#ウロボロス・シリーズ


『ウロボロスの偽書』 竹本健治 講談社 1991/8 ♪:☆☆☆★★★★
作品紹介 ウロボロス、自らの尾を食らう蛇
竹本健治の連載作品に、何時からか本人におぼえの無い原稿が混ざっていた。
それは今、世間を騒がせている殺人鬼の手記のようだった.....
実在する作家が登場する物語に、創作だった筈の芸者を巡る怪奇な殺人事件。
三つの物語は何時からか絡みあっていく、
そして........
というか、この本って紹介しずらい、実際にあった紹介文もなんだかわけわかんなかったし。
ある意味で大ブーイングな本なんですが、大好きです♪
感想 永劫回帰の象徴
なんなんでしょうね(笑)、なんといえばいいのか.....。

物語は....
@実在する作家たちが登場するパート
A殺人鬼のパート
B芸者組を巡る怪奇な殺人事件のパート
の三つで成り立って(最初の辺りは)それぞれ...
@基本になるパートかな?(最初の辺りは)......SF・パラドックス・神話・宗教・数学・物理・プロレス(笑) などに関する小ネタや、実在の作家(竹本健治・綾辻行人・島田荘司など)を 登場人物としてる辺りが魅力です。
Aは殺人鬼の心理や、猟奇的な描写が見応えあります。好きな人には....。
Bは最初はこのパートだけ浮いている気がするのですが、実は重要なパートで...... むにゃむにゃ....というかそんな事気にしなくてもいいし、パートなんてそもそもないのかな....

えーと、あと...登場人物が魅力的です。
竹本健治さんは勿論、綾辻行人さん、後半は島田荘司さんまで登場するので、 FANならば結構嬉しいものです。作品中でも誰かが言ってましたが、 願わくば島田さんが御手洗潔を召還して欲しかった(笑)
殺人鬼も、結構魅力的に書かれてると思いますし..ナルシストですが。
芸者組は折り紙つきです。 普通人なんだけど、アマチュア数学マニア・まり数、 破天荒なキャラで踊りの天才・舞つる、 格闘女・力丸、謎の少女・猪口奴、謎だらけの女・酉つ九... こんなに魅力的なキャラたちなんですから、芸者だけ独立して新作を書いて欲しいとさえ思います。

人物の中で誰が一番好きかと言われれば、艮ちゃん....というかなんというか、 艮野里美さんというかカリンちゃんが結構萌え(略)いやこういうキャラ好きです、性格含めて。

初めて読んだ時よりも、時間をおいてから改めて読んだ時の方が当然ながらすっきりと読めました。 全体的な物語をくくれば、確かに抵抗もある物語です。閉じていないですし。
でも物語が必ず閉じる必要なんてあるでしょうか...?まあ、あると思うんですが(笑)
一言で言えばまさにこの物語は「ウロボロス」なんですよね?(たぶん)
感想、その弐 黄昏の領域
ネタバレではなく、その弐です。感想を書くのに再読したので。

エッセンスが多くつまった作品です。
竹本さんの好きな本などが、さり気無く(でもない)紹介されてます。
lain最終話での、「紅茶にはマドレーヌ」の元祖(たぶん元ネタだと...)
『失われた時をもとめて』や、その他様々な小説から、 『デビルマン』などに代表される往年の名作漫画や、 少女漫画など、これ程に別作品のタイトルが出てくる小説も珍しいでしょう。

SFなんかに出てくる、「シュレーデンガーの猫」 「ゼノン・パラドックス」「ラプラスの悪魔」「マックスウェルの悪魔」 ...その他。こういう、判るような判らない理屈が好きな人には、たまらない本でもあります。

よく判らない上にまとまらないので、食べ物に例えると(ヲイ)
色んなスパイすが効いた、三色そぼろ弁当大盛りみたいな印象ですね....好物なんです。
終り方についてすが、竹本さんは作品中で予告してますし(忠告状の部分以外で)、 実際そのように終ってますから問題ないんではないでしょうか。私は気になりません。
KeyWord:ある学者 コギト・エルゴ・スム?じゃなくって...
「人間に与えられた最も根源的な罠は”自分自身”という概念だったろう。
 なぜなら”我思う、故に我在り”ではなく、
  ”我、我在りと思う、故に我在り”だからである。」

「ひとまず集団的無意識という考え方を認めるならば、その最も深い部分にあるのは
 ”いつか遠い過去にこの空白が隙なく埋められていた時期が存在した”というイメージだろう」
KeyWord:『あたしは、少女A』 黄昏の住人。その正体は...
[本名、実は不明。艮野里美、カリンちゃん、猪口奴、木戸真冬を名乗る]
「貴種は流離する運命にあるの」

「そうだ、あたしはまっとうな人間ではない。
 普通の、一般の、あたり前の、ほかにどう言い換えてもいいが、そういった類の人種ではない。
 だけど、それではどんな人種に含まれるかとなると、あたしもずっと前から考えているのだが、
 なかなかしっくりした言葉を見つけられないでいるのだ。
 あえて名づけるなら、黄昏の住人とでもいうのだろうか。
 多分に気取った言葉かもしれないが、
 それはあたしの抱いている世界像からはごく自然な言葉だった。

 この世界には光と闇の領域がある。それはあたしの確信だった。
 光の領域というのは姿かたちを決定した世界、闇の領域というのはそうでない世界のことだ。
 そして世界の姿かたちを決定するのは、人間の共同認識というやつなのだ。
 竹本さんにも語ったことだが、それは例のシュレーデンガーの猫のアナロジーといってもいい。
 マクロな世界の出来事も、共同認識にかからないものは非決定ということだ。

 とりわけあたしの興味は、その両者の境界にある。
 世界の姿かたちが決定と非決定のあいだを揺らめく場所。
 人それぞれの認識がバラバラに切り離されていて、決して共同に認識にはなり得ない場所。
 .....それが黄昏の領域なのだ。

 大雑把に言えば、秘密やタブーという言葉で象徴される領域と言ってもいい。
 人々の生活や社会の裏側に、そういった場所はいくらでもある。
 そこは裸の人間存在の吹き溜まりだ。
 真と偽、善と悪、美と醜などでは区分できない、むきだしの人間存在が犇いている場所なのだ。

 そうだ、単に興味を抱いているだけではない。あたしは文字通り、そこに住んでいる。
 現実と架空のあいだで、あたしは眺め、物想い、遊んでいるのだ。
 そうだ、あたしはxxxが恐い。いったい何処まで知っているのだろう。
 あたしが黄昏の住人であることを、どうして嗅ぎつけたのだろうか?」
KeyWord:舞づる 踊りの天才、芸者組で最もとっつきやすいキャラ
「好き嫌いっていうのは仕方ないけど、
 彼女たちの人間性まであれこれ言うなんて、そんなのおかしいと思わない」
KeyWord:竹本健治さん 作者兼登場人物
「そうだ僕も恐怖する。舞台に立てない俳優になど、誰だってなりたくはない。
 それはどんな隠遁者であっても結局は同じ事なのだ」
KeyWord:市原織江 (杉田朋江) 逸般相対性理論
「他の人たちがどんなにつまらないと思う意見でも、
 私にはそのまま見過ごしたり捨て去ったりできませんでした。
 その結果というわけでもないのでしょうが、私はいろんな考え方に影響されてばかりでした。
 そうして私は自分の中に、どんどん色んな考え方を抱え込むようになったのです」

「いつの頃からか、私は全てが相対的なものだと考えるようになったのです。
 何が正しいのか、何が善いのか、何が美しいのか、みんな相対的なものでしかない。
 それは、私がはじめてつかんだ自分の意見でした。
 そうです、私が抱え込んだどの考えも、
 みんなそれぞれに正しく、みんなそれぞれに正しくなかったのです。
 それから私は全てを相対化して考えるようになりました。
 見るもの、聞くもの、ふれるもの全てを。私の想いの及ぶもの全てを。そして私自身まで....」
「私が、たった一つだけ相対化できなかったものが....」



『ウロボロスの基礎論』 竹本健治 講談社 1995/10 ♪:☆☆☆★★★
作品紹介 うんこ事件と麻生邸事件、ミステリと物理と仏像
新たに『ウロボロス』の連載を始めた竹本健治。
そして....
人々を恐怖のどん底に落としいれる『うんこ事件』が再び勃発する。
こともあろうに竹本さんの周囲の大学や知人の書斎でうんこを(鮮度良し)カマスという 犯罪史上例をみない怪事件に、意外と積極的に竹本さんは取り組んでいくのだった.....ような。

同時に彼は『ウロボロス』連載に組みこむ、『麻生邸事件』の執筆も開始する。

途中、本編にあまり...というか雰囲気以外にはあまり関係ないと思われる、 『ミステリについての考察など』『物理学と量子論』『仏像様式』なども (タイトルは特にないので勝手につけました)。これらも相当ページくってます。

内容的には『偽書』とは繋がっていません。
あくまでも『偽書』の世界はフィクションであって、『基礎論』は別のものです。
感想 「竹本さん、誰をいちばん憎んでいるの?」
本編自体は『偽書』ほど混乱せずに読めます。
ただ間に入るネタ話が多少気になる.....
『ミステリの考察』は最初は『偽書』の言い訳と宣伝も兼ねてるのかとも思いましたが、それなりに楽しく読めたし、『仏像』はページが短いし、 宗教ネタは嫌いじゃないのですが、『物理』の話はマジで混乱ですよ..... 宇宙論とか嫌いじゃないですし、知ってる言葉などもあるので(内容は知らないけど) 最初は楽しく読んでいたのですが、途中から結構キツかったですね、正直。 ここは30ページ程の文章ですが、読むのにやたらと時間かかったような気が....。 しかも本編と全然関係ないっていってもおかしくないですし。 ただ、竹本さんの味なんで無くなると寂しいのも否定できないのですが、まあいいや。

本編についてですが、『館』事件の方は普通なんですが、もう片方は「うんこ」(何故私は「うんこ」と括弧をつけてしまうのか(涙)) 「うんこ」だらけの「うんこ事件」。
難解っぽい理論の最中に、「昼間都会の真中で野グソしよう」なんてエピソードが入ったりと、 微笑ましいなあと思いつつも、こんなに「うんこ」という言葉が出てくる本も珍しい。
多いと一ページに4.5回は「うんこ」、最初から最後まで全部数えると幾つになるんだろうか.... 300は下らない.....下手すれば幾ついくのだろうか....数えようとも思いましたが、思いとどまりました。 洒落にならないと思ったので。

数ページですが漫画が入ったり、何故か笑ってしまうような部分も多々あるという、型破りな作品です。 この笑う部分って狙って書いてるのかなぁ....?などとも思いました。
ところで、本編に、
「....笠井さんは、四十肩になってしまって首がまわらない。
 島田さんの『アトポス』を読んだのが決定的だった、
 寝転んだまま読めないような本を出してはいけないと、
 『哲学者の密室』の作者の立場を棚にあげたようなことを言っていた。」
という文章があるのですが、
『ウロボロス』だって寝転んで読むのはキツイですよ...... 『アトポス』は面白いし好きなんですが、 文庫版だと本を開く時にメリメリッと音が聞こえるような幻聴も.... 皮ジャンのポケットに入らないような文庫を出してはいけないと思います(笑) 上・下巻でも良かったと思うのに....。
『哲学者の密室』は竹本さんと同じく挫折した口です。何時か読みます、何時か.....
感想(ネタバレ) 妄想と邪推
『偽書』よりパンチが弱い感じがします。
個人的には、やっぱし芸者組が出てこなきゃツマランですよ。 あれほど個性的な人達ですから。作家組が魅力的なのは当然?として、 『偽書』を引っ張ったのは彼女たちだと思ってるし。
非常に個人的な感想なんですが、まり数や舞づるは勿論、ぶっちゃけた話....

...私が言いたいことは艮ちゃん....猪口奴...艮野里美を出せということです。すいません。FANなんです(照)。 何者だお前!?というくらいな様々な知識。 無邪気に振舞う小悪魔、でも時々弱気になったりもして..... う〜ん、『偽書』の乾さんの言葉をかりれば、
「考えてみるに、俺、けっこう好きだったんだよね。
 誤解のないように言っとくけど、ロリコン趣味ってのとは違うぜ。」
ということです。あ、基礎論の感想じゃなくなってる(汗)

『基礎論』.....『偽書』でも気になったことなんですが、 竹本さん、自分の奥さん(ミクリヤさん)に対する作品中の扱い結構酷いですよね。 「元々結婚する気はなかったがなしくずしに....」なんてことも書いてあるし。 対称的に綾辻行人さんの奥さん、不由美さんの扱いが.... いえ、こちらも酷いんですが、同じ酷いでも本質的に違うような.....邪推ですね。
自分の奥さんなんか書いてもツマラないだろうし、そもそも奥さんだからこそのああいう扱いなんでしょう。

でもって、ちゃんと『基礎論』です。
竹本さん、子供生まれたのですね、おめでとうございます.....
また邪推で気になったのですが、『麻生邸』の方の『ぼく』って竹本さんのことですよね? 後書きで舞づるも聞いてますけど、結局答えてくれてませんが......。

『竹本さん』の子供の名前が『竜都』、麻生邸で『ぼく』が殺した?子供が『水樹』... 竜は水を象徴する言葉....『ぼく』が『水樹』を殺した理由は....明確に語られてないですが、 理由なんてないのでしょう。今度は、加賀成海の言葉を借りれば、
「さあね。それは私にもはっきり言いあてられないわ。
 単に私がそういう人間だったということじゃないかしら。」
ということなんでしょうが......

親は本質的には、何処かで子を憎んでいる部分もあるもの。
自分は年をとり衰えていく中で、子は親の時間、金、労力を食べて成長していく。
それが段々自分に似ていき、自分には取り戻せない若さを鏡のようにひけらかす存在 でもあるのは、悪意のある見方ですが事実でしょう。
ギリシャ神話の『サトゥルヌス』は、子が自分を滅ぼす予言を恐れるあまり子を食い殺した。
老いるということの不条理さと病に苦しんだゴヤは『わが子を食うサトゥルヌス』を残した..... そして竹本さんは.....。
なんか、竹本さんが作品中で「最近、年のせいか記憶力が落ちた...」 と何度も何度も書くので、変なこと考えました。 あくまでも物語、そしてお話ですから、洒落ですが。
KeyWord:小野冬美さん 綾辻行人さんの奥さん、魂の叫び
「だいたいウロボロスは変なんだよ!今回はこうだし、偽書ではああだし。」
KeyWord:『僕』 俺も釈迦は好き。中庸だよ。
「個人的なものはおよそ何であっても、
 他人に伝えるには危うい可能性に賭けるほかないのだから。
 そしてそれらすべてをひっくるめていえば、そのことは個人そのものについてもいえるのだ。
 そうだ、個人の過去、個人の想い、個人の人生....。
 その痕跡を世界に刻み付けるのは、全く絶望的なことなのだ。

刻みつける必要などないではないかという考えかたがあるのは分かっている。
 僕の理解では、その代表となるのは釈迦だ。
 いや、キリストにしろマホメットにしろ、あるいは孔子にしろソクラテスにしろ、
 決してそんなことは言ってない。釈迦だけがそういった。
 自分が生きていた痕跡をこの世に残したいと願うことが、すべての苦悩の始まりなのだと。
  だからこそ僕は釈迦が好きだった。」
KeyWord:ニールス・H・D・ボーア博士 量子論の基礎を築いた物理学者
「神は世界と相互作用しない....」
KeyWord:笠井潔さん 重鎮にうんこを語らせる竹本さん(笑)
「<ラプレー的うんこ>の系列も確かに存在するんだよ。
 そこにはルサンチマンを晴らす道具としてうんこを用いるような、屈折した姑息さは全くない。
 そこに充ち充ちているのは単純にうんこそのものを面白がる童心だ。
  もう一つ象徴的な例をあげれば、
 『Dr.スランプ』のアラレちゃんがうんこを突き刺した棒を持って、ぶーんと走りまわる姿などは、
 現代もなおその系譜が生き生きと引き継がれている最も分かりやすい事例じゃないかな。」
KeyWord:江川蘭 故人に送る言葉(笑)
「ボクには本当にどうしてなのか分かりません。
 確かに田中さんはトラブルメーカーで、ケンカ好きで、傍若無人で、無神経で、ねちこっくて、
 人を人とも思わないところはありました。とにかくケンカしてる時がいちばん生き生きしてて。
 だけど、根はとてもいい人だったんです」
KeyWord:艮野里美 何故、酉つ九ばかりで艮ちゃんが出ない(涙)
「人間は絶対に体験できない死の恐怖を乗り越えるために、
 あらかじめ死をいろんなかたちで先取りせずにおられない存在だものね。」

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