| そこに在る場所〜エピローグ〜 |
| 「────ですから、発熱するかもしれない、と申し上げましたでしょう」 エウドロスのアクアブルーの瞳にじろりとにらまれて、彼の主人であるはずの獅子は、いささか気まずそうに目をそらした。 それも無理はない。 結局、昨日はあれからもう一度始めてしまい、コトが終わったのは明け方に近い頃で、しかもオデュッセウスは途中から半分意識を飛ばしていた。 さすがに少しやりすぎた、と反省しながら、事後の始末にかかったアキレスは、ぐったりと力をなくしたオデュッセウスの身体がやけに熱いことに気がついたのである。 夜明け前の、一番眠りの深いところを起こされたエウドロスは、目をしばたきながら主の陣屋までやってきて、その惨状にあきれ果てた。 これでは、5歳の子供が見たって、ここで何が行われていたのか、うっすら察してしまうのではないだろうか。 「とにかく、熱さましを煎じてきますから、オデュッセウス様に飲ませてください。夜が明けたらこの方の天幕までお送りして──たぶん、今日明日くらいは休養をとったほうがいいと思いますよ」 誰のせいとは言いませんけどね、と言われたような気がしたのは、アキレスの後ろめたさのせいだろう。 天幕をくぐりかけて、エウドロスはとどめのように振り向いた。 「それから、お送りするまでにオデュッセウス様の御衣装をきちんとしてさしあげてください」 かろうじて腰の部分を上掛けで覆っただけの恋人の姿を見下ろして、アキレスは慌てて彼のキトンを探し始めた。 ──そうして。 怪我人に無体を強いて寝つかせてしまったアキレスは、その前の「現場放棄」の罰と共に、当面の間、オデュッセウスへの接触・接見を禁止されてしまった。 その日の昼ごろ、やっと意識を取り戻し、自分の置かれた状況を思い出した途端に怒りを爆発させた、当の想い人によって、である。 自分の非を認めているだけに抗弁する術もなく、言われるままに科を受けた獅子は、ふてくされて陣屋にこもってしまった。 アキレス・オデュッセウスの両雄を欠いたアカイオスは、著しく士気が低く、精彩にかけ、ヘクトル率いるトロイ軍に苦戦を強いられた。 だから、まずオデュッセウスが職に復帰し、自ら足を運んでアキレスの謹慎(イタケの王としては、そんな罰を命じたつもりはなかったのだが)を解いたときには、兵士たちは相当にほっとしたものである。 しかし、アキレスとしては上機嫌とは言えなかった。 確かに無茶をさせたのは悪かったと思うが、それもこれも、オデュッセウスがそうしたくなるような色香を放っているのが原因なのである(とアキレスは思う)。 それなのに、「職務に差し支えるようなことをするなら、今後一切触れさせない」と言われ、「ついでに、戦場で勝手な行動もとるな」と余計なことまで釘を刺された。 「本当は戦場になんか出たくないくせに」 「出たくはないさ。でも、ここにいる以上、それは果たさねばならない責務だ。アガメムノンに、役立たずの烙印を押されるわけにはいかないんだ」 「──イタケのためにか」 「そうだ」 きっぱりと言うオデュッセウスは、まっすぐにアキレスを見た。 彼が、オデュッセウスの立場を、その願いを理解していると信じきっている。 イタケの国民がどうなろうと知ったことじゃない、俺はあんたさえいればいいんだ、と言ってやったらどんな顔をするだろう。 ──ひどく驚くかもしれない。 ──少しも驚かないかもしれない。 でも、どっちにせよ、オデュッセウスが深く哀しむだろうことだけはわかっていて、だからアキレスは今までも、これからも、その言葉だけは口にすることはできないのだ。 自分ばかりが振り回されている、と苛立たしい気持ちで思うアキレスだったが、彼の想い人について、彼の知らないことが一つある。 彼が愛してやまないイタケの王、オデュッセウスの中。その、一番奥の一番優しいところで大切に守られた場所。 そこには、黄金の獅子が寝そべるだけのスペースもきちんと確保されている、ということを。 |
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| 2004.09.10 今はいつだ。 こういうのを書いてる時は、頭の中で映画版と原作版の都合のいいとこだけつまみ食い状態です。 しかもブリセウスやペネロペイアのことはさらっと無視したりして。 すいません、ごっついい加減ですいません(汗)。 パトたんとエウドロスのコンビがめっさお気に入りです。好きだ、この二人。 パトエウ…ではないのだけど…でも従兄弟そろってフケ専でも別にいいけど(笑)。 |