話は数日前に遡る。 グレートは自らの脚本による舞台が決まり、大忙しだった。 書き上げた後、グレートはその台本で実際にはどのように演技をつけたらいいのかどうしても知りたくなり
「だけどグレート。いくら芝居といっても、フランソワーズにあんなことを言われたら」 やっと泣き止んだジョーが言う。が、すぐに言葉に詰まり涙ぐんでしまう。 「そうよ、グレート。ジョーをいじめるのはやめて」 ジョー、泣いちゃだめよ。と優しく声をかけてから、彼を守るかのように一歩前に出る。 「大体、どうして『女王』が出てくるの!?何だかすっごく嫌だわ」 フランソワーズの剣幕に押され、後退してゆくグレート。 「本当に?ジョーをいじめるためにわざとしてるんだったら、許さないから!」 更にグレートに詰め寄ろうとしたところで、背後にいたジョーに抱き締められた。 「ジョー?」 そのまま彼女の髪に顔を埋め、何も言わない。 ――もうっ。 「グレート、もう諦めて?・・・私はともかく、ジョーはもう無理よ」 そのままジョーに向き直り、ヨシヨシと彼の頭を優しく撫でた。
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グレートの脚本は、アンデルセンの名作「雪の女王」を現代風にアレンジしたものだった。 だけど、だからといって――役名を私たちの名前にしなくてもいいと思うのよ? 「ジョー。ちょっと離して」 だってフランソワーズは、僕が女王を選んだなんて言うし と、先刻からずーっと繰り返して言っている。 ――もう。迫真の演技だったのは、あなたも同じよ? それでも聞こえているのかいないのか、ジョーは全く動じない。 「・・・案外、本心だったりして」 その途端。 「フランソワーズ、ひどいよっ・・・・!!」 あとは声にならない。 ――もう・・・ばかね。本当に。 「あのね、ジョー?――今日は何月何日か知ってる?」 涙に濡れた目でフランソワーズを見つめる。 「――だからね。今日言ったことは、ぜーんぶ嘘になっちゃうのよ?」 か、どうかは定かではない。が、そうでも言わないとジョーはおそらく―― 「だから、大丈夫。私はどこにも行かないし――あなたも、私を置いてどこかに行ったりしない、でしょ?」 「・・・泣いてないよね?」 ジョーがやっとなんとか笑顔を作ったので――フランソワーズはほっとして、ジョーから身体を引いた。 「そろそろケーキを焼かないと。ほら、今日はグレートの誕生日だし。
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数ヶ月後。 グレートのお芝居が初日を迎えた。 「うっとーしーなっお前らはっ」 珍しくアルベルトがうんざりしたように言う。 「そんなに泣くなら見るなっ」 二人とも、「お芝居」とはわかっていても――女王にかどわかされる青年とその恋人のお話に
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