93小話  「子供部屋」からこぼれた小話です。

 

「コロス」


・・・もしも。

もしも、ジョーに恋人がいたら。

私は一体、どうしているんだろう・・・?

当然の如く――今ここにはいない。
ジョーと一緒になんて暮らしてない。暮らさない。

たぶん・・・パリにいるはず。兄と一緒に暮らしてる。
ジョーの顔を見なくてもすむように。

だけど、ミッションのために召集されたり、メンテナンスの時には日本に行かなくてはいけなくて。
そうしたら、一定の期間はジョーと一緒にいることになるわけで・・・。

辛いな。――きっと。ほんのちょっとだけ。

ううん。

――すごく。

 

***

 

今までジョーに恋人がいなかった訳ではない。
私がリアルタイムで「ジョーの恋人」を見ていないだけで、どうやら複数いるらしい。
――ん?
やだわ、いる・・・じゃなくて、いた。だわ。過去形よ。もちろん。

おそらく、私の知らないジョーがそこには居て。
そうして、私の知らない誰かと一緒に同じ時間を過ごしていたはずで。

私の知らないおんなのひとに笑いかけるジョー。

優しく抱き締めるジョー。

優しく・・・キスするジョー。

・・・カラダの関係も、あったかもしれない。

 

***

 

それは、例えばこんな風景だったはず。

 

「ジョー、出かけるの?」
「ああ。今日は遅くなるから、夕食はいらないよ。みんなにもそう言ってくれ」
「そう。――食べてくるのね?」
「うん」
「・・・デートね?」
「うん、まぁ」

そうして少し照れたように笑って。

「――殆ど毎日会ってるじゃない。だけど飽きないんだ?」
「ウン。飽きないね。全然、足りない。――僕たちはいつどうなってしまうかわからないから、後悔しないようにね。
いつでも充電しておかないとさ」
「・・・そうなんだ。ジョーにとって彼女はとても大事なのね?」
「まーね」
「元気のミナモトって感じ?」
「まぁ、そんなとこかな」

そんな会話も交わしていたはず。

「フランソワーズもさ、・・・恋人の一人くらいつくらないと」
「――そうね」
「好きなひととかいないの?」

いるわ。・・・目の前に。

「――好きなひと?」
「ああ。応援するよ。何しろ、フランソワーズは僕の大事な妹みたいなもんだからね」

・・・応援されちゃうんだ。

「妹?――ヤダわ、こんなお兄さん」
「ひどいなァ」

そう。
きっとジョーにとって、年下の私は妹というポジションでしかなく・・・ジョーの恋人候補になんてどう頑張ってもなれやしなくて。

どんなに大切に思っても。

どんなに好きでも。

自分よりも守りたいひとだとしても。

どれも彼には伝わらない。絶対に。
だって私は、恋人候補にすらなれない対象外だから。

だからきっと、平気な顔で――天気の話でもするみたいに――恋人くらい作れば?なんて言われてしまう。

もしも、ジョーに恋人がいたら。
きっとそんな毎日だっただろう・・・

 

***

 

胸の奥が痛い。

 

ジョーが、私を見ない。

私にキスしたりもしない。

抱き締めたりもしない。

大切そうに見つめてくれたりなんて・・・絶対に、ない。

 

そんな毎日が繰り返される。

 

もしかしたらどこかでうっかり偶然に――ジョーと彼女のふたりの姿なんて見てしまうことだってあるかもしれない。

私には見せない表情のジョーがいて。

私の知らないジョーがいて。

そうして・・・

私に気付かない。

すれ違っても、絶対に気付かない。

だってジョーは私ではなく彼女しか見ていないから。

 

・・・胸が痛い。