海神の神殿



2:発見現場


キーパー:翌日、海洋研究所へ向かう前に資料保管室にある頭像を回収します。須堂が開錠して保管室の扉を開けると、磯浦美和子が肩越しに中を覗き込んで頭像の様子を伺います。どうやら、彼女には頭像の第一発見者としてのこだわりがあるようです。
新城:あ~、何となく分かる(笑)
須堂:「……磯浦さん、最近、海の中にいるような夢を見たりしていませんか?」
キーパー:(美和子)「! 見てます、見てます! まさか、須堂さんも!?」彼女も同じような内容の夢を見ているそうです。
須堂:「声も聞こえますか? それは祠で聞いたのと同じ声だったりする?」
キーパー:「! ……そうですね、もしかしたら似ているかも。ん~……いいえ、似ているっていうか、同じかも!!」
一同:(笑)
泰野教授:自己暗示にかかりやすい子なわけね(笑)


ライン


キーパー:では、協会所有のワンボックスカーで海洋研究所へ出発し、何事もなく到着します。守衛に用向きを伝えると敷地内に入れてもらえて、受付後に応接室に通されます。応接室というよりも会議室ですね。人数が多いので。
安坂:ぞろぞろぞろ。
三谷努キーパー:会議室でしばらく待っていると、「お待たせしました」と言って1人の研究員が部屋に入ってきて、泰野先生に名刺を渡します。「初めまして。三谷努(みつや・つとむ)と申します。泰野先生の御高名はかねがね」
泰野教授:当然よね! とドヤ顔しながら名刺を交換します。
一同:(笑)
キーパー:(三谷)「今日はどのようなご用件で? 先生の専門は民俗学と聞いておりますが」
泰野教授:下手に隠してもしょうがないよね。「実は――」ということで研究所敷地内で磯浦さんが頭像を発見した経緯を説明します。
キーパー:(三谷)「はあ、なるほど」と三谷は頭像にちょろっと目を走らせますが、正直言って、あんまり興味なさそうです(笑)
一同:(笑)
キーパー:(三谷)「まあ、特に問題にはならないと思いますよ。正直言って、うち(=海洋研究所)には今のところあまり価値のないものですので、貴協会にお預けいたします。もし何かあった時は、その都度話し合いましょう」
須堂:まあ、そうなりますよね。
キーパー:三谷が言うことをかいつまむと、この研究所は海洋資源に関する調査等を目的とする機関で、民俗学研究を目的としていないし、それに割く人員もないので、頭像は協会側で保管してくれて構わないよ、と。もし頭像の詳細が分かり、研究所の展示企画等で必要になった場合は、協力しましょうねって感じです。それを取り決めた書類を研究所と協会で交わします。
泰野教授:「こちらとしては、ありがたいです。ついでに、頭像の発見場所を確認しておきたいので、敷地内の見学許可をいただきたいのですが」
キーパー:(三谷)「分かりました。そちらの磯浦さんに道案内をしてもらえれば、発見場所まで僕も同行しますよ」
泰野教授:「じゃあ、差し支えなければ、早速行ってみましょう」


ライン


キーパー:研究所敷地内にある崖を上っていくと林があります。そこに行くまでに磯浦美和子が「あれが▲▲岩だと思うので、そこから東へ――」みたいに古文書から解読した道順を説明してくれます。やがて、木の根元に倒れかけた祠を見つけます。抱えられる程度の大きさの、厨子の親分みたいなものです。正面に扉がついていて、美和子が開けた時のままに、開放されて空の内部が見えています。
新城:石造りでしたっけ?
キーパー:そうです。外側は苔むしていますが、どういうわけか、内部には少々砂ぼこりが入っている程度で、不自然にきれいです。「こんな所にこんな物が……」と三谷は驚いています。
新城:祠に様式的な特徴とかはありませんか?
キーパー:特に目立った特徴はありません。日本の田舎の片隅にある、良く見られる様式です。「ギリシャ祠」というものがあるのか知りませんが、特にそういう感じではない、いわゆる「日本式の祠」です。
新城:なるほど。そうなると、祠と中に入っていたもの(=ギリシャ風の頭像)とのギャップが気になりますね。
須堂:どうにか年代を特定できないでしょうか?
キーパー〈考古学〉ロールですね(須堂と泰野教授が成功)。かなり古いですね。少なく見積って500年前のものでしょう。この祠自体、調査の対象になっても良いような代物です。
一同:う~む。
キーパー:後ろで所在なさげに見ていた三谷が「あ、そういえば……」と声を上げます。
泰野教授:「何?」
キーパー:(三谷)「“杯戻しの岬の伝説”って、知っていますか?」
新城:「お? 何ですか、それは?」
キーパー:(三谷)「先ほど聞いた竜宮伝説関連で思い出したんですけれど、海神から記憶と杯を盗んだ盗人が、神罰を恐れて杯を海へ投げ込んだと言われている場所があるんですよ」
一同:「!」
キーパー:磯浦美和子もその話には「えっ?」という表情を浮かべますので、どうやらそれに関しては知らなかったようです。「そんな話、『鵷鶵文書』には書かれていなかったですよ」
須堂:「杯戻しの……岬?」
キーパー:(三谷)「あの岬ですよ」と言って、少し離れたところに見える岬を指さします。今いる岬よりも、高さ的にはかなり低い岬ですね。
新城:ここからは見下ろす感じなんですね。
キーパー:この杯戻しの岬の話は『鵷鶵文書』には記されていなかった。でも、土地の住民に口伝として伝わっている状態です。三谷も、土地に住む住人の複数から聞いたことがあるそうです。海洋学には関連しないので、ほとんど聞き流していたそうですが。地図を見ても“杯戻しの岬”と記されている場所ではないようです。
泰野教授:なるほど。地元民の間の通称なわけね。とりあえず行ってみましょうか。
キーパー:件の岬には車で5分ほどで到着します。先ほどの岬と比べると断然小さくて、海面から5メートルくらいです。下は石と岩の海岸になっていて、ちょっと頑張れば下りて行くことができるでしょう。
新城:フィールドワークは、とりあえずこんな感じですかね。