「フランソワーズの誕生日」
2011・新ゼロ

 

―1―

 

さて困った。どうしよう。


僕は意味もなく部屋のなかをぐるぐる歩いた。
そんなに広い部屋じゃないから、ちょっと大股で歩くと家具に激突する。
それを無意識にしかも器用に除けながら、ぐるぐるぐるぐる。ついでに頭のなかもぐるぐるしていた。

忘れていたわけじゃない。
でも、先送りにしていたのも事実だった。が、そんなのはいいわけにもならない。


――ああくそっ。


明日はフランソワーズの誕生日。

それは忘れてはいなかった。
だってほら、これこの通り――カレンダーにはばっちり大きく赤い丸がはいっている。
書き込んだのはもちろん僕だ。それも昨年のうちに書いたんだ。
そして1月になってからずっとこのカレンダーを見ているのだから、忘れるわけがない。

それに――愛している、し。

そこまで思って、僕は独り言とはいえ――しかも声に出さない頭のなかの言葉だ――何を言っているんだろうと気恥ずかしくなった。
はっきり口に出して言う勇気もないくせに、まったく僕って男はいったいなんなのだろう。

そんなことより、問題はフランソワーズへのプレゼントだ。
もう買いに行くような時間もないし、時間があってもいったい何を買えば彼女が喜ぶのか僕にはとんとわからなかったから同じことだった。

フランソワーズが喜ぶこと。

嬉しいと思うような何か。

 

僕はただ、ぐるぐると歩き続けた。

 

 

―2―

 

僕は散々考えて――それこそ、眠ることも忘れるくらいに考えて考えて。

で、思ったんだ。


――別にモノじゃなくたっていいんだよな。


そう、フランソワーズが喜ぶこと。
嬉しいと思うような何か。

それはモノでなくたっていい。


うん。

そうだよ。

ほら、「モノより思い出」っていうじゃないか。
形にできないもの、お金じゃ買えないもの。
そういう何かのほうが――フランソワーズは喜んでくれるのではないだろうか。


僕は勝手にそう思っていた。


モノではないもの。

そう――例えば、ふたりでどこかに出かけて、思いっきり楽しい時間を過ごすとか。


それならば。
今からでもいくらでも計画できるし、じゅうぶん間に合う。