なんだろう、フランソワーズのおねだりって。 最初は、高価なものかなとか無理難題かなと思ったけれど、ちょっと待てよと思いなおした。 「フランソワーズっ」 みなまで言うな。言わなくていいんだよ、女の子なんだから。そう、そうだよ――幾ら今まで何度も愛を交わしあってきたからといって、きみのほうから言うのは照れるよね。恥らうよね。清楚なきみのことだ、言いにくいに決まっている。でも、それでも僕を求めているんだよね?誕生日だから。そういうことなんだよね?誕生日だから、誕生日に、僕と…… さっきまでの落ち込んだ気持ちはどこかへ行ってしまった。目の前のフランソワーズが可愛くて仕方がない。 「ふ――」 フランソワーズ、と言って抱きしめようと腕を回したその絶妙な瞬間。
……む?
抱っこ? 「え。こ。こう……?」 抱き上げようとしたら、 「ううん。違うの。そういうのじゃなくて」 やんわり拒否された。 「だからね、ジョー。ちょっとこっちに来て寝てちょうだい」 さっきまで彼女がごろんとしていたベッドの上に転がされる。いったい何がしたいのか意味がわからない。 「え。こう……?」 言われるがまま寝転がる。 「ええ。そう」 フランソワーズは嬉しそうに言うと、寝転がった僕の隣にころんと身を横たえた。 「そうじゃないの」 またまた拒否された。なんだよもう、いったい。 「ジョーはじっとしてて」 はいはい。 「手はこうして伸ばして」 左手を伸ばす。と、その上に――というか、その腕のなかにフランソワーズがおさまった。 「そのまま腕を曲げてみて」 曲げるとフランソワーズを左手で抱くかっこうになる。 「……うふ」 なんだろう。なんだかよくわからないけど――嬉しそうだ。 「ね。いいでしょう?」 なにが? 「今夜はこうして寝て欲しいの」 なんだと? 「こうやってジョーに抱っこされるの好きなの」
まさか今夜ずっとこのまま……? 「――フランソワーズ?」 満足そうな顔。安心しきった瞳。 「ジョーから欲しいのってこういうのなんだもの」 僕の顔がよほどおかしかったのだろう、フランソワーズはくすくす笑い出した。 「ミッションの時の野宿とか、そういう時しかしてくれないでしょう。こういう寝方って」 言われてみれば確かにそうだ。 「こうして眠ると安心するの。守られてるって感じがして」 だから、いつかふつうのときにやって欲しかったの――と小さな声で言った。
|
フランソワーズの寝息が聞こえる。 こうして眠ると安心する、っていう。
僕はどのくらい我慢できるだろうか。 否。 できるだろうか、ではなく 我慢しなくてはならないのだ。 だから。 だからこのまま朝まで――そうしなければいけないのだ。
「……誕生日、おめでとう。フランソワーズ」
僕は小さく言って髪にキスすると再び天井のしみを数え始めた。
|
続きあります。オトナ部屋の「誕生日の翌朝」