#如月烏有シリーズ


『夏と冬の奏鳴曲(ソナタ)』 麻耶雄嵩 講談社 1993/9 ♪:☆☆☆★★★★
作品紹介 真夏にふる雪、奇跡
真宮和音という一人の女優がいた。
彼女に心酔した六人の若者は、絶海の孤島での共同生活を行い、そこを『和音島』と名づけた。
だが、ある日突然の和音の死によってその生活は終りを告げた。

.....20年の時がたち、彼らの同窓会が行われる。
心に傷をもつ青年・如月烏有(きさらぎうゆう)と、 アシスタントの舞菜桐璃(まいなとおり)は、取材のため彼らに同行するのだが.....。
そこで起こる殺人事件。雪の密室と、彼らが怯える和音。和音は死んだのではないのか?
様々な謎と過去、20年前の真実、そして奇跡とは...?
感想 春と秋の奏鳴曲(ソナタ)
好き嫌いがハッキリわかれる本ですね。私は凄く好きです......。
明確な論理とかそういう部分で言えば、この物語は作品の形態として失敗している、と言った人もいます(俺じゃないよ)。
かく言う私も、色々と思考を巡らしたり無い知恵を絞って上手く自分の中で処理 (あくまでも「自分の中」で)しようと思ったのですが......出来ないですね。 まあ、おかげさまでキーボードに疑問とストレスをぶつけるのがで楽しいです(謎)

ミステリなんですが.....トリックもありますし。 明確に解明されない部分も、糸はそれなりにぼんやりと繋がってみえますしね。 それでも謎な......いや、この場合は「不思議」とでもいうんでしょうか。不思議な感覚。 あくまでもミステリだとしても、いっそ「ファンタジー」だと思って読んでも..... いや、これはファンタジーではないなぁ。あ〜毎度混乱。

それにしても、この奇妙な読後感はたまりませんね.......いや、ホンマ。
読み終った後に本を「パタン」とは閉じられませんでした。
感想(ネタバレ) 彼が選んだ は、美しい二つの を輝かせて
雪の密室トリックとかはどうかなーとも思いますが、ラストの破局に関してはそんなに抵抗ないですね。 却って好みだといっても過言ではありませんから。

それにしてもたくさんの謎、謎というか不思議?それをもたせてくれますよね。

『春と秋の奏鳴曲(ソナタ)』....これに理由を求めてはいけないんですかね.......
実はこれも何か意味があり、誰かのトリックで、みたいな。...... これも奇跡?ただの偶然?偶然は必然?........。
....それと....桐璃って結局はなんだったんでしょうか?『この作品における桐璃』です。 烏有の恩人の妹さんなんですかね、という点からヒロインで黒幕なのかとかなんともかんとも..... 最後のアレもそうだし。 それになんといっても編集長ですよ、桐璃との関係も気になるし、........。

烏有さんは、この後にも登場してまたぞろ悩んだりするので。そっちでまた悩むとしよう。

ところで最後の選択ですが................迷いをもったとはいえ、烏有が選んだのは、 だったのですよね? でも結果的には、 が、 で、 が、 って、しまった。でも、 が、生きていたから。 「粉飾と捏造という顔をそむけたくなるような....」ことをしてしまった。 いや、してしまうのではないでしょうか、誰でも.........。ここ、なんか哀しかったです。   に、対して....。
だから烏有さんは『痾(あ)』で記憶が消えちゃったのかな?
KeyWord:舞奈桐璃(まいなとおり) うゆーさんor烏有さん
「そんなこといってるから、孤立するのよ。"孤独だけど、自由だ"なんて流行らないよ」

「うゆうさん、忘れないでね」

「うん、わたし緑がいいな。それも透きとおって抜けるような、ライトグリーンが。
 ちょっとオシャレでしょ?」
KeyWord:パトリク神父(小柳) 転び
「今のわたしが口にする言葉ではありませんが。当時は、"神"だったのですよ。
 ......もし美というものが全ての基準でありえたらですが」

「理想だけでは生きてはいけません。醜さも許さないと」

「しかし、"神"を求めている者にとってこそ、"神"は姿を顕しになるのですよ。
 キリスト教にも"神は言葉とともにあった"という有名な言葉がありますが、そういうことなのです。
 "神"を求めていない、概念として抱いてない人にとっては姿は存在し得ないのです」
KeyWord:『星の囁き』 如月烏有の心
「星の囁きというものが本当にあるのか知らないが、
 こうやって目を閉じ暗闇の中で目を澄ますと聞こえてくるのは、
 日常に聴こえる自分を糾弾する音色とは違っているような気がした。
  決っして許容、容認しているわけではないが、
"どうでもいいよ" といった大柄だが清冽な声が、潮騒の虚空を斬る音に紛れて聴こえてくる。
 誰が殺されても、誰が殺しても、誰を殺しても、どうでもいいよ、と。.........
 それは本当に星たちが囁いているのかもしれなかったが、
 単に烏有の内奥にある希求の声を鏡のように反射しているだけかもしれなかった。」



『痾(あ)』 麻耶雄嵩 講談社 1995/9 ♪:☆☆☆★★
作品紹介 痾(あ)=『やまい、のようなもの』
和音島から帰還した如月烏有と、舞菜"桐璃"。
だが、バナナの皮で滑って転んだ(笑)彼は、記憶を局所的に失ってしまう。

烏有を励ます"桐璃"という名の少女。彼女は自分の恋人だったというのだが.......。
和音島で何があったのかも、烏有は憶えていない。
大切だった何か、自分の過去に起因する何かがあったような感覚だけが残って彼を苦しめる。

その反動からか何かを求めるためか、烏有は連続放火を繰り返してしまう。
感想 "桐璃"
『夏と冬の奏鳴曲(ソナタ)』の続編。
そっち読んでからにしないと大変なことになりまする(そうでもない)

この一連のシリーズの主人公っていいかたは変だと思うのですが (『夏と冬..』以外では脇役の一人という設定?みたいな印象もあるし) それでもこの一連の物語は烏有からみた視点?が多いですし。実際、烏有の物語でしょう。
『如月烏有』って魅力的といういいかたは変かも知れませんが、惹かれる人物です、私にとっては。
内向的で破滅型で、小心かと思えば結構傲慢で、基本的に人嫌い。 なんかこんな風に書くとエライ人物だとも感じますが、 んーなんというか負の部分で惹かれる....というか親身に感じる事が出来る不思議な人物ですよね。 本当に、何時か如月烏有が、メルカトルさんみたいになる日(作品)が来ればいいですね。 でもメルカトルの悪い部分は引き継がないようにして欲しいです。

で、最初から最後まで喉に引っ掛かって気になるのが"桐璃"ですね、 あえてふれてないような......ふれてはいけないんでしょうか? 烏有さんもこの部分だけは流さないで取り組んで欲しかった.......。
ところで、名前の意味ですが、
【烏有】 何もなくなってしまう。特に、火災などですべてなくなる。だそうです。

あと作品中のコネタですが、登場人物の『わぴ子』は、金魚注意報のわぴ子。
「わ・ぴ・子の元気予報〜」で親しみ深いです。漫画は未読ですがアニメは好きでした。

スナック・東方不敗「見よ東方は紅く燃えている」は『Gガンダム』のマスターアジアです。
「この馬鹿弟子がぁぁぁ.....!!」です。石破天驚券です。
感想(ネタバレ) 桐璃
『夏と冬...』の最後で一皮剥けたように感じた烏有。
でも彼は事故で記憶を失ってしまった?消したんんじゃないの....と邪推しますね。

今回、メルカトル鮎などが烏有を励ましている辺り、なんというか色々と期待?というか心に描いた展開があったんですがね...... 見事に裏切られました。しまいには"桐璃"にガキできてるし、弱音吐いてるし......
次に期待しよう、桐璃の言葉じゃないけど「烏有さん、頑張ってよ。」
KeyWord:藤岡剛 統計
「もちろん自殺する奴は自分だけの悩み、自分だけの理由で死を選んでいる筈なんだが、
 結局、社会の平均自殺者としての一翼を担っているだけでしかない。
 つまり、この一年に予想される自殺者のおおよその数を満たすためだけの存在なんだよ。
 そして結果は今年も自殺者が若干増えたな、減ったな、というだけなんだ。
  大きく増えたり減ったりはしない。
 一人一人は相当の覚悟で死を選択しているの筈なのにさ。
  結局社会のシステムによって自殺者や事故者は決定されていて、
  もちろん俺たちはそれに従うつもりなど毛頭ないのに、
  個人的な感情や、偶然の事故によってそれらは個別に起きているはずなのに、
  それらは総て社会から予想されてるんだ」
KeyWord:巫女神清隆 冷徹な男、良くも悪くも
「寂しさ、というのは意志ではありませんから」
KeyWord:如月烏有 .....烏有に翼が見える時を。
「あなたを殺したかった、後悔させたかった」
KeyWord:メルカトル鮎 「君は僕になれる」
「白鳥はなるものではないよ。白鳥は白鳥として生まれるんだ。」



『木製の王子』 麻耶雄嵩 講談社 2000/8 ♪:☆☆☆★
作品紹介 聖家族
偉大な芸術家として知られる白樫宗尚は、 一点に収斂する家系図を持つ"閉じられた一族"としても知られていた。 取材のため、彼の元を訪れた烏有は再び惨劇の目撃者となった。

桐璃との結婚.......そこから描かれる未来に疑問を感じていた烏有は、
今は亡きメルカトル鮎が自分に伝えた言葉、
「白鳥の子も自分が白鳥であることを知らなかったんだよ、君なら私になることが出来る」
と、木更津の期待を受け、その謎を解明しようと心みる......。
感想 すいません、理解力ないんで
この作品、なんでタイトルが『木製の王子』なの?意味わからん。

.......別板でレスを貰いました。
バルトークのバレエ音楽≪木製の王子≫からだと思われるそうです。
曲を聴いてみれば何か判るのかも。
感想(ネタバレ) 家族のこれから
麻耶さんが巻頭に「結婚しました」と書いてます。
でもってこの内容、家族を否定しまっくた故の素晴らしさ。それでも流される烏有。
今回も編集長の謎も明かされないし.....せめた桐璃のことだけハッキリしないと、 なんかレバニラ定食でニラがひっかかったような感じ。
でも今作では"桐璃"の""が外れてますね。 たぶんこのままなし崩しに進んでいくんだろうなぁ......とも思いますね、正直....。

あの海の下では、桐璃が眠ってるんですよね、あの青年のことも.......烏有しっかりしろ。 少なくとも私は『夏と冬....』を引きずっています、ズルズルと。だらしなくも。
とはいえ、子供が出来た烏有が何を思うのか楽しみなので、次作を期待。
KeyWord:木更津悠也 京都の名探偵
「本当は国外に一歩出れば、
 至る所に緊張は存在するというのに視野が狭くそれに気づかないんだ」
KeyWord:白樫宗尚 アンドロギュヌス
「光と影の関係だな。光が生じた時点で同時に影も生じたんだ。
 ただそれをして、光がなければ影はないと、
 影を光の従属物のように扱う思想もあるが、それは間違いだ。
 たしかに影は光の前に立ちはだかることは出来ない。光があるから影も生じるのだろう。
 だが同時に、光も影を駆逐することは出来ないのだよ。
 光射すところ必ず影が生じる。この世界は無限の砂漠ではないからな」

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