ルーズソックスをはいた猫(1)

 

 

 僕と「ルーズソックスをはいた猫」は、ちょうど同じ時期に友達を失った。

 それは嫌になるほど暑い8月のことで、僕も「ルーズソックスをはいた猫」も、その暑さにはすっかりやられてしまって、ちょっとナーバスになっていた。そして二人して、大事な相手に対する態度を誤ったのだ。

 僕はそのとき、大学の長い休みの折り返し地点にぼんやりと立っていて、一年中ぼんやりとしている感じの「ルーズソックスをはいた猫」の方は、毎日のように家にいる僕にちょっとうんざりしていた。休みに入ると僕はバイトの時間を遅くするので、彼はたいてい僕より早起きになる。たまたま早く目が覚めてふと枕元を見ると、「ルーズソックスをはいた猫」が僕の方をいやーな目で見ていて、僕の視線に気付くと、ぷいっと目をはずして、外に遊びに行ってしまった。僕らは決して仲が悪いわけではないはずだけど、あまり距離が近すぎてもお互いに疲れてしまう。

 「ルーズソックスをはいた猫」はとてもおしゃれな奴で、その名の由来になった4本の白い足をのぞけば、すごく見栄えがする。いつもしっぽや耳の先まで神経が行き届いていて、毛並みが乱れることなどほとんどない。でも近所の女子高生たちに言わせると、彼の一番の魅力はそのくつしたであるらしい。彼は少し青みがかった灰色の体を持っていて、なぜか足の真ん中くらいから白くなっている。そしてその所々に、足を回るようにして青い毛が生えている。少し離れてみると、確かに今はやりのルーズソックスをはいているように見えるのだ。
 正直に言うと、僕は「ルーズソックスをはいた猫」のその部分が、彼の魅力を引き立てているとは思えない。全体の少し気取った雰囲気の中で、明らかにういていてみっともないのだ。たまに彼も気付いているんじゃないか、と思う時があるんだけど、女の子に囲まれているときには、そんな様子はおくびにも出さない。おかげで彼は女子高生の間では僕よりも有名で、彼を囲んでいる彼女たちを見ると、僕は「彼はオスなんだけど」と言ってやりたくなる。でもひがんでいると思われるのもしゃくなので、必死で我慢するのだ。それを知ってか知らずか、彼は、化粧品やら香水の匂いに包まれて帰ってくると、ちょっと優越感に浸った目で僕を見るので、つい笑ってしまう。

 僕は私鉄の駅から少し歩いたところにあるマンションにその夏の2年前から両親と一緒に住んでいて、「ルーズソックスをはいた猫」は1年前からほとんど僕の部屋に住んでいる。それは僕と彼が特別に仲がいいからではなく、単に僕の部屋の窓から簡単に外に出られるからで、実際、時と場合によっては、僕の両親の方と非常に仲良くやっている。僕の部屋の窓は開閉がとても緩くなっていて、彼はそれを勝手に開けて、窓枠にはまっている柵の間を器用にすり抜けて遊びに行く。彼が帰ってきた後、窓を閉めるのは僕の仕事なのだが、ほんの少しの感謝の色すら見せたことがない。彼にとっては窓を開ける面倒が増えるだけのことなのだ。でも、結局のところ、僕らはまあ仲良くやっていた。

 そして、暑い夏が来た。

 

(2)へ続く

 

 

 

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