今日注目が集まっているラフ集合(Z.Pawlak、1982年)の歴史は、これまで、理論的な研究が中心で、日本での応用研究は始まって間もない。そこで、本研究の目的は、より一層の応用事例研究を増やし、その過程で応用に適したラフ集合の手法の開発と改良を行うことである。研究成果としては、製品開発分野(携帯CD機器)とグラフィックデザイン分野(化粧品)、インタフェースデザイン分野(携帯音楽機器のユーザビリティ評価)、マーケティング分野(携帯電話)、建築デザイン(店舗、木目)の5つの事例研究を通じて、研究者らの提案する決定ルール(ラフ集合の結果から得られる多くのif-thenルール)を分析する手法の開発と改良を行った。具体的には、評価グリッド法を用いたデータ表(決定行列)の属性や属性値の求め方、また、度数分布の考え方を用いた決定クラスの確定法を考案し、その検証のための適用研究を行った。適用研究の結果、ラフ集合の考え方は創造性と関係するデザインコンセプト策定にも貢献することできることが判明した。そのデザインコンセプト策定法も事例研究を通じて提案した。
今日、インタフェースデザインでは、開発プロセスを反復的に行うことが推進されているが、その中で、簡素なプロトタイプ(ラピッドプロトタイピング:Rapid Prototyping)によって開発速度を速めながら繰り返し設計することが望ましいとされ、その重要度は年々高まっている。このプロトタイプは、極めて簡素なペーパープロトタイプと高度な描画ソフト(含む、高価な専用ソフト)やプレゼンテーションソフトなどのツールを利用したものに大別される。現在、描画ソフトはディレクターやフラッシュが用いられている。しかし、そのソフトの操作を覚えることも易しくなく、プロトタイプを迅速に制作できるものではない。他方、比較的操作が容易なガイオテクノロジー社の「プロトビルダー」等があるが高額なもので一般的ではない。
そこで、研究者らは、広く普及しているプレゼンテーションソフトのパワーポイントに着目して、描画ソフトよりも簡素なプロトタイプの開発ツールの研究を行った(下記の「開発ツールの概要」と「紹介サイト」参照)。
なお、本研究の特徴は、プロトタイプの制作だけでなく、操作履歴データを自動的に書き出し、それをエクセルで解析する段階までのプログラム制作を行っている(下記の「操作履歴の解析法」参照)。
視覚的な使いやすさ感、つまり、見た感じ使いやすそうなイメージの製品デザインやインタフェースデザインは、ユーザーが使ってみたいと思う強い動機づけにもなる。いかにも見た感じ使いにくそうなものは、購入して使ってみようという感情が起こらない。それが前述の状況的アプローチと関連する。そのため、視覚的な使いやすさ感は、商品購入を促す重要な要因となっている。アップル社の製品もこの視覚的な使いやすさ感を上手に取り入れていると言われている。
今日、人々がインターネットで商品を購入する割合が増大し、大きな市場規模になってきている。そのため、サイトの製品カタログでの視覚的な印象で判断して購入する傾向が増えている。しかし、実際の使いやすさの研究は進んでいるが、この視覚的な使いやすさ感についてはほとんどみられない。
そこで、筆者らは、プリンターや携帯音楽プレーヤ、家電製品、AV機器、携帯電話など製品本体だけでなく、その製品に付随するリモコンの視覚的な使いやすさ感についても研究してきている。その際に視覚的な使いやすさ感だけでなく、実際の使いやすさも合わせて調査・実験を行ってきた。それらを分析し考察した結果から、10の原則を導き出した。
なお、10の原則の詳細は、下記の冊子に譲る。
最近のインタフェースを観察すると、タッチ操作に代表されるように、直感的に操作できるものが主流になってきている。その背景には、近年、誰もが使う製品の多機能化が進展し、それを使いこなせないユーザーが増えてきているため、直感に訴えるインタフェースが希求されたからであろう。また、デバイス技術の発展により小型で高精細な表示画面が開発され、スマートフォンの例に見られるようにほとんどの操作部が表示画面の中に入っている製品も可能となった。
これらのインタフェースは、インタフェースの階層関係の上位に位置する「感性的インタフェース」である。下位に位置する物理的インタフェースや認知的インタフェースのデザインには機能、効率性の追求、ならびに身体的・認知的負荷の最小化などが求められるのに対して、感性的インタフェースのデザインには、これらとは別次元の情緒的な特性が求められる。
ユーザーが機器を操作するとき、ユーザーは操作対象の認知および過去の操作経験の記憶を手がかりにしている。その流れは、大きく分けて「認知過程」と「操作過程」に分けることができる。認知から操作への実際の流れは、矢印が示すように様々な経路をたどると考えられる。そして、経路が短いほどユーザーの認知的負荷や身体的負荷が減り、認知から操作にいたる時間が少なくなる。
直感的なインタフェースデザインの原則を提案するために、操作の流れにおいてユーザーが元々もっているインタフェースの能力を促すことが重要であると考え、心理学の「体制化」と「親近性」の考え方を拡張した。
この体制化は、目の前にある図形を全体として、最も単純で最も規則的で安定した秩序ある形に認知しようとするユーザーの働きである。見やすさを指向する「形態の体制化」、分かりやすさを指向する「意味の体制化」、および使いやすさを指向する「操作の体制化」の3つに分けた。親近性は、ユーザーの行為や操作対象などから構成される記憶と現行の行為とが類似していると、記憶の活性化につながり、体制化を促す。
形態の体制化の観点から直感的インタフェースデザインの原則1-2、操作の体制化の観点から原則3-4,親近性の観点から原則5-6、認知と操作の結合の観点から原則7-10を抽出した(原則の内容は、下記の小冊子を参照)。