気が付くと、PCは大きな広い座敷にいる(皆でいるのではなく、1人の視点)。 そこにはたくさんのお膳が並んでいて、各々に人が座って酒を飲んでいる。ネクタイをせずにスーツを着込んだ人や、紋付袴の人など全員が男性である。酒が振舞われているらしく、ガヤガヤとした騒ぎ声が聞こえている。笑ったり、大声を出したりしているのだが、ワンワンと耳に響くばかりで、1つも意味が判らない。それでも時折、「そがん夢のきゅうさくのごたる話のあろうか」とか「よそわしか、そりゃちゃーがつかね」等と言う言葉が切れ切れに聞こえる。 その酒盛りの中を、詰まらないような淋しいような気持ちで、所在なさげに歩いて行く。何人か、自分と同じ子供がいたように思うのだが、辺りを見回しても酔っ払った大人しかいない。そんな酔っ払いに声を掛けられる事もあるが、酒臭い息が嫌でたまらず、逃げるように縁側に出た。 広々とした日本庭園が広がっている。直ぐそこに大きな池があって、山から樋で引かれた水が注ぎ込んでいる。池の中には、大きな鯉がたくさん泳いでいる。赤いのや黒いのや、白いのも見える。 たくさんの靴や下駄が並んでいるが、大人用のものしかない。しょうがないので、大きな下駄を履いて庭に降りてみた。 ミンミンゼミやツクツクボーシが鳴いている。燦々と陽が降り注いでいるが、直ぐそこまで山が迫っているので、木漏れ日しか庭には入って来ない。涼しげな風が吹いていて、とても心地良い。 しかし、ふと池を見ると、池の鯉が全部腹を上にして、ぷかぷかと浮かんでいる。全て緋鯉になっていて、見ている内に絵の具を溶かしたように鯉の区別が付かなくなり、池は血のように真っ赤に染まる。 凄く嫌な気持ちになって、縁側から家に上がろうとするが、いつの間にか座敷にいる全員が黙ってこちらを見ている。無表情にこちらを向いており、誰一人身じろぎもしない。 怖くなって、縁の下に潜り込む。ひんやりとして、土臭いような埃臭いような空気。そこかしこで纏わり付いて来る蜘蛛の巣を払いながら、奥の闇へと這って行く。 鼻を摘まれても判らないほどの闇だが、少しも怖くは無い。それよりも、さっきの血の池や黙ってこちらを見ている大人たちの方が怖かった。 ![]() 無我夢中で這っていく内に、ぼんやりと明かりが見えて来た。近付いてみると、石を積み上げて作られた井戸のような物がある。円筒状に地面から突き出しており、両手を広げても円周の半分にも満たないほど大きい。その井戸のような石組みに、蓋をするように大きな板状の石が載せてある。ぼんやりとした光は、その円盤状の板の上面から放たれている。 覗きこんで見ると、そこには巨大な眼が描かれている。彫り込まれている訳ではなく、触ってもすべすべとした肌触りだ。まるで墓石のようだと思う。 夢中になって撫で回していると、指先にちくりと痛みが走る。石の上に落ちていた木のささくれが、指に刺さったらしい。引き抜くと、血がこんもりと盛り上がり、石の上に落ちる。と同時に、光が消えた。 悪い事をしてしまった。直感的に、そう思う。 再び真っ暗になった世界で、泣きたいような気持ちになるが、動けないまま立ち尽くす。 どの位たったのか判らないが、やがて闇の中で音がした。 ……カタ 硬い、石がぶつかるような音。 カタ……カタ 間隔は短くなり。 カタ…カタ…カタ 段々と小刻みに。 カタカタカタカタ…… やがて大きく。 ガタガタガタガタガタ!! ついには唸りを上げて。 ガタン!! ガタン!! 生暖かいのか、切るほどに冷たいのか判らない風が、叩き付けるように吹き抜けて行く。 大変な事になった。申し訳ない。 ゴワン!! ゴワン!! みんなにすまない、悪い事をした。罪悪感で一杯になり、いたたまれなくなる。 ゴトン!! 一際大きな音を立てて、重い物が落ちた。砂埃が舞って、むせ返りそうになる。 一瞬の静寂の後… |
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