恩田陸さん
『六番目の小夜子』 恩田陸 新潮社 1992/4 ♪:☆☆☆★★
作品紹介 花瓶と薔薇
・・・トランプを配る。ジョーカーを持つものが犯人で、スペードのエースを持てば探偵。 探偵は誰が犯人か知らない、勿論、犯人も探偵を知らない。どちらにもならなかった他の参加者も、 誰が犯人なのか探偵だか知らないけども・・・。

我が校に伝わる不思議な行事は、例えればそんなゲームのようなものなのかもしれない。
三年に一度、サヨコが卒業していく時に、次のサヨコを指名していく。
サヨコが何なのか何をするのかを具体的に知らなくても、それは半ば伝説、逸話のように 生徒達の多くが知っている。そんなことが何年も続いてきたのだから。そして今年は、六番目の小夜子の年。
感想 割れた花瓶
ミステリ・・・ではないと思う。
謎は多く、それなりに答えのようなものがたくさん提出(学校風)されるけど、どれも形として明確な答えになっているものは無いとさえ思う。 とはいえ、曖昧とか濁しているのだとか、説明が足りないだとかそういう意味ではなくって。
上手く説明できない部分や、不可思議な現象あって、読んでいて首を捻ったり「あれは何?」と思うような部分はあります。
でもこれは、ミステリとかどーこーではなくって、つまり青春ノベルなんだろう。そう考えるとしっくり。
不思議な少女、理解しずらい人々、小さな冒険、誰かといた日常。不思議や憧憬に感じたものが、 何時からかさめていくような、一種恍惚を感じるような落胆にも似た感覚。
・・・感じている時は「まあ」で、あとから思い出すと毎回違うことを思うような記憶の支配する時間。

お客さん。悪い意味を含めずにいえば、お客を集めているには違いないし。

最後の、卒業式あたりになると、疑問を多く持ちながらも一体何が自分を惹き付けていたのか・・・ そんな妙な感じさえ受けます。
それでもよくいわれる「あの頃に戻りたい」とは、正直あまり思わないですけど。 今の自分が、あの頃に戻っても何をしていいか判らないとか、逆に流れに逆らってまで生きるのはツラそうだとか、 そんなことを実直に考えてしまいます。

サヨコのゲームは、物語の中の設定でしょうが、なんとなく、こういうのってわからいでもない。ある、あったのではないのでしょうか。 今はどんなものだったかは記憶でしか残っていない、学校という不思議な空間の中には。
感想(ねむい) 新しく用意された花瓶
「説明のつかない部分を述べよ」というと多々あるのですが、 「じゃあ説明つかなくていいけど、好きか嫌いか」といわれると、圧倒的に好きです。
雅子と由起夫が、物語的にいって出来過ぎているというようにも思うのですが、 秋と沙代子とマッチして、不思議な時間を提供してくれる物語。

読み始めの頃は「サヨコって何?」と思い、それを主題として捉えているのですが、 中盤くらいから「サヨコってゲーム?行事はもしかして・・・」と説明しずらいような結論を予感させる。
そして、この辺りから感じる、沙代子の変貌。お客さんであった少女が、 何時からか其処に馴染んでしまったような一種の寂しさ。卒業式で始めて沙代子が意識した感覚、 恐らくは多くの読者はもう少し前にそれを捉えていたようにも感じて、 物語の中で感じた憧憬が、いっしゅ錆びれたような、微妙な・・・も感じます。

「あたしだって、・・・あたしだって、いつもみんなと同じところにいたかった。 近所の子と・・・幼馴染みの子と・・・同じ場所で、同じ時間をすごしていきたかった。 でも、いかなきゃならなかったのよ!いつも新しいところへ行かなければならなかった」
心の一部を解き放った言葉にさえも、何処か信られないような部分を残し、 はたしてこれが本当に嘘偽りのない、本当の感情なのだろうか・・・。 否、本当の何某と考えること自体、ここには隠された別の何かがある。 そういう想いこそが、このサヨコというゲームを存続させてきて、サヨコを卒業していくものは何かを感じ、 卒業していくものを見送っていくものは、自分を通り過ぎていく人の多さに耐えられずに、 寂しさからサヨコをつくって、それが故に過去に縛られて取り残されていって・・・これに似たようなことは、 もっとたくさん、影にあるのではないでしょうか。とか想った。たくさんのサヨコ。
KeyWord:津村沙代子 人を引き出しても、殆ど何も見せていない・・・のが萌(略)
「大丈夫です、あたし"ハーメルンの笛吹き"ですから。
 もしあたしがあの子たちと一緒だったとしても、あたしだけは噛まれなかったと思うわ」

「あたしが、雅子のことをどんなに羨ましく思ってるか、雅子にはわからないでしょうね。
 雅子には絶対分からないところが、あたしの一生雅子にかなわないところだわ」
KeyWord:関根秋 人を傷つけたのに傷ついてやつあたり
「時々、このまま永遠に自分の中に焼きついてしまうのではないかと思う瞬間がある。
  今がそうだ。
 いつかきっと、こんな時間を、こうして隣でだらしなく学生服を着て無防備な顔で話しかけてくる由紀夫の声を、 懐かしく思う時が来るに違いない」
KeyWord:『二人は覗きや』 何処かできいたな、どれもちょっとずつまで
「一人一人を正面から見たポートレートじゃなくて、人が無心で何かやってて、 それを俺が見てるってことを相手が知らない状態が一番安心できる。 広い世界があって、俺はその世界のファインダーのこっち側にいるって状態」

「へーえ。要するに、いつも第三者でいたいのね。他人が怖いの?他人が自分の中に踏みこんでくるのがイヤなの?
 それとも自分がその他大勢になるのが嫌なのかしら?関根秋のプライド?」



『』 恩田陸 / ♪:☆☆☆★
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感想
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