古典篇(その四)

(平成13-1-1書込。26-12-1最終修正)(テキスト約15頁)


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<『魏志倭人伝』にみえる人名・地名など>  

  目 次

第1 はしがき

第2 『魏志倭人伝』にみえる人名・地名など  

1 帯方郡より末廬国まで

 01対馬国02卑狗03卑奴母離04一支国05末廬国  

2 伊都国から邪馬台国まで

 06伊都国07爾支08泄謨觚柄渠觚09奴国10兇馬觚11不弥国12多模13投馬国14弥弥15弥弥那利16邪馬臺国17伊志馬18弥馬升19弥馬獲支20奴佳提  

3 その他の21国と狗奴国

 21斯馬国22已百支国23伊邪国24都支国25弥奴国26好古都国27不呼国28姐奴国29対蘇国30蘇奴国31呼邑国32華奴蘇奴国33鬼国34為吾国35鬼奴国36邪馬国37躬臣国38巴利国39支惟国40烏奴国41奴国42狗奴国43狗古智卑狗  

4 倭人の風俗と社会制度

 44持衰45大倭46一大率47臆  

5 卑弥呼の国と中国との交渉

 48卑弥呼49難升米50都市牛利51伊声耆52掖邪狗53卑弥弓呼54載斯55烏越56臺與

<修正経緯>

<『魏志倭人伝』にみえる人名・地名など>

 

第1 はしがき

 

1 『魏志倭人伝』、正確には『三国志魏書烏丸鮮卑東夷伝倭人条』は、西暦紀元前後ごろから3世紀半ばごろまでの倭国・倭人について約2千字で記録した中国の正史で、日本列島の古代史を考えるためには避けて通れない貴重な文献です。

 この中には、当時の倭語による人名、地名、国名、官職名や倭人社会で使われていた民俗用語など計56語が含まれています。

 ただし、この漢字で記録された人名、地名等をどう読むかは極めて大きな問題で、古来いろいろな読み方、解釈と論争が行われており、いまだ決着を見ておりません。浅学の私がこの読み方にあらためて新しい読み方を提案するつもりはありませんが、これまでの読み方の代表的なものについてポリネシア語で解釈して対比することによって、今後の研究に対する新しいヒントを提出したい(「対馬」、「壱岐」など一部を除いて、読みが確定しない以上、ポリネシア語による解釈はあくまでも試案にすぎません)と思います。

 なお、読者は、『魏志倭人伝』はよくお読みになっているとの前提で、原文の引用は避け、解釈上とくに必要な部分に限り、読み下し文で引用することとします。

2 ポリネシア語による解釈にとって、もっとも重要なことは「読み」、「発音」です。一つの音が違っただけで全く別の意味が出てくるからです。

 ここでは、原則として、第一に、倭人語の原音について最も統一的な基準によって整理していると思われる『日本の古代1 倭人の登場』中央公論社、1985年所載の森博達・杉本憲司氏の読みと、第二に、いわゆる通説ないし有力説に近いと思われる『魏志倭人伝と邪馬台国』武光誠、読売新聞社読売ぶっくれっと10、1998年所載の水野祐氏監修による読みによって解釈することとしました。

 その人名、地名等を整理しますと次のとおりです。付した番号は、『魏志倭人伝』所載の順です。

国 名 長 官 副 官
01対馬国 02卑狗 03卑奴母離
04一支国 02卑狗 03卑奴母離
05末廬国
06伊都国 07爾支 08泄謨觚柄渠觚
09奴国 10兇馬觚 03卑奴母離
11不弥国 12多模 03卑奴母離
13投馬国 14弥弥 15弥弥那利
16邪馬臺国
 
17伊志馬
 
18弥馬升
19弥馬獲支
20奴佳提
42狗奴国 43狗古智卑狗

(遠絶の諸国)  21斯馬国/22已百支国/23伊邪国/24都支国/25弥奴国/26好古都国/27不呼国/28姐奴国/29対蘇国/30蘇奴国/31呼邑国/32華奴蘇奴国/33鬼国/34為吾国/35鬼奴国/36邪馬国/37躬臣国/38巴利国/39支惟国/40烏奴国/41奴国

国 名  王   官吏・遣使 その他
16邪馬臺国
 
 
 
 
48卑弥呼
56臺與
 
 
 
49難升米
50都市牛利
51伊声耆
52掖邪狗
54載斯
55烏越
45大倭
46一大率
 
 
 
42狗奴国 53卑弥弓呼

倭国風俗 44持衰     47臆

     

 

第2 『魏志倭人伝』にみえる人名・地名など

 

1 帯方郡より末廬国まで  

01対馬国

 対馬国は、『魏志倭人伝』(以下『倭人伝』と記します)の地理の記載からして明らかに「対馬(つしま)島」を指していますが、その読みは明らかに中公本がいうように「ついま」です(水野本は「つしま」とします)。この相違はどう解釈したらよいのでしょうか。

 『倭人伝』の筆者である晋の陳寿は、魏朝の外交文書および外交官の出張報告書や旅行記などを材料としたとされており、魏の時代の倭人語による発音を中国人が聞き取って漢字表記したと通常解されています。

 私は、倭国においては古くから中国南部との交渉が深く、すでに漢字文化が流入しており、倭人または倭国在住の中国人によつて漢字表記が行われ、倭国の王の国書にも採用され、『倭人伝』にもそのまま採用されたものと考えています。『倭人伝』の中の「今使訳通ずるところ三十国」という記事は漢字の使用、国書の交換を前提にしていると考えます。もちろん、中国人の中華意識から、倭国側が好字を使っても、とくに国名については「倭国」、「奴国」など卑字に書き換えたものが数多くあったことは容易に想像されます。

 私は、対馬については、当時「ついま」と「つしま」の同じ意味、同じ語源の二通りの地名の呼び方が併存しており、

 (1)原ポリネシア語の「ツ・シマ」のS音がマオリ語およびハワイ語における変化と同様にH音に変化して「ツ・ヒマ」となった後、H音が脱落して「ツ・イマ」となり、「対馬」と記録されたが、この呼び方は後に日本語からは消失した、

 (2)原ポリネシア語の「ツ・シマ」がそのまま日本語として現在まで保存された、

と考えます。かつてハワイでも同時期に一部の地域ではS音、T音が変化せずに残存していたとの記録があります(中島洋氏のご教示による)。

 この「対馬(つしま)国」は、マオリ語の

  「ツ・チマ」、TU-TIMA(tu=stand,settle;tima=a wooden implement for cultivating the soil)、「掘り棒で掘り散らかしたような地形(湾)がある(島)」

の転訛(原ポリネシア語の「シマ、SIMA」のS音がマオリ語ではT音に変化して「チマ」となった)と解します。

 対馬の西側中央部にある出入りの激しい湾の存在が、対馬の最大の地理的特徴です。(オリエンテーション篇の3の(1)の浅茅(あそう)湾の項を参照して下さい。)

 

02卑狗  

 『倭人伝』には「対馬国の大官(長官)を卑狗といい、副(官)を卑奴母離という」とあります。この卑狗(ひく、ひこ)、卑奴母離(ひぬもり、ひなもり)の名称は、一支国(壱岐島です)の長官と副官および奴国と不弥国の副官においても、全く同じです(読みの最初は中公本、次は水野本によります)。

 この「卑狗」については、「ひく」と読まず、「彦(ひこ)」とする解釈が一般的です。この条の直前に出てくる「狗邪韓国(くやかんこく)」の「狗」は「く」と読みながら、この「卑狗」の「狗」は「こ」と場所によって”恣意的に”原文のテキストを変更して読む学者が水野氏をはじめ多数おられます。これは、「ひく」という相当語彙が日本語に見当たらないところから、”無理矢理に日本語にあてはめて解釈”しようとする悪弊の一つの典型です。

 この「卑狗(ひく、ひこ)」は、マオリ語の

  「ヒク」、HIKU(tail of a fish,tip of a leaf,eaves of a house)、「先端(官僚の最高の地位に立つ人間)」、

  「ヒコ」、HI-KO(hi=rise,raise;ko=addressing in males and females)、「高い地位にある(男子または女子)」

の転訛と解します。

 どちらかといえば、一般的な高い身分の呼称である「ひこ」よりも、最高の地位を示す「ひく」の方がこの大官(長官)の読みとしては適合しています。

 

03卑奴母離  

 副官の「卑奴母離(ひぬもり、ひなもり)」は、マオリ語の

  「ヒヌ・モリ」、HINU-MORI(hinu=oil,fat;mori=fondle,caress)、「肥ったお守り役(世話役)」

  または「ヒ・ヌイ・モリ」、HI-NUI-MORI(hi=rise,raise;nui=big,large,many;mori=fondle,caress)、「非常に高い地位にあるお守り役(世話役)」

  「ヒナ・モリ」、HINA-MORI(hina=grey hair;mori=fondle,caress)、「髪が半白の(老練の)お守り役(世話役)」

の転訛と解します。

 この「卑奴母離」は、これまで一般には「鄙守(ひなもり)」と解されています。しかし、それぞれの国にとってはその国が「中央」であり、けっして自らを「鄙(ひな)=地方、田舎」と呼んで卑称することはあるはずがないと私は考えます。倭人語=縄文語としては「ヌイ」が「ナ」に転訛した可能性が高く、この呼称は、おそらくは長官の「卑狗(ひく)」が王家の一族や皇太子などが若年で任命されるケースが多かったことに対応して、「老練の世話役」が補佐役として任命されていたものと考えられます。

 

04一支国  

 中公本と水野本は、その底本の違いから、「一支(いちし)国」と「一大(いちだい)国」と違いがありますが、対馬と同様「壱岐(いき)島」を指すことは明らかです。

 私は、壱岐についても、当時同じ意味、同じ語源の「いし」と「いき」の二通りの呼び方が併存しており、

 (1)原ポリネシア語の「イシ、ISI」が「一支」として記録されたが、この呼び方は後に日本語からは消失した、

 (2)「イシ」のS音がマオリ語における変化と同様まずT音に変化して「イチ」となり、さらにハワイ語における変化と同様にT音がK音に変化して「イキ」となって日本語に現在まで保存された、

と考えます。なお、

 (3)「イキ」を「一岐」と表記したほか、「岐」の山偏を省略した「支」を用いた「一支」とする倭国風表記法があり、これがそのまま『倭人伝』に採用された可能性もある、

と考えます。

 これに類似した表記例としては、時代は大分新しくなりますが、『日本書紀』欽明天皇5年3月条に「印支彌(未詳)」と、同5年11月条に「印岐彌(謂在任那日本臣名也)」とある人名(かっこ内はいずれも割注)は、割注を素直に読めば別人ですが、記事の内容、前後の関係からみると、同一人である可能性が高いとして、岩波書店日本古典文学大系『日本書紀下』の頭注ではいずれも同一人として「いきみ」と読んでいます。仮に同一人であるとすれば、「岐」を「支」と表記する表記法が古くから存在したと考えることができるのではないでしょうか。

 この「壱岐(いき)国」は、マオリ語の

  「イキ」、IKI(sweep away,devastate)、「(表面を)拭い去ったような(島)」

の転訛と解します。

 対馬は『倭人伝』に「土地は山険にして深い森が多い」とあるように、山また山の高低の多い島ですが、壱岐は対照的にのっぺりした表面を持つ島です。

 

05末廬国  

 この「末廬」も、肥前国松浦郡(現佐賀県東松浦郡呼子町または唐津市周辺)に比定されており、「まつろ」ではなく、「まつら」と読むべきものでしょう。

 この「末廬(まつら)」は、マオリ語の

  「マ・ツラ」、MA-TURA(ma=white,clean;tura=turaha=keep away,be separated)、「隔絶して近づけない清らかな(土地)」

の転訛と解します。

 なお、末廬国には長官、副官の記載がありません。

 

2 伊都国から邪馬台国まで  

06伊都国  

 伊都国の読みは、両本とも「いと」で一致しており、肥前国怡土郡、現福岡県前原市周辺とする説が有力です。『倭人伝』では、伊都国は「帯方郡の使者が往来するときいつも駐在する場所」であり、また、「邪馬台国がその北に位置する諸国を検察するとともに、王が帝都、帯方郡、諸国に派遣する使者や帯方郡の使者を津(港の関所)で臨検して、文書・下賜の物品に間違いがないようにするために置く一大率が政務を執る場所を置いている国」とされています。

 この「伊都(いと)国」は、マオリ語の

  「イ・ト」、I-TO(i=beside;to=drag,open or shut a door or window)、「(伊都国を経由して邪馬台国または博多湾に)出入りする場所の周辺」

の転訛と解します。

 

07爾支  

 伊都国の長官の「爾支(にし、ぬし)」の「ぬし」は、マオリ語の

  「ヌイ・チヒ」、NUI-TIHI(nui=big,large;tihi=top,summit,lie in a heap)、「偉大な最高の地位に立つ者」(「ヌイ」の「イ」と「チヒ」の「ヒ」が脱落した)、

の転訛と解します。

 なお、中公本の「にし」の発音に最もよく音韻が一致するマオリ語の単語は、「ニチ」、NITI(toy-dart)、「おもちゃの投げ矢」で、長官の意味と合致しません。「ヌイ」の発音が「ニ」に変化したか、中国人に「ニ」と聞き取られたものでしょう。

 

08泄謨觚柄渠觚  

 伊都国の副官の「泄謨觚柄渠觚(せつもこ・ひょうごこ、しまこへきこ)」は、マオリ語の

  「テ・ツマウ・コ」、TE-TUMAU-KO(te=the(pl.);tumau=tumou=fixed,continuous,servant;ko=dig or plant with a KO,addressing males and females)、「掘り棒で耕し続ける(ようにコツコツと政務を処理する者)」および「ヒ・アウ・(ン)ガウ・コ」、HI-AU-NGAU-KO(hi=rise,raise;au=rapid,sea;ngau=bite,act upon,attack;ko=dig or plant with a KO,addressing males and females)、「高い地位にあって速やかに政務を処理する者」、

  「チマ・コ・ヘキ・コ」、TIMA-KO-HEKI-KO(tima=a wooden implement for cultivating the soil;ko=dig or plant with a KO,addressing males and females;heki=dredge for mussels,a sort of rake and net combined)、「掘り棒で耕し鋤で貝を浚う(ようにコツコツと政務を処理する者)」

の転訛と解します。

 なお、中公本はこれを「泄謨觚」、「柄渠觚」の二人の副官に分解して読みます。意味が通らないことはないのですが、いささか語呂が悪く感じます。

 

09奴国  

 奴国は、儺ノ県(あがた)、筑前国那(な)の津、現福岡市博多区および春日市周辺に比定して、「ぬ」または「な」と訓ずる説が有力です。『後漢書』に「建武中元二(五七)年倭の奴国奉貢朝賀す。・・・光武賜うに印綬を以てす」とあるのはこの「奴国」で、江戸時代に博多の対岸の志賀島から発見された「漢委奴国王」の金印は「漢の倭の奴の国王」と読んで、このときのものとするのが通説です。
 しかし、「奴」の漢音は「ド」、呉音は「ヌ」、中国の上古音は「nag」、中古音は「no(ndo)」、中世音は「nu」で、記紀・万葉集の音仮名は「ド」(紀・歌謡二八)、「ヌ」(万・一八一九)、「ノ」(紀・歌謡八四、紀・神代上)で、「ド」と読まれていた可能性も否定できません。

 この「奴(ぬ。な。ど)」国は、マオリ語の

 (1)「ぬ」 「ヌイ」、NUI(big,large)、「大きい(人口の多い国。または大きい港の国)」

 (2)「な」 「ナ」、NA(satisfied,content)、「(満足している)繁栄している(国。または繁栄している港の国)」

 (3)「ど」 「ト」、TO(drag,open or shut a door or a window)、「(奴国を経由して邪馬台国に)出入りする場所(国)」または「タウ」、TAU(come to rest,come to anchoor;string of a garment(tatau=tie with a cord,bundle))、「(船が)碇泊する場所(港。国)」
もしくは「(縄で縛ったような=海の中道という細長い砂洲によつて外海と隔てられている)天然の良港の場所(国)」(「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」から「ド」となった)

の転訛と解します。

 これらのうち、(3)の後者が最も地理的にも実体的にも国名として特徴をよく掴んだ適切な表現であると考えられます。そしてこの解釈に従うならば、奴国の領域は博多湾の奥の現福岡市博多区および春日市周辺に止まらず、「天然の良港」を形成する外殻の部分、海の中道、志賀島、玄界島、糸島半島北部まで包含すると解することができ、「漢委奴国王」の金印が志賀島から出土した理由も何ら疑問無く理解することができます。

 

10兇馬觚  

 奴国の長官の「兇馬觚(じまこ、しまこ)」は、マオリ語の

  「チ・マカウ」、TI-MAKAU(ti=throw,cast;makau=spouse,favourite)、「愛憎を捨てた(依怙贔屓のない公正な・長官)」

の転訛と解します。

 なお、副官は「03卑奴母離」です。

 

11不弥国  

 この「不弥(ふみ)国」は、マオリ語の

  「フ・ミ」、HU-MI(hu=swamp,noise,silent;(Hawaii)hu=to rise or swell,to roar,miss the way;mi=mimi=stream)、「湿地を川が流れる(土地)または川が氾濫する(土地)」または「フミ」、HUMI(abundant)、「(産物が)豊富な(土地)」

の転訛と解します。

 

12多模  

 不弥国の長官の「多模(たも、たぼ)」は、マオリ語の

  「タ・マウ」、TA-MAU(ta=the,dash,lay;mau=fixed,continuing,expressing feelings of horror or admiration)、「畏敬される(長官)」

  「タパウ」、TAPAU(=tapou=tupou=bow the head,dive,rush of current)、「まっしぐらに突進する(長官)」

の転訛と解します。

 なお、この「たも」は、別解として、マオリ語の

  「タモ」、TAMO(be absent)、「(長官は)不在である」

の転訛である可能性もあります。この場合には、おそらく長官の名を問われた遣使が「(長官は)不在である」と答えたのが長官の名として記録されたのでしょう。

 また、副官は「03卑奴母離」です。

 

13投馬国  

 この「投馬(つま(?)、とうま)」は、マオリ語の

  「ツマ」、TUMA(abscess)、「(大地の)かさぶたのような(低い丘陵が連なる土地)」

  「タウ・マ」、TAU-MA(tau=ridge of a hill,alight,lie steeping in water;ma=white,clean)、「清らかな丘陵(が連なる土地)」

  または「トウ・マ」、TOU-MA(tou=dip into a liquid,wet;ma=white,clean)、「水に浸かっている(湿地が多い)清らかな(土地)」

  または「タウマハ」、TAUMAHA(in the direct line(of a genealogy))、「(邪馬台国の王の)直系の(王が統治する国)」(語尾の「ハ」が脱落した)

の転訛と解します。

 

14弥弥  

 投馬国の長官の「弥弥(みみ)」は、マオリ語の

  「ミミ」、MIMI(stream)、「水を制する(権力者・長官)」

の転訛と解します。

 

15弥弥那利  

 投馬国の副官の「弥弥那利(みみなり)」は、マオリ語の

  「ミミ・(ン)ガリ」、MIMI-NGARI(mimi=stream;ngari=great(ngari=engari=on the contrary))、「弥弥(長官)に相対する(者・副官)」(「(ン)ガリ」のNG音がN音に変化して「ナリ」となった)

の転訛と解します。

 

16邪馬台国  

 この邪馬台国は、底本の違いから、「臺(だい)」か「壹(いち)」かの大論争があります。

 この「邪馬臺(やまたい)国」は、マオリ語(ハワイ語、サモア語)の

  (1)「イア・マタイ」、IA-MATAI(ia=indeed,the said,each,every;(Maori)matai=watch,inspect,examine;(Hawaii)makai=policeman,to inspect,spy;(Samoan)matai=酋長(総称))、「実に・(倭国の他の国々を)統括する(国)」、

  (2)または「イア・マ・タイ」、IA-MA-TAI(ia=indeed,the said,each,every;ma=white,clean;tai=the sea,the coast,tide)、「実に清らかな潮流(の源の国)」、

  (3)または「イア・マタヒ」、IA-MATAHI(ia=indeed,the said,each,every;matahi=a form of incantation)、「実に呪術を行う(国)」(「マタヒ」のH音が脱落して「マタイ」となった)、

  (4)または「イア・マ・タヒ」、IA-MA-TAHI(ia=indeed,the said,each,every;ma=white,clean;tahi=one(first),single,unique,sweep)、「実に清らかな(倭国の中で)一番の(大きい・最高の地位にある・国)」(「タヒ」のH音が脱落して「タイ」となった)

の転訛と解します。

 さらに、この「邪馬壹(やまい(いち))国」は、マオリ語の

  (5)「イア・マイ」、IA-MAI(ia=indeed,the said,each,every;mai=become quiet,hither)、「実に静まりかえっている(国)」

  (6)または「イア・マヒ」、IA-MAHI(ia=indeed,the said,each,every;mahi=work,practice)、「実に(良く)働く(国)」、

  (7)または「イ・アマイ」、I-AMAI(i=past tense,beside;amai=swell on the sea,the back part of the head of a Maori axe helve where bound round)、「(筑後平野という海の中に)そそり立つ高台の・傍ら(の地域)」(「イ」のI音と「アマイ」の語頭のA音が連結して「ヤマイ」となり、さらにAI音がE音に変化して「ヤメ」となった)

  (8)または「イア・マ・イチ」、IA-MA-ITI(ia=indeed,the said,each,every;ma=white,clean;iti=small,compact)、「実に清らかで小さな(国)」(『倭人伝』は、邪馬台国の人口を倭国の中で最大の7万余戸と記録していますから、倭語=縄文語はポリネシア語で解釈できるとする私の立場からすれば、この「やまいち」の読みは明らかに誤りと言わざるを得ません。)

の転訛と解します。

 以上の中では、「邪馬臺(やまたい)国」説を採るならば(1)の解釈が、魏志の「女王国より以北は、特に一大率を置いて諸国を検察させている。諸国はこれを畏憚している。国中に刺史(漢代の州の監察官)のような官吏がいる・・・」の記事に即応し、もっとも適合し、「邪馬壹(やまい(いち))国」を採るならば、(7)の解釈が最も魅力的であると考えます。
 この魏志倭人伝の「邪馬臺国」は、我が国で通常用いられる底本には「邪馬壹国」とあり、これをそののまま「邪馬壹(やまい(いち))国」とするか、宋本『太平御覧』に引く『魏志』や『後漢書』、『梁書』、『隋書』などに従って「邪馬臺(やまたい)国」とするかの大論争があるわけですが、『後漢書』は『魏志』を参照して編纂されたものではありますが、『後漢書』、『梁書』、『隋書』など『魏志』以外の史書のすべてが「臺」であるということは、『後漢書』の編纂者が「壹」を「臺」と誤り、その後の史書の編纂者が誤った『後漢書』のみを参照し、『魏志』その他を全く参照しなかった場合しか「壹」説は成り立たないもので、やはり『魏志』の初版は「臺」で、現存の『魏志』の「壹」は誤刻であった可能性が高いと考えるべきでしょう。

 

17伊支馬  

 邪馬台国の長官の「伊支馬(いしま、いくめ)」は、マオリ語の

  「イチ・マ」、ITI-MA(iti=small;ma=white,clean)、「小さな白髪(の人)」

  「イク・メ」、IKU-ME(iku=hiku=tail of a fish,tip of a leaf,eaves of a house;me=if,as if,like)、「先端の(地位にある人物)」

の転訛と解します。

 

18弥馬升  

 邪馬台国の次官の「弥馬升(みましょう)」は、マオリ語の

  「ミミハ・チオ」、MIMIHA-TIO(mimiha=miha=wonder,admire,whale;tio=sharp of cold,ice)、「尊敬される冷厳な(人物)」

の転訛(「ミミハ」のH音が脱落して「ミミア」から「ミマ」なった)と解します。

 

19弥馬獲支  

 邪馬台国の次官の次の「弥馬獲支(みまわくし、みまかし)」は、マオリ語の

  「ミミハ・ワク・チ」、MIMIHA-WHAKU-TI(mimiha=miha=wonder,admire,whale;whaku→haku=complain of,find fault with;ti=throw,cast)、「他人の非行を糾弾する尊敬される監察官」

  「ミミハ・カチ」、MIMIHA-KATI(mimiha=miha=wonder,admire,whale;kati=be left in statu quo,closed of a passage)、「尊敬される(が弥馬升の地位にまでは上らずに)今の地位に止まっている(者)」

の転訛と解します。

 

20奴佳提  

 弥馬獲支の次に位する「奴佳提(ぬけたい、なかと)」は、マオリ語の

  「ヌカ・エタヒ」、NUKA-ETAHI(nuka=deceive,device,stratagem;etahi=how great!)、「偉大な軍略家(参謀)」(「ヌカ」の語尾のKA音と「エタヒ」の語頭のE音が結合して「ケ」となった)

  「ナ・カタウ」、NA-KATAU(na=satisfied,by,belonging to;katau=right hand)、「(上席者の)右腕のような(者・補助者)」

の転訛と解します。

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3 その他の21国と狗奴国

 

21斯馬国  

 この「斯馬(しま)」は、マオリ語の

  「チマ」、TIMA(a wooden implement for cultivating the soil)、「掘り棒で掘り散らかしたような出入りの多い地形の(国)」

の転訛と解します。

 

22已百支国  

 この「已百支(いひゃくし、いほき)」は、マオリ語の

  「イヒ・アク・チ」、IHI-AKU-TI(ihi=split,separate,power,front of a house;aku=scrape out,cleanse;ti=throw,cast)、「離れて表面が平らになって放り出されている(国。海の中の島国(?))」

  「イホ・キ」、IHO-KI(heart,kernel,object of reliance,lock of hair;ki=full,very)、「(他国の)信頼が厚い(国)」

  または「イ・ホキ」、I-HOKI(i=past tense,beside;hoki=return)、「(他陣営から)帰還した(国)」

の転訛と解します。

 

23伊邪国  

 この「伊邪(いや)」は、マオリ語の

  「イア」、IA(current,rushing stream)、「急流の(川が流れる国。または急な潮流が流れる海峡の国)」

  「イ・ア」、I-A(i=beside;a=coller-bone)、「鎖骨のような(山の)周辺の(国)」

の転訛と解します。

 

24都支国(郡支国)  

 この「都支(とし)、郡支(くし)」は、マオリ語の

  「ト・チ」、TO-TI(to=drag,open or shut a door or window;ti=throw,cast)、「出入りする場所に放り出されている(湾口にある島国)」

  または「タウ・チ」、TAU-TI(tau=ridge of a hill,alight,lie steeping in water;ti=throw,cast)、「放り出されている山(の国)」

  「クチ」、KUTI(contract,pinch)、「(山や海などに)挟まれた狭い(国)」

の転訛と解します。

 

25弥奴国  

 この「弥奴(みぬ)」は、マオリ語の

  「ミ・ヌイ」、MI-NUI(mi=mimi=river,stream;nui=big,large,many)、「大きな川(の流れる国)」

の転訛と解します。

 

26好古都国  

 この「好古都(こうこと)」は、マオリ語の

  「コウ・コト」、KOU-KOTO(kou=knob,stump;koto=averse(kotokoto=trickle,small))、「小さな瘤のような(丘陵のある土地)」

の転訛と解します。

 
27不呼国  

 この「不呼(ふこ)」は、マオリ語の

  「フ・コ」、HU-KO(hu=swamp,noise,silent;ko=a wooden implement for digging or planting)、「湿地を耕している(国)」

  または「フ・カウ」、HU-KAU(hu=swamp,noise,silent;kau=alone,swim,stalk)、「湿地だらけの(国)」

の転訛と解します。

 

28姐奴国  

 この「姐奴(しやぬ)」は、マオリ語の

  「チア・ヌイ」、TIA-NUI(tia=peg,stake,adorn by sticking feathers;nui=big,large,many)、「鳥毛で飾つたような(嶮しい山が)多い(国)」

の転訛と解します。

 

29対蘇国  

 この「対蘇(ついそ、つそ)」は、マオリ語の

  「ツイ・ト」、TUI-TO(tui=pierce,sew;to=stem of maize etc.,finger)、「指をつなぎ合わせたような(地形の国)」

  または「ツヒ・タウ」、TUHI-TAU(tuhi=draw,point at,adorn by painting,glow;tau=ridge of a hill,alight,lie steeping in water)、「彩り鮮やかな丘陵(の国)」

  「ツ・ト」、TU-TO(tu=stand,settle;to=stem of maize etc.,finger)、「指の上にある(ような地形の国)」

の転訛と解します。

 

30蘇奴国  

 この「蘇奴(そぬ)」は、マオリ語の

  「ト・ヌイ」、TO-NUI(to=to=stem of maize etc.,finger;nui=big,large,many)、「大きな指(のような地形の国)」

の転訛と解します。

 

31呼邑国  

 この「呼邑(こおう、こゆ)」は、マオリ語の

  「コアウ」、KOAU(shag)、「草木が繁茂している(国)」

  「コイ・ウ」、KOI-U(koi=sharp,promontry,good;u=breast of a female,bite,be fixed)、「浸食された半島(のような地形の国)」

  または「コ・イフ」、KO-IHU(ko=a wooedn implement for digging or planting;ihu=nose,bow of a canoe)、「耕された鼻(のような地形の国)」

の転訛と解します。

 

32華奴蘇奴国  

 この「華奴蘇奴(かぬそぬ)」は、マオリ語の

  「カヌ・トヌ」、KANU-TONU(kanu=ragged,distracted;tonu=still,quite,just)、「正にぼろ切れのような(貧しい、または混乱している国)」

の転訛と解します。

 

33鬼国  

 この「鬼(き)」は、マオリ語の

  「キ」、KI(full,very)、「(物資が)豊富な(国)」

の転訛と解します。

 

34為吾国  

 この「為吾(いご)」は、マオリ語の

  「イ(ン)ゴ」、INGO(desire,be diffused)、「(国民の間に)渇望がある(国)」

の転訛と解します。

 

35鬼奴国  

 この「鬼奴(きぬ)」は、マオリ語の

  「キ・ヌイ」、KI-NUI(ki=full,say,tell;nui=big,large,many)、「言論の盛んな(国)」

の転訛と解します。

 

36邪馬国  

 この「邪馬(やま)」は、マオリ語の

  「イア・マ」、IA-MA(ia=indeed,the said,each,every,current;ma=white,clean)、「実に清らかな(場所=山、山の国)」

の転訛と解します。

 

37躬臣国  

 この「躬臣(くじん、くし)」は、マオリ語の

  「クチ・ヌイ」、KUTI-NUI(kuti=contracted,pinch;nui=big,large,many)、「(山や海に)挟まれて非常に狭い(国)」

  「クチ」、KUTI(contracted,pinch)、「(山や海に)挟まれて狭い(国)」

の転訛と解します。

 

38巴利国  

 この「巴利(はり)」は、マオリ語の

  「ハリ」、HARI(dance)、「踊り(の盛んな国)」

  または「パリ」、PARI(cliff)、「崖(の多い地形の国)」

の転訛と解します。

 

39支惟国  

 この「支惟(しゆい、きい)」は、マオリ語の

  「チ・イウイ」、TI-IWI(ti=throw,cast;iwi=bone,stone of fruit)、「骨を投げ捨てた(墓場のような国)」

  「キヒ」、KIHI(cut off,destroy completely,strip of branches)、「木の枝条のような(山脈のある国)」

  または「キイ」、KII((Hawaii)to tie,bind)、「(山と平野を)結びつける(麓の国)」

の転訛と解します。

 

40烏奴国  

 この「烏奴(うぬ)」は、マオリ語の

  「ウ・ヌイ」、U-NUI(u=breast of a female;nui=big,large,many)、「乳房のような丘陵が多い(国)」

の転訛と解します。

 

41奴国  

 09奴国と同じと解します。

 

42狗奴国  

 魏志は、「(女王国の境界の尽きるところの奴国の)南に狗奴国がある」とします。

 この「狗奴」は、「くぬ」と読む説が殆どですが、前出五の奴国の項に倣い、(女王国の境界の尽きるところの)奴国の「奴」を「ど」と読むのと同様、「くど」と読まれていた可能性があります。

 この国についての地理情報が殆どない中で、あえて「くぬ」、「くな」および「くど」を地形地名と仮定してその縄文語を復元しますと、

 (1)「くぬ」 「ク・ヌイ」、KU-NUI(ku=silent,showery unsettled weather;nui=big,large,many)、「静まりかえっている(国。または雨が多い国)」(この「雨が多い国」の解釈は、「屋久島」を連想させます。)
または「ク・ウヌア」、KU(silent,make a loe inarticulate sound)-UNUA(fasten two canoes together side by side to form a double canoe)、「いつもぶつぶつと不平を言っている(倭国と敵対している)・二隻の船を繋げて一隻の船(ダブル・カヌー)にしたような地形の(または二の有力氏族が連合して国を造ったような)(国)」(「ク」のU音と「ウヌア」の語頭のU音がと連結し、語尾のA音が脱落して「クヌ」となった)と、

 (2)「くな」 「クナ」、KUNA((Hawaii)itch,to itch)、「(女王国に服属しないので女王国を)いらいらさせる(国)」

(3)「くど」 「ク・タウ」、KU(silent,make a loe inarticulate sound)-TAU(come to rest,come to anchoor;string of a garment(tatau=tie with a cord,bundle))、「いつもぶつぶつと不平を言っている(倭国と敵対している)・(縄で縛ったような=細長い砂洲等によつて外海と隔てられている)天然の良港の場所(国)」(「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」から「ド」となった)

の転訛と解します。

 そこで(1)の後者に従い、仮に魏志の行程の方向・距離を全く度外視して、このダブル・カヌーのような地形を求めるとすれば、九州地方では鹿児島県の大隅半島と薩摩半島をそれぞれカヌーに見立て、その間を繋ぐ地域を含むいわゆる主として隼人の住む地域が候補の一にあげられるでしょう。このほか、山陰地方では、島根県の宍道湖を挟む出雲地域が、山陽地方では、岡山県のかつては本土と離れていた児島(半島)を一隻のカヌーと見立てた吉備地域が、四国地方では、徳島県の吉野川を挟む南北両側の山脈を含む阿波地域が、近畿地方では、奈良県の西の生駒山地・葛城山地と東の笠置山地に挟まれたかつては大きな沼であつた奈良盆地を含む大和地域が、東海地方では、岐阜県・愛知県の養老山地と尾張平野の東側に西北から東南に連なる丘陵に挟まれた尾張地域がそれぞれ候補たりうる地形を具えていると考えられます。

 さらに、これらの候補地に、「女王国の境界の尽きるところの、かつ、北九州の「09奴国」に類似した地形の「奴国」の南にあるという要件を加えると、九州有明海に臨む八代地域または水俣地域の南に隣接する隼人の住む地域か、東出雲の中海に臨む八束郡の地域の南に隣接する吉備地域がそれぞれ候補たりうる地形を具えていると考えられます。

 また、(3)の解釈を前提として、「女王国の境界の尽きるところの、かつ、北九州の「奴国」に類似した地形の「奴国」の南にあるという要件を加えると、隼人の住む地域についてはやや拡大解釈をしなければなりませんが、(1)と同様、九州有明海に臨む八代地域または水俣地域の南に隣接する隼人の住む地域か、東出雲の中海に臨む八束郡の地域の南に隣接する吉備地域がそれぞれ候補たりうる地形を具えていると考えられます。

 

43狗古智卑狗  

 狗奴国の長官の「狗古智卑狗(くこちひく)」は、マオリ語の

  「ク・コチ・ヒク」、KU-KOTI-HIKU(ku=silent;koti=separate;hiku=tail of a fish,tip of a leaf,eaves of a house)、「静かに周囲と離れた場所にいる最高の地位にある(人物)」

の転訛と解します。

 なお、水野氏など有力説は、「狗古智卑狗」を「キクチヒコ」と解し、そこから「狗奴国」を肥後国菊池郡を含む地域と解していますが、「クコチ」と「キクチ」ではあまりにも音韻が離れすぎ(『和名抄』は菊池郡を「久久知」と訓じています。)、さらに02卑狗の項で述べたように「ヒク」を無理矢理「ヒコ」と読んでおり、こじつけ解釈の典型です。

 なお、この「くくち」、「きくち」は、マオリ語の

  「ククチ」、KUKUTI(=kuti=contract,pinch)、「(山と山とに)挟まれて狭い土地」

  「キ・クチ」、KI-KUTI(ki=full,very;kuti=contract,pinch)、「(山と山とに)挟まれて狭い土地がいっぱいある(地方)」

の転訛と解します。(この項は、平成13−6−15に一部修正しました。)

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4 倭人の風俗と社会制度

 

44持衰

 『倭人伝』は、倭人の特異な風俗として、海を渡って中国に旅をする場合に、旅の無事を担保するために一行に代わって行いを謹しんでいる「持衰(じさい)」という者を同道すると記録しています。この「持衰」とは、「喪服を付けた人」と解する説、「持斎(斎戒を守る)人」と解する説、「持災(災害を一身に引き受ける)人」と解する説などがあります。

 この「持衰(じさい)」は、マオリ語の

  「チ・タヒ」、TI-TAHI(ti=throw,cast;tahi=one,single,unique)、「一人だけ隔離されて(身を慎んで)いる(特異な人間)」

の転訛と解します。

 

45大倭  

 『倭人伝』は、国々に市場が有つて、物産の余剰品と不足品を交易しており、(女王国は)大倭という官吏を派遣して市場の監督にあたらせていると記します。

 この「大倭」という、後世大和国の一部の地域を指す地名ともなった名称が、何故「市場監督官」の名称になっているのかはこれまで全く不明とされてきました。

 この「大倭(だいわ)」は、マオリ語の

  「タイワ」、TAIWA(=taewa,taewha,taiawa,taiwha=foreigner)、「外国人」

の転訛と解します。

 この市場監督官は、その市場のある国の出身者ではなく、別の国の出身者をあてることによって、地縁関係や血縁関係による依怙贔屓のない、公正な職務の執行を制度として保証したのです。

 弥生時代終末期と目される時期の博多湾岸の伊都国の港湾都市跡から漢式土器を含む住居跡が発掘され、これを楽浪漢人の居館跡とする研究報告があります(久住猛雄「博多湾貿易の成立と解体ー古墳時代初頭前後の対外交易機構ー」考古学研究第53号第4巻、2007)。これは、正に「大倭」の存在を実証するものでしょう。

 なお、両本とも原文の「使大倭」は「大倭を使して」と読んでいるようですが、「使大倭(しだいわ)」という名称である可能性もあります。

 この場合の「使(し)」は、マオリ語の

  「チ」、TI(throw,cast)、「派遣された(外国人)」

の転訛と解します。

 

46一大率

 『倭人伝』は、「女王国から北には特に一大率という官吏を置き、諸国を検察させている。諸国はこれを畏れ憚かっている。(一大率は)常に伊都国に治所を置き常駐している・・・」と記します。

 これは「一人の大率」の意で、「大率」は通常の「おおよそ、おおむね」の意ではなく、「率いる者」の意で、「大帥(だいすい)」と同じであろうとされます(中公本)。

 この「大率(だいすい、だいそつ」は、マオリ語の

  「タイ・ツヒ」、TAI-TUHI(tai=the sea,the coast;tuhi=point at,indicate by pointing)、「海岸にいて(常駐してあれこれと)指図をする(官吏)」(原ポリネシア語の「スヒ」が縄文語ではH音が脱落して「スイ」となり、マオリ語ではS音がT音に変化して「ツヒ」となった)

  「タヒト・ツ」、TAHITO-TU(tahito=tawhito=old,experienced person;tu=stand,settle)、「老練の駐在官」

の転訛と解します。この場合、前者の「だいすい」の方がより原文の内容に適合します。

 

47臆(返事の声)  

 『倭人伝』に、倭人の返事の声の記載があります。「(下戸が大人に)返事をする声は、「臆」(原文は「口(くち)偏に意」の字を使っていますが、フォントにありませんので、便宜上「臆」を使用します)といい、それは中国で承諾を表す返事のようなものである」とあります。

 この「臆」の音は、中公本では漢音では「ア」または「アイ」ですが、呉音系の万葉仮名の発音から「オー」に近い音であったろうとされます。

 この「臆(おー、ああ)」は、マオリ語の

  「アウ」、AU(certainly,a form of assent)、「承知しました、同意しました(の返事の定型)」

  「アエ」、AE(assenting to an affirmation or affirmative question,yes)、「(肯定または肯定的な質問に対する)同意(の返答)」

の転訛と解します。

 上記の「アウ」の発音は、縄文語では「オ」または「オウ」となって地名等にも多数見えています。また、「アエ」は、日本語では「アイ」に変化したと考えられます。

 

5 卑弥呼の国と中国との交渉

 

48卑弥呼  

 女王「卑弥呼(ひみこ)」は、通常「日御子」、「姫子」などと解されていますが、「鬼道に事(つか)え、能く衆を惑わす」とあるように、いわゆるシャーマンであり、巫女(みこ)であったことは疑いないところです。

 さらに、「鬼道」とあるところからすると、中国の道教の流れを汲んだ新しい呪術、特に鏡を用いる呪術を行う者であった可能性が大で、このことがそれまでの土着の、南方系の自然発生的シャーマンを圧倒し、倭国の女王の地位を獲得する大きな要因となつたものと考えられます。(なおこの鏡は、卑弥呼の呪術とその起源を同じくする大和朝廷の三種の神器の一つとなり、「雑楽篇の106みこ(巫女)」の項で解説したように巫女で組織した女軍を先頭に立てる戦法(古代中国で用いられ、弥生時代に日本列島にも輸入された戦法)においても重要な役割を果たしたことでしょう。)

 卑弥呼は通常「(1)ヒミコ」と読まれますが、「卑」の中国古代音は「ピ(piegまたはpie)」であったとする説(安本美典氏ほか)もありますので、「(2)ピミコ((a)・(b))」についても解釈することとします。(上代万葉語においては、H音はなく、すべてP音であったとする説もありますが、私は原ポリネシア語の子音構成とその後の変化から見て、当初から縄文語にはH音もP音も存在したと考えています。また、(a)・(b)ともに解釈が成立しますが、どちらかと言えば(a)ではなかつたかと現在は考えています。)

 この「ひみこ」は、マオリ語の

  「(1)ヒ・ミコ」、HI-MIKO(hi=raise,rise;miko,mimiko=gooseflesh,creeping sensation of flesh or skin from fear or sickness)、「高い地位に居る・巫女(震えが来て神霊が憑依し、託宣を下す者)」

  「(2)ピ・ミコ」、PI-MIKO(pi=source of a stream,eye,corner of the eye or mouth;miko,mimiko=gooseflesh,creeping sensation of flesh or skin from fear or sickness)、(a)「(倭の国々を統一した)始祖である巫女」または(b)「眼(眼光が鋭い、または眼の周りに入れ墨を施した)の巫女」(「ピ」のP音がF音を経てH音に変化して「ヒ」となつた)

の転訛と解します。

49難升米  

 景初2年の女王の遣使の「難升米(なんしょうまい、なしめ)」は、マオリ語の

  「ヌイ・ノ・チオ・マイ」、NUI-NO-TIO-MAI(nui=big,large,many;no=of;tio=sharp of cold,ice;mai=become quiet,indicating a relation or aspect towards the speaker which frequently cannot be represented in translation)、「奴国の冷厳な人物」

  「ナ・チオ・メ」、NA-TIO-ME(na=to add emphasis;tio=sharp of cold,ice;me=if,as if,like)、「氷のように冷厳な人物」

の転訛と解します。

 

50都市牛利  

 難升米の次使の「都市牛利(とじごり、としごり)」は、マオリ語の

  「タウチチ・(ン)ゴリ」、TAUTITI-NGORI(tautiti=support an invalid in walking;ngori=weak,listless)、「(弱者の・歩行を助ける)大使(の不得手な分野)を・援助する(役割の人物)」

の転訛と解します。

 

51伊声耆  

 正始4年の女王の遣使の「伊声耆(いしょうぎ、いしき)」は、マオリ語の

  「イ・チオ・キ」、I-TIO-KI(i=past tense;tio=sharp of cold,ice;ki=say,tell,full,very)、「非常に冷たくしゃべる(人物)」

  「イチ・キ」、ITI-KI(iti=small,for a little while)、「口数の少ない(人物)」

の転訛と解します。

 

52掖邪狗  

 伊声耆の次使の「掖邪狗(やくやく、ややく)」は、マオリ語の

  「イア・ク・イア・ク」、IA-KU-IA-KU(ia=indeed,the said,each,very;ku=silent)、「実に物静かな(人物)」

  「イアイア・ク」、IAIA-KU(iaia=sinews,veins;ku=silent)、「気質が静かな(人物)」

の転訛と解します。

 

53卑弥弓呼  

 狗奴国の男王の「卑弥弓呼(ひみくこ、ひみきこ)」は、マオリ語の

  「ヒ・ミキ・コ」、HI-MIKI-KO(hi=rise,raise;(Hawaii)miki=quick,active,fast and efficient in work;ko=addressing males and females)、「高い地位にある活発な男子」

の転訛と解します。

 

54載斯

 正始8年の女王の遣使の「載斯(さいし)」は、マオリ語の

  「タイ・チ」、TAI-TI(tai=the sea,the coast,tide,anger,violence;ti=throw,cast)、「勇猛さを・示した(人物)」

  または「タ・イチ」、TA-ITI(ta=the;iti=small)、「(背の)低い(人物)」

の転訛と解します。

 

55烏越

 載斯に同行した「烏越(うおち、うえつ)」は、マオリ語の

  「ウ・オチ」、U-OTI(u=bite;oti=finished)、「(人に)噛みつくことを止めた(性格が穏やかになった・人物)」

  「ウ・ワイツア」、U-WHAITUA(u=be firm,be fixed;whaitua=side,region)、「(載斯の)傍らに・ぴったりと寄り添った(人物)」(「ワイツア」のWH音がW音に、AI音がE音に変化し、語尾のA音が脱落して「ヱツ」となった)

の転訛と解します。

 

56臺與  

 女王「臺與(だいよ(とよ))、壹與(いよ)」は、マオリ語の

  「タイ・イオ」、TAI-IO(tai=the sea,tide,wave,anger,rage,violence(taitai=dash,knockperform certain ceremonies,to remove tapu etc.,the ceremony apparently originally involving striking the object with a twig);io=muscle,tough,twitch)、「(神霊が憑依すると)烈しく・痙攣する(巫女。シャーマン)」

  または「ト・イオ」、TAU-IO(tau=alight,float,settle down;io=muscle,tough,twitch)、「(神霊が憑依すると)ふらふら動き回って・痙攣する(巫女。シャーマン)」

  または「トイ・アウ」、TOI-AU(toi=tip,summit,move quickly,encourage;au=rapid,cloud,sea)、「怒涛のように迅速に行動した・最高の地位にある(巫女。シャーマン)」

  「イ・イオ」、I-IO(i=past tense,beside;io=muscle,tough,twitch)、「(神霊が憑依すると)痙攣・した(巫女。シャーマン)」

の転訛と解します。

 

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<修正経緯>

1 平成13年6月15日

 43狗古智卑狗、48卑弥呼の解釈の一部を修正しました。

2 平成17年6月1日

 50都市牛利の解釈を修正し、54載斯、55烏越の解釈の一部を修正しました。

3 平成19年2月15日

 インデックスのスタイル変更に伴い、本篇のタイトル、リンクおよび奥書のスタイルの変更、<次回予告>の削除などの修正を行ないました。本文の実質的変更はありません。

4 平成22年9月1日

 16邪馬台国および56臺與の解釈の一部を修正しました。

5 平成22年10月1日

 16邪馬台国の解釈の一部を修正しました。

6 平成23年7月1日

 09奴国および42狗奴国の解釈の一部を修正しました。

7 平成26年12月1日

 45大倭の説明に考古学の発掘成果を追加しました。

古典篇(その四) 終わり

   

U R L:  http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/
タイトル:  夢間草廬(むけんのこや)
       ポリネシア語で解く日本の地名・日本の古典・日本語の語源
作  者:  井上政行(夢間)
Eメール:  muken@iris.dti.ne.jp
ご 注 意:  本ホームページの内容を論文等に引用される場合は、出典を明記してください。
(記載例  出典:ポリネシア語で解く日本の地名・日本の古典・日本語の語源
http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/timei05.htm,date of access:05/08/01 など)
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