#1 天野 信一




(アクション)

 挨拶は大切だが、夕食までの短い時間で両家を回るのは逆に失礼だと判断し、明日にでも土産を持って行こうと思う。
 と言うわけで、今回はこの村の何処に何があるのか頭に入れておく為に村を散歩し(『イオドの書』が保管されていそうな場所をいくつかピックアップしておく。)、最後に厨子神社に行ってみる(今の所ここが一番あやしいと思っている)。出来ればそこで「厨子夜婚の儀」の由来や前回の夫婦について詳しく聞きたいと思う。



(リアクション)

【夕暮れの村を見て回る】

 薄暮の厨子村を見て回る。
 薄れつつある白黒のキャンバスに、再び色とりどりの絵の具が乗せられるように記憶が甦ってくる。高揚する。あなたの故郷は、確かにここだ。
 この村で走り回ったことのない場所はないはずだ。村を離れるまでは、暗くなるまで友だちと遊び回った。懐かしさがこみ上げてくる。彼らもこの儀のために帰郷しているのだろうか?

 厨子村で目を引く建造物は御三家の大邸宅か厨子神社だ。目当ての魔道書の保有者としては十分に怪しいが、その保管場所となると皆目見当がつかない。第一、御三家が魔道書を持っている確証はまだ無いため、狙いを絞ってしまうのは早計過ぎるだろう。


【厨子神社】
 厨子村で最も目を引く建造物が、芦鷹の管理する厨子神社である。厨子村の規模からすると、立派過ぎるほどに感じられる豪奢な社殿に至るには、山の斜面に沿って積まれた数百段の石段を登っていかなくてはならなかった。
 石造りの鳥居をくぐると境内が広がり、左右から灯篭に照らされた石畳の参道が社殿の前まで続いている。宮司は本宅へと戻っているのか、境内は無人だ。
 本殿、舞殿、宝物殿等、厨子神社には山奥の田舎にしては立派な作りの建築物が揃う。ただし、観光地でないためか、縁起を記した立て札等はまったく見当たらない。もう一歩踏み込んだ探索ができたらとは思うが、御神体の厨子は厳重に管理されているだろうし、宝物殿に入るには厳重な錠前の突破を考えなくてはならないだろう。

 社殿を眺めていたあなたの背後で軽い足音がした。振り返ったあなたの目に映ったのは、白い千早(ちはや)に緋袴(ひばかま)―――所謂巫女装束に身を包んだ少女だった。足袋に草履に箒。巫女と断定するに欠けるアイテムは何一つない。現れた巫女は、あなたに向かって小さく頭を下げると、そのまま境内の掃き掃除を始める。秋ではないこの季節に落ち葉などあるはずもなく、広い境内の清掃を瞬く間に仕上げていく。
 少女には見覚えがある。たしか、来た時のバスで一番前に座っていたセーラー服の女子高生だ。特徴的な双房の三つ編みお下げは、見間違えようもない。
「今晩は」
 会ってからしばらく経って挨拶するのも間が悪いと思ったが、あなたは思い切って少女に話しかけてみる。少女は掃除の手を止めて、あなたに視線を向けた。
「・・・コンバンワ」
 愛想のない返事が一言。その後は出方を伺っているのか、あなたをじっと見つめている。話しかけたことを少し後悔した。この少女との間で、会話が弾むことは絶対無い。
「・・・神社(ここ)の子? 芦鷹家の娘さんかな?」
 当り障りなさそうな話題を選び、あなたは少女との会話を続ける。少女はコクリと頷くと、掃き掃除を再開した。会話を切り上げられたのかと思って少女から視線を外したあなたの耳に、意外にも2度目の返事が返ってくる。
「・・・巧美(たくみ)。芦鷹の宮司様は叔父さん」
 少女―――芦鷹巧美、芦鷹の宮司の姪―――の返事は素っ気無いものだったが、彼女の方から会話を切り上げた訳じゃないことに、あなたは少し安堵した。あのままでは去るに去れない雰囲気もあったから。
「見かけない人・・・」
 再び掃除の手を休め、あなたを見つめる巧美。あなたは自分の素性を明かし、今回の厨子夜婚の儀に参列するために帰郷したことを伝えた。興味があるのかないのか、巧美の反応は「・・・そう」と一言きりだった。
 やがて大して手間のかからなかった境内の掃除を終え、巧美は箒を片付けた。消えていた灯篭に火を灯して回り、それが終わると石段に向かって歩き出す。あなたの前を通り過ぎる時には小さく会釈をしたが、それ以上の関心を向けることなく、巧美は足早に石段を降りてその姿を消した。
 灯篭の灯りに照らされて幻幽に揺らめく厨子神社の社殿が、境内に残ったあなたを見下ろしていた。
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