冬の夜

 

 

 

「ジョーってあったかい」

フランソワーズはふふっと笑うと、先刻よりも体をぴったりくっつけた。

「冬はジョーのそばで寝るのが一番ね」
「僕は湯たんぽじゃないよ」
「ううん。湯たんぽよりあったかいわ」
「・・・君の足は冷たいね」

ジョーはフランソワーズのひんやりした足に気付き自分の足を巻き付けた。

「寒いならすぐ言わなくちゃダメだろ」
「気付いてくれると思ったから」
「早く言ってくれたら、もう1℃くらい上げたのに」

そうして小さな小さな唸るような音がジョーの中から聞こえ、彼の体が微かに熱を帯びた。

「あっ、ジョーったら大丈夫なのに」
「大丈夫じゃないだろ」
「だって、・・・体内炉を稼働させるほどのものじゃないじゃない」
「いいんだ。僕がそうしたかったんだから」

きっぱり言い切るジョーの横顔をちょっと見た後、フランソワーズはジョーの胸に上半身を載せて彼の顔を正面からじっと見つめた。

「なに?」
「恋人が寒いって言った時、言うセリフは決まってるでしょ?」
「えっ?」
「定番よ?」
「定番?」
「知らないの?」

きょとんとこちらを見る褐色の瞳にフランソワーズは小さく息をついた。

「・・・僕があっためてあげるよ、って言うんじゃないの?」
「えっ、だってさっきからあっためてるし」

そういう意味じゃない。
物理的にあたためて欲しいわけではない。
が、それを指摘すべきなのかどうかフランソワーズには判断できなかった。

――ほんと。いつまでたっても、こういうところは鈍いんだから。

しかし、そんなところも含めて好きなのだから仕方がない。
仕方がないから、本来ならば彼が言うところのセリフを引き取ることにした。

「じゃあ・・・もっとあっためてくれる?ジョー」

けれども言い慣れないその言葉に頬が燃えるようだった。現在の二人の状況――ひとつのベッドにぴったりくっついて寝ているのだ――と自分の発した言葉の意味を考えると、それはとんでもなく――大胆なことを言ってしまったのではないだろうか。

ジョーは無言で彼女の背に腕を回し抱き締めた。
だから、やっと意味が通じた、頑張って言った甲斐があったわとほっとしつつ喜んだフランソワーズだったが。

「いいけど、僕の熱で溶けても知らないよ?」

困ったような口調のジョーにやっぱり意味が通じてないのかとがっくりした。
それとも、彼はいまそんな気分じゃないのだろうか。
あるいは、女のほうからそういう方向に持っていくのが好きではないのかもしれない。

「いいわよ、ちょっとくらい溶けても」

投げ遣りな気分で言う。
実際には、彼の熱で自分の皮膚が溶けるなんて事態は絶対におきないだろうと思いながら。
彼はそこまで迂濶ではない。迂闊ではないけれど、この鈍さは何とかならないものだろうか。
だから、「ほんとに溶けてもいいの」と重ねて訊かれても、どうせただ抱き締めてあたためるだけで朝までそのままぐっすり眠るだけなのよねとぎゅっと目を閉じた。ジョーには言っても無駄だったなあと思いながら。
でも自分としてはかなり勇気を出して頑張って言ったんだけどなあなんてちょっと悲しくなりながら。
だから、くるりと上下が反転したのには驚いた。

「え、ジョー?」

煌めく褐色の瞳は熱を帯びているようだった。

「まったく。さっきから挑発するから、もう知らないよ?」

掠れた声が耳元で小さく告げる。

「ち、挑発なんて」

ジョーの唇が掠めた耳元がかっと熱くなる。

「だめ。もう遅い」
「だって、そんなつもりじゃ」

いや、そんなつもりではあったのだけど。
そんな様子のフランソワーズを知ってか知らずか、ジョーの声には困惑と面白がってる様子が絶妙にブレンドされていた。

「やっぱり溶けたら困るんだ」

フランソワーズはジョーの首に腕を回した。そんな風に言われたら、こう答えるしかないだろう。

「溶かして、ジョー」