目が覚めたらジョーがいなかった。


ちょっとでも彼のぬくもりが残っていないかと手を伸ばしてみるけれど、彼がいたはずのシーツは既に冷たい。
いったいいつここを抜け出したのだろう。

――私の目と耳をかすめて。

ここは、さすが009と褒めるところだろうか。
最強のサイボーグ、スペックも完璧だと感嘆するべきだろうか。

私はため息をつくとひとつ寝返りをうって、シーツにもぐりこんだ。
まだ夜明け前。起きる必要は無い。もうひと眠りする時間的余裕はじゅうぶん、ある。

 

もしかしたら、またジョーの夢を見ることができるかもしれない。

 

そんな希望を胸に目を閉じる。

 

ジョーがいなくなってから、私は毎晩こんなことを繰り返している。

 

 

 

 

昼間は平気だ。

でも、夜は駄目だった。

静か過ぎる闇が彼を思いださせる。

闇が似合うひとだったから?

いいえ、違う。

彼に闇は絶対に似合わないのに、好んでそこから出ようとしなかった。出るのが怖いと言っていた。暗いほうが落ち着くんだよとも。

だから、夜がくると思い出してしまう。ジョーのことを。

 

 

 

 

いつも不意をつくのが上手だった。

絶対にここにはいないだろう――助けなんか求めても無駄だ――そう何度諦めたことだろう。
そんな時、いつも不敵に笑って現れて見せた。

やあフランソワーズ、大丈夫かい?と。

絶対にいないはずなのに、在り得ないのに、呼べば姿を現した。
僕はきみのストーカーなんだからしょうがないと笑っていたこともある。

だからだろうか?
期待してしまうのは。

もしかしたら、今にもそこの影から現れてみせるのではないかと。
あるいは、あの窓の外に月の光を浴びた彼の姿が見えるのではないかと。

確認せずにはいられなかった。
落胆するのがわかっていても。

もしかしたら。

 

もしかしたら、――と。

 

 

 

 

 

でも、何度夜を数えてもそんな不意打ちはやってこなかった。

いつしか私も本当に諦めていた。

 

もうジョーは来ない。

永遠に。

ここには来ないのだ。

 

自分を納得させるのは難しかったけれど、――でも、私はやり遂げた。

だってジョーはもういない。
私の愛した最強のサイボーグはもう存在しない。

 

 

四散したのを視たのは私なのだから。