93小話   「子供部屋」からこぼれた小話です。

「空席」

2009年12月末の「子供部屋」のお話の別版です。
(フランソワーズがインフルエンザに罹患した頃)

 

 

上掛けの端が見えて、フランソワーズはちょっと笑ってしまった。

自分のベッドに寝ているのに、どうして真ん中で寝ず端にいるのだろう?

随分前から癖になってしまっていた。
自分の隣を半分以上、空けておくことが。

よくよく考えてみれば、別にそんなことをする必要はないのだ。
自分のベッドなんだし。
自分の部屋に居るんだし。

けれども半分以上空いたスペースは冷たくて、改めてベッドの中央に移る必要性は感じなかった。


・・・いつもなら温かいのに。


フランソワーズは思わずドアの方を見た。
部屋の外の廊下では、ジョーが佇み周りを見張っている。
鋭い眼光。
かと思えば。

「・・・ふらんそわーずぅ・・・」

甘えた声で名を呼ぶから、フランソワーズは落ち着かなくなりシーツを頭から被った。

もうっ・・・ジョーのばか。
余計に熱が出そうよ。


冷えたベッド。

暖めるのはジョーしかいない。

 

ずっと。

 

***

***

 

フランソワーズはベッドの片方に寄っていた。
いつもなら、半分空いたそのスペースには体温高いジョーがいる。
が、今はそこに誰もいない。空席であった。

インフルエンザも治ったし、ジョーもおお喜びで早々にベッドに入るだろう。
そう踏んでいたのだが、未だにそこは空いているのだ。
なにしろ今夜の彼は、年賀状を書くのに余念が無い。
さっきまで散々「構って攻撃」をしてきたのだけど効かなかった。
書き終わったら行くから、と言っていたが、いったいいつ書き終わるのか定かではない。

フランソワーズは唇を尖らせ、ベッドの中央に移動した。


もう知らない。
ジョーが来たって、入れてあげない。

 

***

 

妙な圧迫感で目が覚めたのは明け方だった。


重い。

身動きができない。


およそ80キロの物体が体の上にあった。


「ジョー。重い」

しかし、その物体は熟睡しているようでぴくりともしない。

「・・・潰れちゃうわ」

しかし、起きる気配はない。

「もうっ・・・」


朝、ひとばん抱き枕にされたフランソワーズの機嫌は最悪だった。
が、重さ80キロのくれた「おはようのキス」で簡単に機嫌が直ってしまった。

「ジョー?簡単だなあとか思わないでね?」
「思ってないよ」
「あくまでも、チュウがたまたま素敵だったからですからね」
「ハイハイ」
「たまたまよ?偶然よ?」


毎朝聞いているセリフのような気がしたが、たぶん気のせいだろう。


そうに違いない。