリ モウタリ モウタリナ・いね・のの・んなぼ・おんじ・しょじゃこ

 加賀の白山谷、旧石川郡白峰村(現白山市)に残る古風な盆踊唄です。曲名の「かんこ」は、羯鼓(かんこ)を叩いて踊る意、カンコ(蚊遣りの籠)を腰につけて踊る意、「神迎(かんこ)」(白山の修行を終えて下山する泰澄大師を歓喜して迎える)の意などの諸説があります。

 歌詞には、
 ♪河内の奥は朝寒いとこじゃ 御前の風を吹きおろす
 (返し)♪御前の風を 御前の風を 御前の風を吹きおろす(ア モウタリ モウタリ モウタリナ)
とあります。
 歌詞の中には「河内の奥に煙が見える いねや出て見や 霞か霧か 御前の山が焼けるのか ア お山の焼けの煙とあらば ののが手を引け んなぼをおぶせ そしておんじのうら山へ」、「お十九をしょじゃこ 二十歳をしょじゃこ 盆帷子の袖しょじゃこ…」などがあります。この「モウタリ」は「舞うたり」か、「いね」は方言で「母親」、「のの」は方言で「祖父」(地域により祖母、父、母、兄とも)、「んなぼ」は方言で「一番末の男児」、「おんじ」は方言で「蔭地」か、「しょじゃこ」は方言で「欲しいか」の意と解されています。

 この「かんこ」、「ア モウタリ モウタリ モウタリナ」、「いね」、「のの」、「んなぼ」、「おんじ」、「しょじゃこ」は、

  「カ(ン)ガ・コフ」、KANGA-KOHU(kanga=ka=take fire,be lighted,burn;kohu=hollow,concave)、「(蚊遣り)火をともす・(腰に付ける)籠」(「カ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「カナ」から「カン」と、「コフ」のH音が脱落して「コ」となった)

  「ア・マウ・タリタリ・・マウ・タリタリ・マウ・タリタリ・ナ」、A-MAU-TARITARI-NA(a=the...of,drive,urge;mau=carry,bring,fixed,caught,entangled;taritari=shake,wet and cold,inclement weather;na=particle used after words and clauses to indicate position near or connection with the person addressed)、「この・寒い風が・吹いて来た・寒い風が・吹いて来た・寒い風が・吹いて来た・な」(「マウ」のAU音がOU音に変化して「モウ」と、「タリタリ」の反復語尾が脱落して「タリ」となった)

  「イヒ・ネヘ」、IHI-NEHE(ihi=shudder,coward,power,authority;nehe=old man,old woman)、「(控え目にふるまう・老人)母親」(「イヒ・ネヘ」のH音が脱落して「イネ」となった)

  「ノノホ」、NONOHO(remain)、「(昼間家に残る者)祖父母(または年少の子)」(H音が脱落して「ノノ」となった)

  「ウ(ン)ガ・ポ」、UNGA-PO(unga=send,seek;po,popo=lullaby)、「(子守唄を求める子)乳児」(「ウ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「ウナ」から「ンナ」となった)

  「アウ(ン)ガ・チ」、AUNGA-TI(aunga=not including;ti=throw,cast)、「(木が生えていない)空き地が・ある(山)」(「アウ(ン)ガ」のAU音がO音に、NG音がN音に変化して「オナ」から「オン」となった)

  「チホチホイ・アコ」、TIHOTIHOI-AKO(tihotihoi=wander aimlessly,gape;ako,akoako=consult together,give or take counsel)、「口を開けて見とれて・(助言)注意をされた」(「チホチホイ」のH音が脱落して「チオチオイ」から「ショショイ」となり、「アコ」と連結して「ショシャコ」から「ショジャコ」となつた)

の転訛と解します。

162山中節(やまなかぶし)・チョイ・シシ(湯女)

 加賀の山中温泉郷、旧江沼郡山中町(現加賀市)で唄われる古い盆踊甚句が変化した有名なお座敷唄です。「草津節」とともに温泉民謡の双璧ともいわれます。

 歌詞には、
 ♪ハアーアーアー 忘れしゃんすな 山中道を 東ア松山 西ア薬師(チョイ チョイ チョイ)
とあります。
 歌詞の中には、「薬師山から湯座屋を見れば シシが髪結うて 身をやつす」などがあります。

 この「ハアーアーアー」、「チョイ チョイ チョイ」、「シシ」は、

  「ハ・ア」、HA-A(ha=what!,then,so;a=drive,urge,the...of,as far as,and,then,yes,well)、「なんと・そうだよ」

  「チオイ」、TIOI(shake,sway from side to side)、「行ったり来たり(ふらふらと)」

  「チチ」、TITI(go astray)、「(客から客へ)道に迷ったように渡り歩く(世話をする。女)」

の転訛と解します。

163チョンガリ節・チョンガリ・ハアー・エイコラナ・ナ

 奥能登、輪島市に残る庭踊唄で、古くは一月と八月に神社の前夜祭として夜を徹して唄い踊ったといいます。「チョンガリ」は、「浪花節」の前身、「チョンガレ」(チョボクレ、デロレンなどとも)の転と解されています(角川版)。

 歌詞には、
 ♪ハアーよいさて さてじゃ さて東西ナ 先の先生まじゃ あんまりうまいこと ころがすなや おれにもちょっこし こちゃまかせ ながのエイコラナ 只今までも つづいてご苦労 たいぎであれば
 一に岩倉のナ 観音さまよ 二に新潟のナ 白山さまよ …
とあります。

 この「チョンガリ」、「ハアー」、「エイコラナ」、「ナ」は、

  「チオ・(ン)ガリ」、TIO-NGARI(tio=cry,call;ngari=annoyance,greatness,=ngeri=rhythmic chant with action)、「踊りながら(クドキ)唄を・(叫ぶように)詠唱する」

  「ハ」、HA(what!,then,so)、「さて」

  「エヒ・コラ(ン)ガ」、EHI-KORANGA(ehi=well!;koranga=raise up,lift up;na=satisfied,content,by,belonging to,to indicate position near or connection with the person addressed)、「上手だと・持ち上げる(賞賛する)」(「エヒ」のH音が脱落して「エイ」と、「コラ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「コラナ」となった)

  「ナ」、NA(satisfied,content,by,belonging to,to indicate position near or connection with the person addressed)、「(その場所)にある」

の転訛と解します。

164ヤッチョエ節・ア ヤッチョエ ヤッチョエナ・イヨ

 天正から元禄にかけて海運業が栄え、江戸時代に天領となつた港町の黒島(旧鳳至郡門前町。現輪島市)に伝わる祝儀唄で、八月の若宮八幡神社の天領祭の踊りの唄となっています。

歌詞には、
 ♪島にゃ七島 八島もあれど(ア ヤッチョエ ヤッチョエナ)
  おらの思う島 イヨ 黒島よ(イヨ おらの思う島 イヨ 黒島よ)
とあります。

 この「ア ヤッチョエ ヤッチョエナ」、「イヨ」は、

  「ア・イア・チホヘ」、A-IA-TIHOHE-IA-TIHOHE-NA(a=the...of,drive,urge,yes,of,well;ia=indeed;tihohe=silly,giggling,yielding,weary;na=satisfied,content,by,belonging to,to indicate position near or connection with the person addressed)、「それは・ほんとに・笑いがこみ上げてくる・ほんとに・笑いがこみ上げてくる・のだよ」(「チホヘ」のH音が脱落して「チオエ」から「チョエ」となつた)

  「イイ・オ」、II-O(ii=i=past tense,beside,at of place;o=find room,be capable of being contained or enclosed,get in)、「そこに・(土地、船、人の心などが)ある」

の転訛と解します。

[福井県]

171三国節(みくにぶし)・サッサア・ホイ・やしゃ・やのしゃ・こちゃ・めめじゃこ・そうけ

 越前三国港(旧坂井郡三国町。現坂井市)に伝えられる盆踊唄です。

 歌詞には、
 ♪三国々々と 通う人御苦労 帯の幅ほどある町を(サッサア)
 (返し)♪ある町をホイ ある町を 帯の幅ほどある町を(サッサア)
  やしゃでやのしゃで やのしゃでやしゃで やしゃでやのしゃで こちゃ知らぬ
とあります。
 歌詞の中には「三国祭は めめじゃこ祭 そうけ持てこい掬てやる」などがあります。この「やしゃでやのしゃで」は意味不明、「めめじゃこ」は「めだか」の意とされます。

 この「サッサア」、「ホイ」、「やしゃ」、「やのしゃ」、「こちゃ」、「めめじゃこ」、「そうけ」は、

  「タタ」、TATA(near of place or time)、「狭い狭い」

  「ホイ」、HOI(far off,distant;=heoi=fenoting completeness or sufficiency of a statement or enumeration,accordingly,so then,but)、「そして」

  「イア・チア」、IA-TIA(ia=indeed;tia=stick in,adorn by sticking in feathers,peg)、「ちゃんと・化粧をして」

  「イ・アノ・チア」、I-ANO-TIA(i=past tense;ano=as though,still,again,just,denoting admiration;stick in,adorn by sticking in feathers,peg)、「特別に・化粧を・して」(「イ・アノ」が「ヤノ」となった)

  「コチ・ア」、KOTI-IA(koti=cut in two,devide;ia=indeed)、「(やしゃとやのしゃを)区別する(見分ける)」

  「メメ・チヒ・アコ」、MEME-TIHI-AKO(meme=muttering,murmuring;tihi=top,summit:ako=move,stir)、「ざわめきながら・最高に(俊敏に)・泳ぐ(魚。メダカ。集まった男女が活発に踊る祭)」(「チヒ」のH音が脱落し、「アコ」と連結して「チャコ」から「ジャコ」となった)

  「タウケ」、TAUKE(apart,separate)、「選別する(もの。篩)」または「水を切る(もの。笊)」(AU音がOU音に変化して「トウケ」から「ソウケ」となった)

の転訛と解します。

[山梨県]

181甲州綿打唄(こうしゅうわたうちうた)・ゾクヨーヤコラナ・ゾクヨー・ほかし・つくなる・ペンョ

 「甲州綿」の生産で知られる旧中巨摩郡(現甲斐市・南アルプス市など)の釜無川流域一帯を中心に唄われた綿打唄です。綿の生産がとくに盛んだつたのは、明治初年から15年ごろまでといわれます。

 歌詞には、
 ♪ゾクヨーヤコラナ ゾクヨー ほかしやさんは滅多ほかす 縒(より)子よりア怠けて 綿がつくなる 綿がつくなる ペンヨ ペンヨ
とあります。

 この「ゾクヨーヤコラナ」、「ゾクヨー」、「ほかし」、「つくなる」、「ペンョ」は、

  「トク・イホ・イア・コラ(ン)ガ」、TOKU-IHO-IA-KORANGA(toku=my garment;iho=from above,downwards;ia=indeed;koranga=raise up,lift up)、「下に溜まった・(着物)繰綿を・それ・持ち上げて」(「トク」が「ゾク」と、「イホ」のH音が脱落して「ヨ」と、「イア」が「ヤ」と、「コラ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「コラナ」となった)

  「トク・イホ」、TOKU-IHO(toku=my garment;iho=from above,downwards)、「下に溜まった・(着物)繰綿を」(「トク」が「ゾク」と、「イホ」のH音が脱落して「ヨ」となった)

  「ハウ・カチ」、HAU-KATI(hau=eager,brisk;kati=bite,nip)、「懸命に・(綿の繊維を種子から)はがす(繰綿にする)」(「ハウ」のAU音がO音に変化して「ホ」となつた)

  「ツク(ン)ガ・ル」、TUKUNGA-RU(tukunga=place into which one may be received;ru=shake,agitate,scatter)、「人が座る場所が・(四散して)なくなる(ほど取り散らかす)」(「ツク(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「ツクナ」となつた)

  「パエ(ン)ガ・イホ」、PAENGA-IHO(paenga=tease,annoy:iho=from above,downwards)、「(繰綿が)下に溜まって・困ったよ」(「パエ(ン)ガ」のAE音がE音に、NG音がN音に変化して「ペナ」から「ペン」と、「イホ」のH音が脱落して「ヨ」となった)

の転訛と解します。

182粘土節(ねんどぶし)・ハアー・アー ゴッショーン ゴッション

 釜無川が塩川、御勅使(みだい)川、笛吹川等と合流するあたりは洪水の常襲地帯でしたが、明治20年から26年にかけて行われた護岸改修工事の際、粘土搗きの女土方で美声のお高が歌い出した作業唄です。

 歌詞には、
 ♪ハアー粘土お高やんが 来ないなんていえば 広い河原も 真の闇(アー ゴッショーン ゴッション)
とあります。この「ゴッション」は、粘土を搗く音か(岩波版)とされます。

 この「ハアー」、「アー ゴッショーン ゴッション」は、

  「ハ」、HA(what!,then,so)、「なんと」

  「ア・(ン)ガウ・チオ(ン)ガ・(ン)ガウ・チオ(ン)ガ」、A-NGAU-TIONGA-NGAU-TIONGA(a=the...of,drive,urge,yes,of,well;ngau=bite,hurt,attack;tionga=decoy parrot)、「正に・おとりの鳥が・(殺された)いなくなったようなもの・おとりの鳥が・いなくなったようなもの」(「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AO音がO音に変化して「ゴ」と、「チオ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「チオナ」から「チオン」、「ション」となった)

の転訛と解します。

183縁故節(えんこぶし。エグエグ節)・エグエグ・エグいネー・アリャセー コリャセー・ションガイネー・ボコ

 この唄は、旧北巨摩郡武川村(現北杜市)付近で唄われていた盆踊唄です。

 歌詞には、
 ♪さあさエグエグ さあさエグエグ  じゃがたら藷はエグいネー(アリャセー コリャセー)中で青いのは なおエグい ションガイネー(アリャセー コリャセー)
とあります。
 歌詞の中には「縁の切れ目に このボコ出来て このボコ異なボコ 縁つなぎ」などがあります。この「ボコ」は方言で「赤ん坊」の意とされます。

 この「エグエグ」、「エグいネー」、「アリャセー コリャセー」、「ションガイネー」、「ボコ」は、

  「ヘ・(ン)グ・ヘ・(ン)グ」、HE-NGU-HE-NGU(he=wrong,erring,in trouble or difficulty;ngu=moan,groan)、「嫌な(味を感じて)・うめく・嫌な(味を感じて)・うめく」(「ヘ」のH音が脱落して「エ」と、「(ン)グ」のNG音がG音に変化して「グ」となった)

  「「ヘ・(ン)グ・イ・ネイ」、HE-NGU-I-NEI(he=wrong,erring,in trouble or difficulty;ngu=moan,groan;i=past tense;nei=to denote proximity to,to indicate continuance of action)、「嫌な(味を感じて)・うめい・た・ね」(「ヘ」のH音が脱落して「エ」と、「(ン)グ」のNG音がG音に変化して「グ」となった)

  「アリア・タエ・コリ・イア・タエ」、ARIA-TAE-KORI-IA-TAE(aria=appear,be seen indistinctly,likeness,feeling,effect;tae=arrive,reach,extend to,touch of feelings,be effected;kori=move,wriggle,bestir oneself,use action in oratory;ia=indeed)、「その(嫌な感じ)味を・感じたよ・実に・(嫌な味に)のたうち・回ったよ」(「タエ」のAE音がE音に変化して「テ」から「セ」となった)

  「チオ・(ン)ガイ・ネイ」、TIO-NGAI-NEI(tio=cry,call;ngai=tribe or clan;nei=to denote proximity to,to indicate continuance of action)、「悲鳴の・ような声を・上げ続けたよ」(「チオ・(ン)ガイ」が「ションガイ」となった)

  「ポ・コ」、PO-KO(po,popo=lullaby;ko=addressing to males and females)、「(子守唄を必要とする・子)赤ん坊」

の転訛と解します。

184馬八節(まはちぶし)・コラ・オーヤレヨー・ヨ・からまる

 北巨摩郡の山村台地から中巨摩郡の釜無川と笛吹川が合流する扇状地帯にかけて唄われる馬子唄で、後に田草取唄に転用されました。曲名の「馬八」は、もとこの地方の代官と豪農の娘との間の子の名(略称)で、お政という娘と恋仲となつたが、横恋慕した代官手代によつて謀殺され、悲観したお政も後を追って死んだという悲話を歌詞に取り入れたことに由来します。

 歌詞には、
 ♪コラ オーヤレヨー 大川端で 葦(よし)ヨ刈れば コラ葦アなびく 葦切ア鳴いてコーラ からまる
とあります。

 この「コラ」、「オーヤレヨー」、「ヨ」、「からまる」は、

  「コラ」、KORA(yonder,that place at a distance)、「(あの)遠くの」

  「オ・イア・レ・イ・オ」、O-IA-RE-I-O(o=the...of,find room,be capable of being contained or enclosed,get in;ia=indeed,rushing stream;re=see!;i=past tense,beside,at of place)、「あの場所・(葦が)生えて・いるところを・よく・見なさいよ」

  「イ・オ」、I-O(i=past tense,beside,at of place;o=find room,be capable of being contained or enclosed,get in)、「(そこに)生えて・いる」

  「カハ・ラム」、KAHA-RAMU(kaha=strong,persistency;ramu=namu,nanamu=tingle,glitter,sting,irritate)、「たいへん・嘆き悲しむ」(「カハ」のH音が脱落して「カ」となった)

の転訛と解します。

[長野県]

191小諸馬子唄(こもろまごうた)・ヨー・ハイ ハイ

 信州小諸地方の馬子唄で、「小諸ぶし」ともいわれます。

 歌詞には、
 ♪小諸出て見よ 浅間の山にヨー けさも三筋の 煙立つ(ハイ ハイ)
とあります。

 この「ヨー」、「ハイ ハイ」は、

  「イ・オ」、I-O(i=past tense,beside,at of place;o=find room,be capable of being contained or enclosed,get in)、「(噴煙が空に)昇って・いる」

  「ハイ・ハイ」、HAI-HAI(=hei=go towards,be requited)、「(煙が)昇ってゆく・昇ってゆく」

の転訛と解します。

192信濃追分(しなのおいわけ)・ア キタホイ・エ・ヨー・キタホイ ホイホイ・ア・オーサ ドンドン

 江戸時代に信州浅間山麓の追分宿(現北佐久郡軽井沢町追分)で飯盛女が酒席の余興に碓氷峠の馬子唄を三味線に乗せて歌い出したものといいます。一説には、鈴鹿峠を中心とした伊勢・伊賀地方の馬子唄が、中山道に入って信州小室宿の「小室節」となり、更に追分宿で「追分節」となったとします。「追分」は「街道が二つに分岐する場所」の意で、この追分宿は中山道と北国街道の分岐点でした。(曲名の「追分」については、必ずしも地名ではないと考えられます。001追分の項を参照してください。)

 歌詞には、
 ♪碓氷峠の(ア キタホイ) エ権現さまはヨー(キタホイ ホイホイ) 主のためには(ア キタホイ) 守り神(ア キタホイ)
 (囃子)♪ア 来たよで来ぬよで 面影立つよで オーサ ドンドン
とあります。

 この「ア キタホイ」、「エ」、「ヨー」、「キタホイ ホイホイ」、「ア」、「オーサ ドンドン」は、

  「ア・キタ・ホイ」、A-KITA-HOI(a=the...of,drive,urge,yes,of,well;kita=tightly,intensely,tightly clenched;hoi=far off,distant)、「そうだ・遠い(碓氷峠の権現様が)・(離れた人に密着して)寄り添っていらっしゃる(守ってくださる)」

  「エ」、E(calling attention or expressing surprise)、「なんと」

  「イ・オ」、I-O(i=past tense,beside,at of place;o=find room,be capable of being contained or enclosed,get in)、「そこに(主のそばに)・いらっしゃる」

  「キタ・ホイ・ホイ・ホイ」、KITA-HOI-HOI-HOI(a=the...of,drive,urge,yes,of,well;kita=tightly,intensely,tightly clenched;hoi=far off,distant)、「そうだ・遠い(碓氷峠の権現様が)・(離れた人に密着して)寄り添っていらっしゃる(守ってくださる)・遠くの・遠くの(権現様が)」

  「ア」、A(the...of,drive,urge,yes,of,well)、「そして」

  「アウタ・トヌ・トヌ」、AUTA-TONU-TONU(auta=toss,writhe,encroach upon,attack;tonu=denoting continuance)、「(お客を待って)やきもきし・続ける」(「アウタ」のAU音がO音に変化して「オタ」から「オサ」と、「トヌ」が「トン」から「ドン」となった)

の転訛と解します。

193木曾節(きそぶし)・ナー・ナンチャラホイ・ヨイヨイヨイ・あわしょ(袷)・ヨ

 木曽郡福島町(現木曽町)を中心とする木曾谷一帯の盆踊唄で、「木曾の中乗さん」または「中乗さん節」ともいいます。「伊那節」と同じく「御岳山節」が元とする説、木曾川の支流の王滝川で流木に従事していた人夫が唄っていた「木曳唄」が変化したとする説があります。 

 歌詞には、
 ♪木曾のナー中乗さん 木曾の御岳さんはナンチャラホイ 夏でも寒いヨイヨイヨイ
  袷(あわしょ)ナー中乗さん 袷やりたやナンチャラホイ 足袋ヨ添えてヨイヨイヨイ
とあります。

 この「ナー」、「ナンチャラホイ」、「ヨイヨイヨイ」、「あわしょ」、「ヨ」は、

  「ナ」、NA(satisfied,content,by,belonging to,to indicate position near or connection with the person addressed)、「(その場所)に居る」

  「ナ・ナチ・アラ・ホイ」、NA-NATI-ARA-HOI(na=by,belonging to;nati=pinch or conyract,restrain;ara=way,path;hoi=far off,distant)、「ほんとうに・狭い・道が・遠くまで」(「ナ・ナチ・アラ」が「ナンチャラ」となった)

  「イ・オイ・イ・オイ・イ・オイ」、I-OI-I-OI-I-OI(i=past tense,beside,ferment,be stirred;oi=shout,shudder,move continuously,disturb)、「(寒くて)震え・たよ・震え・たよ・震え・たよ)」

  「ア・ウア・チオ」、A-UA-TIO(a=the...of,drive,urge,yes,of,well;ua=used in expostulation,don't;tio=sharp of cold,pinched with cold)、「寒さに・震えさせないようにする・もの(袷の着物)」

  「イ・オ」、I-O(i=past tense,beside,at of place;o=find room,be capable of being contained or enclosed,get in)、「そこに(袷に)・添えて」

の転訛と解します。

194伊那節(いなぶし)・ハアー・ア ソリャコイ アバヨ

 天竜川が貫流する伊那谷の中心、飯田市を中心に唄われる祝儀唄です。伊那谷、木曾谷から飛騨、美濃、三河の山間部一帯で古くから祝儀唄または盆踊唄として唄われた「御岳節」が元唄で、元禄年間に権兵衛峠が開通してから伊那の産米を木曾へ運ぶ馬子の唄となり、現在の囃子詞が付加されて伊那の唄となったとされます。

 歌詞には、
 ♪ハアー天竜下れば しぶきにぬれる 持たせやりたや 持たせやりたや檜笠(ア ソリャコイ アバヨ マタオイデ)
とあります。

 この「ハアー」、「ア ソリャコイ アバヨ」は、

  「ハ」、HA(what!,then,so)、「なんと」

  「ア・トリア・コイ・アパ・イ・オ」、A-TORIA-KOI-APA-I-O(a=the...of,drive,urge;toria=tori=cut,separate;koi=move about,good,suitable;apa=seek;i=past tense,beside,at of place;o=find room,be capable of being contained or enclosed,get in)、「ほんとうに・いい・別れだ・生きて・いたら・(探して)逢おう」

の転訛と解します。

195安曇節(あずみぶし)・チョコサイ コラサイ・奥(いり)

 安曇郡地方で古くから唄われていた代掻唄や盆踊のチョコサイ節を元に大正12年に改作された唄です。

 歌詞には、
 ♪何か思案の 有明山に 小首かしげて 小首かしげて 出た蕨 出た蕨 チョコサイ コラサイ
とあります。
 歌詞の中には「誰か行かぬか 高瀬の奥(いり)へ 独活や蕨の 芽を摘みに」などがあります。

 この「チョコサイ コラサイ」、「いり」は、

  「チオコ・タイ・コラ・タイ」、TIOKO-TAI-KORA-TAI(tioko=assemble;tai,taitai=dash,strike,knock,first fruits of bird or fish etc.;kora=yonder,that place at a distance)、「(蕨など)いろいろの・初物・遠方の(山で採れた)・初物」

  「イリ」、IRI(be elevated,on something,rest upon,hang)、「(山の)高いところ(奥)」

の転訛と解します。

[岐阜県]

201お婆(岐阜音頭)・ナーナーナー・ナー・ソーラバエー ヒュルヒュルヒュ・ササ

 岐阜地方の農村で結婚・出産祝いなどの席上で必ず唱和される祝儀唄です。「お婆何処行く」ともいわれます。

 歌詞には、
 ♪お婆どこへ行(き)ゃるナーナーナー お婆どこへ行ゃるナー 三升樽さげて ソーラバエー ヒュルヒュルヒュ ヒュルヒュルヒュ
 ♪嫁の在所へナーナーナー 嫁の在所へナー ササ孫抱きに ソーラバエー ヒュルヒュルヒュ ヒュルヒュルヒュ
とあります。

 この「ナーナーナー」、「ナー」、「ソーラバエー ヒュルヒュルヒュ」、「ササ」は、

  「ナ・ナ・ナ」、NA-NA-NA(na=to indicate position near or connection with the person addressed,by,belonging to,by reason of)、「ねえ・何処へ・何しに」

  「ナ」、NA(to indicate position near or connection with the person addressed,by,belonging to,by reason of)、「ねえ」

  「タウラ・パエ・ピウ・ル・ピウ・ル・ピウ」、TAURA-PAE-PIU-RU-PIU-RU-PIU(taura=rope,cord;pae=horizon,lie across,be collected together;piu=throw or swing as with a cord,wave about,skip with a rope;ru=shake,scatter)、「(樽を)縄で・縛って・ぶらぶら・振って・ぶらぶら・振って・振って」(「タウラ」のAU音がO音に変化して「トラ」から「ソラ」と、「ピウ」のP音がF音を経てH音に変化して「ヒウ」から「ヒュ」となった)

  「タタ」、TATA(near of place or time,suddenly,wag,nod)、「そうだ(ご推察の通り)」

の転訛と解します。

202ホッチョセ節・ア ホッチョセー・おもるちゃ

 東濃地方と呼ばれる中津川を中心とする恵那郡一帯で唄われた盆踊唄です。「中津甚句」とも呼ばれます。

 歌詞には、
 ♪ここはナー山家じゃ お医者は無いで(ア ホッチョセー ホッチョセー)可愛い殿さを見殺しに(ア ホッチョセー ホッチョセー)
とあります。
 歌詞の中には「木曾の丸木橋ア お前となら渡す 落ちておもるちゃ 二人連れ」などがあります。

 この「ア ホッチョセー ホッチョセー」、「おもるちゃ」は、

  「ア・ポチ・オ・タエ、A-POTI-O-TE(a=the...of,belonging to,drive,urge,yes,well;poti=angle,corner;o=the place of;tae=arrive,reach,extend to,proceed to)、「ここは・(人里から)遠く離れた・場所の・隅っこだ」(「ポチ」のP音がF音を経てH音に変化して「ホチ」となり、「オ」と連結して「ホッチョ」と、「タエ」のAE音がE音に変化して「テ」から「セ」となった)

  「オ・マウル・チア」、O-MAURU-TIA(o=the...of,of,from;mauru=quieted,allayed,subside;tia=stick in,persistency,=etia=as if,perhaps)、「(橋から落ちて)そこで・静かになる(死ぬ)・としても」(「マウル」のAU音がO音に変化して「モル」となった)

の転訛と解します。

203郡上踊(ぐじょうおどり)・ア ソンレンセ・ノー・毛附市(けつけいち)

 旧郡上郡八幡町(現郡上市)の盆踊唄で、「郡上節」、「郡上音頭」ともいいます。「飛騨臼挽き唄」または「伊勢音頭」の変化とする説があります。「川崎」、「三百」、「春駒」、「松坂」などの種類があります。

 最も代表的な「川崎」の歌詞には、
 (音頭)♪郡上のナー八幡 出て行く時は
 (踊子)♪ア ソンレンセ
 (音頭)♪雨も降らぬに 袖しぼる
 (踊子)♪袖しぼるノー袖しぼる
 (音頭)♪ア ソンレンセ
 (踊子)♪雨も降らぬに 袖しぼる
とあります。
 「春駒」の歌詞の中には「駒は売られて いななき交わす 土用七日の 毛附市」などがあります。

 この「ア ソンレンセ」、「ノー」、「けつけ(市)」は、

  「ア・トヌ・レ(ン)ガ・タエ」、A-TONU-RENGA-TAE(a=the...of,belonging to,drive,urge,yes,well;tonu=denoting continuance;renga=overflow,be full;tae=arrive,reach,extend to,proceed to)、「そして・(涙が)溢れて・どうしても・止まらないよ」(「トヌ」が「トン」から「ソン」と、「レ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「レナ」から「レン」と、「タエ」のAE音がE音に変化して「テ」から「セ」となつた)

  「ノホ」、NOHO(sit,settle,remain)、「残る(私は)」(H音が脱落して「ノー」となった)または「ノフ」、NOHU(sinking pain)、「心が痛む」(H音が脱落して「ノウ」から「ノー」となった)

  「ケツケツ」、KETUKETU(scratch up,move leaves etc. in looking for anything)、「(馬の口の中、歯などを)子細に点検して取引する(馬市)」(語尾の「ツ」が脱落して「ケツケ」となつた)

の転訛と解します。

[静岡県]

211農兵節(のうへいぶし)・ノーエ・サイサイ

 幕末に横浜野毛山下で行われた軍事調練を題材とした「野毛の山からノーエ」の替唄で、明治になってから三島の花柳界で「農兵節」と改称して宣伝したもので、「サイサイ節」ともいいます。一説には、嘉永6年伊豆韮山代官江川太郎左衛門が幕府の許可を得て洋式農兵訓練を実施したときの即席行進曲ともいわれます。

 歌詞には、
 ♪富士の白雪ア ノーエ 富士の白雪ア ノーエ 富士のサイサイ 白雪ア 朝日で解ける
とあります。

 この「ノーエ」、「サイサイ」は、

  「ノヘア」、NOHEA(whence)、「何処から何処へ(何がどうした)」(H音および語尾のA音が脱落して「ノエ」となった)

  「タイタイ」、TAITAI(tide,dash,strike,knock)、「流れ落ちる水(事が進む)」

の転訛と解します。

212下田節(しもだぶし)・ア ヨイトサ ヨイトサ エー・エー・ア ヨイヨーエー・ヤーレ・アーエ・オオサ ヨツタ ヨッタ・ならい(東北風)・だし(陸から海へ吹く風)

 伊豆半島の南端、下田港に古くから伝わる唄です。九州の「ハイヤ節」の変形と考えられています。

 歌詞には、
 ♪(ア ヨイトサ ヨイトサ エー)伊豆の下田に 長居はエー(ア ヨイヨーエー)お止し 縞の財布が空になるエー
 (囃子)♪ヤーレ 下田の沖に瀬が四つ 思い切る瀬に 切らぬ瀬に エ取る瀬にやる瀬がないわいなアーエ(オオサ ヨッタ ヨッタ)
とあります。
 歌詞の中には「相模ア東北風(ならい)で 石廊崎ア西風(にし)よ 間(あい)の下田がだしの風」などとあります。この「だしの風」は方言で「陸から海へ吹く風」の意とされます。

 この「ア ヨイトサ ヨイトサ エー」、「エー」、「ア ヨイヨーエー」、「ヤーレ」、「アーエ」、「オオサ ヨツタ ヨッタ」、「ならい」、「だし」は、

  「ア・イ・オイ・トタ・イ・オイ・トタ・エヘ」、A-I-OI-TOTA-I-OI-TOTA-EHE(a=the...of,belonging to;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;tota=sweat,condensed vapour:ehe=expressing surprise)、「何と・汗をかいて・震える・汗をかいて・震える・始末とはね」(「イ・オイ」が「ヨイ」と、「エヘ」のH音が脱落して「エエ」となつた)

  「エヘ」、EHE(expressing surprise)、「びっくりだ」(H音が脱落して「エエ」となつた)

  「ア・イ・オイ・イ・オイ・エヘ」、A-I-OI-I-OI-EHE(a=the...of,belonging to;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;ehe=expressing surprise)、「(裸にされて)震えに・震える・よ」(「イ・オイ」が「ヨイ」と、「エヘ」のH音が脱落して「エエ」となつた)

  「イア・レ」、IA-RE(ia=indeed;re=see!)、「それ・見てごらん」

  「アエ」、AE(assent,agree)、「そうだ(全くだ)」

  「オホ・タ・イオ・タ・イオ・タ」、OHO-TA-IO-TA(oho=start from fear or surprise,wake up;ta=dash,beat,lay;io=muscle,twitch)、「(予期せぬ事態に遭遇して)びっくり・して・震えが・来た・震えが・来た」(「オホ」のH音が脱落して「オオ」となった)

  「ナ・ラヒ」、NA-RAHI(na=belonging to;rahi=great,abundant,numerous,loud)、「大きな(音を立てて吹く)・部類の(風)」(「ラヒ」のH音が脱落すると「ライ」となった)

  「タ・アチ」、TA-ATI(ta=dash,beat,lay;ati=descendant,clan)、「(急に)襲いかかってくる・部類の(風)」(「タ」のA音と「アチ」の語頭のA音が連結して「タチ」から「ダシ」となった)

の転訛と解します。

[愛知県]

221機織唄(はたおりうた)・ハアー・チャンコロコロ・ヨー

 岡崎平野から渥美半島一帯に行われた機織り作業の唄です。

 歌詞には、
 ♪ハアー 機(はた)を織りたや チャンコロコロとヨー キイコキイコと 音させて
とあります。

 この「ハアー」、「チャンコロコロ」、「ヨー」は、

  「ハ」、HA(what!,then,so)、「さて」

  「チア(ン)ゴ・コロコロ」、TIANGO-KOROKORO(tiango=shrunk,contracted;korokoro=loose,,slack)、「(布を織るのに経糸に杼で緯糸をくぐらせて)締め付けたり・ゆるめたり」

  「イ・オ」、I-O(i=past tense,beside,at of place;o=find room,be capable of being contained or enclosed,get in)、「(布を)生み・出す」

の転訛と解します。(「キイコキイコ」は擬音語と解します。)

222岡崎五万石(おかざきごまんごく)・ア ヨイコノサンセー・ションガイナ・ア ヤレコノ・ア ヨーイヨーイ ヨイコノサンセー・マダマダハヤソウ

 三河岡崎に江戸時代から唄われている民謡で、単に「五万石」ともいいます。「ヨイコノサンセー」という木遣唄を三味線化したものといわれます。

 歌詞には、
 ♪五万石でも 岡崎さまは ア ヨイコノサンセー お城下まで 船が着くションガイナ ア ヤレコノ船が着く ア ヨーイヨーイ ヨイコノサンセー マダマダハヤソウ
とあります。

 この「ア ヨイコノサンセー」、「ションガイナ」、「ア ヤレコノ」、「ア ヨーイヨーイ ヨイコノサンセー」、「マダマダハヤソウ」は、

  「ア・イ・オイ・コノ・タ(ン)ガ・タエ」、A-I-OI-KONO-TANGA-TAE(a=the...of,belonging to;i=beside,ferment,be stirred;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;kono=loop,noose,knot;tanga=be assembled;tae=arrive,reach,extend to,proceed to)、「(船を)漕い・で・(川と)繋がった・(お城の)周りのお堀に・着いた・ことだ」(「イ・オイ」が「ヨイ」と、「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「サン」と、「タエ」のAE音がE音に変化して「テ」から「セ」となつた)

  「チオ・(ン)ガイ・ナ」、TIO-NGAI-NA(tio=cry,call;ngai=tribe or clan;na=satisfied,to indicate position near or connection with the person addressed,of these)、「感嘆の・部類に属する・声を上げるよ」

  「ア・イア・レ・コノ」、A-IA-RE-KONO(a=the...of,belonging to;ia=indeed,rushing stream;re=see!;kono=loop,noose,knot)、「ほれ・この・(お城の)周りのお堀を・見てごらん」

  「ア・イ・オイ・イ・オイ」、A-I-OI-I-OI(a=the...of,belonging to;i=beside,ferment,be stirred;oi=shout,shudder,move continuously,agitate)、「ほんとに・(動いて)漕い・で・漕い・で」

  「マタマタ・ハ・イア・タウ」、MATAMATA-HA-IA-TAU(matamata=point,extremity,top,headland;ha=what!;ia=indeed;tau=come to rest,settle down,be suitable)、「(船がお城の下まで着くとは)ほんとに・まつたく・素晴らしいこと・最高だ」(「タウ」のAU音がOU音に変化して「トウ」から「ソウ」となつた)

の転訛と解します。

223名古屋甚句(なごやじんく)・ストトコ節・ハアー・ネー・トコ ドッコイ ドッコイショ・ヨーオホホ・アー・エー・ハア ドッコイ ドッコイト・すかたらん・おきやアせ・だちゃかん

 名古屋地方に唄われる甚句唄です。江戸から始まった相撲甚句に新しい歌詞を附けたもので、「ストトコ節」ともいいます。

 歌詞には、
 ♪ハアー 宮の熱田の 二十五丁橋でネー(トコ ドッコイ ドッコイショ)
  ハアー 西行法師が腰を掛け 東西南北見渡して これほど涼しいこの宮を 誰が熱田とヨーオホホ アー名を付けたエー(ハア ドッコイ ドッコイト)
とあります。
 歌詞の中には「名古屋名物 おいて頂戴もに すかたらんにおきやアせ 些(ちい)ともだちゃかんと 言やアすぜえも …」などとあります。この方言の「すかたらん」は「いけ好かない」、「おきやアせ」は「止めなさい」、「だちゃかん」は「埒があかぬ.ダメだ」の意とされます。

 この「ストトコ」、「ハアー」、「ネー」、「トコ ドッコイ ドッコイショ」、「ヨーオホホ」、「アー」、「エー」、「ハア ドッコイ ドッコイト」、「すかたらん」、「おきやアせ」、「だちゃかん」は、

  「ツ・トトコ」、TU-TOTOKO(tu=fight with,energetic;toko,totoko=begin to move,spring up in the mind,belch)、「情熱的に・(歌詞を)吐き出す(唄)」

  「ハ」、HA(what!,then,so)、「なんと」

  「ネイ」、NEI(used after words and clausesto denote proximity to or connection with the speaker)、「…だね」

  「トコ・ト・コイ・ト・コイ・チオ」、TOKO-TO-KOI-TO-KOI-TIO(toko=begin to move,spring up in the mind,belch;to=drag;koi=move about,good,suitable;tio=cry,call)、「(心に浮かんだ)いい歌詞を・引き出して・いい歌詞を・引き出して・(叫ぶ)唄う」

  「イオ・オホホ」、IO-OHOOHO(io=twitch:ohooho=of great value,needing care)、「(名付けの)妙に・(感動して)震えた」

  「ア」、A(and,then,well)、「そして」

  「エヘ」、EHE(expressing surprise)、「びっくりした」(H音が脱落して「エエ」となつた)

  「ハ・ト・コイ・ト・コイ・トフ」、HA-TO-KOI-TO-KOI-TOHU(ha=what!,then,so;to=drag;koi=move about,good,suitable;tohu=mark,show,lay by)、「なんと・いい歌詞を・引き出して・いい歌詞を・引き出して・お目に掛ける」(「トフ」のH音が脱落して「ト」となった)

  「ツカ・タラ(ン)ガ」、TUKA-TARANGA(tuka,tukatuka=start up,proceed forward;taranga=separation)、「近づくことに・縁がない(近づきたくない。好きでない。人間)」(「タラ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タラナ」から「タラン」となった)または「ツカハ・タラ(ン)ガ」、TUKAHA-TARANGA(tukaha=vigorous,passionate;taranga=separat()ion)、「元気と・縁がない(気力がない。人間)」(「ツカハ」のH音が脱落して「スカ」と、「タラ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タラナ」から「タラン」となった)

  「オキ・アテ」、OKI-ATE((Hawaii)oki=to stop,finish,end,cut,separate;ate=liver,heart,spirit)、「(何かをしたいという)気持ちを・静める(行為を止める)」(「オキ・アテ」が「オキイアテ」から「オキャアセ」となった)

  「タ・チ・イア・カナ」、TA-TI-IA-KANA(ta=the...of,dash,beat,lay;ti=throw,cast; ia=indeed;kana=stare wildly,bewitch)、「例の(強い不服の意思を)・実に・投げ掛けて・睨み据える(強く駄目との意思を表示する。何をしても効果がない。埒があかない。)」(「タ」が「ダ」と、「チ」のI音と「イア」の語頭のI音が連結して「チア」から「チャ」と、「カナ」が「カン」となった)

の転訛と解します。

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<修正経緯>

1 平成20年9月1日

 013津軽じょんから節の項に「(お山)かけた」および「いい(山)」の語の解釈を追加しました。

2 平成23年5月1日

 051最上川舟唄の項に「まっかん(大根)」および「(食わん)にゃエちゃ」の解釈を追加し、154コキリコ節の項の「マドのサンサ」および「ハレのサンサ」の解釈を修正し、223名古屋甚句の項の「おきゃアせ」および「だちゃかん」の解釈を一部修正しました。

国語篇(その十一)終り


U R L:  http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/
タイトル:  夢間草廬(むけんのこや)
       ポリネシア語で解く日本の地名・日本の古典・日本語の語源
作  者:  井上政行(夢間)
Eメール:  muken@iris.dti.ne.jp
ご 注 意:  本ホームページの内容を論文等に引用される場合は、出典を明記してください。
(記載例  出典:ポリネシア語で解く日本の地名・日本の古典・日本語の語源
http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/timei05.htm,date of access:05/08/01 など)
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