ちょどその時、ヒーロー仲間達が現場に到着したのは彼女にとってなによりの幸運だった。
辛うじて暗殺団の手から“友人”を救いだしたLalaに、クリムゾンが予期していたようにいった。

「倉庫で見たことのない黒ずくめの男達にあったというんだな」
「いったい奴らは何者なの?クリムゾン、貴方は知ってるんでしょ?」九死に一生を得たLalaがクリムゾンを問い詰めると、クリムゾンはLalaの顔を見つめて、まるで患者に病気を宣告する医師のように重い口調でいった。

「奴らはマルタ機関(Malta Group)・・・・それが我々の敵の名だ」
Story Arc 消えたメルヴィンと謎のマルタ機関 (Missing Melvin and the Mysterious Malta Group)」
「基地に到着次第、この老人を処分しろ(we will dispose of the old man once we reach base)」
拉致部隊の指揮官と思しきParadox Black Betaの声がうす暗い下水道にこだました。
どうやらバートレット氏はまだ無事らしい。

「バートレットさんを離しなさい!マルタ!」行く手を阻む工作員達を倒し、バートレット氏の下へ駆け寄るLala。その姿を見たParadox Black Betaがあわてて部隊に呼び集める。「メタヒューマンだと?我々には奴は必要ない。Cutie Lalaをたたき出すのだ!(An MHI? We don't need this. Take out Cutie Lala!)」

マルタの超兵器をこんどはうまくかわし、首尾よくこの老ヒーローを救ったLalaにバートレットが語ったところによれば、彼はメルヴィンと会い56年以前の“正義のための力法”についての状況についてインタビューをうけたのだという

「もう、いったいなんだって言うのよ?あの秘密文書には何が書いてあったの。そしてチェスターフォード外交官はいったい何を知ってたっていうのよ?」さっぱり事情がつかめないLalaがクリムゾンを問い詰めた。だがクリムゾンは涼しい顔でLalaの質問の矛先をかわす。

「君が彼から何を聞いたのか、そして彼が何を話したかなんて俺は知らん。要は大事なのは皆が安全であるってことさ。そして少なくとも彼はより安全に近くなったってことだ」
「なにも刺激的なことがなくて退屈だな(Nothing exciting ever happens around here)」
マルタの基地と化したとあるビルの奥。エージェントParadox Dancerがあくびをしながら言った。まさか彼もヒーローの方から先制攻撃があるとは思わなかったのだろう、突如現れたLalaの姿を見るなり明らかに取り乱した風体見せた。

「うわあ、メタヒューマンだ!ものども、奴を捕まえるんだ!(Whoa,MHI! Get it in gear, fellows!)」

しかし勝負はあっけなくついた。ヒーローは強襲したマルタ基地のファイルから、メルヴィンのメモを入手することに成功したのだ。
それは彼がマルタ島を旅行し、そして現地の人間とインタビューした調査記録だった。
1967年に、この地でMI6のマッキントッシュ長官、CIAのバラベ ル、そして西側諸国の15人のメタ
ヒューマン諜報部門の担当者が秘密会議を行ったこと。そしてその会議こそが“マルタ機関(Malta Group)”と呼ばれる違法な諜報組織の始まりであったことがメモいっぱいに書かれていた。

だが、最後のページを開いたとき、そのすみに書かれていた女性の顔と思しき落書きをみてLalaは驚愕した。
それはおそらくメルヴィンが好意を寄せていた人物の似顔絵に違いなかった。そこには見慣れた顔の輪郭とともに、鉛筆でこう走り書きされていたのだ。

「奴らのことなら知らないでも無いわ。マルタ?貴方達はそう呼んでいるのね。だけど私たちが冷戦の時彼らと戦ったときはまだそういう名前じゃなかったわ」
まもなく、無事救出された老女がヒーローにむかって言った。
「じゃあ、あなたも当時スパイだったのね?」
そう問うLalaに小さくうなずいた老女はそのまま言葉をつなげた。

「あなた達の政府が正義のための力法を廃止した後、私たちの諜報組織はやりたいほうだいになるはずだった。
ところがわずか1年以内に私たちの組織は数百人 のエージェントが殺され、各地の細胞組織は壊滅し、そして拠点のほとんどが一掃されたの。その正体不明の敵は、何年も戦ってきた西側のどの政府も許さないであろうと思われるほど残忍だった。
それはあたかも血を求める狼のようだったわ。」


そして数十分後・・・

「我々としてはラルフ・ジェムソンの奴を消すか誘拐してくれると大いに助かるのだが。」
「いいだろう、貴様らのために奴を消そう。いつもの値段でな。」
足を踏み入れたクレイの施設の一角から聞こえてきた声に、Lalaは思わず足を止めた。
今まさにこの瞬間クレイとマルタの“商談”が行われていたのだ。
「そうわさせないわ!“空色のシルエットα”!」ヒーローの声に思わずマルタのエージェントが振り返った。
「貴様何者だ?なぜ俺の名を?」
「・・・・(やった。かかった!)」

まんまとエージェントのコードを確認したLalaはついでに2人を片付け、意気揚々とインディゴのもとへ向かった。
おそらくすでに彼女たちはメルヴィンの居場所を特定しているに違いないのだ。

「ありがとうCutie Lala。あなたの働きのおかげでついにメルヴィン・ラングレーの位置を突き止めたわ。
これでいよいよフィナーレよ。だけど・・・」
「だけど?」

「クリムゾンはなぜか私にはその場所を教えてくれなかった。お前は知る必要がないってね。だからその場所は彼から聞いてほしいの」そういうとインディゴは心なしか寂しそうな表情を浮かべた。

「そしてもうひとつ。俺は実はメルヴィンがどこにいて、何をしているのか最初からずっと知っていたのさ」


「なんですって!じゃあ、なんでわざわざ私にこんなことをさせたっていうの?」
あまりに意外な言葉に驚き、そして怒り心頭に発したLalaが今にもクリムゾンの胸倉をつかみそうな勢いでいった。

「拉致されたというメルヴィンが、実はマルタの二重スパイでなかったとなぜ断言できる?
実際俺はその危惧を抱いていた。彼との関係でインディゴの任務に支障が出てきたとき、俺は誰かの手を使ってその正体を確かめようと決意したのだ。
そしてLala、それがお前だったというわけだ」

「クリムゾン・・・あなたって人は」

「誰だって利用されることは好きなはずがないのはわかっている。俺はお前をメルヴィンとインディゴの忠誠をテストするために利用したんだからな。
だが俺はインディゴを実の娘のように愛し、信じていた。彼女をテストするためもっとも適切で信用できるのはお前だけだった」

Cutie Lala危機一髪

その日LalaがFaunder‘s Fallで出会ったコンタクトはその外見や身のこなしから明らかに只の一般人にはない雰囲気を漂わせていた。

「あなたがCutie Lalaね。私達はずっと貴方の活躍を見させてもらっていたわ。貴方は知らないでしょうけど、既に貴方は私達を少なくとも2度は助けてくれているの」
「誰なの、あなた?はじめて会ったのに助けたことがあるっていったいどういうことなのよ?」
「私の名はインディゴ(Indigo)、そう、ただのインディゴよ。ミス・インディゴでもインディゴ・スミスでもないわ」

一見してふざけた会話だが、要するに彼女の名は本名ではなくなんらかのコードネームであり、本名が明かせない事情・・・例えば彼女が政府の秘密諜報機関のエージェントだとか・・・があるということを言わんとしていることは、すぐLalaにもわかった。

「あなたにその気があって、そして私を信じてくれるなら、私達は貴方が真の悪人達を倒す手伝いが出来るわ。そう、あなたが望むなら、今すぐにでも・・・」

Lalaのようなスーパーヒーロー達が、今のように政府や社会の公認と協力を得ながら悪と戦うようになったのは、実際にはほんの20年ほど前からのことだ。
それまではステーツマンのような著名なヒーロー達を除けば、ヒーロー達は自らの所属する国家と政府のためにある種の国家機関に所属するか(実際にはステーツマンとて他国からはアメリカの傀儡と見られていたのだが)、あるいはヒーローコープ社のような大企業に所属してその派遣社員として活躍するのが一般的な 姿だった。
だが、それももはや昔日のことだ。全世界のヒーローのメッカであり、最もヒーローが活躍する街Paragon Cityではスーパーヒーロー達は真の意味でのヒーローであり、もはや政府の手先でも大企業の派遣社員でもないはずだった、いや少なくともあるコンタクト と出会う前はLalaはそう信じていたのだが・・・・。

更に謎の男クリムゾン

数刻後のPeregrine Island。Lalaはインディゴから指定されたもう一人のエージェントと思しき人物の元を訪れた。

「よくきたなCutie Lala。俺の事はクリムゾン(Crimson)と呼んでくれ。ミスタークリムゾンでも、エージェント・クリムゾンでもなく、ただのクリムゾンだ。」
「それはわかったわよ。で用件はなんなの?」
「俺と君の共通の“友人”のことなんだが」クリムゾンが意味ありげな口調で言った。
「“友人”?誰よそれ?」
だがクリムゾンは彼女の問いには答えず、話を続けた。

「実はその友人が永遠にいなくなるかもしれない。なぜかとは教えることができないが、単に彼がこんど、議会で非常に面白い話をすることに関係があるとだけいっておこう」

あたりの人間に聞かれることを恐れたのだろう。
秘密保持を考えた政府の諜報員らしい言い方だが、彼女には彼が何を言わんとしているか推理することは難しい ことではなかった。“友人”とは何がしかのターゲットのこと、そして“友人”が議会で面白い話をするために永久にいなくなる、ということは・・・・

「今度議会に出廷する証人が誰かに暗殺される!そういうことなのね!」
クリムゾンは我意を得たりという笑みを浮かべて、黙ってヒーローにうなずいた。

麻痺で動けないLala

クリムゾンから情報を得て証人がかくまわれている倉庫へと向かったLala。だがそこで見たのは今まで彼女が戦ったことのもない謎の黒ずくめの男達だったのだ。
「あれが暗殺団?」ふと彼女が漏らした声で侵入者に気づいらしい男達が、ヒーローに向かって振り返ると、不思議な形をした銃らしきものを構え、彼女に向かって一条の光線を浴びせかけた。

ヒーロー大ピンチ

「ふん、こんな光線銃なんて私には効かな・・・・い、あっ、うあああっっっ・・・・」

謎の光を浴びたヒーローの体からは、まるでエネルギーが吸い取られるようにそのスーパーパワーが失われていく。全てのトグルパワーが解除され力なく膝を落 としたLalaに追い撃ちをかけるように銃弾の雨が降り注ぎ、逃れようとする獲物を捕らえる蜘蛛の糸がごとく粘着性の拘束兵器が、ヒーローをその場に縛り付けた。そしてよろよろと起き上がろうとするヒーローに回復する間もなく再び謎の光線が襲ったのだ。
もはや彼女は羽をもがれ今しも毒蜘蛛の餌食とならんとする蝶も同然だった。

「Cutie Lala、見たか!(Cutie Lala sighted!)」Sapper(破壊工作員)と呼ばれる黒ずくめの男が勝ち誇ったようにほくそえんだ。

捕らわれたCutie Lala

サンダーヘッド作戦

謎のマルタ機関との衝撃的な遭遇から数日の日が過ぎたある日。
再びLalaの元に例の“友達”についてインディゴからの知らせが届いた。インディゴによれば 件の“友達”が誘拐されたらしいというのだ。前回の“友達”と今回の“友達”が同一人物なのかはわからなかったが、彼はなにか重要な事実を知っておりそれ ゆえに誘拐されたこと、そして速やかに救出がかなわなければ彼の命は風前の灯であろうということだった。

「いったい誘拐された“友達”って誰なの?そして彼は何のために誘拐されたっていうの?」あまりの情報不足にいらいらしながらクリムゾンにLalaがたずねた。

「我々を信じてこのミッションを受けてくれたことには感謝している。だがインディゴはこの件について多くの情報を提供できないと君に話したことだろう。俺がお前に与えられる情報は次の3つだけだ。
第一に“友達”の名はメルヴィン・ラングリー(Melvin Langrey)、第二に彼を拉致したのはアルテミスのナイフ、最後が拘束されていると思われる場所はキングズ・ローのとある倉庫だ。」

「とりあえずそれだけわかれば十分よ。すぐにキングズローに向かうわ」

女工作員アルテミスのナイフ

クリムゾンの情報は正しかった。
倉庫で待ち受けていたのはまさしくアルテミスのナイフと呼ばれるマルタ機関の女性工作員達だったのだ。だがその情報はわずかにその賞味期限を過ぎていたようだ。ヒーローが現場に到着したとき、既にメルヴィンは他の場所へ連れ去られた後だったのだから。

それでも全くの空振りだったというわけではなかった。
Lalaは倉庫で、メルヴィンのものと思われるラップトップPCを発見したのだ。
そしていくつかのファイルに目を通したLalaの注意は、まもなくある一つのファイルに釘付けになった。
それは1950年代〜60年代にアメリカで施行された “正義のための力法(the Might for Right)によるヒーローによる諜報活動や非合法工作について研究したものだった。

正義のための力法”は1956年施行され、憲法違反の判決により1967年に廃止された。この法律はメタヒューマン(超人=ヒーローのこと)の取り扱 いのために特別に起草されたものだが、その背後には東西両陣営間の『メタヒューマン活用についてのギャップ』に対する情報機関の憂慮があった。記録によれ ば多くの人々がこの法律によって徴兵されたにもかかわらず、なぜ情報部の記録からはその具体的な任務内容をうかがい知る事ができないのか?1948年から 56年にかけて多くのエージェントの行方不明者(MIA)や戦死者(KIA)が記録されている。ちょうど正義のための力法の施行直前のことだ。この損失が 主要な情報機関の方向転換を促したのだろうか"

逆襲のLala
Lalaがメルヴィンの行方についての手がかりを失ってからしばらくして、新しい情報が彼女の元に飛び込んできた。
メルヴィンは誘拐される前にジム・バー トレット(Jim Bartlett)なる人物にインタビューしていたこと、そしてそのジム・バートレット自身が今度は行方不明になったというのだ。

「メルヴィンとジム・バートレットが同時に誘拐されたことは何か関係があるのかしら?」
Lalaが首をかしげてインディゴにたずねた。
「ジム・バートレットは第二次世界大戦で活躍したサンダーヘッド(Thunderhead 入道雲)という名のヒーローよ。そしてこの誘拐は偶然なんかじゃないわ。バートレット氏を救うことは“友達”の行方を知ることにつながるはずなの」

インディゴは何かを知っているかのような口ぶりに、メルヴィンとバートレットのつながりを確信したヒーローは、彼が連れ去られた下水道の一角へと向かったのだった。

対ヒーロー銃をもつ男

「Lala、私達の“友人たち”のことだけど」またしてもインディゴが謎かけのような口ぶちで言った。
「彼らはメルヴィン・ラングリーのオフィスの大掃除をするらしいの」
どうやら今度の“友達”は複数の別の先を指しているようだ。
「大掃除?」きょとんとするLalaにインディゴが声を細めてささやいた。
「マルタの奴らが彼のオフィスに侵入してメルヴィンに関する資料を持ち去り、協力者を皆殺しにした上にオフィスごと焼き払って全ての証拠を隠滅しようとしてるってことよ」
「なんですって!」


早速問題のオフィスに向かったLalaだったが、例によってインディゴの情報は肝心なことが不足していた。
なんと彼女が向かった先はCIAのオフィスだったのだ。

爆弾が仕掛けられたCIAオフィス
「メルヴィンのオフィスがCIAってどういうこと?メルヴィンってCIAのエージェントってことなの?」

ある程度予想されたこととはいえ違和感を隠せない 彼女だったが、まずはマルタの工作員を倒し、職員を救出することが先決だった。しかもご丁寧なことにマルタは証拠隠滅を狙って、たくさんの時限爆弾までオ フィスに仕掛けているのだ
マルタ工作員キティキャット

「へっ、ここの向かっていることは聞いていたぜ。
待ちわびたぞCutie Lala!これで全部を終わらせてやるぜ
(yeah, I heard Cutie Lala's on the way. I will be waiting! Well, and there you are, Cutie Lala. You are just what we need to finish this thing)」

ビルの奥ではガンマンのようないでたちをして、銃を構えた男がLalaを待ち構えていた。
この男Kitty Cat Bravoがどうやらこの攻撃の指揮官らしい。それにしても何の秘密を護ろうとしているのか知らないが、CIAのオフィスを攻撃し焼き払おうとはなんと大胆な奴なのだろう。

しかし大口をたたいた割にはその実力はしれたものだった。確かに彼は対ヒーロー用に作られた特製拳銃を持ってはいたが、Inv TankerのLalaには蚊に刺された程度の威力でしかなかったのだ。

こうしてKitty Cat Bravoは倒され、CIAの職員たちはヒーローの手によって無事救出された。
そして同時にメルヴィンの正体も判明した。彼はCIAのエージェントではなく、単なる調査文書の整理係に過ぎなかったのだ。

タイピストを救え

「いったいファイルの整理係のためになんでここまでするんだろう?それとも彼はCIAの情報ファイルを整理するうちに何か極秘事項でもつかんだっていうの?」
そう首をかしげるLalaだったが、これで終わりではなかった。なんとマルタは今度はメルヴィンが使っていた文書の校正係の女性をも襲撃したという のだ。

現場に急行したLalaを阻もうとアルテミスのナイフの工作員が行く手に立ちはだかったが、ヒーローの力を失わせるマルタの超兵器“生体エネルギー吸収装 置”のない工作員など彼女の敵ではなかった。
彼女は校正係の女性を助け出すことに成功したばかりでなく、メルヴィンが最後の校正に出していた報告書を入手することに成功したのだった。

だが、彼女の使命は実はこれだけではない。Lalaは報告書を受け取るや、あらかじめインディゴから受け取っていた“偽の報告書”と差し替えたのだ。
おそらく偽文書をつかって逆にマルタを混乱させようという作戦なのだろう。全く手回しのいい連中だ。

メルヴィンの最後の報告書は、67年の正義のための力法の廃止の事情から始まっていた。

この年Paragon Cityで徴兵された3人のアフリカ系アメリカ人のヒーローがマイノリティ出身ヒーローの人権侵害を裁判所に提訴したのだ。
結局長い裁判の末最高裁判所 は賛成4、反対3、棄権2の僅差で正義のための力法に対して憲法違反の判決を下したのだった。

興味深いのはその後の出来事だった。
CIAのタイタンプロジェクト ーそれはメタヒューマンによる隠密諜報作戦をさしていた − の指揮官ロジャー・バラベルは、たった一度でプロジェクトを崩壊させたこの判決に激怒し、イギリスのMI6(軍事情報部6課)の長、ニール・マッキントッシュ(Neil McIntosh)に連絡をとったというのだ。
だが報告書はここで終わっており、その後がどうなったのかはわからなかった。

「MI6って007で有名なイギリスの諜報機関だよね。CIAにMI6かあ、なんか国際スパイ映画みたいな展開になってきちゃった」Lalaは不謹慎とは思いつつも少し興奮していた。実は彼女はこの手の映画が大好きなのだ。

彼の名はパラドックス・ブラック・デルタ

だが次に届いた急報が彼女の浮ついた気分を吹き飛ばした。今度はそのイギリスのベテラン外交官のレスター・チェスターフォード(Lester Chesterford)がイギリス領事館でマルタの工作員に誘拐されたというのである。
だがインディゴとクリムゾンがLalaに与えた任務は彼の救出だけではなかった。彼に極秘文書を手渡すことを同時に求めたのだった。

例によってインディゴが特定したチェスターフォード外交官の拘禁先は、ブリックスタウンの一角の薄暗い廃屋だった。
その最上階の個室で外交官の姿を発見したLalaは、拉致部隊の指揮官と思しきParadox Black Deltaに挑みかかった。

「Cutie Lala、貴様に私の作戦を妨害する事はできぬ!(You won’t interrupt my operation Cuti Lala!)ヒーローに向かって気を吐いたParadox Black Deltaだったが、既に護衛の工作員はほとんど倒されており多勢に無勢だった。ほどなくヒーローはチェスターフォード外交官を解放することに成功したのだった。

『ああ、大丈夫、大丈夫だ。しかしこの文書は信じて良いのか、あるいはそうでないのか』解放されLalaから渡された秘密文書を読んだチェスターフォード外交官が言った。


私を愛したスパイ

まるでメルヴィンを知るものを片っ端から消そうとしているかのようなマルタ機関に翻弄されるヒーローだったが、ある日こちらから攻勢に出られるかもしれないある情報が舞い込んできた。
どうやらマルタの工作員が最近ブームタウンのとある廃墟を占拠し、何かたくらんでいるらしいというのだ。その正確な意図はインディゴもつかめていないようだったが、彼女によればそこには貴重な情報が眠っている可能性があるという。

「まだあの絵はみつからんのか?待て、Cutie Lalaだ!後備部隊を呼べ!)(Have they found the painting yet? Wait, that's Cutie Lala! Call for back-up!)」
「駄目だ!だが、すべての書類は破棄したぞ( No, but all the documents are being destroyed.)」

Lalaが踏み込むと中の男達は明らかに動揺し、あたふたとなにかの書類を隠蔽しようとはかったのだ。
まもなく廃屋での戦闘自体はあっけないほど簡単に終わったがその戦果は絶大だった。インディゴの情報のとおりそこにはマルタ機関の機密情報を記したと思われるいくつかのファイルが残されていたのだ。

慌てるマルタ工作員

そしてもうひとつヒーローの目を引いたのは『マルタの紳士』と題を付けられた一枚の絵画だった。
このやや大きい絵画には、暗い部屋の会議テーブルの周りに 17人の紳士が描画され、テーブルには黒い鳥の紋章がくっきりと掘り込まれていた。作者のサインはなかったが、絵の片隅には1967年5月という日付が記されていた。
しばらく絵を見ていたLalaは、そんなかに見覚えのある顔が書かれているのに気がづいた。

「ここに描かれているのって、ニール・マッキントッシュMI6長官とCIAのロジャー・バラベルじゃない! と、いうことは絵にある他の人物って当時のNATOの情報部のメンバーってことなの?」

驚きはそれだけではなかった。彼女が見つけた秘密文書は既にマルタによって焼却途中だったが、その一部からは
1960年代から数十年にわたって1ダースにものぼる各国の主要な政府や諜報機関から、毎年数百万ドルもの途方もない金額の違法な資金がマルタ機関に支出されていたことがわかったのだ。

「要は政府とマルタ機関ってグルだったのね!インディゴ!貴方だって政府の人間なんでしょ?彼らの一味じゃないって保証はどこにあるのよ?!」

戻ってきた Lalaの怒りは情報を隠し不明瞭な指示を続けるインディゴにぶつけられた。だが意外にもインディゴは素直に頭を下げた。
「貴方が私を信用できない
気持ちはわかるわ。ごめんなさい、でも今は信じてもらうしかないの。全てを明らかにすることは約束できないけど、いずれよりはっ きりすると思うわ。たしかに不明瞭な指示が多いかもしれないけど、もう少しなのよ。実は最近“友人達”が囚人の場所を移したらしいという話が入ってきた の。もしそれがメルヴィン・ラングレーなら、これが救出の最後のチャンスよ。お願いLala。」



「・・・わかったわ。今はあなた方を信じることにするわ」

Lalaのファン?

とりあえず怒りを納めたヒーローが向かった先はブリックスタウンの倉庫だった。そこでマルタ機関に拉致されていた一人の男性をヒーローは救い出したのだったが・・・。

「うぉーCutie Lalaだ!あんたに会えて嬉しいよ。
俺、あんたの大ファンなんだ
(Wow, Cutie Lala, it's so great to meet you. I'm actually a big fan of yours)」
「は、はあ?そりゃどうも・・・メルヴィン・ラングレーさん?・・・じゃ、ないよね、やっぱり」
「俺はレツリオ(Returio)だ。ちょっとは名の知れたアーティストって奴さ」

彼レツリオは記憶の最後の5分間を消すことが出来るという彼の奇妙な能力ゆえに、金をもらってマルタに雇われていたらしい。
だが最近それがやばい金だとわかって受け取りを拒否したため、マルタに監禁されてしまったのだ。

またもや空振りかに思われたが、成果が無いわけではなかった。レツリオは監禁先でメルヴィンが拷問を受けるところを目撃していたのだ。
少なくともメルヴィンがまだ生きている事は確かなようだった。

「どうやら作戦を変える必要があるようね。
彼の居場所についての情報がない以上、私達は彼がいったい何を知ったためにマルタのターゲットになったのか知るべきだわ。そしてそれを突き止めることが、彼とその周囲の安全にもつながるはずよ」

相次ぐ探索が空振りに終わったことで、インディゴは作戦を変えることにしたようだ。

「実はね。メルヴィンは拉致される前の最後の休暇で、地中海の孤島マルタ島に旅行にいっているの。そしてそのときの記録がマルタ機関に奪われたとの情報があるわ。これを取り返せば何かわかるかもしれない」

奪われた日記を取り返せ
ヒーローに詰め寄られるインディゴ
謎の女インディゴ

ロシアより愛を込めて

「インディゴ、貴方いったい・・・」
「もう話はクリムゾンから聞いたでしょ。Cutie Lala。そうよ、私達はマルタ機関の情報を収集するために、メルヴィンを利用しようとしたのよ。私 達は意図的に彼に手がかりを与え彼がマルタに近づくように誘導した。私は謎の女性として、クリムゾンはただクリムゾンとしてあの調子でね。ただ・・・」
「ただ?」
「私は彼に少し親しくしすぎたかもしれない・・・」

メルヴィンがマルタに拉致された原因は実はインディゴとクリムゾン自身にあったのだった。彼らはメルヴィンがCIAの閑職ながら、その職務の性格上さまざ まな秘密文書に接触する機会があるのを利用して、マルタの秘密を探ろうとした。
だがその工作はマルタに察知され、メルヴィンは何も知らずに彼らに拘束されたのだった。
それはマルタがこの“スパイ”の背後を洗い出すまで、メルヴィンを生かしておく可能性が高いこと ーそして実際インディゴとクリムゾンがその ように思わせる工作をマルタにおこなっていること− を意味していたのだった。

「彼のトラブルは私の責任よ。もし私が欲張らなければ、ここまでの事態にはならなかった。
だけど彼はいい人で、楽しい人で、そしてやさしかった。
彼はね、 ミステリアスな女性として私をとても好いていた。貴方にもわかるでしょCutie Lala、こんな生活の中で単に、ハーフエイリアンのミュータントや邪神の使徒、あるいはプログラムされた暗殺者でないってわかる相手と話すことが、どんなに嬉しいことか。

そして本当にしばらくは何もおこらなかった。私は彼のミステリアスな女神であることを楽しんでいたの、彼がどれほど多くの危険の中にいるかもしれないってことを忘れるほど、ね」

そういうと一瞬インディゴは視線を逸らしうつむいた。


「インディゴ・・・」
Lalaが彼女に思わず声をかけるとインディゴは我に返ったように再び顔を上げ、いつもの気丈な瞳を取り戻し言った。
「ごめんなさい、Cutie Lala。ここに今いる私は死の香りのする、謎のスーパースパイだったわね。」

「・・・あなたの気持ちはわかったわ、インディゴ。必ずマルタを倒してメルヴィンを取り戻して見せる」

再びメルヴィンの行方を追うヒーローの下に新たな情報がもたらされたのは、それからしばらくしてのことだった。

それは件の「友人達」、すなわちマルタの工 作員が一人の年老いたロシア人女性を誘拐したという情報だった。
彼女の名はマウラ・ヴァーヴァリンスキー(Mavra Varvarinsky)といいマルタは実に1989年頃から彼女を追っていたらしいというのだ。

そして情報によれば彼女を拘禁するため新たな場所に移送する命令が下されており、それがメルヴィンが連れ去られた場所と同じである可能性があるというのである。

「なるほどね。マルタが彼女をどこに連れて行くのかわかれば、メルヴィンがつかまっている奴らの収容所の位置がわかるってことね」
そういうなり、Lalaはスーパースピードを使って一目散にマウラが拘束されているブリックスタウンの地下下水道へと向かったのだった。

昼なお暗いParagon Cityの巨大な下水道網。そこは誰にも見つからずに極秘裏に捕虜を移送するのに最適な場所だった。いや、ただヒーローの存在を除いては、だが。

策敵完了。現在地にて待機。(Perimeter search complete. Holding position)」
まもなくマルタの工作員を倒しつつマウラを追うLalaの前に、突如巨大なロボットが姿を現した。一瞬たじろぐヒーロー。
あれこそマルタ機関の誇る戦闘機械ゼウス級タイタンロボットなのだ。

「ターゲット、Cutie Lalaと確認。攻撃を開始
(Target identified as Cutie Lala. Commencing attack)」
ロボットがヒーローを認めるや無機質な電子音が暗がりに響き、次の瞬間その腕から眩い光を放ってプラズマ砲がLalaに向けて発射された。
大型ロボットの脅威に一瞬ひるんだ彼女だったが、しかし、持ち前の頑強な体躯は健在だった。
彼女を取り巻く防御フィールドがプラズマ砲をはじき返し、巨大 な破砕アームをがっちりと受け止めた。そしてヒーローの渾身の一撃がロボットの厚い装甲を貫くと、タイタンロボットは火を噴いて下水の海にその巨体を沈めたのだった。

「これではマウラを街に移送することができん。
Cutie Lalaの攻撃下ではリスクが大きすぎる。
(We cannot move her to streets yet. Cutie Lala's strikes on our operations make it too risky)」
まもなくこの作戦の指揮官と思しきEcho Red Etaの声が遠く下水道のおくから聞こえてきた。どうやらLalaの襲撃によって彼らの逃走を阻止できたようだ。


「まさか、今でもマルタの連中はあなた達元スパイを追っているって言うの?」
「さよならCutie Lala。もう二度とあうことは無いわ、私はまた姿を隠さなければならないのでね」

こうしてマウラと別れたヒーローだったが、収穫はKGBの老スパイを救出しただけではなかった。実はLalaは彼女を救出する最中、マルタの捕虜収容所のリストを見つけていたのだ。
そして、そのことはヒーローがメルヴィンの行方を知る大きな手がかりをつかんだことを意味していたのだった。

マルタの捕虜収容所のリストを発見したLalaだったが、それだけですべての問題が解決したわけではもちろんなかった。
まず発見したリストは高度に暗号化されており、その解読には相応の時間を要することは確かだったし、そもそもリストにある多数のコードのどれがメルヴィンを指しているのかを確定することはきわめて困難だったのだ。
だがインディゴとクリムゾンは自信満々だった。

「私たちがリストを持っていというだけで敵に対しては十分なイニシアチブよ。これで敵は下手な動きはできなくなったでしょうしね。それにこのリストを入手したことでクリムゾンから新たな指示がおりたわ」

インディゴによればどうやらクリムゾンはマルタのコンピューターセンターの所在をつかんだらしい。
しかもそこはもともとは合衆国政府の調査研究施設で、現在はマルタ機関が占有して使用しているというのだ。それにしてもマルタ機関が政府の施設を意のままに使用することができるという事実に、さすがのLala も戦慄を隠せなかった。

死ぬのは奴らだ

彼女が急行した施設はもともと政府のものというだけあって無数の大型コンピューターが並ぶ巨大なデーターセンターだった。施設のセキュリティを倒したヒー ローが馴れた手つきでコンソールをたたくと、目の前のディスプレイに滝のように膨大な情報が流れていく。その中で目に付くファイルをオープンにすると、彼 女は片っ端から持っていたディスクへとファイルをコピーしていったのだった。

Lalaが手に入れたマルタの機密ファイルには彼らの活動にとって致命的な恐るべき数の情報が含まれていた。あるファイルには過去数十年にわたるマルタ機 関の非合法の諜報活動の内容が詳細に記録されており、彼らが関与した小国の政府転覆工作や発展途上国での反政府運動家の暗殺工作、あるいはマルタのスポン サー企業のビジネスのための非合法工作の様々な証拠が記録されていた。
また“メタヒューマンの人材についての報告”と題された別のファイルには数百人ものメタヒューマンのマルタエージェントの名前とともに、彼らを恐喝やマイ ンドコントロールによって如何にマルタのために働くように強いたか、その悪夢のような非人道的なやり口のすべてが記されていた。

そしてやりきれないのは何よりもこれらのすべての行為は“自由”の名の下に行われたという事実だった。

「うん、これは期待していたよりはるかに大きな戦果だわ。」
ヒーローが持ち帰ったファイルを分析したインディゴがうれしそうに言った。

「じゃあ、メルヴィンのとらわれている場所が特定できたのね」
「いいえ、あなたの“友人たち”への作戦の結果、彼を解放する直前まで来ているのは事実だけど、その前にもうひとつあなたにはやってもらうことがあるわ。
“友人たち”は過去資本主義の名のものに、クレイインダストリー社の敵対者の排除を行ってきた。そしてクリムゾンによればどうやらクレイ社がまた“友人た ち”にトラブルの解決を頼んでいるらしいの」
「クレイの奴ら、敵対企業の攻撃を依頼しようって言うのね。でもそれよりもメルヴィンの解放のほうが先じゃないの?」
「それも問題ないわ。私たちの情報が正しければマルタ側の交渉者(Negotiator)は“空色のシルエットα”(Silhouette Azure Alpha)というコードネームで呼ばれている男のはずなの。
そしてもしそのとおりで、私たちのつかんだ敵の人物コードに関する情報が正しかったことが確認されたなら・・・」
「人物コードと収容所リストからメルヴィンの収容先割り出せる、そういうことなのね」
言葉の途中をさえぎるようにLalaがいうと、インディゴはニッコリと笑っていった。

「ええ、簡単でしょ!(Easy!)」


女王陛下のCutie Lala

いつものようなクリムゾンの軽口に送られてメルヴィン救出に向かおうとしたLalaだったが、そのとき急にその背をクリムゾンが呼び止めた。
「すべて終わったら俺のところに来てくれ。お前には特別にはなしておきたいことがあるんでな」


古い5th Columnの基地。
今しもその奥ではヒーローの到着を知ったパラドックス・ブラック・オメガの怒声が響いていた。

「遂にCutie Lalaが到着しただと?これがすべてのメタヒューマンが管理されなければいけない理由なのだ!(So Cutie Lala has finally arrived? This is why all meta-human need to be controlled!)」
「パラドックス・ブラック・オメガ!あなた達の勝手な“自由”のためにどれだけの人たちが犠牲になったかわかってるの?
あなた達は“自由”の守護者なんか じゃない。自分たちの“自由”を守るために、他人を犠牲にするファシストよ!」
そう言うLalaの声に激昂するパラドックス・ブラック・オメガ。

「貴様は自由の敵だ Cutie Lala!我々ではない、貴様がだ!(You are the enemy of freedom, Cutie Lala! Not us!)」

OKきたなCutie Lala」いつものような調子でクリムゾンがいった。
「メルヴィンはまだ市内にいる。それも昔の5th Columnの基地の跡らしい。しかし“自由の守護者”を自称する連中が、不法に誘拐された合衆国市民を、ファシストがつくった基地に閉じ込めてるとは、皮肉が利いてやがるぜ。」
「それで彼は無事なの?」
「多少拷問はうけてるが、心身ともに異常はないようだ。奴らはメルヴィンのもっていた情報に相当気を使っていたようだな。
おっとそうだ、忘れてた。メル ヴィンの解放以外にもお前にやってもらうことがある。そこにいるはずの組織の幹部パラドックス・ブラック・オメガの(Paradox Black Omega)野郎も捕まえてきてくれ。

「まあお前ならなんてことはないさ。簡単だろ!(Easy!)」
ヒーローとマルタとの戦闘が収集し、この廃墟となった基地を再び静寂が支配するまでそれほど多くの時間を要しなかった。
そして最終的に基地のゲートを開けて外へと歩み出たのは、Lalaと一人の若い男―それは紛れもなくメルヴィン・ラングリー ―の姿だった。
そう、メルヴィン・ラングリーをめぐる長い長い戦いは、今ようやくここにその幕を下ろしたのだった。

「クリムゾン、話があるっていってたわよね」

メルヴィンを救出し、この長い探索劇の幕を引いたLalaは再びクリムゾンの元を訪れた。
「そうだったな。お前への仕事の報酬として少しだけ説明を加えてやろうと思ってな。二度とはいわねえから、よく聞いておくんだな。」

「お前はこのミッションを通じてマルタ機関が何者で、そしてなぜ結成されたか知ったはずだ。
1967年に正義のための力法が廃止された後、ソ連に対する諜 報戦で劣勢になることを恐れたCIAのバラベルとMI6のマッキントッシュによって17カ国の西側の諜報機関がマルタ島にあつまり、非合法的な国際情報組織を作り上げた。
「それはわかってるわ。そして彼らはヒーロー達を脅迫や洗脳でエージェントにして様々な非合法工作を行った・・・」
「問題はその後だ。
冷戦が終わり共産主義の脅威がなくなった後、マルタは変わらなければならなかった。だが奴らは民主主義と資本主義の拡大に目的を変え活動を始めた。しかしその真の姿は星条旗に包まれた全体主義とファシズムと独裁以外のなにものでもなかったのだ。

クリムゾンはすべてを話してくれたわ、Lala」
しばらくしてインディゴの下を訪れたLalaに彼女が言った。
「だけど私は怒ってなんかいないわ。彼の言うことも理解できるし。それに貴方のおかげでメルヴィンも救出されて、しかも一緒にマルタと戦うことを決意してくれた。
私が望んだどんな結末よりすばらしい結果だったわ。
本当にありがとうLala・・・そして、心からお礼をいうわ・・ありがとう、最後まで私を信じてくれて」


そういうと、インディゴは今までに見せたことのない様な笑顔でLalaに微笑んだ。
Taskforce Complete!

軽口をたたいているにもかかわらず彼女の口調は落ち着いていて、そこにはなんとも抗しきれない凄みがあった。
今まで見たことのない暗い深淵を覗き込んだような気がしたLalaだったが、湧き上がる好奇心を抑えきれず無言のままうなずいたのだった。

はたしてこの記録と彼の誘拐はなんらかの関係があるのだろうか?

「当時の事はワシもよく覚えているよ。政府は科学では説明のつかないメタヒューマンの市民を徴兵したのだよ。異論はあったがみんな共産主義を恐れていたので、多少の人権侵害があっても仕方がないとおもっていたんじゃ」

「だがな実はメタヒューマンを徴兵するアイデアは、1956年以前からあったのじゃよ。
第二次大戦中、ワシは戦略諜報局(OSS CIAの前身)のロジャー・バラベル(Roger Vrabel)という男と付き合いがあった。奴は合衆国のあらゆるスーパーパワー資源を動員することの必要性を考え、戦後は多くの人たちがソ連の爆弾を恐れていたように、ロシア人のスーパーパワーを恐れていたよ。」

「それでそのロジャーって人はその後どうしたの?」
じっと話を聞いていたLalaがバートレットにたずねた。
「ワシが48年に軍隊を辞めたとき、奴は激怒してワシを国家への反逆者だとののしりおった。その後奴とは連絡を取っていない。奴がどうなったかは全く知らんよ。」

「それってクリムゾンって人から貴方に渡せっていわれたんだけど」
クリムゾンだと!それはこの数十年にわたって血まみれの影を歴史に残したあのクリムゾンか。
だが、心配はない。確かにラングリー氏はマッキントッシュに ついて私に尋ねたが、正義のための力法の転換期の諜報機関についてのことや、マルタの情報会議については何も彼には話しちゃいないんだ。それは保証する。 それに記録を改ざんすれば人々の知っている歴史を塗り替えることができるだろう。」 

“インディゴ”・・・・と。

膨大なファイルをチェックしていたLalaの視線はまもなくあるひとつのファイルに釘付けになった。“Paragon市民の移送”というタイトルのついた そのファイルには、マルタの捕虜となったParagon City市民が送られた収容所の位置とコード名、そして数がしるされていた。この中のコードのひとつがメルヴィンをさしていることはほとんど間違いないはずだ。


Home