Azure
  ■ エピローグ ■

 ブリーフィングに集まったメンバーの中に、背の高いパーサーの姿があった。長かった髪をばっさりと切って、背筋を真直ぐに伸ばしている。
 ああ、帰ってきたんだ、とリッチは感慨深くその姿を目に入れた。ブラッドがキャビン・クルーとして復帰してから半月。一緒に仕事をするのは、これが初めてだった。
「おはよう、機長のリッチだ」
「副操縦士のクルージェです」
 驚いたことに、隣に立つコ・パイは、きりきりとした美女だった。
「本日は天候も良好らしい。ストックホルムまでは長丁場だが、コックピットもキャビンも、力を合わせてナイスフライトにしよう」
 Yes, Sir、と歯切れのいい返事がキャビンを満たした。

「キャプテン、食事です」
 トレイを手に、コックピットに顔を出したのは、ブラッドだった。
「ああ……ありがとう。ディアーヌ、You have control」
「I have control」
 操縦桿を握ったディアーヌは、さっと背筋を伸ばした。
「そんなに固くならなくてもいいよ、ディアーヌ」
 トレイを受け取りながら、リッチが笑った。
「だって、緊張します。ミスター・ピットは、優秀なパイロットだったと聞きました」
「何だ、俺、監査役みたいだな」
 緊張してるのは俺のほうなのに、と新米パーサーは明るい声で言った。
「評判は上々だって聞いてる」
「ほんと?」
「特に女性のお客様に」
「それ、どこの噂?」
 あはは、と屈託なく笑って、素早く身体を寄せると、リッチだけに聞こえる声で「妬いてんの?」と囁いた。
「ミスター・ピット」
「Sorry, Sir」
 そうして、胸に手を当てると、「私たち客室乗務員は、年齢、性別、職業、信条、その他いかなる個人的理由においても、お客様へのサービスを差別することはありません」、と真面目に言った。
「……当然、そうあるように」
「Yes, Sir」
 隣で、ディアーヌがくすくす笑う。
 コックピットから見る空は、どこまでも蒼く、視界を横切る雲は、光を反射して眩しく目を灼いた。
 ああ、〈空〉だと思った。ごみごみした街からでは、決して見られない碧の色。
 こちらを見上げているリッチと目があった。そこに、同じ想いを読み取って二人は、緩やかな笑顔を交わした。
「Azure」
 宝石の名を起源に持つ、空の呼び名を口にした。







END

 
2013.10.16再録