御手洗潔の事件簿 #01


『異邦の騎士』 島田荘司 講談社 1988/4 ♪:☆☆☆★★
作品紹介 浪漫の騎士
目覚めた男は、記憶を失っていた。
自分という人間が思い出せなかった。

・・・そんな彼の前に現れた一人の女性。
惹かれ合うように二人は供に暮らしはじめ、穏やかだが満たされた時間が流れていく....。

ふと脳裏をかすめる、失った記憶の断片。
「俺は、愛する妻と子供を殺したのかもしれない」
感想その@ 『異邦の騎士』感想以前
この感想は後に加筆出版された、
『異邦の騎士 - 改訂愛蔵版』(1997/10 原書房)のものです。
この感想を書くにあたって、本の再読は行っていません。
いや、メンドクサイつーか、なんとなくですよ。 いわゆる妖精の作業ってやつです。
昔読んだ本も、なるたけ感想あげたいなーとか、思っても実際中々・・・・

島田荘司さんの『御手洗潔シリーズ』は大好きなんで、勢いであげてみました。なんとなく。
何年か前にあげた、他の御手洗シリーズの感想も、ちゃんと再読してきちんとした形にしたいものです....。 今読んだら何が書いてあるのかわけわからない(笑)まあ、安直な感想でもいいとは思うのですが。

正直な話、私が初めて『異邦の騎士』を読んだ時には、それほど感銘を受けませんでした。
当時『アトポス』を読んで御手洗潔の推理と壮大な物語を知った私が、 御手洗と石岡の出会いが描かれ島田作品の中でも評価の高い『異邦の騎士』を手にとったのは 当然だと思います。

ですがあの頃の自分には、御手洗潔シリーズの肝や核になる部分を持ちながらも、少し毛色が違うこの作品を上手く消化できなかったの だと思います。
石岡和己という人間に対する理解不足のためだったと思います。
率直にいえば、素朴というか、純粋というか・・・「バカかこいつは」とさえ思っていました。
何故、御手洗が石岡に心をくだくのかを、うまく理解できなかったのです。
今は少しわかるようになった....かな?

御手洗は遠すぎるので(と感じる)、そのまま自然に受けとめられても、 石岡さんに感じる「近い」微妙な感覚を、上手く処理できなかったのでしょう。
シリーズを読むうちに、それは一つの形になって、私にもなんとなくわかるようになりました。

それをもっとも感じたのは『御手洗潔のメロディ』の 『さらば遠い輝き』を読んだ時だったかもしれません。
感想そのA 出会いと別れ、見逃し続ける日々の多くの価値ある真実
島田荘司さんの作品には、青い部分があると思います。
勿論この本にもあります。
それでも、その青い部分がゆっくりと時間をかけて胸に染みてくる...そう感じました。

「異性に対する強い愛情は、悲しみと相性が良い」
まったくその通りでしょう(苦笑)喜びよりも、悲しみで誰かを抱きしめたい っていう思いのが強いと思いますから。
石岡のように優しい人ならば、それは尚更かも.....里美も何か悲しいことがあればねぇ。
ハタからみるとノー天気にみえますから(^^;

御手洗がバイクに乗ってかけつける場面はまさに浪漫の騎士。
『アトポス』で馬にのってレオナの前に現れた、少しキザな場面を思いうかべました。 こういうのをさらっとこなす男なんですよね、御手洗って。

蛇足ですが、↓にある石岡のキツ〜イお言葉。
この時点では御手洗の女嫌いを石岡は知らない筈では?
良子との会話もそれなりに弾んでいたようですし、あそこまで徹底的に言われてしまう程 女嫌いを顕著に意識させるような場面もなかったような。
それにしても、この頃の石岡は熱いなぁ....御手洗に本気で怒鳴る石岡なんて、 今では想像するのも難しい(^^;

御手洗がやがて人の心・脳の研究のために日本を去るのも、 案外こういったことが原因なのかなぁ.....と、ノルウェーにいる御手洗を思って妄想する(笑)
感想そのB(ネタバレ) 石岡さんについて
御手洗シリーズはもちろん、石岡和己を語る上で、これを読まずに語れないという一冊。

良子と出会い、御手洗と出会い、そして別れ。
この短い時間が、石岡さんの運命・・・そんな大袈裟なものではなくても、 人生の大きな何か。
異邦の騎士とは、御手洗のことなのでしょうが。 同時に石岡こそ異邦の騎士だったのではないか、と思います。

理屈無しで信じたものが、ただの幻ですらなく、完全な虚構。
虚構だった時に、それでも彼女が最後に言った言葉を信じることができるかどうか。
石岡は信じたのでしょう、理屈抜きで....。
そう考えないと、納得がいきません。結果として彼は最愛の女性を殺して、 しかも直接手にかけてしまっているのですから。

あの時の御手洗の優しさと冷たさが印象に残っています。優しいだけの人間には出来ないことを、 御手洗は行って、それが時に冷たいといわれるのでしょう。

光り輝いていた筈のお城を「それはガラスのカケラでつくったお城だよ」 と御手洗が指摘した時に、崩れた虚構と、取り戻した自分。
それでも石岡はガラスの城の美しさを忘れない、それは石岡という シリーズの後半では情けない印象さえ感じる(苦笑) 人間が持つ心の強さなのでしょう。
『異邦の騎士』を読んでから数年、やっとわかったような気がします。
きっと気がしてるだけでわかってないのかもしれませんが、 それでも、今は。

なんだか青くさいことを書きましたが、その香りを嫌いだという気には到底なれません、まだ。
KeyWord:御手洗潔 若き日の御手洗
「いずれにしてももし時間がよろしかったら、少し雑談をしませんか。
 まさかお金を払おうなんて思ってるんじゃないでしょうね?
  そんなことよりわれわれは友人になりませんか」
KeyWord:石岡和己 熱い、信じられない程に(^^;
「俺は感じたぞ。この感じは、君などには解るまい。
 あいつは俺にとって命だったし、あいつだって俺に命をかけたはずだ。
  君なんかドライアイスだ!
 女とみれば馬鹿にして、からかうことしか考えない。徹底して冷たいんだ。
  だから君には、人の心とか愛情なんて、永久にわかりはしない!」
KeyWord:益子秀司 ・・・
「いってみれば、ノミに体中たかられた犬みたいなもんだ。
 いつでも後足で体を掻いてなきゃならない。
  だけどな、ノミが一匹もいなくなったら、俺は犬だってことを忘れるだろうよ」



『切り裂きジャック・百年の孤独』 島田荘司 集英社 1988/8 ♪:☆☆☆★
作品紹介 霧多き都で
1888年、当時世界の中心だったロンドンを震撼させた 「切り裂きジャック」
1988年、それに類似した事件が再び起こる。 警官の包囲網を破って続く犯行、戸惑う捜査陣の前にクリーン・ミステルリーを名乗る男が現れる。
感想 甦る殺人鬼?
現代に甦った?切り裂きジャック事件を解決しつつ、 1888年の切り裂きジャック事件も独自な手法で説明されます。 勿論、あくまでも推測ですし、特別唸るような解釈では無いですが、読み応はあります。
ちなみに、どこかの書評で 「島田荘司ってタイトルつけるのあまり上手くないと思いませんか? でもこの題名は綺麗ですよね〜」 ってあったのですが、同感です。 「涙流れるままに」「異邦の騎士」なんかも綺麗だけど。

なんといっても最後の散文詩が好きですね.....。
感想(ネタバレ) この百年の孤独の果てに。
物語自体は読みやすいし、量も適当でサックリ読めるし......というか私はこの最後の詩で逝った。
当然、知らなかったので調べました。 『御手洗潔のメロディ』にも出てきた、 マイルス・デイビス『ユアアンダーアレスト』というCDの。 CODE M.D、あるいはジャンピエール。この、百年の孤独の果てに。 とかいうらしい.....後で借りてきて聞いてみよっと。 ちなみに詩は暗記だ、暗記しよう、すごーーーーーく気にいりました。
KeyWord:レオナルド・ビンター 捜査主任
「どこの国の捜査主任でも、会う早々、
 一緒にクロゼットの中に一晩中入ろうといわれれば、愛想も悪くなるでしょう」
KeyWord:クリーン・ミステリー 謎の男(笑)
「いやあなたはなかなかの詩人だ。
 さよう、あなたが今はからずとも言われた通り、私はまさに百年もこの時を待っていたのです。
 時の宇宙の中で膝を抱えてうずくまり、十九世紀末のロンドンを怯えさせた
 あの未曾有の大事件の真相が、白日のもとに解き明かされるのを待っていたのです。
 いわば私のこの忍耐は、あの南米の作家が口にし言葉、
 そう『百年の孤独』この文字づらこそがふさわしい」

「証明はできません」
KeyWord:------ 百年の孤独
「ほら見上げてごらん、星明りを」
「なんてかすかなんだ。
 これじゃ読書はおろか、肉屋の店先のバラ肉の値段表だって読めやしない」
「そうよ。だってあれは星なんかじゃない、黒い天井にあいたただの虫食いよ」
備考 切り裂きジャック
1888年のロンドン、交通網や科学の進歩により、 今で言う「マスメディア」が成立しつつあった時期に、 ロンドン市民を驚愕させた「シリアル・キラー」。
4月から11月の半年間に七人の娼婦を殺害。その遺体は性的な暴行の兆候は無いながらも、 無残にも切り刻まれ、腹を裂き子宮を取り出すといった惨たらしい有様だった。

事件初期の頃は、現場に残した革製のエプロンから「レザーエプロン」などといわれていたが、 捜査陣も悪戯だと思っていた犯行声明らしき文に、日本語にしても語呂がいいが、英語だと益々語呂がいい 「切り裂きジャック(ジャック・ザ・リパー)」との署名がある。
この名称は、行き詰まった捜査の為か後に発表され、益々世間の関心を高める結果となり、 当然ながら便乗犯の愉快的な悪戯に捜査陣は困惑される事にもなる。
ただ、この文書が犯人の手によるモノか、偶然の悪戯かは永遠に謎のまま......

その手馴れた感じすら受けたという、死体の切り刻みから、 ある程度の医額知識がある者の犯罪とも言われるが、事実は不明。

私は、マスメディアが事態を更に混乱させてしまった最初の有名事件だと思います。
実行しないまでも、悪戯の投書や、偽の犯行声明など、 多くの便乗した愉快犯をうみ、 捜査陣を混乱させた事は間違いない事実です。
当時の科学捜査には、現在子供でも知ってるようなルミノール反応も、 指紋法は.....あったかな?たぶんあとちょっと先だと思います。
そんな感じなんで、捜査は科学的なものではありません。 現行犯逮捕が理想ですが、目撃証言や動機から捜査せざるをえない 状態でした。 当時、自白を強要させるような拷問に匹敵する尋問は各国で行われていましたが、 こういった事情も確かにあったのでしょう..... 何人の潔白な人間を死刑台と刑務所に送ったのかは、魔女裁判を遥かに上回るでしょうが。

今でもそうでしょうが、一般的には「動機」といわれるものが読めない場合の 異常犯罪.....島田さんも、確かこんな事を言ってました。 「今から私が見知らぬ土地に行き、偶然条件が揃ったので、 他人を理由も無く殺害する。これこそが恐るべき犯罪なんだ」 とか......当然条件は伏せます。
こういった犯罪が実際に無いという程、私はお人よしではありません。 そして、こういった犯罪の検挙の難しさ....。
更に、それに伴って面白オカシク便乗する愉快犯達の情報が 捜査の歯車を狂わして、 何人の人間が笑って、忘れて、あるいは怯えたふりをして暮らしているのかでしょうか。

結局1888年の「切り裂きジャック」はそのまま、11月9を最後に、その足取りはぷつりと切れてしまって います。 耐えきれず自殺したとも、危険を感じ海外に移住したとも、 狂気が自然治癒したとも言われています。
あくまでも私的な解釈ですが.........飽きたのでしょう。 何かにハマル時があって、それに飽きてしまった....唯それだけ。 若しくは冷静になってリスクを考えた場合の思考が復活したのでしょう。 自分のした事が、満足若しくは、仮満足のボーダーラインにのったのかも知れません。

私にとっては「切り裂きジャク」とは架空のシリアルキラーのようにさえ感じます。 勿論そんな筈はありません、実在したのでしょう。単独犯かどうかといえば判りません。 .....本編の解釈とずれる部分もありますが、あくまでも私的には。



『』 島田荘司 / ♪:
作品紹介
感想
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