これはもう神様の采配としか思えない。
なにを大袈裟な、と言われそうだが、そうとしか思えないから、他に言いようがない。話の発端は、畏友・岩本匡司さんからの連絡だった。彼は某商社の卒業生で、キューバとぺルーに長期の駐在歴のある人だが、そのペルー時代にはゲリラによる日本大使公邸占拠事件に巻き込まれ、126日間も人質だったという希有の体験をされたかたでもある。NHKテレビの人気番組「プロジェクトX」でその事件を扱ったときには出演されたことがあるので、ご存知のかたも多いだろう。
岩本さんの話はこうだ。一昨年2月と去年6月の2度にわたって、 メキシコのストリート・チルドレンを支援するチャリティー・イベントをぼくたちと一緒にやった工藤律子さんをとおして、栃木県にお住まいの玉村和子さんからボリビアの先住民の現状を日本の皆さんに知っていただくようなイベントが開催できないかと打診があったというのだ。玉村さんの知人で、昨年9月から栃木県の招待留学生として自治医大で学んでいるボリビアの医師ハイメ・ロペス・フローレスさんが3月半ばの帰国を前に、ボリビアの先住民の現状を一人でも多くの人に知ってもらいたく、そんな機会をつくっていただけまいか、というのだ。だが工藤さんは夫君のカメラマン、篠田有史さんと2月半ばからフィリピンにしばらく行く関係で手伝えない。そこで岩本さんに話が行き、さらにぼくに連絡がきたというわけである。そんな申し出をぼくはほとんど二つ返事で受けた。というのもハイメさんがアピールしたがっているテーマに2003年のボリビアでの先住民逆殺事件があったからだ。
ぼくは1984年からNHKーFMでDJを担当していた中南米音楽の番組をとおして、ロス・カルカスを初めとするボリビアのネオ・フォルクローレの紹介に力を入れて来た。その努力が実って、ロス・カルカスやサビア・アンディーナが来日したりし、ボリビア音楽への関心が飛躍的に高まることになった。そんなわけでぼくも少しはボリビアの音楽以外のことも勉強して来たつもりだったが、2003年の先住民逆殺事件については全くの無知だった。こんなことではいけない。自分の勉強のためにもハイメさんの願いを実現しよう!
そう考えて、ぼくはまず会場を手配。つづいて1983年秋に出会って以来、音楽家と音楽ジャーナリストと、立場の違いこそあれ、ともにボリビア音楽のプロモートに励んで来たグルーポ・カンタティのリーダー、エルネスト河本さんと連絡を取って会い、協力してほしいと話を持ちかけて、了承してもらった。そんな一連の動きがあったのは去る1月末のことで、2月11日には栃木からハイメさんと玉村さんに来てもらって、ふだんからカンタティが根城にしている新大久保の「酒林房」に、工藤律子&篠田有史夫妻、岩本さん、カンタティのメンバー3人、 そしてぼくの7人が集まった。ハイメさんが地域医療を専門とする医師でいま30歳、 チャランゴもよくし、大学が休みの土日には人前で演奏することも多いといったことを知ったのはその席である。そのとき話し合った結果、次のようなイベントの開催が決まり、チラシをつくった。以下はチラシの文面である。
竹村淳プロデュース:スペシャル・トーク&ライブ
“ボリビア先住民の現状とフォルクローレの背景”
Grupo Khantati & Jaime Lopez Flores
2007年 3月11日 (日) 午後3時開場/午後3時30分開演
◆場所:築地 キューバン・カフェ 03-5148-5001
中央区築地5-6-10 パークサイド浜離宮1F
(地下鉄大江戸線A1出口より3分)
◆前売料金:1ドリンクつき 3,000円(税込/全席自由)
◆当日料金: 3,500円(税込/全席自由)
◆司 会:竹村 淳
◆トーク:ハイメ・ロペス・フローレス+エルネスト河本
◆演 奏:グルーポ・カンタティ+ ハイメ・ロペス・フローレス(チャランゴ)
地域医療が専門のボリビア人医師で、現在栃木県の招待留学生として同県の自治医大で研修中のハイメ・ロペス・フローレス氏をお招きし、スペシャル・トーク&ライブの会を開催します。第1部では、貴重な映像をまじえて前政権下のボリビアで起きた虐殺事件や不当に虐げられている先住民の現状、さらに先頃南米初の先住民出身大統領となったエボ・モラレス現政権のことなどをテーマにホットなトークを展開していただきます。第2部では、アマチュアのチャランゴ奏者でもあるハイメさんも参加し、エルネスト河本さん率いるグルーポ・カンタティによるボリビア・フォルクローレの親睦演奏をたっぷりとお楽しみいただきます。この機会をお見逃しなく。
ここまで話はトントン拍子で運んだが、そうこうするうちにエボ・モラレス現ボリビア大統領が来る3月5日から8日までの4日間、初来日することが決まり、さらに3月5日の大統領歓迎レセプションではなんとグルーポ・カンタティが御前演奏をすることになった。
なんというタイミング!これはもう神様の采配と紙しか言いようがないでしょう?!あまりのタイミングの良さに、多くの人からボリビア大統領の来日が決定してから、この企画を立てたと思う人が多いのだが、話は逆なのだ。とはいえ、大統領の来日が決まった辺から、このイベントに対する関心も一段と高まり、当初の予定定員80名をすでに超え、そろそろソルドアウト宣言をしなくてはと思っているところである。
ところで、ハイメさんによると、30歳の彼がボリビアで1か月働いて医師として得る収入は邦貨にして15,000円たらずだという。そんなわけで生活費の足しにするため、彼は去る9月の来日の際に携えて来て、こんどのイベントまで日本で苦楽をともにしてきたチャランゴをご希望者に譲っていきたいと話している。いっそ当日の会場でオークションにかけてみようかとも思ったりもするのだが、どなたかご希望の方がおられたら、ご一報いただけませんか?
ちょっと長くなったので、この続きは近日中に、ということで。(2007.2.25.記)
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