海神の神殿



1:竜宮伝説


キーパー:ある日、白凰民俗資料保存協会(SPHF)の会員である磯浦美和子(いそうら・みわこ)という人物から、『鵷鶵文書』の一部を解読したとの報告が上がってきました。鬼別郡に底州湾(そこすわん)という海湾があるのですが、その地を舞台にした竜宮伝説の記述が『鵷鶵文書』内の和綴じ本の中に見つかったそうです。
一同:ほほ~。

底州湾の竜宮伝説
 底州湾の海底には竜宮への入口があるという伝説。
 竜宮には海神(わたつみ)が住んでいた。しかし、霊酒を飲むための杯を、ほかの宝と一緒に盗人に盗まれてしまったため、記憶を失ったとされる。戻された杯で霊酒を飲み、記憶を取り戻すことを海神は今も求めているのだと伝えられている。
 底州湾には海の怪火“海神の迎え火”伝説がある。海中に光が見え、その光を見続けると海に飛び込んでいって戻ってこないというもの。“たくろう火”や“不知火”のような海の怪火の類と思われるが、海上ではなく海中に現れるのが珍しい。海底にある竜宮から漏れる光であるとされる。


安坂:怪火は定期的に現れる現象なんでしょうか?
新城:あくまで“伝説として書かれていた”ってところまでしか分かってないのよ。フィールドワークをすれば土地の古老から何か聞けたりするかもしれないけども。データはアーカイブで共有されているんですよね? 該当個所を確認してみますか?
泰野教授:磯浦さんは何ページまで読んだって言っているの?
キーパー:「資料ナンバー:A~B」という感じで該当個所は分かります。で、報告はさらにありまして、美和子は文書を読み進めて、「盗人が杯と一緒に盗み出した宝」の隠し場所に関する記述を見つけたのだそうです。
一同:おお!
キーパー:もちろん「○○町●丁目■番地」という記述ではなく、「▲▲岩から東へ何十歩、北へ何十歩行き、そこから見える大木から北へ何十歩……」みたいな記述です。美和子は、それが鬼別郡朱鉤湊町のどこかを示しているらしいと解読して、現地に行ってみたんだそうです。
一同:おおお!
キーパー:そこで美和子はある発見をしたのですが、それは後日、事務所で実際に会って説明するということになります。
泰野教授:なるほど。そこから先は実際に会って話しましょうってことね。


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磯浦美和子キーパー:そんなわけで、皆さんはSPHFの事務所に磯浦美和子を迎えて、詳しい話を聞くことになります。ちなみに美和子は34歳の女性、会社員をしています。
安坂:なかなかの美女……なんですかね?
新城:泰野先生的にはほっと胸をなでおろす感じですかね(笑)
泰野教授:私はAPP 90だから……!(笑)
キーパー:(美和子)「その現地というのは、國史院大学海洋研究所の敷地内の崖の上にある林でした。そして林の中で、朽ちかけた石の祠を見つけたんです」
一同:「ほほう」
キーパー:(美和子)「祠の中から声が聞こえたような気がしたので……私、それを開けてみたんです!」
一同:「ほ、ほほう?」
キーパー:(美和子)「祠の中には大理石製の頭像がありました」そう言って、彼女は手のひらサイズの頭像をテーブルの上に置きます。それはまさにギリシャ様式の彫刻です。
安坂:えぇ!? 仏像じゃなくて?
新城:「祠の中にあったのは、コレだけ?」
キーパー:(美和子)「そうです。コレだけでした」
泰野教授:「……で、見つけて、持ってきちゃったってこと?」
キーパー〈法律〉技能ロールをしてください(須堂が成功)。「まずいよね、それ」となります。
須堂:そうですよね。

<参考>
民法第241条【埋蔵物の発見】
埋蔵物は、遺失物法の定めるところに従い公告をした後6箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを発見した者がその所有権を取得する。ただし、他人の所有する物の中から発見された埋蔵物については、これを発見した者及びその他人が等しい割合でその所有権を取得する。


キーパー:つまり、この頭像は國史院大学海洋研究所の敷地内にあったので、50%の所有権を國史院大学が主張できる状態にあります。
泰野教授:……主張してくるよね、大学なんだから。
キーパー:須堂が「磯浦さん、それ、まずいよ」と言うと、彼女は「え? そうなんですか?」と言います。当然、彼女は知らなかったんでしょう。
泰野教授:法律的にはまずいとして、持ってきた頭像は小綺麗な感じ?
安坂:作者の銘が打ってあったりしないですか?
キーパー:少々汚れてはいますけど、欠損はないようです。銘のようなものはまったく見当たりませんね。
泰野教授:「声が聞こえたっていうことだけど、それってどんな声だったの?」
キーパー:(美和子)「それが、何と言っていたかも分からないので、“声に聞こえた“としか……。とにかく、声が聞こえたので祠を開けたら彼(=頭像)がいたんです」
新城:「……とりあえず、像の説明をしがてら、現地調査に行ってみるのはどうですかね?」
須堂:「法律を無視したままでは、調査結果を発表することもできませんし」
安坂:実は海洋研究所の職員が入れた物である可能性もあるのでは?
泰野教授:確かに、近所の人がイタズラで入れた可能性もあるしね。
キーパー:とりあえず、目の前にある頭像は明らかに仏像として作られたものではありません。大理石製の仏像っていうのは、どうやら近・現代までなかったそうなので、祠の状態にもよりますが、なんだか隔世の感はありますね。
泰野教授:大学の敷地内で見つかったものだし、まずは返却に行った方が良いのは間違いない。
須堂:「協会的にはお手柄なんだけど、勝手に持ってきちゃったのはまずかったね」
キーパー:(美和子)「え? そうなんですか?」
泰野教授:「とりあえず、事情説明に行って、祠のあった場所も見てきましょう」大学経由で海洋研究所に訪問申請をします。
キーパー:了解です。明日の10時に海洋研究所に行って、守衛に用向きを伝えれば敷地内に入れる手配が整います。協会前に午前8時に集合して、車で向かうことになります。当然、頭像の発見者の磯浦美和子も同行させますよね?
泰野教授:「あなたも来なさい」
キーパー:(美和子)「え? そうなんですか?」どうやら、これが彼女の口癖のようです。
一同:(笑)
キーパー:では、今日はこれで解散となりますが、美和子は「では、また明日8時に」と言って、当然のように頭像を掴んで持ち帰ろうとします。
泰野教授:「ちょちょちょちょ! さっきも言ったけど、これはあなたのものとして扱うのはまずいので、とりあえず、協会に預けてもらえない?」
キーパー:(美和子)「え? そうなんですか?」と言うと、強弁することなく彼女は引き下がります。協会事務所には施錠できる資料保管室がありますので、そこに保管するのが良いでしょう。
泰野教授:「じゃあ、よろしく」
須堂:「はい」
キーパー:では須堂が資料保管室内のラックに頭像を置いて部屋から出ようとした時に、室内で「カタッ」と小さな音がしたように思います。
須堂:「ん? 何か落ちたかな?」室内を確認しますが……。
キーパー:特にそれらしきものは落ちていないね。ただ、ラックに置いたばかりの頭像が君をジーッと見つめているかのように思えます。
一同:……。


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キーパー:本日のところは解散しましたが、須堂はその晩、夢を見ます。
須堂:はい。
キーパー:今日あった出来事と、『鵷鶵文書』内に見つかった竜宮伝説に影響を受けたのか、自分が海中に浮かんでいるのを感じる夢です。海底の方には灯りが見え、誰かが何かを言っているのが聞こえますが、内容ははっきりとしません。
泰野教授:曖昧なイメージだけの夢なのね。
キーパー:須堂は夜中にハッと目を覚まして、自分が夢を見ていたことを悟ります。そして、シーツがぐっしょりと汗で湿っているのに気づきます。
須堂:「……何か、嫌な夢だな」