ラウル・ガルシア“郷愁のインカ”
● "コンドルは飛んで行く"に象徴されるアン デス系音楽の最高峰ギタリストの名盤!
曲目:コンドルは飛んで行く/さらばアヤク-チョの村/金の葉っぱ/他全12曲
発売中:株式会社テイクオフ
        ラウル・ガルシア・サラテを訪ねて
 ペルーに行こうと思い始めたのは九九年の春先だった。少しまとめてペ ルーの音楽をCDで紹介しようと思いたち、あれこれと聴くうちにぬきさしならない ほどラウル・ガルシア・サラテ の世界に魅了されてしまったのだ。それと前後して、ソンコ・マージュさんと濱田滋 郎さんが彼について書いている文章を読むにいたり、どうしても生の演奏を聴きたい という思いがつのった。
 そんなぼくの夢が現実のものとなったのは九九年十一月半ばだった。キュー バ、パナマを経由してリマに入り、その翌日には自宅にマエストロを訪ねて面会が実 現した。と書くと、ことはトントン拍子に運んだようだが、駐日ペルー大使ビクトル ・アリトミ氏の実弟にあたるペドロ・アリトミさんが必死の思いで連絡先を見つけて 、あらかじめ根回しをしておいてくださったからである。
 瀟洒な応接間で夫人もまじえてしばし談笑し、その後マエストロは 席を書斎に移し、演奏をきかせてくれたが、息をのむほど素晴らしかった。ぼくがこ れまで聴いてきた数枚のアルバムと較べて遜色がないどころか、それ以上だった。か ねがね彼のギターの調べはケーナのそれをギターに移したかのようだとぼくは感じて きたが、全く和声的ではなく、単旋律を独特のタッチで弾く彼のギターに改めてその ことを思った。しかも腕前は衰えるどころか、むしろ年輪を重ねて響きは味わいを増 しており、まさにワン&オンリーである。 帰り際に、サインを入れてプレゼントし てくださった米国での最新デジタル録音『ギターラ・デル・ペルー』を毎日のように 聴いているが、マエストロのベストといえるパフォーマンスが満喫できる。だが、ラ イブにまさるものはないというのがぼくの実感であり、一日も早く彼の演奏を日本の ステージで聴いてみたいと思うことしきりである。
 いっぽうペルーのケーナ事情にはいささか失望した。昨年秋に出版した『ラ テン音楽 名曲名演名唱ベスト100』(講談社)を夏に書いていたとき、ケーナの 名曲を採り上げるにあたり、ぼくはケーナのふるさとであるペルーの奏者の演奏を選 ぼうとした。だが、選ぶ段になって困惑した。これというのがないのだ。最初はアン トニオ・パントーハで「太陽の乙女たち」でも選べばいいだろうと簡単に考えていた が、この人のケーナは日本では有名でも本場では必ずしもそうではない。それに本国 よりもアルゼンチンでの活動が長かったことも気にそまなかった。
 ソル・デル・ペルーを率いたルイス・ドゥラン、その流れをくむペドロ・チ ャルコ、あるいはアレハンドロ・ビバンコによる演奏を挙げようとしたが、これがき わめて入手困難ときている。結局、同書にはレーモン・テヴノーが率いるコンフント ・マチュピチュの演奏で「さらばアヤクーチョの村」を挙げたものの、ぼくの心には わだかまりが残った。なぜなら、帰化したとはいえ、テヴノーはスイス人である。出 来れば、生粋のペルー人ケーナ奏者の演奏をぼくは挙げたかった。
 本場を訪れたのを期にリマのレコード店を数軒回り、ペルー人のケーナ奏者 のお勧め盤を尋ねたが、ドゥランもチャルコもビバンコも、その名前を知る店員すら 皆無で、かろうじてマチュピチュの存在は知っている人がいたものの、CDはないと いう。勧めてくれたCDを義理で一枚買ったが、インカケーナスの演奏を中心にして 、ウニャ・ラモスやサビア・アンディーナが数曲入っているではないか。これには怒 るより呆れてしまった。
 ところがボリビアには、ロランド・エンシーナスやルーチョ・カブールをは じめ、凄腕のケーナ奏者が大勢いる。「コンドルは飛んで行く」は、有名だが、それ だけでは話にならない。しっかりしてよ、ペルーと言いたい気分である。
 

| ホーム | インフォメーション | 聞きものCD | 注目のアーティスト | ミュージック・プラザ | ラテン音楽ベスト100 |