#犀川創平&西之園萌絵・シリーズ03
『今はもうない』 森博嗣 講談社 1998/4 ♪:☆☆☆
作品紹介 SWITCH BACK
嵐によって、外界と隔絶された山荘で起きた密室殺人事件。
隣合わせた部屋、それぞれ密室で息絶えていた姉妹の死にはどんな真相があるのか?

偶然山荘に居合わせた西之園が迫る事件の核心。
感想 廃線、かつて線路があった道
事件とは別に、この物語には謎....というか隠された背景があります。
そんな大袈裟なものでもないのですが。
勘のいい人ならば、序盤でいきなり気がつくのかもしれませんが、 私は中盤あたりに気がつきました。
漠然と感じていた違和感のようなものが、 瞬時に氷解する気分は中々味わい深いものがあります。 トリックなんかは、この際おまけ的なものだと思って読みました。

館の外は嵐が吹き荒れているので合わない表現なのですが、作品の雰囲気からは 懐かしの「サマーリゾート・バケーション」(なんだそりゃ、とも思うけど)のような感じを受けました。
感想(ネタバレ) PPとNM
ミステリとして読むと、このトリックなんかは多少抵抗があります。
展開も多少....次々と仮説がたって、それが否定されていくのはともかくとしても、 色々と納得のいかない部分も細かい部分で感じます。
この展開では、読んでいて受動的になりすぎる感じがしてしまって.....。

とはいえ、変化球的な意味で、この作品は好きですね。
事件そのものよりも、そちらの意味でこの作品は手放したくない1冊です。
KeyWord:犀川創平 つーか支配とか云々を思ってるのは人間だけ
「自然と名づけられた存在に囲まれている。人間が世界を支配している?
 誰がそんなことをいったのだろう?もちろん、人間以外に言わない。
  どこを見ても、この惑星は植物ばかりではないか。
 それに無数の昆虫が、人類の何十倍もの面積を占有しているのだ」



『数奇にして模型』 森博嗣 講談社 1998/7 ♪:☆☆☆★
作品紹介 NUMERICAL MOELS
那古野市内、M大学で殺されていた女性と、模型交換会で 発見された首無し死体。
首無し死体の側で昏倒状態で発見された人物は、この二つの事件に共通した容疑者となり、 その容疑は益々疑いのないものになっていく。

無実を訴える彼.....萌絵が再び密室の謎に挑む!
感想 狂気
狂気を森博嗣さんのタッチで切った作品です。冷たい狂気ともいうのでしょうか。
あまり言いたくはないですが、この手の気持ちってのは誰にでもある.... と言いたいのですが、周囲の方々に聞くと無いそうです。
私にはあると自認してるのですが、それはそれこれはこれで、心に棚を作れ!(謎)
棚の底が抜けてしまった人のお話.....。ではないので読んでみてください(汗)

今回、犀川先生がおとなしいような・・・いえ、いつもおとなしいというか、 何時もの調子ではあるのでしょうが、印象的にそう感じました。
変わりに、国枝女史や金子が目立ちます。多少、印象としてですが。

次で恐らくこの一連のシリーズは完結だと思うのですが、 ある意味でこのシリーズ最大の謎(笑)国枝桃子の旦那さん....。 はどうやら明かされないままに終わるようです。 まあある意味で知りたくないことでもあるのですが、少しきになりました。
感想(かなりネタバレ) ふと
う〜ん.....犯人の動機や、展開についてはかなり好みな部類に入ります。
でも、最初に「・・・が逃れるまでの...」 って書いてあるのに、この展開はちょっとズルイのでは。

途中感じた違和感も、この文章を信じたが為に、別な推理を誘導してしまいました。
事実を書くことが全てではないのですが、 序盤のこの部分は、どの人物にも偏っていない、いわゆる「神の視点」 といわれる文節だと思うので、ちょっと気になりました。

PS:ラストのあれは、おそらく紀世都がしたのですよね?たぶん...... 紀世都が知っていて行動を起さなかったのは、 何かしら彼に共感する部分、そういうものがあったのだと思っています。
KeyWord:金子勇二 いるよなぁ...PC語喋る人(笑)気持ちはわかるけど
「西之園は、オンになりっぱなしになってる。
 そんなふうだから、つまらねえ馬鹿馬鹿しいことばかりに、首をつっこむんだぜ。
  いい加減に気がつけよ。
 それがデフォルトだってことは、わかるけど、
  この歳になったら、オプションつけるなり、エイリアスかぶせるなり、あんだろ。
 少しは本体隠すことを覚えたほうがいいぜ」
KeyWord:『八分目』 八分目でやめとく、この作品的に深いですね
「彼女には、その嘘をつきとおして」
「それ以上に説得力のある動機はないからな。まあ何事もね....」
「愛がすべて」
「そう.....。以前はね」
「でも、最近、僕、考え、改めたんだ。今は違うやつ」
「え、どう変わったの」

「何事も、愛、八分目」



『有限と微小のパン』 森博嗣 講談社 1998/10 ♪:☆☆☆★★★
作品紹介 THE PERFECT OUTSIDER
日本最大のソフトメーカー・ナノクラフトの経営するテーマパークを 訪れる為、長崎におりたった西之園萌絵と友人たちは、幾つもの奇妙な出来事に遭遇し、事件に巻きこまれる。

そして犀川は、たまたま交わした妹との会話の中で、ナノクラフト製のゲーム「クライテリオン」に 秘められたメッセージに気づき、長崎に向う。

『すべてがFになる』....あの天才、真賀田四季が再び彼らの前に姿を顕す!
感想 7の孤独
ネタばれにすらならないので書きますが『すべてがFになる』の真賀田四季博士 が再登場。
天王寺博士の時といい、この手の天才キャラが出てくるお話は好みですよ。 ミステリと天才って切っても切れない関係だとも思うし。

トリックなどはさておき、のっけからいきなり真賀田博士の挑戦的な態度。
演出された舞台に乗り込む萌絵、合流する犀川と、犀川研のメンバー。 萌絵や犀川、論理キャラばかりだと多少物語が硬化して感じるのですが、 牧野洋子や反町愛なんかがクッションとなって、 重厚感のある物語が読みやすくなっていると思います。

今作もやはり見所は事件やトリックなどではなく、 それ以外の部分にあると思います、私は。

各章の始めにある短文も、今までのシリーズの中で語られてきたメッセージです。
トリックがどうだ、とか、物語のこの部分がああだ、とかではなく、 シリーズ全体の決算として相応しい物語だと思います。
・・・続きが見たいけどね(何時もこういうことをいう)

「汝、選ばれし者、ここに跪きて、我らの父より、一片のパンを受けよ」
やっぱり選ばれし者に与えられるのも、一片のパンか......(^^;
『有限と微小のパン』か・・・。
感想(犀川&萌絵シリーズ全体について) 私の夢を見るのは、私。
トリックが明かされた時は、一瞬・・・なのですが、 私的にはこの展開も納得してます。
「バーチャル」という概念をそのまま実生活を舞台に置き換えた、ってことで、 読み終えてみればまったく違和感なく消化できました。 まったくというのは言いすぎかな?あまり違和感なく、って訂正。

ひとまず、この『微小のパン』で犀川&萌絵シリーズは完結してるようなのですが、 シリーズ全体としての感想をちろっと。
トリックもこっていて、読み応えバッチリなのですが、 それ以外の部分.....犀川や真賀田博士、天王寺博士などが残した言葉や、 彼らの物事に対する考え方。 彼らのみる、感じる世界観。そういう部分がこのシリーズの肝、魅力だと思います。

そして人物の魅力、特に犀川と萌絵の変化。二人の関係はあまり変化してない? ようにも感じますが、これは萌絵のいう「ゆーーっくりと変わってきている」ということなのでしょう。
それでも犀川も萌絵も、『すべてがF』に比べると大分印象が変わっています。 私が今の方が好きですね、なんとなく......。
『THE PERFECT INSIDER』ではじまり『THE PERFECT OUTSIDER』で一先ず結ぶ。
中と外、定義と不定、幻想と現実、自分と他人......一連の作品から感じるこれらの ことは、ミステリ作品としてみれば、エッセンスでスパイスだとしても、 なくてはならない。この作品の魅力を構成するメインでもあると感じました。
あ〜ぶっとおしで読んだから目ーいたー。ラブちゃんモードで酒でも飲んで 意識を飛ばそう。
KeyWord:塙理生哉 定義してくれるのですね
「・・・人格が混ざっていない。
 人格だけじゃない、すべての概念、価値観が混じっていないのです。
  善と悪、正と偽、明と暗。
 人は普通、これらの両極の概念の狭間にあって、自分の位地を捜そうとします。
  自分の居場所は一つだと信じ、中庸を求め、妥協する。
 けれど、彼ら天才はそれをしない。両極に同時に存在することが可能だからです」
KeyWord:『よくわかりません』 神様、もうねむたいです
「その言葉こそ、人類の墓標に刻まれるべき一言です。
 神様、よくわかりませんでした。....ってね」

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