「はっぴーばーすでぃ」
〜2009年ジョー誕小咄です〜

 

 

先刻から楽しげな鼻歌が流れてくる。
それは、キッチンからの甘い香りとともに漂っているようだった。

鼻歌の正体はフランソワーズ。
ハッピーバースデイのそれである。
今日はジョーの誕生日だから、ケーキを焼くと決めていてずうっとキッチンに篭っているのである。

「ね。ジョーは甘いのと甘さ控えめのとどっちがいい?」
「うーん。フランソワーズの好きなほうでいいよ」
「ダメよ。だってジョーのお誕生日なのよ」
「・・・どっちが作るのラク?」
「どっちも同じよ?」
「じゃあ・・・」

ジョーは視線を虚空に漂わせ――横目でフランソワーズを見て――

「――甘いほう」

と、言った。
過去の経験から言って、確かフランソワーズは甘いケーキが好きだったはずだ。

「了解っ」

明るく言って、再び作業に取り掛かる。
自分の家のキッチンなのに、すっかり手持ち無沙汰のジョーはただうろうろとフランソワーズの背後をついてまわるばかり。

「もうっ、ジョー、邪魔よ」
「うん。何か手伝うよ」

一瞬、疑わしそうな視線を寄越すフランソワーズ。

「・・・ジョーに手伝えるわけないじゃない」
「ふふん。知らないな?僕が万能のサイボーグだってこと」
「知ってるけどお料理は無理よ」
「何を。できるさ、たぶん」
「たぶんじゃお菓子は作れませーん」

それでも手伝う気まんまんらしく、ジョーはさっとエプロンをすると手を洗い、両手を打ち合わせた。

「さ。何から手伝おうか」
「もうっ・・・主役なのに」
「主役だからさ。いまケーキ作りがメインなのに僕がいなくちゃ話が進まないだろう?」
「いいじゃない。しばらく「サイボーグ003」で。ジョーはたまにはお休みしなくちゃ」
「やだね。僕は常に主役なのさ」
「変なの」

とりあえず、ホイップクリーム作りをさせることにして、やっとジョーは静かになった。
手元を見つめ、真剣な眼差しで泡立てているジョーの横顔を見つめ、フランソワーズは微笑んだ。

きっと今日はこんな風に過ぎてゆくのだろう。

平和で。

幸せな。

 

大好きなジョーと。