#犀川創平&西之園萌絵・シリーズ02
『封印再度』 森博嗣 講談社 1997/4 ♪:☆☆☆★★
作品紹介 WHO INSIDE
旧家・香山家に伝わる家宝「無我の匣」と「天地の瓢(こひょう)」

無我の匣には鍵がかかっていて、天地の瓢には鍵が入っている。 ただし、瓢の入り口よりも鍵は大きく、取り出すことが出来ない.....。
50年前の香山家の当主は、鍵を瓢の中にいれて自殺したという。

この不思議なパズルに興味を引かれてやってきた西之園萌絵を、不思議な事件が待ちうけていた。
感想 封印か。
一瞬駄洒落か?と思ったこのタイトル。読み終えてみれば意味深いですね....。

まず推理ネタから。
事件の方、壷の謎、ともに変化球であるのは事実なのですが、ストライクゾーンを 大きく外れているとも思えません。
事件の方は仮説をたくさん用意すれば、推理可能だと思います。
壷は私的には苦しいかな、一種の科学の力という魔法ですから。 まあ科学の力使わないで壷から鍵を出せるはずも無いのですが。 .....私は壷に関しては出来る出来ないはともかく、 そういう不思議な言い伝えのあるものが自分の側にある。 時々この不思議な謎について考えると、なんというか、 こういう、矛盾とは違うのですが、不思議な.....。そんな禅問答みたいな感じです。
謎は、当然とくのが基本ですが、全ての謎がとかれるべきものではなく、たぶん 「とくべき謎」ってのは半分程度で、あとは別の意味をもっている....そんな感じを、 この壷に感じました。

ミステリというとどうしてもトリックとか論じる人が多いのでしょうが、 私はあまりトリックを重視しない、というか三の次です。
トリックという源泉から涌き出る水の量は、もの凄く少なく、かつては湖だった ものも池に、泉になっていると思うし。 あまり「ミステリ」の境界線自体が曖昧になっていますし、 私は物語とか人物重視派ですから。
・・・なので、このお話はどうかというと、物語としては弱いのかも知れませんが、 森博嗣さんの作品はある意味で旧式的なミステリー、謎や世界観に重点をおいていると思うので、 これは気になりません。
今回、今までのシリーズの中で進展?みたいなものも一瞬あるのですが、 これは本来ここでこのシリーズは完結する予定だったそうです。

犀川と萌絵も『すべてがF』から数年、なんだか少し変わってきました。 犀川先生にいわせれば、それは退化なのかもしれませんが。でも私は今のが好きですよ。
密かに私が犀川先生でも、萌絵とでも、浜中先輩とでもコンビを組んでみて欲しいと願っている (怖いものみたさ3・興味6・嫌がらせ1)国枝女史も少しづつ変わって......無いな、あまり(汗)
まあ、鵜飼刑事が、完全に萌絵のパシリになってるというのは確かでしょう。
本部長の姪で美人か・・・気持ちはわかるが、鵜飼さん、諦めた方がいいです。
もしくは犀川を殺害して、萌絵の前で事件をカッコよく解決(自分が犯人で誰かを犯人にしたて あげることを、解決というのかどうかは知らないが)したりすれば案外なびくかも知れませんね(謎)
KeyWord:『ごちそうさま』 そうだったのか・・・
「何のことかしら?ごちそうさまって....」
「貧弱ではないレベルの食物を摂取しました、という意味だ」
KeyWord:『模写』 そうなのか・・・
「あの.....、結局、模写の目的は何なんです?」

「何かを生み出したい。自分だけのものを創作したい。
  つまり、そんな意欲を、すべて滅するためだわ」
KeyWord:犀川創平 それはそうだ。
「呪われているのは物質ではない。人間の認識、歪められた認識です」



『幻惑の死と使途』 森博嗣 講談社 1997/10 ♪:☆☆☆★
作品紹介 ILLUSION ACTS LIKE MAGIC
「皆が私の名を呼ぶかぎり.....、私はどんな密室からも抜け出してみよう」
自信たっぷりに、そう言いきる、天才奇術師・有里匠幻。
衆人環視の中で行なわれた彼の大マジックの最中、彼は何者かによって殺害される。

そして消え去った遺体は、彼が最後にしかけた最大の奇跡なのか? その裏に隠された謎とは?
感想 誰も魔法が存在するなんて思ってない、らしい。
ん?奇数章しかないではないですか、・・・なるほど、気にしないことにしよう。

今回、推理的に面白いと思います。
言われてみれば「なーるほど」といった感じもするのですが、 これはたぶん、きちんと考えながら読んでる人ならば、 かなり早いうちから真相に自分で辿りつけるのではないでしょうか....?
私は....聞かないで下さい。

物語的にも萌絵の友人、杜萌との会話。 密かに気に入っているN大犀川研でもっともまともだと思われる好男子・浜中に彼女が出来たり、 国枝女史がなんだか意味深げな言葉をはっしたりと.....中々見所満載。
ある意味でもっとも重要なことは「TMコネクション」(西之園萌絵FAN倶楽部、らしい・・・、 会長は鵜飼刑事。....お前、出世しないよ....) が発足したことによって、警察の内部情報は民間人に筒抜けになっているという事実。

その他、マジックと科学の関係や、色々と他にも細かいながらも深いネタが あちこちにばらまかれているのは相変わらずです。
私はマジックはタネがわからないでイライラする口なんで、あまり見ませんが・・・
以前TVでみた、飛行機を消すマジックとか、どーやってるのだろう? 林檎をテーブルから消すのと大差ないとは思うのですが、飛行機だという認識が 強力に働くので駄目ですね....まあ、マジックを楽しむのなら騙されてなんぼ。 浜中先輩が犀川に劣っているわけではないでしょう、とも思いました。

あまり関係ないのですが、犀川が猫舌を気の毒だといっていますが、んなこたあない。
犀川風にいえば、熱くてふーふーしてまで無理に食うのは細胞に負担がかかる。
残ったすき焼きを冷蔵庫にいれて、翌朝、冷たいままのすき焼きの残りを、 あつあつのご飯にのせてたべると美味しいように、 温度による味覚の感じ方の違いはやっぱりある。
天ぷらのぬるいのを、天つゆで食べるのはたしかに勘弁願いたいですが、 冷めてしまった天ぷらには醤油が良く合うので猫舌でも挫けてはいけない。.....ホンとに関係ないな。
感想(ネタバレ) マイペース二人三脚
犀川先生が、最後に有里匠幻の名前を叫んだ時、なんとなく....感動しました。
犀川が冷血な男だとは全然思ってないのですが、やはりこの行為自体は 彼「らしくない」行為でしたから。 「らしくない」ってのもいいものです。

犀川や萌絵もホンとに少しづつ変わってきてますね、それは彼らも自覚してるようですが。
それを退化だと思ったりもしてるのですが、 三歩進んで二歩下がるの精神からいえば、必要なものではないでしょうか....? 字余り。
KeyWord:『幻惑』 犀川先生ではなく、萌絵。
「現代のマジックは自然現象ではない。それは、人類によって意図されたものだ。
  世界の各地で、今も続いている殺し合い。未だに救われない貧困、そして飢餓。
 繰り返されているのに「突然」と表現される自然災害。
 予期されてるにもかかわらず、「予想外」と表現される人災。
  それは皆、ゲームの世界と同じブラウン管の発光パターンでしかみることができない。
 テレビでは、深刻な人類の課題を取り上げるふりをして、
  つぎの瞬間には、意味のない馬鹿騒ぎを繰り返して見せる。
 すべては一瞬のドラマ、
 一瞬の幻惑にすぎないのだ、という危険な感覚を子供たちに植え付けるために。
 作りもののドラマ、作りものの台詞、作りものの表情。
それらがすべて、その中で育った子供たちには本物になる。
それが、バーチャルの本質」



『夏のレプリカ』 森博嗣 講談社 1998/1 ♪:☆☆☆
作品紹介 REPLACEABLE SUMMER
西之園萌絵の友人、蓑沢杜萌は那古野の実家に帰宅した時から、 一家誘拐事件に巻き込まれてしまう。 奇妙な結末を迎えたこの誘拐事件が終わった時、 血の繋がらない盲目の詩人・蓑沢素生が行方不明になっていた....。
感想 夏の陽射しってのは、ホンとに....
『幻惑と死の』と同じ時に起きた事件。こちらは偶数章ですが、 内容的にはまったく別物なので、そのあたりのことはあまり気にしなくても問題はない。
この二つの作品を、こうして奇数章・偶数章にわけて扱うことに対しての疑問も感じないでもないですが、 微妙な時系列の絡みなどもあるので、 楽しめることは楽しめます。マイナスにはなってないと思うので。
感想(ネタバレ) 熱さが人をね。
杜萌に注目して読むべき物語だと思います。
多くの矛盾・・・悪くいえば嘘、とでもいうのでしょうが、 悪くいえばいくらでも悪くいうとこなんて出来ますから..... 犀川は冷静を気取っているで自己中だ、とか、萌絵は恥という単語を覚えてない、 行動力と羞恥心を勘違いしている、とか、浜中先輩は単純で、国枝女史は 無愛想だ。....すべて事実だとも思いますが、それが全てではないのも、 この物語を読んできて思うことです。説明不足を感じますが、説明しないことが説明なのだとも。

細かい部分に謎を残して終わってしまっていると思うのですが、 これは説明不足とか、そういうものではなく、 「萌絵の友人としての杜萌」で描かれた物語なので、 一読者たる私も、萌絵の友人として、杜萌を見送るしかない......と、 たまには感傷的にもなったり...。
同時に「鑑賞」でしょうが。どうでもいいことなのですよ、たぶんこんなこと。
KeyWord:蓑沢杜萌 『夏のレプリカ』って題名が深いかも・・・
「たとえば、「子供に夢を与える」といいながら、
 本当に夢をみる者を徹底的に排除しようとする社会。
  集団はいったい何にを恐れているのだろう。
 多くの大人たちは怯えてなにも出来ない。ただ作業をするだけ、子供を育てるだけ。
  新しい目的に挑戦しようとするものは少数である。
 それなのに、子供には挑戦させようとする。
  自分たちにはとうてい消化できないものを子供に与えている。
  こんな動物が他にいるだろうか?」
KeyWord:萌絵&杜萌 萌絵が杜萌に言ったのですが、逆にとると悲しいかも....
「あのね、これは理屈ではないの」
「そんな台詞、絶対言わなかったものね」
「例外なのよ。例外を見つけたんだわ、私」

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