「・・・どうかしたの?」
僕は腕の中に抱き締めている彼女に意識を戻した。
温かくて、柔らかくて、・・・
「――泣いてるの?」
僕は黙って首を横に振る。
「・・・そう」
すると安心したように再び僕の胸に埋もれた。
――いつか、誰かに話せる時がくるだろう。
あの時の僕が何を思っていたのか。
本当は――どうしたかったのか。
苦い後悔はいつでも胸の奥が蝕まれるようで決して救われることはない。
何度思い返しても、後悔しか残っていない思い出。
そんなもの忘れてしまえばいいのに、いつまでたっても忘れない。
忘れてしまうのは楽なのに――忘れたくなかった。
「・・・やっぱり泣いてる」
「――泣いてないよ」
僕は彼女に見られたくなくて、その肩に顔を埋めた。
――あの時も、こうすればよかったのに。
「もう――ジョーは泣き虫ね」
微かに苦笑の混じった声。
そうして僕の背中に腕を回して抱き締めた。
あの時、僕は間違った。
自分の気持ちを捻じ曲げて――本当の事を言わないことが格好いいのだと思っていた。
それが戦いなのだ、と。
弱音を吐かない、本当の事を言わない、それが――僕たちなのだと。
でも、今はもう間違えないよ。
格好悪くてもいい。
情けない男でもいい。
それでも、きみがいてくれるなら、僕はどんなに格好悪くて情けない男になっても構わない。
――本当だよ?
そう言ったら、きっときみは笑うだろう。
そうしたら僕も一緒に笑おう。
そうして苦い思い出を一緒に浄化してしまおう。
――いつか、この話をできる日がくるなら。その時に。
「泣いてないよ、フランソワーズ」