夢夜2
始めてしまえば、お互いに慣れた行為で、快楽を見つけるのは簡単だった。
主導権はいつだってアキレスのもので、色事にも長けた英雄は血の匂いを嗅ぎつける狼のように、オデュッセウスの歓びの在処を的確に探り当てた。
咽喉や首筋、胸にキスを落しながら、アキレスはオデュッセウスの足を割る。
「……ぁ……」
既に起ち上がった自身を握りこまれて、オデュッセウスはため息のような声を零した。アキレスの手が上下に動いて、オデュッセウスを追い上げようとする。
アキレスの愛撫は乱暴ではなかったが、性急で貪欲で、際限がない。あっと言う間に追いつめられて、オデュッセウスは腰を揺らした。
「ア…アキレス……」
「一度いくか? 我慢できる?」
「う……」
オデュッセウスは答えを躊躇った。
身体は快感を受け入れ始めていたが、理性を手放すにはまだ早い。プライドだとか羞恥心だとか、アキレスには何の意味もなさない感情が、この軍師の口を重くしているのだろう。
返事を促すように先端を抉ってやると、オデュッセウスはひ、と咽喉を引きつらせた。
「オデュッセウス?」
「……ぃ……」
いく、と囁いた声は本当に小さくて、耳元で言われたのでなければ聞こえなかったに違いない。けれど、そうするために首に回された腕が心地よかったので、アキレスは聞こえなかったフリをするような意地悪はせず、すぐに欲望を叶えてやった。


「……ああ……」
精液に濡れたアキレスの指が3本に増やされる頃には、オデュッセウスは声を抑えることができなくなっていた。
大きく開かされた脚の間にはアキレスが入り込んで、好き勝手にオデュッセウスの身体を蹂躙している。アキレスの指を受け入れたそこは、もうとっくに蕩けて、指の腹がいいところをかすめるたびにびくびくと痙攣した。アキレスは、指で広げておいた隙間に舌を差し込むような真似までしたから、オデュッセウスは気持ちの良さに目の前が霞みそうになった。
「ん、あ、……アキレス……っ、アキレスっ……!」
滑らかな腹が忙しなく上下して、オデュッセウスが粗い息をつく。
いつもは鮮やかな色彩を放つ翡翠色の瞳が、快楽に緩んで焦点を失っている。その、とろりと蕩けそうなオデュッセウスの表情が、アキレスは好きだった。
オデュッセウスの柔肉は熱くて狭くて、指に絡みついてくる。抜き差しするたびに、ギリシアの知将は甘い声を上げながら、もじもじと腰を揺すった。
「あ……はぁ……っ」
そろそろお互いに限界で、アキレスが指を引き抜くと、オデュッセウスは続く刺激を待ちかねたように自分から膝を立てて、捕食者を受け入れようとした。
一度達したはずのオデュッセウスのペニスは再び起ち上がって、彼の快楽を伝えている。
常時ややこしいことを考えている頭の方に休息を与えて、欲望に忠実になってしまえば、イタケの王はその辺の遊び女などより、よほど淫らがましく艶めいていた。
自ら喉元を差し出して獅子の牙を待つかのような極上の贄を見下ろして、アキレスは満足そうに笑った。
すんなりとした脚を抱え上げると、オデュッセウスの後孔に熱く猛ったものをあてがう。さんざんに指弄されたそこは、従順にアキレスの欲望を受け入れた。
「う…あ、……アキレス……」
全てを収めきると、オデュッセウスの目から涙がこぼれた。は、は、と息をつきながら、挿入された異物が身体に馴染むのを待っている。
けれど、狩人の方は獲物の都合を待つ気はなかった。
「あ……っ、アキ……っ」
いきなり大きな抽送を加えられて、オデュッセウスは高い声を上げた。
「や……っ!」
力任せ、と言ってもいいほど強く突き上げられて、オデュッセウスは反射的に身を竦ませる。しかし、何度も重ねた身体は、どちらも快楽を見つける術を知っていた。相手の都合など完全に無視しているかに見えるアキレスの動きは、決してオデュッセウスを傷つけるものではなかったし、オデュッセウスは与えられる衝撃を官能に換えられる場所を探して、無意識に腰を動かした。
「んん……っ、あぁ……アキ、レス……っ」
アキレス、アキレス、と何度も名前を呼ぶ声が甘く響く。切羽詰まったような声はアキレスの劣情をダイレクトに刺激した。
「オデュッセウス……!」
「やあ……っ……アキレス……!」
自らの痕跡を刻み込むように、アキレスは繰り返し繰り返し突き上げる。身体の最奥を強く抉られて、腰からぐずぐずと溶けていきそうだ。
放っておかれたペニスが痛いほど張りつめている。しかし、解放を求めて震えながら伸ばした指は、アキレスの手に搦め捕られて目的を果たせなかった。
「……アキレス……もう……っ」
駄目だ、と許しを請うオデュッセウスに、勇者はひどく危険な表情で笑った。
「いっていい。でも、これは使わせない」
これ、というのはアキレスに押さえ込まれた両腕だ。
何を言われたのかがわかって、オデュッセウスは翠の目を見開いた。
「アキレス──っ」
「いけるだろう?」
「そ…んな、無理……っ、……ふあ……っ」
抗議を封じるようにアキレスが動きを再開して、オデュッセウスは甘い声を上げた。
「いや……だ、や……駄目……ほんと、に、無理………っ、アキレス……っ!」
押さえつけられた腕を外そうともがいたが、片腕しか使っていないにも関わらず、アキレスの拘束は強固だった。そうして、淫楽の手段を封じた同じ相手が、より深い快楽を与えるように大きく腰を使ってオデュッセウスを追いつめる。
出口のない欲求が身体の中で膨れ上がってどうにかなりそうだった。
「ああ……っ、アキレス……頼、から……っ」
濡れた瞳で哀願しながら、オデュッセウスは不自由な体勢のまま、腰を動かした。後孔を犯すものが前立腺に触れるたびに、白い脚が細かく震える。
「ん……っ、ん……っ」
返事を返さないアキレスに諦めたのか、イタケの王はしゃくり上げるような声を漏らすと、積極的に悦楽を求め始めた。アキレスの動きに合わせて激しく腰を振りたてる。
その動きがだんだん早くなってきて、アキレスは彼の解放が近いことを知った。
「あ……っ、アキレス……っ! や、イく……っ……」
限界を訴える声はどこか戸惑いを含んでいる。ギリシア自慢の知謀の勇者は、どれほど抱きあっても不思議と染まらない清潔さを保ち続けていて、相手が年上であるにも関わらず、可愛らしいものだ、などとアキレスはいつも思う。
「いけ、オデュッセウス」
「んあ……っ」
のしかかるように身体を前屈させて、オデュッセウスに口付ける。そうすることでより深くアキレスを受け入れることになったオデュッセウスは、その衝撃に自らの欲望を解放した。
「あ──────っ!」
長いこと我慢を強いられていたそれは、勢いよく弾けると、自らの肌のみならず、アキレスの身体にまで白濁を撒き散らした。
「……は………ぁ………っ、……っ……」
自分の放ったもので胸を汚しながら、オデュッセウスは放心したように荒い呼吸を繰り返した。まだ止まらない涙が後から後からあふれ出て、敷布へを吸い込まれていく。
その透明な雫を舌で掬い取ると、アキレスはだらりと力の抜けた身体を抱えなおした。
自分の快楽を追うべく大きく抽送を開始する。
「あ……、ん……」
吐精の余韻で敏感になっているオデュッセウスの身体は、自分の中に収められたアキレスの楔をびくびくと痙攣するように締め付けた。
は、とアキレスが太い息を吐く。
「アキ……レ、ス……」
自由になった両腕を伸ばして、オデュッセウスがアキレスを求めた。甘えるような、甘やかされるような仕種に一瞬驚く。
アキレス、ともう一度呼ばれ、獅子は自分の首を差し出した。しなやかな腕が巻き付いて、アキレスの髪を撫でる。
そのオデュッセウスの蒸発しそうに熱い身体を抱き上げて、アキレスはより深く自身を受入れさせた。
「あぁ……っ、アキレス……! い──……っ!」
オデュッセウスが悲鳴を上げながら、背中に爪を立てるのと同時に、アキレスは彼の 内部 なか へと精を放った。



アキレスの陣屋の中で、アキレスと共に寝具に包まりながら、オデュッセウスはアキレスの寝息を聞いていた。
どちらも一糸まとわぬ姿のまま、オデュッセウスは獅子の腕の中に収まっている。
何度も抜け出そうとして、その度に気配に聡いアキレスに引き止められた知将は、もう諦めきって疲れた身体を横たえていた。
自分が身動きするたびに、久方ぶりのアキレスの眠りを邪魔していることに気が引けたからである。
起きているときは、不機嫌そうに寄せられることが多い眉間も今は緩んで、本来の端正な顔が薄闇に浮かんでいる。こんな風に何から何まで美しく整った青年が、どうしていつまでも自分などにこだわるのか、オデュッセウスには少しもわからなかった。
女はもちろん、同性だって、この男に迫られて嫌な気がする者は少ないだろうに。
そんなことを考えながら、アキレスを起こさないようにそっと腕を伸ばして、金の髪に触れた。
夜明けまでは、あとどれくらいの時間があるだろうか。そう思ったのは、この時間を惜しむ心がどこかにあるからだ。陽が昇ってしまえば、当分の間は慌ただしい日々が待っていた。
自分たちは、友人では終われなかったほどお互いを求め合っていて、けれど決して共に生きることはできないことを知っている。
それが自分たちにとって幸福なことなのか、不幸なことなのか、そればかりはギリシア最高の頭脳を持ってしても結論を導きだすことはできなかった。
──所詮は 人間 ひと の身。神々ですら全てを知らず、全ては能わず、神ならざる身なれば、それはさらに 自然 じねん のこととて。
賢明なオデュッセウスは、考えても無駄なことに時間を費やすことはしない。
それよりも、少しでも身体と頭を休めておくべきだろう、と隣で眠る獅子に寄り添うようにして、軍師はそっと目を閉じた。

夜はまだ、もうしばらくだけ彼らに平穏を与えるつもりらしかった。



END
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2004.08.05


原作のオデュッセウスを見ると「それ、自分でやらんでも」ってことも、彼本人がやってることが色々あります。
苦労性なのか、オデュッセウス。
ていうか、部下に恵まれてなくて、仕事をまかせられる相手がいないのかもしれない…と、「オデュッセイア」を見てると思いました。
上司は選べないけど部下は撰べるんだから、人材確保しようよ、イタケ王。

私は甘えんぼの獅子が好きです。