#棺シリーズ


『竜の棺』 高橋克彦 祥伝社 1989/4 ♪:☆☆☆★★
作品紹介 竜とは何なのか?
「義経北行伝説」の取材を隠れ蓑に、土地買収工作の調査をしていた 九鬼虹人は「竜」に因んだ土地や伝承、神話に隠された謎に気づく。

「......いったい竜とは何か?
 想像上の竜が世界各地に伝説として残り、
 西洋では悪魔、東洋では聖なる存在なのはなぜか?」


日本神話や様々な民間伝承・東北中央説・戸来村キリスト来訪説・竹内文書・東日流外三郡誌..... 古代史の盲点と矛盾から「竜」を追う彼らの元に大きな組織の力がかかる......

そして、舞台は世界へ。
世界三大宗教成立前、紀元前の・シュメール・カッパドキア・アララト......
様々な歴史の伝承を紐解き「竜」の謎に迫る虹人達。
多くの犠牲と代償を払いながら、辿りついた先にあった「竜」は......。

古代史の謎を様々な文献を元に、独自の解釈で紐解くミステリーロマン。
感想 外来説
いわゆる神話を独自解釈して(こういう言い方は好きじゃないけど)翼を持たせた本なんですが........ オカルティックな本.....で済まされない内容だと思います、好きだし。
凄い説得力あります、しかも理解しやすい、説明も丁寧かつ回りくどくない。 物語自体も面白く、ずんずん読める。

物語中での九鬼虹人の結論は、一つの正解だと今でも思っています。
「証拠がないなら、これだって否定する証拠はない.......」
「棺」シリーズの中でも、この作品の位置づけは特別だと思ってます。物語的な要素は低い(くもない) のかもしれませんが、やはり初めて読んだ時の感慨を忘れられません。
何か漠然とあった骨組みに、肉をつけてくれた...ような。

後の『霊〜たま〜の棺』に記述があるのですが、 『竜の棺』『新・竜の棺』の発行に関して、 キリスト教カトリック系からの圧力も事実あったそうです。 聖書を連想させるような宗教的な装丁のせいか、内容の問題なのか、 そもそもキリスト教会がいちゃもんを言うのが好きなのかは知りませんが......

「新」「霊」を越えて、九鬼虹人にまた、会いたい。
.....エッセイで 高橋克彦さんが「棺は三部作」といっていたけど、マジで続きが見たい.... この一連のシリーズの人物たち、すっごく好きです。
感想(ネタバレ) 知的上位高等生物説
神=宇宙人説なんですが、その時点で笑うのもどうかと。 .....思います、この本を読めば。
次巻『新・竜の棺』で語られてることなんですが、 天動説と地動説を比較にして、 太陽の恵みがあってこそ地球に生命がある。だからこそ太陽には感謝しても当然だけど、 地動説ってのは太陽を中心にして地球が回っているということではなく、 太陽も地球も、もっと小さな星も大きな星も、みな同じもの...... ここでいう神とはそういうものです。
神話や聖書なんかで記された神の概念を否定してるわけではなく、特別なものではない、ってことで。

論理(仮説)が合う=仮説だから(こじつけ)で、勿論証拠はありません。 オーパーツというものは証拠には本来ならないでしょうし。

でも、歴史・宗教・オカルトを統合していい本です......夢があるし....
「神=宇宙人、それに夢があるのか?」と言われればそれまでですが.....
何もかも頭から否定するもんじゃない、ソウ思う本。

余談ですが、私はUFOも神さまも幽霊もひっくるめて、みんな信じています。 UFOは実際いないと否定する方がどうかと思うし、 神さまってのは宗教とかにある人格神的な神とか、ただ凄い力を持ってるから神、 などではなく、なんとなく漠然に.....。 幽霊は死んで終りってのもツマランからあった方がいいな、と思ってるので(笑)
KeyWord:緒方連一郎 脇役(笑)
「第一、三十を越えればいろんなことがどうでもよくなる。太宰の感傷につき合ってるヒマはない」
KeyWord:鹿角典征 ヴァチカン市国枢機卿
「どちらの神だ?」
KeyWord:九鬼虹人 『流れ星』
「子供の頃には願いごとをしたもんだけど..........。
 今は、多すぎて唱えきれなかった」



『新・竜の棺』 高橋克彦 祥伝社 1992/6 ♪:☆☆☆★★★
作品紹介 神話の世界
「竜」に乗りこんだ虹人らは、見知らぬ土地へ降り立つ。
その世界は、神という上位存在が確固として存在するが、争いの最中にある世界だった。

言葉すら満足に通じない世界で、虹人らは何故ここに自分達が招かれたのかを手探りで探りながら、 自分のいた世界に戻る術を求める......。
感想 神が人の上にたつ世界
色々と無理もある設定だとも思うのですが、 論破キャラなのに嫌味を感じない主人公の不思議な魅力や、東のおおらかさ、 その他様々な要因とあいなって違和感を感じません。 もちろん、これは物語なんですが、頷くような場面も多いです。

かつて、人類より高度な文明を持つ存在が、この地球にあった......
というのは、御伽噺のように扱われているのでしょうが、 殆どの御伽噺に隠れた真実があるように、 神話・宗教の御伽噺も、子供の頃の寝物語ではなく、別な見方をすればこういった解釈も ごくごく自然だ、そう思わせる内容です。
「本当に恐いグリム童話」は何をいまさら、という感もあったといいますが、 こういった物語が日の目を見るのが遅いのは何故なんでしょうか?
「グリムのアレと一緒にされては困る」とも思いますし、 たしかにそうなのでしょうが、「知らなかったことを、ただ伝える」 という意味でなら、あと10年もすれば、またこういったブームでも来るのでしょうか....... それはそれで嫌かも.....。
感想(ネタバレ) 父や母、そして兄や姉
イシュタルに関して言えば......女性だと明確に神話に記されています。 人類最初の商売を始めたのも彼女ですから、彼女は聖娼でもあったとか、なんとか(うろおぼえ)。
子を産めるのは女王だけ、でもブトーには姉がいる。 といっても姉が女王ではないとも書いてますけど........
そんな部分を抜きにして(そもそも細かい伝承の解釈の広さには虹人が言及してるし) とても好きです。

「父や母、そして兄や姉」.....
宗教が与えた恩恵と、流された血や悲しみを天秤にかけると、どちらに傾くのかな.....
とか漠然と思ったことがあるのですが、間違いなく......に傾くと思っています。
人が宗教に望むのは、最終的には、自己のみの安寧や、権力と支配欲だとも....だって、 そうじゃない(謎)
私もいわゆる無神論者なんで、本来の意味での宗教を理解してはいませんが、 八百万的な多種多様な価値観、日本古来の発想でいえば、神を否定したことはありません。
「いる」のではなく「ある」のでしょう。

この作品中の「神」は、人格神ですし、意志の疎通もあるので、宗教的な理念からすれば 神とはいえない(というか、それ以前に、認めたら宗教じゃない)んですが、 宗教に鉄槌を下すような理は......大好きです(謎)

古来から宗教が人の弱い部分を突いてきたのは確かだし、 新興宗教しかり、大手宗教は特にその必要がないので、 あからさまにやりませんが、寺院の修復に勤しむならば、 何故街にでて弱い人に触れようとしないのか?
街頭で誰それとなく声をかける馬鹿な新興宗教の輩は、 人の幸せを祈る前に、何故直接行動しようとしないのか?
私は偽善者を自称し、公称でも認められてるので、そんなタリーことに自分を削らないですが。 意味もなく削るにせよ、何にせよ、そんなんは.....。

本作の感想とズレタ気もしますが、宗教や神話、歴史.....そんなものを見なおすのには、 最適だと思います。

「何かを絶対に信じてる」人間は、「何も信じない」人間よりたちが悪い。
何時だって虹人は、考えて悩んでいた。それがツライからといって、信仰に頼るのは、ただの........ といいつつも、私も信仰をずーっと探しているのですが.... 見つからないから。焼糞。

虹人、東や純、南波や鹿角......人物の魅力もこの物語が益々私の中で好きになってしまう要因の一つでもあります。
KeyWord:九鬼虹人 不思議な魅力を持つ主人公
「人の暮す町が一瞬のうちに焼け野原と化し、その土地を春になって草花が満たした。
 戦いが生んだ広大な花畑。
 それを美しいと感じるか、無残と思うかは人それぞれだ。花にも蜃気楼にも罪はない」

「豊かさと言っても、物の豊かさでしかない」

「いつでも人間には現在しかない。今までだってそうして生きてきた」

「そうまでして未来が知りたいのか!知っても知らなくても、どうせ結果は出ることじゃないか。
 だが、ブアビたちの命については分からない。
 われわれの努力次第によっては助けられる命かもしれないんだ。
 それを見捨てるようなら、どんな未来だったとしても結果は知れている。
 ......永くは保たないぞ。」

「花や自然だ。他人が独占してると欲しくなって、自分のものになれば愛でる」

「嫌いな理由をそこまで突詰めて考えたことはなかったけど......
 なぜイスラエルの民たちがこんな凶暴な神に従うのか、不思議に思っていたのは事実だ。
 旧約聖書を読むと、神による恐怖政治としか思えない。
 生贄は要求するし、従わない民は平気で殺す。
 ソドムとゴモラの町みたいに、文化そのものを根絶やしにするのもしばしばだ。
 オレならこんな神を信じない。なのに......皆が従ったのは力さ。
  新約聖書では神を愛の象徴としているが.......」

「たとえどんなに豊かな未来であっても、知った瞬間からそれは色褪せたものに変わる。
 人の欲望には限りがない。知らないから現実に耐えていけるんだ」
KeyWord:『九鬼虹人 Vs. ○○』 してません
「指揮官なんかじゃない。皆、仲間だ」
「人間がそこまで成長するのか.....」
KeyWord:鹿角典征 昨日の敵は今日の友
「たとえ消えても、私のおまえたちへの感謝の心は消え去りはしまい.......」



『霊 -たま- の棺』 高橋克彦 祥伝社 2000/2 ♪:☆☆☆★★
作品紹介 麗しき時代へ
旅を終えた虹人たちは、十和田湖のほとりに帰ってきた。
何もかも懐かしい風土、土地の匂い.......だが、そこは現代ではなく、大正八年の日本。
何故わずかに時がずれたのか.....?

「言葉も通じれば、多少はかっても判る。4000年前のシュメールよりは楽だ。」
虹人らは東北から東京へ、宮沢賢治、江戸川乱歩と出会い。 文化と科学が花咲き、人類の分岐点だった時代に触れる.......

「現代へ戻るには、再び神と交信するしかない。こちらの意図が少しでも伝われば....」
再び神との交信を望む虹人らは、オカルトブームにわくロンドンへ旅立つ....。
感想 大正時代
タイムパラドックスや、魂?の問題なんかにも独自の解釈で触れるのですが、そちらの部分も さることながら物語自体が良い、といった印象です。

大正に触れた現代人の虹人らが思うことや語ることが、いちいち胸に迫ります....。 映画館での場面など、考えたことすらなかったですが、頷きました。 それでも、俗人な私にはやっぱり無理でしょうが.....
そして東のおおらかさ。今回、虹人さんの知識や南波さんの戦略、純の空手の出番が少ないってのも あるのでしょうが、本当に東ってのは大人物なんだな...と妙に感心しました(笑)

今回こそ現代に戻ってしまったようなので、続きは難しいのかも知れませんが、 『新・竜の棺』から八年たって『霊の棺』が出たほどなので、何時か出るかな....と期待してます。
感想(ネタバレ) 苦笑
鹿角さん、おつかれさまでした(笑)
東にとってこんないいネタはないでしょう。鹿角さん、一生言われそうだ....。
KeyWord:南波弘道 静かだけど確かな存在感
「二十三になって抱いた思いは、もう変わらない......きっとそういう人になれる」
KeyWord:東哉期 呑め食え唄え(謎)
「漠然とではあっても先々を承知している世界に生きていたくは無い。
 大震災の時には東京を逃れ、原爆の時には広島や長崎に近づないようにする。
 そんな人生はごめんだ」
KeyWord:『日々是漫才』 東と純。両者あわせて喧嘩○段<漫才○段、という不等式
「ロンドンまで食う心配はなくなったし、酒も飲み放題。やくざとの喧嘩も楽しめそうだ。
 その上あんな綺麗な女の子まで一緒だなんて....神さまってのは本当にいるんだな。
 善行を積む若者にいつも救いの手を差し延べる。」
「誰が若者なんです?」
「美しい女の子を前にすりゃ、男はいつだって若者に戻るのさ」
「もう好きになったんだ」
「ばか野郎。俺は女の子に心なんぞ奪われん。ただ眺めて愛でるだけさ。花を見るようにな」
「なるほどね」
「なにが、なるほどだよ」
「下手なんだから。フラれるのが嫌だから女の子に好きだと言ったことがないんでしょう」
「おまえなぁ.....ま、いいか」
KeyWord:○○ いいひと(神?)っぽい
「ありがとう、わたしも忘れたことはありません」

書籍ぺーじTopへ

戻ります