| FACE 2 |
| 「ショーン、こっち見て」 逐情の名残を色濃く残したまま、せわしなく胸を上下させている恋人を呼ぶ。 「ブラッ……ド」 「Look me」 「ま……待って……ブラッド……待って…ッ…」 顔を覆っていた腕を外されて、ショーンは落ち着かない様子で視線を泳がせた。 「何探してるんだ? 俺はここにいるだろ」 「ふあ……っ……」 ブラッドの指を飲み込んだ秘所がひくりと動いて恋人を誘う。鍛えられた肩にかけられた、自分の膝が目に入って、ショーンはまた慌てて顔を背けた。 色んな感情がごちゃごちゃになって、くっついたり離れたりしてはショーンを混乱へと追いつめる。 恥ずかしい、嬉しい、怖い、気持ちいい、熱い、それから。 「ショーン」 「あ……ぅん、ブラ……ッド……」 ぐ、とブラッドの熱がショーンの身体を開いて行く。 ちいさく丸められた身体も、高く上げさせられた脚も苦しくて、恥ずかしくて、正気ならとても耐えられないと思う。 それでも息を吐いて、従順に自分を受入れようとする恋人に、ブラッドは満足気な笑みを浮かべた。 「あ……っ、……うあ……っ!」 慣れたはずなのに、いつもと違う体勢から受入れるブラッドのペニスは、ショーンを苛んだ。それも、ほんの短い間のことではあったけれども。 「苦しいか? 大丈夫か?」 「……いき、だ……よ……」 気づかう声にそっと目を開けると、少し歪んだ視界にブラッドの青い瞳が飛び込んできた。 軽く伏せられた睫毛は彼が集中しようとしている兆しで、そんな風に真剣に自分を抱いていたのかと思うと、咽喉の奥あたりに熱の塊が生まれて、どうしようもなくなってしまう。 「でも泣いてる」 「生理、反……応だ……」 まばたきをすると、涙が転がり落ちて少し視界がはっきりした。 大丈夫、と微笑んだ唇をふさがれた。 マイナス距離で触れあいながら、広い背中に腕を回してみる。わざと爪を立てたら、ブラッドが笑った気配を感じた。 「あ……っ、は、ブラッド……っ……」 ぐいぐいと押し入ってくる熱に、ほとんど垂直にうがたれるような錯覚を起こして眩暈がしそうになる。敏感になった粘膜が、押し込められた雄の形や大きさや微妙な凹凸までを感じ取って、ショーンの快楽を急速に煽り立てた。 「ん……っ、……ん、はあ……っ、あ……そこ……っ……」 「ここ?」 「あ……ああ……っ、や、だめだ、そ、んな……っ」 だめだ、と言いながら、ショーンは不自由な身体を動かして、より深く悦びを感受しようとした。白い身体は意外なほど柔らかくしなってブラッドを受入れる。 抽挿を始めると、短い嬌声が甘く耳朶をくすぐった。 「あ……っ、あっ、あっ……、や、あ……っ」 きり、と痛んだ背中に、ショーンが本気で爪を立てたのだと知れた。 荒れ狂う快楽の反作用は、食い込んだ深さの分だけ、感じている快感の大きさを伝えてくる。 「ブラッド……ブラッド……!」 まるで、知ってる言葉はそれだけだというように、ブラッドの名前を繰り返して、ショーンはすすり泣いた。 「ショーン……たまらないな、あんたいつもこんな顔で?」 「あ……? な、にが……っ……」 「自分じゃ……わからないか」 そう言って、ブラッドは汗や涙でぐちゃぐちゃになったショーンの顔に口付けた。 「今のあんたは、世界一きれいでセクシーだってこと」 「何、言って……ふあ……っ……」 そのとき、ブラッドが大きくスラストを開始したので、それきりショーンの言葉は意味をなさなくなった。 「ん……あっ、あ、ブラッ……あ……」 「ショーン」 耳元で聞こえるブラッドの息が乱れている。いつだって誰かに見られている 分子式のように結合と分離を繰り返していた感情は、それぞれ収まるところに収まって、一つの形を作り上げていく。 なくしきれない羞恥心も、あふれそうな歓びも、少しの不安も、快楽も、熱さも、全部一緒に溶け出して、それから。 "Lovin' you." まるで、ショーンの持っていたスクリプトを読んだかのように、ブラッドがそう言った。 その声は熱っぽくてかすれていて、いつものあの通りのいい響きはなかったけれど、ブラッドに触れた全ての部分から染み込んで来て、ショーンの中に残響を残した。 音叉が響きあうように、その音の振動がショーンの身体を震わせる。 「あ……っ、もう……っ……」 「このままいけよ。あんたの顔を……見せて」 「ブラッド……っ」 ひく、と一瞬身体をこわばらせたあと、ショーンは白濁を吐き出した。 「……ぁ……」 理性を全て手放して、とろりと緩んだ目元はひどく扇情的で、それは限界の近かったブラッドを簡単に追い詰めた。 「ショーン…っ」 「ん……っ」 ひときわ強く恋人の身体を抱きしめて、ブラッドは自身の熱を開放した。 「ブラッド……戻らないと」 汗みずくの身体を重ねて、二人して息が整うまで待った後、ショーンがぽつりと言った。 「嫌だね」 「……そう言うだろうと思ってたけど」 長い指でブラッドの髪をすきながら、予想通りの答えにショーンは笑った。 「でも、それじゃ『涼んでた』ではとおらないよ」 「じゃあ『ショーンとセックスしてた』って言うさ」 「ブラーッド」 眉をしかめる恋人を、上目づかいに見上げて、ブラッドはにやりと笑う。 「だって背中が痛いんだ。起き上がれない」 「!」 ショーンは一瞬息を飲み、かあっと赤くなった。 「それは…っ、だって君が…っ…」 「俺のせい? それは光栄だ」 「知るか! どけよ、くそっ」 「それも嫌だね」 くすくす笑ってのしかかって来るブラッドを押しのけようとして、逆にその手をとられた。 「惚れ直した、ショーン。すごくセクシーだった」 「ブラッド!」 「あんたの判断は正しかった。あんな顔見てたら、次の日絶対にあんたは立てなかったと思うし、俺も……まあ、カメラの前にはいられなかったろうね」 「もういい! 黙れよ」 恥ずかしげもなくそんなことを言う恋人の口を、ショーンは慌てて手でふさいだ。 もっとも、その手をぺろりと舐められて、また大慌てで引っ込めたのだけれど。 「愛してるよ、ショーン」 起き上がれないどころか、ショーンの身体をあちこち撫で回しながら、ブラッドは甘やかな声で囁いた。 「あ……、ブラッド……っ、なあ、本当に戻らないと……」 「返事はくれないのか?」 ショーン?、と確信犯の狡猾さで、恋人の名前を呼ぶ。ショーンが、ブラッドの声をとても好きだと知っているのだ。 「くそ……ずるいぞ、ブラッド!」 「答えないと、離してやらないけど?」 「答えたって離してくれないんだろう」 過去、何度か同じ手にひっかかった経験のあるショーンは疑い深かった。 そして、彼の疑いは正しいものだったので、ブラッドはただ笑っただけだ。 結局、ブラッドがショーンから返事をもらったのは二人がもう一度身体をつなげた後のことで、当然ながらその夜、その部屋以外で彼らを見かけたものはいなかった。 翌日、どこへ行ってたのさ、と問い詰めてきたオーランドに、ブラッドは平然と、「ショーンがべろべろになったから、部屋に連れてったんだ」と嘘をついた。 「ショーンが? 珍しいなあ。それで、どうしてるの?」 「二日酔いで立ち上がれないってさ。そっとしといてやれよ」 他人を疑うということをあまりしないオーランドは、そうか、と素直にうなずいてその場を辞した。 「それで、一晩中つきそってたわけ、ブラッドは?」 ニヤニヤ笑いながらそう言ったのはエリックだ。 「ショーンが離してくれなくてね」 「ああそう」 それは大変だったなあ、と深く同情の意を示しておいて、エリックはブラッドの背中を力いっぱい叩いた。 「っ!」 痛みに息を呑んだブラッドに、エリックは「本気でそれで通したいなら、その緩んだ顔をどうにかしろよ」とささやいた。 「腹いっぱい食ったライオンみたいな顔してる」 「エリーック」 「『二日酔い』のショーンによろしく」 ウインクを一つ残して去っていく友人の後姿を見送って、ブラッドは自分の頬に手を当てた。 『腹いっぱい食ったライオンみたいな顔』がどんな顔かは知らないが──エリックには知れてる、と言ったら、彼の恋人は青くなったり赤くなったりして、またひと騒動起こすんだろうな、と思いながら。 END |
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| 2004.10.09 |