福井晴敏さん #01


『亡国のイージス』 福井晴敏 講談社 1999/8 ♪:☆☆☆★★★★
作品紹介 海洋ロマン
『イージス』ギリシャ神話に伝わるありとあらゆる攻撃を防ぐと言われる楯。
『イージス艦』広域レーダーにより、周囲数10km海上海中をカバーできる最新式の護衛艦。

戦域ミサイル防衛構想(TMD)の一環として、イージス艦に改装された
自衛隊所属艦「いそかぜ」を巡る、封印された物語.....。

「いそかぜ」艦長・宮津。
充実した毎日を送っていた彼の元に、息子・孝史の訃報が届く。
父親の跡をついで自衛官になろうとしていた息子が何故....憔悴する彼の前に、 息子の友人を名乗る男が現れ、こう告げる、「息子さんは殺されたんです」。
沖縄米軍基地で起こった爆発事故の真相と、そこで開発されていた「もの」。
「もの」を巡った闇の戦いに純粋故に巻きこまれ、国の保険として殺されたという息子。
今は、遺書ともなってしまった息子の論文「亡国の楯」を読み終えた彼は国家への復讐を誓う「孝史...仇はとってやるぞ...」。

先任伍長・仙石。
艦内で相次ぐ人為的な事故に疑問を持ちつつある彼は、事故の現場で目撃される海士・如月行 に疑問を持ち始める。

そして如月行、まだ若く謎めいた彼は暗い海に何を思うのか....

何知らぬクルーを余所に、艦内のあるグループ。
復讐者・国を憂う者・工作員、立場は違えど手を組んだ彼らはついに「あれ」を弾頭に装備、 都民1000万人を人質に取り、国家を揺るがす計画を実行する!

かっての僚機であり友人が乗る、自衛艦を撃沈・撃墜し、
国家を転覆させる力を持つ凶器と化した「いそかぜ」は、ゆっくりと東京湾に入港していく...
内閣安全保証会議が召集されるが、「いそかぜ」が提示したタイムリミットは12時間.....
感想 「よく見ろ日本人、これが戦争だ。」
↑の「よく見ろ、日本人...」はある登場人物の言葉で、 初期版ハードカバーの帯にデカデカと書いてあったので印象的でしたが、内容からするとチグハグだと思いました。 受賞した後の再版版では名セリフ集みたいになってますが、こっちのがいいな(謎)

冒頭で語られる、主要人物三人の背景が感情移入を助け、数多い登場人物の混乱を防いでくれます。
誰が敵で、誰が味方なのか、中盤までまったく判らない構成。 各キャラそれぞれの主張や思いにも唸ります。
自衛隊内部の構造や兵器などの描写も物凄く細かいです、兵器好きならそれだけでも唸れると 思うのですが、極限を描いた人間ドラマの部分がとても印象的です.....。
時間が経って思えば、内容は青臭い部分が多いと思いますし、行にツッコミもしたくなりますが、 ある意味で「王道」な物語なのかも知れません......

絵描きキャラ(行・仙石)がいるせいか、やたら絵を描く事に対する意見が出てきます、 竹本さんの作品にも一時期あった独特の感覚を思い出しました.......
感想(ネタバレ) 聞こえたよ...
最初の場面で行が手をふったシーンが、最後にまた......このシーンが感涙でした。 本当に感動しました.....その少し前の宮津夫人に渥美が謝罪する場面で、 涙を堪えていましたのですが、この場面では流れました。
細かい設定や、かいまの物語も勿論ですが、私はこの場面が忘れられません.....

それと、この物語には悪人が少ないです、ヨンファ達は勿論テロリストで人を殺したりもしてるし、 序盤の政府首脳陣や梶本総理は嫌悪感大な人物達なのですが、 終って見て見れば、不思議と悪人というレッテルで済ましてしまう事は出来ない。 その辺りに見せ方も上手いと思います。

シリーズ的要素を持ちながら、完全に納得のいく完結をした、と思ってます。
宮津・仙石・行.......彼らが以後の作品に出る事は無いと思うのですが、 ダイスの局長は出てくる可能性もあるので、真の意味での続編を望みます。
KeyWord:如月行 謎多き一等海士
「応えてくれた、通じたよ母さん。
 ただ目の前を通り過ぎるだけだったものが、こっちを見て返事をしてくれたんだ。
 わかる?こんな事もあるんだ。
 世界には耐えるだけじゃなくって、生きていればこんな瞬間に出くわす事もあるんだ」

「薄汚い、裏切りものはアンタだ。  裏切られたからって、裏切るつもりは無い。
 他人に誉められようが捨てられようが、そんなのはただの結果だ。
 おれはそんな事の為に働いているんじゃない。あんた達と一緒にするな」
KeyWord:仙石恒史 気のいい先任伍長
「....一生、この光景を見られない奴だっている」
KeyWord:宮津 父、母、子
「ならば、おやりなさい、その気概があるのでしたら、我々はここで沈んでみせましょう。
.......相変わらず、ロマンチストだな。だが戦場では役に立たん、ハープーンを直撃させる」

「あの男は...判っていないんです、母親の怒りと憎しみが、どれほど強いものかを。」

「ありがとう、お父さん。あなたは、子が誇れる父でした」
KeyWord:『海の男の交換日記』 阿久津&仙石(笑)
「......いろいろ努力はしている。」  「どんな?」
「交換日記とか、とか。」  「.....冗談だろ?」
「本当だ、結婚してから二十一年、欠かした事は無い。
 お互いに、航海中になにをしてたか知るのには結構便利な.....誰にもいうなよ?」
「やだよ、言うよ、こんなおもしれえ話.....」
KeyWord:阿久津徹夫 うらかぜ艦長、交換日記が見せ場ではない
「撤退するつもりも、先制攻撃をかけるつもりもない。我々は海上自衛艦だ。
 あくまでも法を尊守する。それが我々の任務であり、誇りだ。」

「くだらん恫喝に膝を折る気は無い。ここで我々が沈んだとしても、他の艦が残っている。
 我々という犠牲が、全国三十万の自衛艦に反撃のきっかけを与えるのだという事を忘れるな。
 彼らは仲間に弓を引いた反逆者を決して許しはしないぞ。」
KeyWord:竹中勇 純朴な三等海佐
「うまい言葉が見つかりませんがね.....。女房は、いい女でした。
 子供には恵まれませんでしたが、一年の1/3の家にいない亭主を、
 文句も言わづに待っていてくれた。
 病気の事も、仕事に支障が出るのを気にしてずっと黙ってて....葬式が終った後、
 自分の今までやってきた事の意味はなんだろうかって、考えるようになったんです。
 でも何も見つけられなかった。
 虚しさだけが日に日に大きくなっていって、他にやる事も思いうかばず........」



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