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その後、しっかり風邪のうつった僕はベッドの上のひとになっていた。 とはいえ、不便はない。 なにしろフランソワーズがつきっきりだからだ。 なぜかって?
「ねぇ、ジョー。日本では風邪をひいたら桃缶なんですってね。買ってきたの。食べるでしょう」 フランソワーズが桃を盛ったガラスの器を手に部屋に入って来た。 「ジョー、無理しないで」 咳き込んだ僕に、ほらみなさいと怒ったように言う。 「もうちょっと甘えてくれていいのよ?私はそのためにいるんだから」
僕は眉間に皺を寄せた。が、フランソワーズはそんな僕にはお構いナシだ。 「はい、どうぞ」 傍らに椅子を寄せ、桃の入った器を手にとりそして。 「どうぞ、って・・・」 フランソワーズは目を瞬く。 「いいじゃない。誰も見てないから恥ずかしくないわ」 僕は眉間を軽く揉んだ。 そう――フランソワーズは何かにつけて「愛してる」と言う。それも平気な顔で、当たり前のように。 もちろんその言葉は耳に心地良いのだけれど、こう何度も連呼されると安売りされているような気がして落ち着かない。僕は決死の覚悟で、それこそ一生に一度言うかどうかという思いで口にしたのに。 「ジョー?」 フォークを持ったままフランソワーズが首を傾げる。 「食欲ないの?」 僕はフランソワーズが差し出す桃を口にした。 「おいしい?」 第二陣が控えている。 「んもう、ジョーったら。そんなに見ないで。いくら愛してるからって恥ずかしいわ」 ・・・確かにそうだけれど! でもさ、フランソワーズっ! 恥ずかしいんだよっ!それを言われると!! 「やだわ、ジョーったら真っ赤じゃない。また熱が出てきたのかしら」 これは風邪の熱じゃなくて、きみのせいだ。 「もうっ、しょうがないわねぇ」 フランソワーズはフォークを置くと、腰を伸ばして僕の肩に手をかけた。そのままゆっくりと押し倒す。 「もう寝ましょう。桃は眠って起きたらまた持ってくるから」 そうしてすっかり僕を寝かしつけてしまった。
僕の頬に自分の頬を重ねるようにして顔を近づけてきた。そして。
甘えるように言う。 「あのあと、一度も言ってくれないんだもの」 だって、今日は誕生日じゃないし。 「ね。言って」 鼻にかかった声で。頬を摺り寄せて。・・・ずるいよ、フランソワーズ。 「病人に無理を言うな」 なんだか汗が出てきた。
――僕は。
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―7―
フランソワーズが期待に満ちた目で僕をじっと見る。
自分が言おうと思った時に言う。そう決めている。
涙目で言われるとちょっと・・・ぐらつくなぁ。 「私ばっかり愛してるみたいじゃない。ジョーはちょっぴりも愛してくれてないのね」 ああもう。 怒って激情のまま言われたならこうも堪えないんだけど、涙目で小さな声で言われると・・・
・・・・ああもう、本当にきみって子は。
「――愛してるよ。きみが思うよりずうっとずーっとね」
また熱が上がりそうだった。
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