非時香果


プロローグ

キーパー白凰民俗資料保存協会(SPHF)で、皆さんは昨年からあるプロジェクトに携わっていました。それは県内の古墳で発掘された、重要文化財にも指定されている勾玉を複製しようという試みです。原料も県内で採れた翡翠を使って、考古学的な資料を基に当時の技術を解析してできる限り忠実にやってみようということで、その解析に皆さんはアドバイザーとして参加していたということですね。
日下部美輝村雨:ははあ、なるほど。
キーパー:そして9月の上旬にようやくその勾玉が完成しました。今回のプロジェクトをSPHFに持ち込んできたのは、協会のスポンサーの1人でもある日下部美輝(くさかべ・よしてる、48歳、独身)です。白凰市では知らぬ者のいない日下部グループの末端で『夢タウン白凰』というタウン誌を発行する白凰社の社長です。彼は民俗学と共に鉄道も趣味として持つ気楽な趣味人で、クトゥルフ的に言うとディレッタントという立場の人です。
 で、勾玉が完成して、いよいよ日下部美輝氏と一緒に、プロジェクトのクライアントと会うことになります。美輝によるとクライアントは歴史民俗学に関係する財団だそうです。場所はSPHFの事務所です。
白田:はい。
キーパー: 約束の13時の5分前くらいに、黒髪のストレートロングで、白のスーツ姿の20代の若い女性が現れます。まずは通り一遍の挨拶をして名刺交換などをするんですけども、渡された名刺には「財団法人 室井歴史民俗研究所 三宅守子」と書かれています。
須堂:SPHFと同業でしょうかね。
村雨:ま、何らか近しい団体からの依頼なら自然な話だろう。
キーパー:挨拶を終えると出来上がった勾玉を見てもらうことになるんですけれども、その出来栄えに守子は非常に喜んでくれます。(守子)「ありがとうございます。正規の報酬はお支払いいたします」そしてこう付け加えます「それとは別に、お礼をしたいと考えております」
白田:おお!
三宅守子キーパー:(守子)「実は、財団が欲しているのはこの勾玉ではなく、ある物との交換のためにこれが必要だったのです」
村雨:「ある物?」
キーパー:(守子)「そのある物とは、現在、とある場所に展示される予定になっているのですが、一般公開前にこの勾玉と交換できることになっています」
須堂:「とある場所?」
キーパー:その“とある場所”というのが、JR東日本が新たに運行する豪華寝台列車「朝日」の車内です。近々この「朝日」の試運転が行なわれるので、その車内で勾玉との交換を行なうのだそうです。
白田:「列車の中で?」
キーパー:そうです。今回の試運転というのは本番さながらに添乗員を全部乗せて、実際に通るであろうルートを通ってみて、サービスその他も提供しましょうという段階のものです。(守子)「その試運転に、皆さんを招待いたします」
須堂:「これは凄いVIP待遇ですね」
キーパー:「朝日」は10両編成で、車体色は朝日をイメージした真紅。本来は2人1部屋のスイートを、今回の試運転では特別に1人1部屋で提供してくれるそうです。
村雨:通常では味わえない贅沢を提供してもらえるわけですね。「ところで、勾玉と取り換える物っていうのは、結局何なんですか?」
キーパー:(守子)「それは込み入った話になりますので、出発当日にお話しいたします」ということで、9月の下旬にその試運転は行われるそうです。
村雨:ならば我らは万障繰り合わせて。
須堂:準備いたしましょう。
キーパー:そこまで説明すると、守子は勾玉を受け取って帰っていきます。
白田:「タダで豪勢な旅ができるってことですか?」
キーパー:(美輝)「そういうことになるね」鉄道ファンの美輝さんは結構喜んでいます。
白田:「タダ飯? タダ酒? チィーッス! ありがとうございます!」

キーパー:出発まではしばらく日にちがありますが、その間にしておくことはありますか?
須堂:室井歴史民俗研究所について調べておきましょう。
キーパー:ホームページがあるので見てみると、研究所の所在地は東京です。まず「室井」という名称が何から来たのかというと「室井恭蘭」という江戸時代の国学者からです。その室井恭蘭の事績を発掘して保存するのが主な活動で、民俗学や古代史の研究などには造詣が深い。
白田:なるほど。
村雨:それなら「勾玉の復元を……」というのも不自然ではない、と。
キーパー:少なくとも勾玉に関しては、そこで腑に落ちます。ここで皆さん、〈歴史〉〈人類学〉〈オカルト〉の中で得意なロールを振ってみてください。
白田:(コロコロ……)〈オカルト〉で成功です。
須堂:(コロコロ……)〈歴史〉で成功です。
村雨:(コロコロ……)これは00と読むのでは……。
白田:「チィーッス! Fラン大学の俺でも成功っす」
村雨:「……オレの専門は〈医学〉だから(怒)」
一同:(笑)
キーパー:成功した人たちは知っていますが、室井恭蘭という人物は最期、狂死したそうです。
村雨:! 「恭蘭(きょうらん)」だけに「狂乱」したわけですな!( *`ω´) ドヤァ
白田:「きょうし! 学者だけに教師(きょうし)だったのか……」
村雨:「何言ってんの?」ここでマウントを取り返します(笑)
キーパー:(笑)



戻る 表紙 進む
架空都市計画へ戻る