小川勝巳さん
『葬列』 小川勝巳 角川書店 2000/5 ♪:☆☆☆★★
作品紹介 DEAR LOSER
マルチ商法にはまった末、夫に障害を持たせるに至ってしまった、三宮明日美。
責任転化になるのかもしれないが、そのきっかけをつくったともいえる葉山しのぶ。
「一緒に現金輸送車でも襲わへん?」
・・・アホらしい。素人の中年二人で何ができるというのか。
だが、明日美の勤務するラブホテルにおしぼりを卸ている、冴えないヤクザ木下史朗。
そして、死んだ魚の目をした少女、藤並渚と運命が交錯した時に、明日美の選んだ言葉は「乗るわ」だった。
感想
面白さは文句ないときいていても、桐野夏生の『OUT』に似ているとのことで、敬遠してました。
『OUT』も面白さというか引きこまれる力や、読ませるという意味では凄いパワーを感じたのですが、 読後に気持ち悪くなった・・・。あんなこと、実際ありえないと理解はして、物語だというのも判るのですが、 精神は確実にダウンしました。

でも何気に読んでみました。特に理由はありません。まず、ミステリではないですね。そもそも何故に横溝正史賞なのか、 とはやはり思うのですが、読ませる力とか面白いからいーんじゃん的な理屈で、その辺りは障害にはなりませんでした。

ご都合的な部分とか「それは無理だ」とか「こんな奴いねえ」とかで、「現実感にかける部分があり・・・」とかの、 そういう事は抜きにして(そもそも物語の評価に、現実感を絡めるのはともかく、主体にするのはどうか)面白いです。 『OUT』に似てるのは部分ありますが、仮に意識したとしても骨組であって別物。 少なくとも読中・読後に抱く想いは別のもの。

物語の主人公は渚だと想うのですが、他の人物の気持ちはなんとなく掴める中で、渚の気持ちだけは 最後まで捉えきれない。明日美は渚のいっていることがよく判らないようなことを言っていますが、 読者にはなんとなく伝わってくる。理解はできないですし、そもそも理解って何?などとも想いますが。
ありがちな言い方をすれば、渚の心は壊れているとも言えるのでしょうが、渚自身がそういったことではない、といったような ことを述べている。
現金輸送車を襲おうとした、しのぶ。突き放した夫に、今は依存している明日美。 判っていながらも、ヤクザを続けていた史朗。・・・心が壊れているってのは、どういうことなのか?とか。
明日が美しいと書いて、明日美。忍ばない、しのぶ。なんだか、皮肉めいているような。

・・・物語に直接は絡まない、渚の元クラスメイト(友人ではない。ギリギリ知人)佐和子。 彼女と、渚との会話とはいえないような短いやりとりが、この物語に芯を与えると同時に、救いにもやるせなさにもなっていると想う。
もし、あれがなかったらば、どうなっていたのだろうか・・・と。でも、あとからだと、なんとでもいえるよね・・・
KeyWord:三宮明日美 影の主役。主役だけど。
「できれば子供もほしかったけど、それは無理みたいです。多くは望みません。
 ただふたりで、ずっとこのまま、ひっそりと暮らしていたいだけです」 ・・・これがあたしの本心だ、これがあたしの本心だ、これがあたしの本心これがあたしの本心これがあたしの本心・・・
KeyWord:葉山しのぶ 明日美を止めた場面が印象的だったのに
「あら、そうですかあ」 ・・・よっぽど寂しかったらしい。どう見てもこの女がヤクザを何十人も殺した四人組の一人だとは・・・
KeyWord:木下史朗 馬面。覚えてくれれば何でもいいよね
「そのつもりだったから・・・」 「戦争にいくみたいだね」
KeyWord:藤波渚 凄惨な過去を持つ女性。死んだ友達を・・・。
「・・・だから、惹かれる」

「ひさしぶりねえ、元気だった?」 「元気だったよ」    「いやー寒いねー、外は」 「冬だからね」
「ひとり?」 「いつもひとりだよ」   「そう。大変だねえ」 「そうでもないよ」
.....取りつく島もない。
「ねえ、平賀さん。平凡に生きるって、どうすればいいの? どういうふうに生きていったらいいのか、わからないんだよ・・・」
KeyWord:平賀佐和子 渚に声をかけたクラスメイト。物語中で使用できない鍵。
「この人がこんなに喋るところをはじめて見た。ただ、彼女が言っていることは、さっぱり理解できなかった」



『』 小川勝巳 / ♪:
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