―5―

 

あまりにも柔らかい身体。それは想像以上であり、ジョーはとても自分を抑えてなどいられなかった。
自分の思いのまま、抱き締め、奪う。
腕の中の彼女の反応が嬉しくて、更に我を忘れてゆく。
いまジョーの世界にはフランソワーズしか存在しなかった。

背中で結ばれていたリボンが解かれ胸が露わになるとフランソワーズは、さすがに自分はあまりにもその場の勢いで応じてしまったのではないかと不安になった。
けれど、ジョーの瞳に自分しか映っておらず、更に熱い声で何度も名を呼ばれると段々とその状況に慣れていった。
こういう行為がどういうものかは知っていた。どうするのかもわかっていた。厩舎で馬の交配を何度も目にしたことがある。だから、わかっている――つもりだった。

ジョーは、彼女の準備もじゅうぶんに整ったと思われる段になって、彼女のドレスの裾を捲くり上げそれを確認し――更に、彼女の瞳が優しく自分を見つめているのを実感して幸せな気持ちになって――思いのまま突き進んだ。
しかし。

「――あら、ちょっと待ってくださる?」
「・・・え?」
「そのう・・・少し戻っていただけるとありがたいのですが」
「!?」

ジョーは動きを止めた。いったい何を言い出すのだろうとフランソワーズを凝視する。
彼の下のフランソワーズは眉間に皺を寄せていたが、大きく息を吐き出すとふっと緊張を解いた。

ドレスが捲くり上げられたあとの出来事は、フランソワーズにとって全くの予想外だった。厩舎で見たものと同じはずなのに、実際にその段になるとこういうものだとは想像すらしていなかった。わかっているつもりだったのに全然違った。何しろ――

「え・・・と、フランソワーズ?」
「ええ、あの、・・・」

問いかけるジョーの額からひとすじの汗が流れる。彼にとって今の状態は、かなりの抑制を強いているらしかった。
フランソワーズは一瞬黙り、無言で少し身体をずらした。が、彼女のそんな動きにも、ジョーは歯を食いしばっているのだった。

「――ええ。これでよくなったわ。続けてください」
「つ、続ける、って・・・一体」

それでも許しが出たので、ジョーは再び身体を沈めたのだったが。

「あ、やっぱりちょっとお待ちになって」
「え?」
「あの、――はい、そうですわ。そのままちょっと少し戻って頂ければ――ああ、よくなりました」

ジョーは最前からのフランソワーズの不可解な行動に首を傾げ――ある事に気付き愕然とした。
まさか。・・・いや、彼女は最初に大丈夫だとそう言った。――が、しかし。今のこの様子ではやはり、もしかしたら・・・?
ジョーは微動だにせず、フランソワーズを観察した。
彼女の顔は、微かに汗ばんでいるが、頬は薔薇色に上気して大変に綺麗である。蒼い瞳はますます深みを増してゆくようで、それを見ただけでジョーは何も考えられなくなりそうになり、慌てて自制した。
いま彼女を観察しているのは、その美しさ可愛らしさを確認することではない。

「・・・・・」

ジョーは彼女の反応を確かめるべく、じっと見つめながら身体を動かした。すると、微かにではあったが――フランソワーズの眉間に一瞬皺が寄った。それは、彼がよく知っているような、こういう行為に伴う女性の嬉しい反応などではなかった。

「・・・!!」

自分の予想が正しかったと、半ばパニックになりかける。知っていたら。最初にそう言ってくれていたら。自分はフランソワーズにこんな形で思いをぶつけるのは思いとどまっていただろうに。

「――フランソワーズ」

ジョーの険しい声に、フランソワーズの注意が彼に向く。

「・・・ジョー?」
「きみは――」

フランソワーズの両膝を持ったジョーの手からゆっくりと力が抜けてゆく。

「なぜ、言ってくれなかったんだ。――初めてだと知っていたら、私は」
「平気ですわ。もう、それほど痛くはなくなりました」

けなげにも微笑むその姿。ジョーは彼女の膝から手を離し、身体を引こうとした。が、その彼の手を上からそっと押さえたのはフランソワーズだった。

「行かないで。・・・もう大丈夫です」
「しかし」
「途中でお逃げになるなんてひどいですわ。わたくしに恥をかかせるおつもり?」
「いや、決してそんな」
「でしたら、・・・その」

ジョーから視線を外し、口ごもりながら言う。

「・・・ぜひ、続きを」

ジョーはその声に一瞬理性が飛びそうになったが、踏みとどまった。彼女が本気なのかどうかわからない。ただ成り行きでそう言っているのかもしれなかったし、そもそも「続き」がどうなるのかなどわかっているとも思えなかった。

「しかし、フランソワーズ。・・・その、痛みがあるのなら無理せずとも」
「大丈夫ですわ」
「しかし、これ以上は」
「ジョーが優しくなさってくだされば、わたくし、頑張れると思いますのよ?」
「い、いや、頑張ったりなどせずとも」
「ジョーは気持ちよくないのでしょうか?」
「え?」

フランソワーズの顔が曇る。

「わたくし、初めてなのでうまくできないかもしれませんが、そこは割り引いて欲しいのですわ。ただ、ジョーが気持ちよくないと・・・」
「い、いや!その点は心配ない」

それに関してはジョーは全く問題がなかった。フランソワーズと一緒に体験するこれは、過去のどんな経験よりも満足しており、かつわくわくして嬉しくて泣きたくなるくらいだったのだから。

「――大丈夫だ」
「でしたら、その・・・進んでいただいて構いませんのよ?」

先ほどから、ジョーは停まったままだった。先刻の彼女の願い通り、少し戻った状態で。

「――本当に、いいのだな?」
「ええ」
「どんなに苦しもうと、もう途中で止まることはせんぞ」
「はい。心得ました」

ジョーがフランソワーズの膝を抱え直す。そうして自分の方へ引き寄せ――

自身の言葉通り、そこから先は彼は止まることはなかった。